野生チンパンジーは枝を編み込んだベッドを作って寝る。一方で飼育下のチンパンジーでは、複雑なベッドを作るスキルは野生由来の個体にしか見られないことが報告されている。飼育下でもベッド作り行動が受け継がれるようにするためには、行動がどのように習得されるのかをあきらかにすることが重要だが、研究はほとんどおこなわれていない。そこで今回、ベッド作り行動の発達を調べるために①熊本サンクチュアリと京都市動物園のチンパンジーのうち8歳以上の個体を対象とした行動比較②京都市動物園の離乳前のチンパンジーを対象とした縦断的観察をおこなった。①は熊本サンクチュアリと京都市動物園のチンパンジー合せて36個体を対象に、昼間または夕方におこなわれたベッド作り行動について行動を分類した。②は京都市動物園のこどものチンパンジー1個体(2013年2月12日生まれ・オス)を対象として、枝でのベッド作り行動を促しやすい寝台を2台設置し2015年2月より夜間の行動を月に1-3日記録した。①の結果、チンパンジーの行動は大きく分けて(A)エアベッド作り【ベッド用の材料を使わない手だけの動き】(B)周りに物を置く(C)折りこむ(D)手足を使い編み込むの4種類の行動に分類できた。エアベッド作りにはいくつかのパターンがあり、手を組み合わせて上下左右に動かすものや、足を踏みならす、手の甲で地面をこするといったものがあった。こうしたエアベッド作り行動は熊本サンクチュアリで生まれた個体にのみ観察された。②の結果から、3歳の時点でこどもチンパンジーの行動には、野生由来の母親がもつレパートリーと周囲の個体がもつエアベッド作りの両方が含まれていた。以上の結果から、材料がなくてもベッド作りをおこなう文脈でこうした行動がみられることため、ベッド作りには生得的なモチベーションがあるのではないかと考えられた。また幼いころには動作パターンも社会学習で習得する可能性が示唆された。