系統間でサイズ変異の重なりが少ない場合,アロメトリー効果により系統進化を反映した形状差異が見えにくくなることがある。これは,特に,化石標本の系統的位置の推定に混乱をもたらす。ヒヒ族は,マカク亜族とヒヒ亜族に分けられる。さらに,ヒヒ亜族は,Papio-Theropithecus-Lophocebus(PTL)系統とMandrillus-Cercocebus(MC)系統とに分けられる。小型のマンガベイは,頬骨のくぼみなど,サイズが重なるマカクザルとの間で明瞭な形状差異を示す。一方,大型のヒヒは,マカクザルに比して吻が長いなど,明瞭な形状差異を示すが,サイズの重なりが低いためアロメトリー効果を考慮に入れて評価する必要がある。本研究では,ヒヒ族頭蓋骨標本のランドマーク三次元座標データを用いて,幾何学的形態学的手法により,アロメトリー効果による形状変異を示し,その効果を除去した形状差異を分析した。ヒヒ亜族とマカク亜族に共通するアロメトリー効果を検出した。サイズの増大に対して,吻を含む顔面全体が細長い形状になる。その効果を除くと,中顔部の凹凸,突額の程度,顔高等が,マカク亜族とヒヒ亜族を分ける。さらに,PTL系統とMC系統をも大まかに分かつ。性差は,両亜族に共通して,犬歯にかかる形状差異として検出された。本研究は,ヒヒ亜族に共通するアロメトリー効果を除去することで,PTL系統とMC系統を分ける形態学的特徴を抽出することに成功した。さらに,その特徴が,ヒヒ亜族とマカク亜族の系統分岐を説明する形状差異でもあることから,遺伝的に分けられたPTL系統とMC系統を反映する形態学的特徴であることが支持される。この成果は,アロメトリー効果にさまだけられることのない化石種の系統推定の可能性を示した。本研究は,科研費(26650171:西村剛,26304019:高井正成)より支援を得て実施された。