霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: B01
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口頭発表
野生ニホンザルは堅いオニグルミをどのようにして割るのか?-取り出し採食と採食技術のバリエーション-
*田村 大也
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抄録

「取り出し採食」は霊長類の認知能力の進化を促進した要因のひとつとして近年再度注目されている。これらの研究は,主に大型類人猿やオマキザル類で行われてきたが,この行動について多様な系統や種で知見を蓄積し比較することは,認知能力の進化の理解を深めるために必要不可欠である。宮城県金華山島の野生ニホンザルで見られるオニグルミ種子(以後,クルミ)の採食行動は「取り出し採食」に位置付けることができる。ニホンザルはクルミの堅い外殻を歯で割るため,採食するには強い咬合力が必要であると予測される。一方で,咬合力だけでなく何らかの採食技術が必要な可能性もある。そこで本研究は,まずクルミ採食個体の性・年齢を記録し,咬合力とクルミ採食行動の関係について基礎的な情報を提供する。さらに,クルミ採食時の操作を動画から詳細に分析することで,採食技術の存在とそのバリエーションを明らかにする。2015年および2016年の秋,B1群を対象に調査を行った。その結果,7歳以上のオスではすべての個体で,メスでは5歳以上のほとんどの個体でクルミ採食が確認された。しかし,メスでは5歳以上の個体のうち6個体で採食が一度も確認されなかった。このことから,クルミを採食するためには咬合力に加え,特にメスでは採食技術を獲得する必要性が示唆された。動画分析の結果,採食技術として4つのクルミの割り型(粉砕型,片半分型,半分型,拡大型)が確認され,個体によって示す割り型が異なっていた。各割り型は5つの操作要素の組み合わせで構成され,その構成が割り型によって異なることが明らかになった。この結果は,クルミの採食という同一の目的に対し異なる採食方法を採用するといった行動の柔軟性や,複数の操作要素を構造的に組み合わせ,その構成が個体によって異なるという行動の複雑性を野生ニホンザルが有していることを示唆している。

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© 2017 日本霊長類学会
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