果実食性で体サイズの大きい鳥類と哺乳類が少ないマダガスカル島では,大型種子植物は唯一の大型果実食者であるキツネザル科に種子散布を頼っていると考えられる。樹木個体が種子散布を成功させるためには,種子散布者の訪問を多くして種子の持ち去り率を高める必要がある。本発表ではマダガスカル北西部の熱帯乾燥林に自生する大型種子樹木2種の有効な種子散布者と,その訪問頻度を高める樹木の特徴を同定する研究について報告する。乾季結実植物Astrotrichilia asterotrichaの9個体,雨季結実植物Abrahamia deflexaの7個体を対象とし,結実期間中に昼夜を通して樹冠に訪れる動物の個体数と行動を観察記録した(各個体40時間・合計640時間)。果実を採食した動物3種のうち,小型キツネザル2種は種子を吐き出し,より大型のチャイロキツネザル(Eulemur fulvus)は種子を飲み込んで樹冠外に持ち去った。つまり両樹種にとって,チャイロキツネザルが唯一の種子散布者になる。果樹で採食する際,彼らは頻繁に糞を樹冠下に落とす。そこで両樹種13個体ずつの樹冠下に果実トラップを設置し,結実期間中は2日に一回糞の有無を確認して訪問頻度の指標とした。個体ごとの樹冠面積,果実トラップ内の果実密度,樹木の半径30m内で結実する果樹数,果実1個あたりの平均果肉量を説明変数とし,訪問頻度に対する効果を検証した。A. asterotrichaでは樹冠面積が大きく,果実密度が高く,周辺の果樹が多い個体が頻繁に訪問された。A. deflexaは高い果実密度だけが訪問頻度を高める効果を示した。乾季は少数の高木種だけが結実するため,5-15個体の群れを形成するチャイロキツネザルは群内の採食競合を緩和できる大きな採食パッチを選んでいると考えられる。雨季はツルや低木も含めた多様な種が結実し,チャイロキツネザルは長距離を遊動しながら大小さまざまな果実パッチを訪問するため,小さなA. deflexa個体でも訪問されたと考えられる。