下腿深層のヒラメ筋は抗重力筋として8直立姿勢を保つために重要な働きをしている。そのため直立二足歩行を行うヒトのヒラメ筋は,脛骨起始を有したり,筋の前面に羽状筋部がみられたり,相対的な筋重量が増大するなど,霊長類の中でも特によく発達している。一方,本筋の支配神経に注目すると,筋の背側から進入する神経(RP)と筋の腹側から進入する神経(RA)の二種類の神経に支配されていることが知られている。RPは腓腹筋外側頭の支配神経(LG)と共同幹をなすことが一般的であるのに対し,RAは長母趾屈筋の支配神経(FHL)と共同幹をなすことが多く,いずれも互いにそれらの筋との近縁性が議論されてきている。このようなRAはイヌ,ネコ,ラットなどの霊長類以外の動物では知られておらず,これらの動物のヒラメ筋はRPのみによって支配されているといえる。したがってこのRAは,ヒトをはじめある種の霊長類に特有の神経であるかもしれない。今までに著者が調べたチンパンジー,ニホンザル,ワオキツネザルにRAは存在したが,ゴリラ,オランウータン,シロテテナガザルでは確認できなかった。RAは脛骨神経から単独で分岐せず,長母趾屈筋あるいは後脛骨筋や長趾屈筋の支配神経と共同幹をなして分岐した。また,複数個体を調べたチンパンジーとニホンザルでは,RAがある個体とない個体,あるいはRAがあったとしてもヒラメ筋腹側の筋膜(あるいは腱膜)に分布しているのみで,筋枝とはいいがたいものがあるなど,その筋内分布は多様であり,ヒトのRAが常に存在し,かつヒラメ筋の内側下半部のかなりの領域を支配していることと対照的であった。