霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: P35
会議情報

ポスター発表
野生チンパンジーの母親および非母親は移動開始にあたってアカンボウに気を配る
*桜木 敬子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

チンパンジー(Pan troglodytes)は離合集散する。個体は,集団の他のメンバーと共に移動することもあれば,単独で移動することもある。常に一緒に移動するのは,基本的に母親と未成熟の子供のペアだけである。常にではなくとも,ほとんどの場合に特定の母子と移動を共にする「第三の個体」もある。子供の姉・兄,あるいは母親と親しい(子なしの)メスである。ペアという最小単位でなく,トライアド(3人組)として移動する母子もあることになる。ところで母親は,子の生存にとってのリスクを避けるはずである。アカンボウを置いて移動することには,多少なりともそうしたリスクがともなうと考えられる。もし母親がそうした行動をとることがあるとすれば,それは自分に代わってアカンボウに適切な配慮をすることが期待できるような,他の個体がいる場合ではなかろうか。チンパンジーにおいては,姉・兄や(非血縁の)未経産メスが,アカンボウを運ぶなどの世話をすることがある。これらの個体は,上述のトライアドにおける第三の個体と重なる。本研究では,移動開始の際に母親がアカンボウを置いて先行する距離が,(1) トライアドで,第三の個体が母親よりもアカンボウの近くにいた場合,(2) ペア(第三の個体はそもそも存在しない),(3) トライアドで,第三の個体が母親よりもアカンボウから遠くにいた場合,の順に大きいことがわかった。また,母親が先行する距離が大きいほど,第三の個体がアカンボウを待つ傾向があることがわかった。母親は,第三の個体がアカンボウに配慮できる状況・状態にあることを把握したうえで先行し,当該個体が適切な行動をとることを期待していると示唆された。また,第三の個体は,母親および子の状況・状態を把握したうえで,必要に応じて自らの行動を調整していることが示唆された。本研究の調査場所はタンザニア・マハレ山塊国立公園,調査期間は2016年11月から2017年1月にかけて,追跡対象は母子12組であった。

著者関連情報
© 2017 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top