ヒト(Homo sapiens)には相手や状況に合わせて自らの仕事への態度を変える性質がある。では,ヒト以外の霊長類であるニホンザル(Macaca fuscata)においても相手や状況によって熱心さが変化することはあるのだろうか。本研究では,グルーミングを相手のために行う一種の仕事と見立てて,グルーミーとの血縁の有無や順位関係のような相手の違い,催促の有無のような状況の違いによってニホンザルがグルーミングにおいて熱心さを変化させることがあるのかを調べた。グルーミングの熱心さを表す指標としては,従来グルーミング研究に用いられてきた継続時間に加えて,単位時間内のグルーミングのやり方を評価するために,1分間に毛をかき分ける回数,1分間にシラミ卵をとる回数,シラミ卵とりを諦める割合を新たに設定した。観察は2016年9月から12月の間,嵐山モンキーパークいわたやまのニホンザル餌付け群のうちオトナメス個体を対象に行った。その結果,血縁個体へのグルーミングと比べて非血縁個体へは継続時間が長く,一分間にかき分ける回数やシラミ卵をとる回数が多くなる一方,諦める割合は高くなった。血縁個体へは熱心にグルーミングするわけではないが,一度見つけたシラミ卵はきちんととるという特徴があるのかもしれない。また劣位個体へのグルーミングと比べて優位個体へは継続時間が長く,かき分ける回数やシラミ卵をとる回数が多くなる傾向があったが有意差はなかった。諦める割合に変化はなかった。最後に催促がある場合は,かき分ける回数には有意差はないものの,継続時間は長くなり,シラミ卵を取る回数は多くなった。また有意差はないものの諦める割合が低くなる傾向があった。順位関係に関しては弱い傾向があるという結果に留まったが,催促の有無では時間に着目しても,グルーミングのやり方に着目しても,概ね変化があるという結果が得られたため,ニホンザルは状況によりグルーミングへの取り組み方を変えることが分かった。