霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: P38
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ポスター発表
飼育下オスチンパンジーにおける社会関係と長期的ストレス
*山梨 裕美寺本 研野上 悦子森村 成樹平田 聡
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抄録

動物にとって仲間との関係性は心や体の健康に大きな影響を与えるものである。そのため動物が築く社会関係が動物のストレス状態にどのように影響するのかを理解することは動物福祉を考えるうえで重要である。これまでの研究から,チンパンジーにおいて攻撃を受ける頻度と長期的ストレスに正の相関がみられること,また攻撃とストレス反応の関係には性差がみられることなどがわかってきた。しかし親和的社会行動とのストレス状態の関係性について理解が進んでいない。そこで今回,チンパンジーの遊びやグルーミング関係がストレス反応とどのように関わるのかを調べることを目的とした。熊本サンクチュアリのオスグループのチンパンジー11個体を対象に調査をおこなった。行動観察は2014年12月から2015年3月の間におこない,129時間の社会行動データを記録した。30分毎の個体追跡を繰り返し,グルーミングを30秒ごとに記載した。群れで攻撃交渉と遊び交渉が起きた場合はすべて記録をおこなった。攻撃・グルーミング・遊び頻度を算出し,さらに,グルーミングを一方的にする頻度とされる頻度の差分をグルーミングのバランス指標(GBI)として個体ごとに算出した。体毛は行動データと対応する時期と考えられる,2015年3月末から4月に上腕部より採取し,体毛中コルチゾル濃度を酵素免疫測定法により測定した。結果,先行研究同様攻撃を受ける頻度と体毛中コルチゾル濃度には正の相関がみられた。攻撃をおこなう頻度との間には相関がみられなかった。攻撃を受ける頻度とGBIには正の相関があり,体毛中コルチゾル濃度とGBIの間にも有意な相関がみられた。相互グルーミングや遊び行動は体毛中コルチゾル濃度との関連がみられなかった。以上の結果から,攻撃を受ける頻度の高い個体は一方的にグルーミングをおこなうことに時間を費やし,日常的に関係形成のために労力を払う必要があることが長期的なストレスにつながっていると考えられた。

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© 2017 日本霊長類学会
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