主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 35
開催地: 熊本
開催日: 2019/07/12 - 2019/07/14
オランウータン(Pongo属)は東南アジアに生息する唯一の大型類人猿である。かつてはスマトラ島とボルネオ島に生息する個体群は「別亜種」とされていたが,1990年代以降「別種」とされている。2017年にはスマトラ島トバ湖南部に生息する孤立した個体群が,新種タパヌリオランウータン(P. tapanuliensis)として報告された(Nater et al 2017)。我々は2019年2月に,トバ湖北部に生息するスマトラオランウータン(P. abelii)の生息地と,タパヌリオランウータンの生息地を訪ね,現地で保全活動を行っているNGOの活動を視察した。本発表では,スマトラ島に生息するオランウータン2種の現状と,調査研究および保全活動について報告する。スマトラ島でオランウータンの保全活動を行っている複数のNGOおよび研究チームは「Sumatran Orangutan Conservation Programme(SOCP)」という連合体を作っており,SOCPが資金集めや調査研究,保全活動の中心的役割を担っている。現在,4ヶ所の調査基地(Ketambe,Sikundur,Suaq Balimbing,Batang Toru)と2ヶ所のリリースサイト(人間に保護された後,森林に放された個体群),1ヶ所のリハビリテーションセンターが機能している。地元NGOは2012年~2017年に計87件の救出活動と43件の(違法飼育個体の)押収を行っており,2019年現在も違法飼育や密猟が絶えない状況が続いている。タパヌリオランウータンの生息地では,中国資本による水力発電ダム建設がすすめられている。この事業はオランウータンの生息地を分断し絶滅の危機に追いやるだけでなく,地元住民に利益がなく(電力は付近で操業する鉱山に供給される予定),リスクが大きい(地震多発地帯であり,地滑り等が懸念されている)として,NGOが建設差し止めを求める裁判も起こしている。一方で,日本の電力会社が2019年2月にこの水力発電事業への参加を表明しており,今後の影響が懸念される。