霊長類研究 Supplement
第37回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
30歳超の高齢αメスは社会的孤立傾向を示さなかった-勝山ニホンザル集団での事例から
中道 正之
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p. 41

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抄録

高齢メスの行動特徴として社会的関わりの減衰、あるいは社会的孤立傾向が、マカク属のサル類で報告されている。しかし、勝山ニホンザル集団のα(第1位)メスは、30歳を超える超高齢であるにもかかわらず他個体との近接や毛づくろいの頻度は全く低下しなかった。このメス(正式名称:Bera53’71、通称Pet)は、16歳の時にαメスだった母ザルの死亡でαメスとなり、32歳で集団からいなくなるまで(死亡と推測)、αメスであり続けた。周囲5m以内に他の個体が一頭もいない「単独」の生起率(20分毎に記録)は、24歳から29歳までのメスでは35%から50%であるのに対して(Nakamichi, 1984)、Petが28歳、 31歳、32歳の時の値は7%から12%という低い値であり、社会的孤立傾向が認められなかった。31歳、 32歳の時も、4頭すべての娘、1位から3位までの中心部オスとの5m以内の近接をそれぞれ10%から20%の高頻度で行っていた。Petの毛づくろいの生起率は22歳の時も、31歳、32歳の時も30%前後で変わらなかった。しかし、22歳では毛づくろいをするよりも受けることが多かったが、31歳、32歳では逆に、毛づくろいを行うことの方が多くなった。特に、近縁メスと中心部オスへは毛づくろいを行うことの方が顕著に多かった。32歳の時に行った追跡観察(10分×143回、23時間50分)から、Petが他個体に接近する回数は、他個体から接近される回数よりも多く、Petが毛づくろいを開始するのは、毛づくろい請求を受けた時や毛づくろいのお返しとしてよりも、自発的に開始することが多かった。逆に、Petが毛づくろいを受ける際は、他個体からの自発的な毛づくろい開始よりも、Petの毛づくろい請求に基づくものが多かった。しかし、Petの毛づくろい請求の77%は失敗していた。以上から、αメスという高位であるためPetは他個体への積極的な接近、毛づくろいの自発的開始や請求が可能で、これが彼女の社会的孤立傾向を防ぎ、かつαの位置の維持に役立ったと思われる。

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