霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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口頭発表
チンパンジーにおける嚥下時の喉頭と喉頭蓋の運動について
西村 剛平林 秀樹小嶋 祥三
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p. 30-

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抄録

ヒトは、喉頭の位置が低く、喉頭蓋が軟口蓋と離れ、長い口腔咽頭をもつ。この形状は、音声言語に適応的であるが、嚥下物が誤って気管へと入り込む誤嚥のリスクをあげるとされる。そのため、ヒトでは、喉頭全体を舌骨に向けて上前方へと挙上することで、喉頭蓋を後方へ曲げて喉頭口に蓋をして誤嚥を防ぐ特有の嚥下が進化したといわれている。一方、サル類は、いわゆる草食動物型で、喉頭蓋は鼻腔へとつながり、嚥下物は喉頭口脇の梨状窩から食道へと流れ、呼吸を止めないとされる。しかし、カニクイザルなどでも喉頭蓋が曲がり、呼吸を止めているとの報告もある。本研究は、チンパンジーを対象に、麻酔下でジュースを滴下し、その嚥下中の喉頭及び喉頭蓋の運動を、経鼻ファイビースコープで直接観察し、嚥下機構を確認した。ジュースはいったん梨状窩に貯められ、連続的に通過することはなかった。喉頭が前方に動くことで、喉頭の前庭が閉じるとともに、喉頭が舌根の下の潜り込み、喉頭の後方にある食道の入り口が開口して、梨状窩に貯められたジュースが食道へと押し出されていた。その際、喉頭蓋が後方へ曲がる事例もあった。つまり、この喉頭の前方への運動は、喉頭口の閉鎖と食道の開口を担っており、呼吸を確実に止める。この運動を参照すると、ヒトでは、喉頭が低いので喉頭は上前方へ運動するものの、喉頭を舌根に寄せるその上前方運動の一義的機能はチンパンジーと同様であり、喉頭蓋の運動は副次的に起きていると考えられる。サル類に備わった嚥下運動は、ヒトにおける長い口腔咽頭による誤嚥リスクの潜在的な増加に適応的であると考えられる。

本研究は、科研費(#19H01002)の助成を受けた。

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