霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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口頭発表
テングザルの重層社会
松田 一希村井 勅裕TUUGA AugustineBERNARD HenryOROZCO-TERWENGEL PabloYAHYA Nurhartini KamaliaGOOSSENS BenoitSALGADO LYNN Milena
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p. 32-

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抄録

霊長類の重層社会は、安定した核となる複数の群れ(ユニット)が、様ざまな時空間スケールで離合集散しながら、一緒に採食、休息、移動を繰り返す高次のコミュニティ集団と定義できる。それぞれの群れは、縄張りを保有せず、遊動域を重複させ、近接して集まる際にも際立った敵対交渉が見られない。大きく複雑な集団を形成する社会の重層化を促すのは、必ずしも高い知能/認知能力だけではない。そういった能力がはるかに高いチンパンジーなどの大型類人猿では、社会の重層化はみられず単層の社会を形成している。重層社会は、古くはヒヒ族のマントヒヒとゲラダヒヒで発見され、その後、コロブス亜科のodd-nosedグループのシシバナザル属やテングザルでも発見されるようになった 。このような経緯から、なぜヒトの社会が重層化したのか、その社会進化の過程を類推する上で、系統的には遠縁だが、社会の重層化の萌芽が見られるサル類の研究は重要である。本研究では、テングザルを対象として、本種の重層社会の解明に挑んだ。調査地は、マレーシア・サバ州のキナバタンガン川下流域である。本種は、夕方になると必ず川沿いの木々で寝泊まりする。この習性を利用して、1999〜2001年にかけて、識別をした単雄複雌群の泊まり場間の距離を直接観察により記録した。その後、2015〜2016年にかけて、川沿いで寝泊まりする単雄複雌群の糞を採取し、糞から抽出したDNAから血縁度推定などを実施した。先に行った行動観察から、テングザルは複数の単雄複雌群から形成される2つの異なるコミュニティー(バンド)が下流域と上流域に存在することが分かった。また、血縁度解析からは、メスはより遠くに分散する傾向があるのに対し、オスは比較的狭い範囲にとどまるような傾向が見られた。マントヒヒで報告されているような、父系的地域コミュニティーと類似の社会構造をテングザルも有している可能性を議論する。

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© 2022 日本霊長類学会
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