霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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ポスター発表
テナガザルとニホンザルにおける胸腰椎形態の機能的分化
木下 勇貴平﨑 鋭矢
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p. 56-

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抄録

頭部と四肢をつなぐ脊椎は身体骨格の中心部位であり、体軸に沿った異なる機能的要求に対応する。胸椎は、呼吸器官としての胸郭の一部で、肩甲骨の位置及び肋骨の形状を反映した形態をとる。それに対し、ロコモーションの要である腰椎は、体重支持や腰部の可動域制御といった役割を果たす。特に直立姿勢に適応した類人猿は、胸椎と腰椎でそれぞれ特異的な形態を示すことが知られている。そこで本研究では、胸腰椎形態の機能分化の様相が、類人猿と、伏位姿勢に適応したサル類とで異なるという仮説を立てた。具体的には、サル類では筋付着部位を反映して椎弓において機能形態的な分化が顕著である(形態変異が大きい)という仮説を検証した。テナガザル、ニホンザルそれぞれ4個体以上の骨標本を用いた。第一胸椎から最終腰椎の三次元形状データを取得し、各脊椎に解剖学的ランドマークとセミランドマークを定義した。その後、プロクラステスフィッティングを行い、形状とサイズ情報を分離した。また、ランドマーク及びセミランドマーク座標から、椎体関節面面積、棘突起長、横突起長、及び上関節突起の矢状面に対する角度を求めた。主成分分析の結果は、テナガザルと比較してニホンザルは胸椎から腰椎にかけての形態変異が大きいことを示した。胸椎から腰椎にかけての相対的な椎体関節面面積はニホンザルにおいてやや変化が大きかった。また、棘突起の背腹長及び頭尾長はニホンザルにおいて変化が顕著であった。特に胸椎で相対的に長く、胸部領域における固有背筋群(棘筋、最長筋)の発達を示唆していた。ニホンザルの椎弓部分における変異の大きさは四足歩行・走行への力学的要請であると考えられる。さらに、ヒトのデータを追加して胸腰椎の機能形態学について詳細に議論する。

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© 2022 日本霊長類学会
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