主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 38
開催地: 京都府
開催日: 2022/09/16 - 2022/09/19
p. 60-
ヒト特異的な表現型を生みだす分子基盤を理解するためには、ヒトと非ヒト霊長類、とりわけ近縁種である類人猿との発生過程を含めた種間比較解析が重要となる。しかし、ヒトや類人猿の発生過程の解析を行うことは技術的・倫理的な問題から困難が伴う。人工多能性幹細胞(iPS細胞)による分化誘導系は、培養下で発生過程を再現しながら目的の細胞種を誘導できることから、この障害を克服した強力な実験系を提供する。現在までにチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンと全ての大型類人猿でiPS細胞が樹立され、ヒト特異性の基盤を探る研究に利用されてきた。しかし、現生ヒト上科の中では唯一、テナガザルのiPS細胞のみが樹立されておらず、更に、他の大型類人猿で採用されたiPS細胞作成法では樹立が困難であることもわかっていた。今回は、ステルス型RNAベクター(SRV)を用いた線維芽細胞への初期化因子の導入により、テナガザル科の中でも異なる属に分類されるシロテテナガザル(Hylobates lar)と、シアマン(Symphalangus syndactylus)の二種のiPS細胞の樹立に取り組んだ。本発表では、今回樹立に成功したテナガザルiPS細胞とその特性解析の結果について報告する。