霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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ポスター発表
下北半島における外来種交雑に関する研究
川本 芳羽山 伸一近江 俊徳白井 啓田中 洋之
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p. 62-

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抄録

下北半島でニホンザルとの交雑が心配されたタイワンザル母群は2004年に全頭捕獲されひとまず根絶されたと考えられている。しかし、ニホンザルとの交雑の有無については母群根絶以降に追跡調査が行われていない。本研究では、種判別用に開発した常染色体SNP19標識、Y染色体マイクロサテライトDNA3標識、mtDNAの部分塩基配列(非コード領域の558 bp)、を利用し、根絶されたタイワンザル母群(捕獲した全69個体)ならびに近年の下北半島のニホンザル群(2012年7月から2017年11月に有害捕獲された305個体から選んだ検体)の遺伝子構成を比較した。常染色体分析では、タイワンザル母群の3個体(4.3%)だけが強く交雑していた(個体当たりのニホンザル由来遺伝子の割合で推定した交雑度は30〜50%)のに対し、ニホンザル群では一例も交雑が確認されなかった。Y染色体にはニホンザルに4タイプ、タイワンザルに1タイプの種特異的ハプロタイプが区別できたが、他の遺伝標識との組み合わせでは移住オスを介した交雑の証拠は認められなかった。また、タイワンザル母群内にmtDNAの個体変異は検出されず、台湾で報告されている58タイプとの分子系統比較から高尾市郊外の寿山自然公園が起源であることを示唆する結果が得られた。以上から、国内3箇所で起きた外来種交雑の事例のうち、下北半島の例は最も遺伝子浸透の程度が低い交雑の場合と考えられ、正逆交雑の起こり方、外来種母群内での交雑程度で他所とは異なる交雑であることが明らかになった。

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