霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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ポスター発表
室内飼育下カニクイザルの初潮と閉経
山海 直小原 実穂
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p. 63-

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抄録

子宮は子宮体や子宮角の形態・構造により解剖学的に分類されており、サル類はヒトと同じ単一子宮の動物である。また、卵巣機能においてもヒトと類似しているところが多く、成熟個体では月経を定期的に繰り返し、いずれ閉経となる。これらのことは経験から理解されていることが多く、サル類の初潮、閉経等に関する報告は極めて少ない。そこで長年にわたり室内繁殖、育成、成熟個体および老齢個体の管理が実施されている医薬基盤・健康・栄養研究所のカニクイザルの月経に関わる記録を調査した。カニクイザルの月経は、29.4±4.3日間隔の周期を示していた。また、月経発現から排卵までの日数を内分泌学的に解析したところ、若齢個体で13.2±1.6日目、高齢個体で13.5±2.0日目であった。初潮は脳、卵巣、子宮のそれぞれの成長とともに各機能が相互に関連づけられることで発現するが、カニクイザルの初潮は1195±209日齢(約3歳)であった。初潮確認後も体重は増え続け、生理的安定を意味する定期的な月経周期を示すようになるのは、初潮から1年後の1490±333日齢(約4歳)であった。また、交尾が成立して妊娠が確認されるのは初潮から2年後の1987±447日齢(約5歳)であった。高齢の個体では卵巣機能の低下により子宮内環境の周期的変化がなくなり閉経となるが、最後の月経を認めたのは、9288±1532日齢(約25歳)であった。寿命は11848±2095日齢(約32歳)であったことから閉経後においても約7年間生存していることがわかった。このように、初潮から初めての妊娠を確認するまでに2年を要しており、肉体的成熟と精神的成熟を区別して理解する必要があると思われた。また、これらの生殖現象の発現時期は個体差が大きく複雑なメカニズムの結果であることから、初潮を伴う性成熟期、成熟期、閉経を伴う更年期、さらに高齢の老年期といったように、それぞれの現象を点ではなく期間で示すほうが適格であると思われた。

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