霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
会議情報

自由集会
猿は木から落ちる/落ちない:霊長類の樹上環境適応と 落下を考える
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p. 15-

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抄録

日時:2023年7月7日(金)15:30〜17:00

場所:兵庫県民会館 10階 福の間

本集会では「サルは木から落ちる/落ちない」をテーマとして、野生霊長類の大きなリスクとなる滑落事例を紹介すると共に、その行動と形態の適応を考える機会とする。また落下リスクを減らすための飼育環境設計の試みを紹介する。

後藤は、霊長類のロコモーションを生体力学的に解析している。霊長類の樹上四足歩行では四肢の運び順や、手足に作用する反力に特徴が見られる。しかし、それらの特徴が落下防止に実際にどう寄与するかについては未だ分からない点が多い。本発表では、フィールドと実験室での実験データを交えながら、霊長類の樹上四足歩行における落下防止メカニズムに関する発表者の見解を示す。東島は、しっぽの喪失に着目し生物学的・人文学的「ひと」の成り立ちについて多角的に研究を進めている。霊長類の尾は系統と適応を反映する重要な指標であり、樹上性霊長類の多くが長い尾を跳躍やバランス維持に用いる。尾の筋骨格形態と環境利用との関係について紹介するとともに、ヒト上科における尾の喪失要因に関する仮説にもふれる。矢野は、ヒトや霊長類を中心とする脊椎動物骨格形態の3次元定量解析を行っている。奥多摩で見つかった野生ニホンザルの稀な骨折例を肉眼解剖およびCTによる内部観察により分析した。この例が国内最高齢のメス個体の高所滑落による左大腿骨骨折であったことから、加齢変化による霊長類の落下骨折リスクの上昇について報告する。島田は、霊長類の遊び行動の研究を専門としマハレ(タンザニア)での長期フィールドワークを実施してきた。チンパンジーにおける高所からの墜落に関する先行研究に加え、昨年観察した墜落事例における集団メンバーの墜落個体の近傍での行動の特徴を、行動学の視点から報告する。若生は、造園学を専門とし、ときわ動物園のシロテテナガザル、ズーラシアのチンパンジー、アルプス公園のニホンザルなどの生息環境展示の設計を手掛けてきた。野生に近い生息環境を再現する高所空間の創出には、高所からの墜落のリスクが皆無とは言えない。高すぎず適切な枝ぶりの樹木を選定して植栽し、高木と地面の間には灌木を植栽し緩衝帯とする等の工夫について紹介する。

1. 趣旨説明 矢野 航(防衛医科大学校)

2. 樹上ロコモーションからの話題提供 後藤 遼佑(群馬パース大学)

3. 尾の形態とヒトにおける喪失からの話題提供 東島 沙弥佳(京都大学)

4. 墜落事例紹介1 奥多摩のニホンザルでの墜落骨折例  矢野 航(防衛医科大学校)

5. 墜落事例紹介2 マハレのチンパンジーでの高所墜落例 島田 将喜(帝京科学大学)

6. 墜落リスク軽減のための動物園での生息環境展示設計例 若生 謙二(大阪芸術大学)

7. 総合討論

責任者:矢野 航(防衛医科大学校)

開催方法:現地開催のみ

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