霊長類研究 Supplement
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第39回日本霊長類学会大会公開シンポジウム
  • -霊長類をめぐる多様な保全活動の最前線-
    原稿種別: 第39回日本霊長類学会大会公開シンポジウム
    p. 13-
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2023年7月9日(日)13:30-16:30

    場所:兵庫県民会館 9階 けんみんホール

    国内には日本固有種であるニホンザルが生息しており、見ざる言わざる聞かざるといった諺に出てきたり、山王信仰として祀られるなど、日本人は、ニホンザルにある意味親しみを持って接してきた。野猿公園や動物園といった施設もそうした親しみを持つ契機を作ってきたと言える。しかしながら、近年は、人に危害を加えたり農作物を荒らす様子がメディアで拡散され「サルは怖い・憎い」といった印象の高まりが懸念され、実際に被害を受ける方々のニホンザルが存在することへの嫌悪も見受けられる。こうした軋轢は、日本だけでなく世界各地で発生しており、軋轢が続くとニホンザルを含めた霊長類と人々の接し方にも影響を与え、結果的に国内外の霊長類の存続及びそれらを対象とした研究も難しくなることも想定される。そうした状況のなかで、霊長類と地域コミュニティとの共存を目指した保全活動が各地で展開してきた。また、動物園は貴重な霊長類を保存し一般の方々の野生動物への理解を促す施設として見直されつつある。そこで、本公開シンポジウムでは、類人猿・ニホンザル・霊長類の保全をめぐる多様な人々との関わりを創出している事例を共有し、霊長類とヒト社会の新たな関係性構築がもつ可能性と課題について考える機会としたい。

    プログラム

    13:30〜13:35 開会挨拶 

    13:35〜13:45 趣旨説明 山端直人(兵庫県立大学自然・環境学研究科)

    13:50〜14:10 話題提供(1)田中ちぐさ(日本モンキーセンター)

    14:15〜14:35 話題提供(2)山田一憲(大阪大学人間科学研究科)

    14:40〜15:00 話題提供(3)鈴木克哉(NPO法人里地里山問題研究所)

    15:05〜15:25 話題提供(4)山越言(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)

               (休憩)

    15:35〜16:25 会場の参加者から寄せられた質問によるパネルディスカッションコーディネーター:山端直人

    16:25〜16:30 閉会挨拶

    主催:第39回日本霊長類学会大会実行委員会

    後援:兵庫県・神戸市・丹波篠山市・兵庫県立大学・神戸大学人間発達環境学研究科・日本哺乳類学会

    協力:神戸市立王子動物園

自由集会
  • 〜ニホンザルの研究・行政・一般市民をつなぐ試み〜
    原稿種別: 自由集会
    p. 14-
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2023年7月7日(金)13:30〜15:00

    場所:兵庫県民会館 10階 福の間

    1999年に特定鳥獣保護管理計画制度が創設されてから24年が経過した。特定鳥獣保護管理計画制度は日本の鳥獣行政に定着し、計画的・科学的な管理を目指す様々な試みが各地で進められている。その結果、被害が減少している成功事例が報告されている。一方で、被害が減少しない地域や、近年、特にハナレザルの市街地への出没、人身被害は増加していて課題も散見される。加えて現在の法律やガイドラインでは、地域個体群の保全を担保した考え方が整理されていない状況にある。1990年代、京都大学霊長類研究所の共同研究会「ニホンザルの現況」研究会が開催され、全国のニホンザルの分布や被害情報が報告され意見交換が活発に行われてきた。しかし現在、会の開催は無くなり情報を共有し連携をとって活動する連絡網や組織は認められていない。これらの問題を解決するために共通の受け皿として、ニホンザルにたずさわっている研究者、行政担当者、そして新たに一般市民(市民科学:シチズンサイエンス)が参加する組織の設立を求める声が増えている。そこで、本自由集会では、先進的に活動している組織の活動を共有しながら新たな連絡組織の立ち上げが可能か議論を深める予定でいる。

    プログラム

    1. 趣旨説明

    森光由樹(兵庫県立大)

    2.「ニホンザル現況」研究会、ニホンザル保護管理のためのワーキンググループの活動

    渡邊邦夫(京都大学名誉教授)

    3. 日本モンキーセンター(JMC)の趣旨、活動(研究者、一般市民との交流)

    赤見理恵(日本モンキーセンター キューレーター)

    4. 日本クマネットワーク(JBN)設立の趣旨、活動(研究者、一般市民との交流)

    佐藤喜和(日本クマネットワーク代表 酪農学園大学)

    コメント 

    日本哺乳類学会 哺乳類保護管理専門委員会 ニホンザル保護管理検討作業部会

    山端直人(兵庫県立大学)

    日本霊長類学会 保全・福祉委員会 山田一憲(大阪大学)

    総合討論

    責任者:森光由樹

    後援:日本霊長類学会 保全・福祉委員会、日本哺乳類学会 哺乳類保護管理専門委員会

    開催方法:現地とZoomのハイブリッド開催。Zoom参加の場合、以下のURLまたはQRコードから事前登録が必要になります。お名前とメールアドレスの入力をお願いします。これらの情報は参加登録にのみ利用し、その他の目的には利用しません。

    https://zoom.us/meeting/register/tJAlcu6prT8tH9WsKX9kBNFLLqJhNNwkGeiW

  • 原稿種別: 自由集会
    p. 15-
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2023年7月7日(金)15:30〜17:00

    場所:兵庫県民会館 10階 福の間

    本集会では「サルは木から落ちる/落ちない」をテーマとして、野生霊長類の大きなリスクとなる滑落事例を紹介すると共に、その行動と形態の適応を考える機会とする。また落下リスクを減らすための飼育環境設計の試みを紹介する。

    後藤は、霊長類のロコモーションを生体力学的に解析している。霊長類の樹上四足歩行では四肢の運び順や、手足に作用する反力に特徴が見られる。しかし、それらの特徴が落下防止に実際にどう寄与するかについては未だ分からない点が多い。本発表では、フィールドと実験室での実験データを交えながら、霊長類の樹上四足歩行における落下防止メカニズムに関する発表者の見解を示す。東島は、しっぽの喪失に着目し生物学的・人文学的「ひと」の成り立ちについて多角的に研究を進めている。霊長類の尾は系統と適応を反映する重要な指標であり、樹上性霊長類の多くが長い尾を跳躍やバランス維持に用いる。尾の筋骨格形態と環境利用との関係について紹介するとともに、ヒト上科における尾の喪失要因に関する仮説にもふれる。矢野は、ヒトや霊長類を中心とする脊椎動物骨格形態の3次元定量解析を行っている。奥多摩で見つかった野生ニホンザルの稀な骨折例を肉眼解剖およびCTによる内部観察により分析した。この例が国内最高齢のメス個体の高所滑落による左大腿骨骨折であったことから、加齢変化による霊長類の落下骨折リスクの上昇について報告する。島田は、霊長類の遊び行動の研究を専門としマハレ(タンザニア)での長期フィールドワークを実施してきた。チンパンジーにおける高所からの墜落に関する先行研究に加え、昨年観察した墜落事例における集団メンバーの墜落個体の近傍での行動の特徴を、行動学の視点から報告する。若生は、造園学を専門とし、ときわ動物園のシロテテナガザル、ズーラシアのチンパンジー、アルプス公園のニホンザルなどの生息環境展示の設計を手掛けてきた。野生に近い生息環境を再現する高所空間の創出には、高所からの墜落のリスクが皆無とは言えない。高すぎず適切な枝ぶりの樹木を選定して植栽し、高木と地面の間には灌木を植栽し緩衝帯とする等の工夫について紹介する。

    1. 趣旨説明 矢野 航(防衛医科大学校)

    2. 樹上ロコモーションからの話題提供 後藤 遼佑(群馬パース大学)

    3. 尾の形態とヒトにおける喪失からの話題提供 東島 沙弥佳(京都大学)

    4. 墜落事例紹介1 奥多摩のニホンザルでの墜落骨折例  矢野 航(防衛医科大学校)

    5. 墜落事例紹介2 マハレのチンパンジーでの高所墜落例 島田 将喜(帝京科学大学)

    6. 墜落リスク軽減のための動物園での生息環境展示設計例 若生 謙二(大阪芸術大学)

    7. 総合討論

    責任者:矢野 航(防衛医科大学校)

    開催方法:現地開催のみ

  • 原稿種別: 自由集会
    p. 16-
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2023年7月7日(金)13:30〜15:00

    場所:兵庫県民会館 11階 パルテホール

    現在、地球上におよそ6000種の哺乳動物が生息しています。哺乳類の出現は中生代初期の2億3000万年前まで遡ることができますが、恐竜が絶滅した6600万年前を機に爆発的な適応放散を迎え、現在に至る表現型の新奇性の獲得と多様化を果たしました。哺乳動物の新奇性と多様性については、幼少期に誰もが一度は「キリンの首やゾウの鼻はどうして長くなるのだろう?」といった疑問をもったことがあるはずですが、その問いに対する答えを得ることのないまま、いつしか疑問自体を感じなくなっています。また、学術的にもこうした子供の疑問、すなわち「哺乳動物の新奇性と多様性をもたらした発生進化プログラム」について回答できずにいますが、その原因は動物園にいるような動物(動物園動物)には生命科学研究を難しくする要因が多く、その発生現象に実験的にアプローチすることが不可能なことにあります。一方、iPS細胞は様々な哺乳動物から作製することができ、任意の細胞系譜の発生分化を培養下で再現することを可能にします。したがって、iPS細胞技術を活用すれば、動物園動物における生体研究の制約を乗り越えて、表現型の新奇性・多様性の発生進化研究(基礎生物学)に取り組むことができるようになると考えられます。さらに、動物園動物iPS細胞の構築にともない、各動物種に応じた治療薬の検証と開発(獣医創薬)や遺伝的多様性の保存と将来的な繁殖(繁殖生物学)にもつながります。そこで、このコンセプトを実現するべく、生命科学者・獣医学者・動物園が連携して「動物園まるごとiPS細胞化プロジェクト」を昨年度に始動しました。本自由集会では、このプロジェクトの背景について、生物学の視点、獣医学の視点、動物園の視点のそれぞれから紹介したいと思います。

    プログラム

    「『キリンの首』問題の解決に向けた生物学のアップデート」

    今村公紀(京都大学ヒト行動進化研究センター)

    「iPS細胞は動物園に何をもたらすか?」

    櫻庭陽子(豊橋総合動植物公園)

    「稀少動物のドラッグリポジショニングの存在意義」

    中村紳一郎、塚本篤士(麻布大学獣医学部)

    責任者:今村公紀(京都大学ヒト行動進化研究センター)

    開催方法:現地開催のみ

  • 原稿種別: 自由集会
    p. 17-
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2023年7月7日(金)15:30〜17:00

    場所:兵庫県民会館 11階 パルテホール

    福島県では、2007年に鳥獣保護法に基づくニホンザル保護管理計画(現在は、ニホンザル管理計画)を策定し、市町村が適切な実施計画を策定して個体数調整を行うことになった。一方で、雪国のサルの繁殖率は低いと予想され、個体群管理は慎重に行う必要があると考えられたことから、2008年から演者らの研究グループは福島市と連携して捕殺された個体の性年齢構成や妊娠率等の個体群管理学的な調査を開始した。その過程で、2011年に発生した東日本大震災に伴う福島第一原発の爆発により、福島のサルたちは世界で初めて原発災害で被ばくしたヒト以外の野生霊長類となった。この事態を受けて、サルたちの被ばく実態や健康影響を明らかにすべく、長期的なサルの健康影響調査も行ってきた。本自由集会では、これまでの調査結果を報告し、今後の動向について考察する。

    プログラム

    「震災前後のニホンザルの群れ分布の変化について(避難地域を主として)」

    今野文治(東北野生動物保護管理センター)

    「遺伝子から見た地域個体群の分布について」

    川本 芳(日本獣医生命科学大学獣医学部)

    「放射性物質の蓄積と健康影響」

    羽山伸一(日本獣医生命科学大学獣医学部)

    責任者:羽山伸一・川本 芳(日本獣医生命科学大学獣医学部)

    開催方法:現地開催のみ

口頭発表
  • 豊田 直人, 西村 剛
    原稿種別: 口頭発表
    p. 28
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    曲鼻猿類は、マダガスカル島に生息するキツネザル類と、アジアおよびアフリカ大陸に生息するロリス・ガラゴ類からなる。これらは、各々の地域で適応放散を遂げたと考えられており、そこでみられる様々なニッチに適応した形態学的な特徴を示している。特に脳は、多様な感覚器・運動器を統合する場であるため、脳形態のバリエーションを解析することで、その適応放散のプロセスを一体的に明らかにすることができると期待される。本研究では、様々な生態学的特性を示す曲鼻猿類を対象に、頭蓋骨の脳函エンドキャストを作成し、彼らの脳形態の多様化のプロセスを明らかにすることを目的とした。現生曲鼻猿類の頭蓋骨CTデータから、脳函エンドキャストを仮想的に立体構築し、その形態を定量化するために表面上にランドマークをとった。それら形態データを主成分分析にかけ、形態変異の傾向を明らかにし、グループごとの特徴を明らかにした。さらに、分子系統樹を遡って祖先形態を推定し、系統樹上の進化速度やそのパターンを推定することで、多様化の過程を復元した。解析の結果、曲鼻猿類の脳函エンドキャストは、各科ごとに特徴的な形態を示すことが分かった。さらに、そのような特徴をもたらす進化のプロセスには、加速および減速する時期がみられた。これは、速度の一定性を想定する帰無仮説よりも、有意に高い周辺尤度の値によって統計的に支持された。以上の結果は、祖先種が急速に分岐していき様々なニッチを埋めていくとする適応放散の予測に合致するものであり、曲鼻猿類の脳が、そのニッチを埋めていく過程において重要な役割を果たしていたことを強く示唆する。今後、本発表では解析することができなかった化石種や他の現生種を解析に加え、生態と脳函エンドキャスト形態の関連性を詳細に示すことができれば、脳函エンドキャストのバリエーションから、適応放散のプロセスを推定する基盤が整うと考えている。

  • 伊藤 滉真, 田中 正之, 吉田 信明, 荻原 直道
    原稿種別: 口頭発表
    p. 28
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    アフリカ大型類人猿はナックルウォーク(KW)と呼ばれる特殊な四足歩行を行う。ヒトと生物学的に最も近縁なアフリカ大型類人猿が、なぜKWを進化させたのかを明らかにすることは、ヒトの常習的直立二足歩行の進化を考える上で重要な示唆を提供する。しかし、アフリカ大型類人猿のロコモーション研究はその希少性・危険性から極めて困難であり、その詳細は必ずしも十分明らかになっていない。このため本研究では、ゴリラを対象として、KW分析のための三次元動作計測システムを構築することを目的とした。京都市動物園の4頭のゴリラが日常的にKWする屋外ゴリラ舎の梁の上に、6軸ロードセルを用いて製作した無線式床反力計を設置した。また、その床反力計を取り囲むように4台のビデオカメラをゴリラ舎ガラス窓外側面に設置した。撮影した動画から、深層学習によるオートトラッキングツールを用いてKW中のゴリラの関節位置を自動抽出し、三角測量の原理に基づいて歩行中の全身三次元運動を定量化することを可能とした。これにより、ゴリラKW中の身体三次元運動と前肢に作用する床反力の同時計測が可能となった。構築したシステムを用いてゴリラKWの運動データを収集し、未だ明らかになっていないアフリカ大型類人猿のKWの詳細な運動学・動力学メカニズムを明らかにしていく予定である。

  • 櫻屋 透真, 江村 健児, 薗村 貴弘, 平崎 鋭矢, 荒川 高光
    原稿種別: 口頭発表
    p. 28-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトのヒラメ筋の前面には、他の霊長類種と異なり、直立二足歩行に重要な羽状筋部が存在する。ヒト羽状筋部は、ヒラメ筋の大部分を支配する後方からの脛骨神経枝(Posterior branch:PB)とは別の、前方に進入する脛骨神経枝(Anterior branch:AB)によって支配される。我々はこれまでに、ABがヒト以外の霊長類種にも存在することを見出し、ABとPBは系統発生学的に由来が異なる筋群を支配している可能性を、末梢神経の分岐パターンから示すことができた。今回は、ABとPBのヒラメ筋内での分布パターンを詳細に調べた。ニホンザル、カニクイザル、フクロテナガザル、チンパンジー、オランウータン、ヒトを対象に支配神経の筋内分布を解析した。PBは、比較したほとんどの種において、筋内で5つの枝に分岐した。ABはカニクイザル、フクロテナガザル、チンパンジー、ヒトに存在し、ヒトではABの一部が筋束に分布した。ヒト以外の種では、ABがヒラメ筋前面の腱膜を貫いて筋内へ入るが筋束へは分布せず、腱膜および血管の周囲へ分布した。ニホンザル、オランウータンにはABが見られなかった。霊長類種間でPBが安定した形態であるのに対し、ABの支配領域に違いが見られたことは、PBとABの支配領域がそれぞれ別の筋群に由来することに関連している可能性がある。

  • 根地嶋 勇人, 上野 将敬
    原稿種別: 口頭発表
    p. 29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    マカク属を含む多くの霊長類では、離乳期に子が乳首に接触して授乳を試みた際に、母親が拒否する授乳拒否が見られる。授乳拒否には子への投資量を減少させる効果や、母親の行動が阻害されないタイミングで子に授乳を行うよう調節する効果があると考えられている。このような授乳拒否には攻撃が伴うことがあるが、なぜ授乳拒否に攻撃が伴うのかについては検討されていない。母親から子への攻撃には、子が死亡や怪我をするリスクが伴う。攻撃が伴う際には授乳拒否の効果がより強くなり、母親がより大きな利益を得ているのかもしれない。そこで本研究は1.攻撃を伴う拒否は授乳時間を減少させるか、2.母親が授乳中に行いにくい行動は何か、3.攻撃を伴う拒否が生じた後、母親が授乳中に行いにくい行動をより行うことができるかを検討した。調査は2022年6月から9月の間、長野県地獄谷野猿公苑で餌付けされているニホンザル群の母子(18ペア)を対象に行われた。観察は個体追跡法を用い、180時間行われた。調査の結果、1.攻撃を伴う拒否がよく生じるペアほど、観察時間中の授乳頻度が高い傾向にあること、2.授乳時には非授乳時より、母親はセルフグルーミング、子以外の個体へのグルーミング、採食、移動を行いにくいこと、3.授乳拒否に攻撃が伴った場合とそうでない場合では、拒否後1分間において、授乳時に行いにくい、セルフグルーミング、子以外の個体へのグルーミング、採食、移動の発生頻度は変わらないことが明らかとなった。以上の結果から、母親は攻撃を伴う拒否を行うことで、授乳を抑制していない可能性及び、授乳時に行いにくい行動を行えるようになるという利益を得ていないことが示唆された。

  • 鈴木 久代, ハフマン マイケル, 中道 正之, 高畑 由起夫
    原稿種別: 口頭発表
    p. 29-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    嵐山B群は、1986年にE・F群に分裂した。本報告では1983年と1988年のB・E・F群のメス間の優劣交渉をもとに、1966・1976年の順位とも照合し、分裂前後における母系血縁系間の順位の変化を調べた。また、血縁メス間で“川村の法則”(Kawamura, 1965)との整合性を比較した。まず、母系血縁系間の順位について、E群とF群で違いが認められた。E群はB群の上位血縁系のメスが多く、分裂後も順位はあまり変動しなかった。F群はB群の中・下位血縁系のメスからなるが、上位オスと特異的近接関係(PPR)を形成したり、交尾関係にあったりしたメスが多く、血縁系間の順位は大きく変化した。一方、血縁メス間では分裂前の1983年と分裂後の1988年とも、母親の高齢化や上位オスとの親和的関係等で川村の法則からの逸脱例が認められた。とくにB群で最優位だったKojiwaの血縁系では、1966~79年に長女による母親との順位の逆転(αステータスの獲得)が3世代にわたって起きたため、1983年には川村の法則から大きく逸脱していた。一方1988年には1~3親等で、川村の法則に従う傾向が認められた。逆転等でいったん順位が変動した後、その子孫の順位は川村の法則によって再編成されていることが示唆された。

  • 中岡 至
    原稿種別: 口頭発表
    p. 30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    長野県の地獄谷野猿公苑に生息するニホンザル餌付け群は温泉入浴をすることで知られている。入浴行動は寒冷地における体温調節を目的としたものと考えられている。ニホンザルの温泉利用として入浴の他に水飲み行動が観察でき、川でも観察できた。樹上性の霊長類では病気や寄生虫、捕食者などのリスクを避けるために食べ物から水分を得ることが多く、樹上の水源を利用することはあっても地上の水源を利用することは少ない。また、地上性の種でもリスクの回避や特別な栄養の摂取のために樹上の水源を利用することがある。半樹上性のニホンザルが地上の水源である温泉水を飲用するのは、単に水分を摂取する以上の特別な恩恵を得るためである可能性がある。本研究では、地獄谷野猿公苑のニホンザル餌付け群の温泉での水飲み行動が、入浴行動のように冬場の体温調節行動として機能しているという仮説について検証した。調査は2022年8月と2022年12月に、長野県下高井郡の地獄谷野猿公苑のニホンザル餌付け群を対象として行った。行動サンプリングと定点カメラの画角内での個体追跡サンプリングの併用による観察を行い、水飲み行動の場所間(川と温泉)、季節間(夏と冬)の比較を行った。その結果、夏冬の両方で、水飲み行動の頻度の多さや各個体が水を飲んでいる時間の長さは温泉の方が川よりも大きいことが分かった。このことは地獄谷ニホンザルの水飲み行動に関して温泉水が川の水よりも優先されることを示しており、すなわち温泉での水飲み行動の機能が水分摂取のみではないことを示している。しかし、温泉での水飲み行動の頻度には夏と冬で有意な差は認められなかった。さらに、気温と水飲み回数の間には有意な相関は認められなかった。これらのことは温泉での水飲み行動の体温維持仮説を支持しない結果である。全体として、地獄谷ニホンザルの水飲み行動には体温調節や水分摂取以外の機能があることが示唆された。

  • 土橋 彩加, 竹中 將起, 林 浩介, 山田 玄城, 小倉 孝之, 伊藤 百音, 磯角 翔平, 長原 衣麻, 東城 幸治, 松本 卓也
    原稿種別: 口頭発表
    p. 30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    中部山岳国立公園内に位置する上高地は、標高が約1500mの亜高山帯に位置し、厳冬期の気温は-25℃にも達することから、ニホンザルの生息地の中でも最も寒冷な地域の1つと言える。2020年以降、上高地のニホンザルの糞分析(メタバーコーディング解析)やビデオ解析から、上高地のニホンザルが冬季に生きた魚を捕まえて食べる行動(魚捕り行動)が報告された。魚捕り行動は、上高地のニホンザルが越冬するために重要な行動と考えられているものの詳細な行動観察には至っていない。本研究では、魚捕り行動の行動生態学的特徴を明らかにすることを目的に、上高地に生息するニホンザル3群を対象に、個体識別法に基づく直接行動観察および魚捕り行動が過去に観察された地点のカメラトラップによる撮影を、2022年1~3月および2023年1~3月に行った。直接観察では35事例、カメラトラップでは16事例の魚捕り行動が得られた。魚捕り行動を示したのはオトナメスが31事例、オトナオスが6事例、ワカモノが4事例、コドモが5事例で(性・年齢クラスが識別困難な個体を除く)、最年少個体は推定4歳のオスであった。また、上高地に生息するニホンザル3群すべてにおいて、オトナメスの魚捕り行動が観察された。魚捕り行動の対象となった魚の大きさと、魚捕り行動を示した個体の性・年齢クラスとの明確な関連性は認められなかった。これらの結果を踏まえ、上高地ニホンザルの魚捕り行動の発達過程や行動生態学的特徴について考察・議論する。

  • 清家 多慧
    原稿種別: 口頭発表
    p. 31
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    捕食者の存在の有無やその捕食者に対してどのような防衛策をとるかといったことは霊長類の社会の成り立ちや構成を考える上で重要な一つの要素である。しかしながら、捕食者となる動物は野生における観察が難しかったり、遭遇頻度が極端に低かったりする場合が多く、捕食について実際の観察に基づくデータは十分とは言えない。本研究では、タンザニアのマハレに生息するグエノンの1種であるアカオザル(Cercopithecus ascanius)の群れが実際にカンムリクマタカ(Stephanoaetus coronatus)・ヒョウ(Panthera pardus)・チンパンジー(Pan troglodytes)の3種の捕食者とそれぞれ遭遇した際の観察を元に、アカオザルが異なる捕食者にどう対処しているのかを考察する。3種の捕食者はそれぞれアカオザル捕食についてその方法や選好性が異なる。例えば、チンパンジーは前者2種とは異なって主に集団で狩猟を行う、カンムリクマタカは後者2種に比べて獲物種の中でアカオザルをより好んで狩るといった違いがあり、アカオザルはそれらに対応して異なる対捕食者戦略をとると考えられる。アカオザルの群れ追跡を行った2022年10月7日~2023年3月2日の間にカンムリクマタカとの遭遇は9回、ヒョウとの遭遇は2回、チンパンジーとの遭遇は26回観察され、遭遇頻度に違いが出た。前者2種の捕食者との遭遇時にはいずれも群れ個体によるモビングが見られた。その際に特にハレムオスがラウドコールをしきりに発し、最前線に出る、群れから一人離れて追いかけていくといった積極的に捕食者に向かっていく行動も見られた。一方、チンパンジーとの遭遇時にはチンパンジーに対する目立った反応が見られないことが多かった。本発表ではこれらの行動を定量的に評価し捕食者種ごとの反応の違いを明確にするとともに、どのような場面で単雄群におけるハレムオスが捕食者からの防衛において重要な役割を果たすかについても検討する。

  • 赤岡 佑治
    原稿種別: 口頭発表
    p. 31
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    中部アフリカ熱帯雨林地域において霊長類は、種子散布者として森林生態系の維持に必要不可欠な生物群である。しかし近年、都市部での急激な人口増加に伴う狩猟活動の激化により、アフリカ各地でその個体数の減少や局所的な絶滅が報告されている。効果的な野生霊長類の保全活動を実施する上で、各種霊長類の生態的な特徴を把握することは必要不可欠である。一方で、日常的に野生動物を狩猟し、その獣肉を利用している地域住民の視点から霊長類の保全管理について議論することも同様に重要であるにも関わらず、実際に地域住民による霊長類を対象にした狩猟活動の実態を詳細に調べた研究事例は数少ない。発表者は、カメルーン東南部の熱帯雨林地域に位置するブンバベック国立公園に隣接するグリべ村において2022年9月~2023年5月の期間、「①霊長類を対象にした狩猟活動の実態調査」「②地域住民による霊長類の獣肉利用に関する調査」「③ライントランセクト法による野生霊長類の個体数調査」を実施した。本発表では、それぞれの調査から得られた予備的な調査結果を発表し、カメルーン東南部熱帯雨林地域における野生霊長類の保全のための課題について議論したい。特に①に関しては、地域住民の銃を使用した狩猟活動に同行した結果、カメルーンの森林省で厳密に禁止されているニシゴリラ(Gorilla gorilla)やシロクロコロブス(Colobus guereza)などの希少な霊長類種が日常的に狩猟されていることが分かった。また、地域住民に対してグリべ村で銃器の所有する者の人数および1年間の狩猟活動を実施回数について聞き取り調査を行った結果、銃器を用いた狩猟活動が地域に生息する霊長類に対して従来の予想をはるかに上回るインパクトを及ぼしている可能性が示唆された。銃器を用いた狩猟活動の規制は中部アフリカ熱帯雨林地域において野生霊長類の保全について考究する上で大きな課題となるだろう。

  • 金原 蓮太朗, ダヴィン アドリアン・A, 渡部 裕介, 小金 渕佳江, 太田 博樹
    原稿種別: 口頭発表
    p. 31-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    The alcohol dehydrogenase (ADH) gene family is widespread throughout the animal kingdom and plays a crucial role in oxidizing different types of alcohol. In mammals, this gene family has undergone multiple duplications, resulting in a group of genes that can be classified into six classes. Class I ADH duplication is characteristic of primates and the enzyme can work not only as a homodimer but also as a heterodimer. Therefore, having more class I ADH genes possibly lead to forming variable dimers which contribute to a variety of kinds or concentration of alcohol oxidization. Some previous studies hypothesized that class I gene evolution might be related to the adaptation of fermented fruit eating because the genes mainly play a role in ethanol digestion in the human liver. Although such studies have shown that the copy number varied between primate species, there are very few studies showing the phylogenetic relationship of the duplicated genes that must give a good hint of adaptive evolution. We assessed the number of class I ADH genes in primates using blast+, constructed the phylogenetic tree, and translated the genes in silico to estimate the number of pseudogenes. Our results suggest that the phylogenetic topology was coincident with the previous reports in that genes formed a clade respectively in the infraorder level. Notably, we found that the gene loss occurred in langurs and pseudogenization occurred in tarsiers and red slender loris, suggesting that alcohol metabolization might not be as important for folivores and insectivores as it is for frugivores.

  • Xiaochan YAN, Yohey TERAI, Kanthi Arum WIDAYATI, Laurentia Henrieta ...
    p. 32
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    Coat coloration is one of greatest diverse phenotype in primates. The trait is often under selection because even small change in coloration can cause significant implication in camouflage, heat absorption, and communication. One notable form of coloration is melanism, which is a genetic trait that results in increased pigmentation and a darker coloration. Sulawesi macaques, seven endemic species located in Sulawesi Island, have rapidly speciated from the common ancestor and morphologically diversified. Distinct from other macaques, they exhibited distinct dark coat color but with difference in darkness and pattern between species. To understand the genetic mechanism of melanism variation, we firstly focus on both sequence and functional variation of MC1R, a gene regulating melanin synthesis and density. In total, we determined MC1R sequence of 46 saliva samples of five species of Sulawesi macaques, respectively. We found each species exhibited fixed amino acid substitutions. We further studied the cAMP induced ability of the MC1R in vitro. Each species MC1R exhibited specific functional performance, most of them have decreased MC1R basal activity but lead by different key residues, respectively. Further, we collected hair follicles from black and white body part of individual and determined RNA expression pattern. We found black samples has more similar expression pattern which are clustered in PCA analysis. While white samples showed large variation. Further analysis on expression pattern between black and white body part will promote the understanding of melanism variation.

  • Dongyue WANG, Yoshihito NIIMURA, Takafumi ISHIDA, Amanda D. MELIN, ...
    原稿種別: 口頭発表
    p. 32-33
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    The olfactory receptor (OR) gene family is the largest multigene family in vertebrate genome of which the composition would reflect taxon/species-specific sensory evolution. Genus Pan is the closest relative to humans. Study of their OR gene family composition enables identification of human-specific and Pan-specific changes as well as identification of genetic differentiation between closely related species: chimpanzee and bonobo. However, the public whole-genome sequence (WGS) of Pan species would not be as accurate as the human reference WGS. Thus, we applied the targeted capture (TC) for OR genes from a chimpanzee and a bonobo genomic DNA sample to achieve high-depth massive-parallel sequencing. We detected OR segregating pseudogenes with intact and disrupted alleles, which are not informed in many public WGS. Our TC-based approach successfully retrieved a larger number of functional OR genes than WGS databases. We identified taxon-specific and species-specific OR gene loss and gain among chimpanzee, bonobo and human. These differences would be the study target for evolutionary and functional analyses in the next step.

  • Raquel COSTA, Valeria ROMANO, Andre PEREIRA, Jordan D. A. Hart, An ...
    p. 33
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    Tourism can play a significant role in the conservation of mountain gorillas (Gorilla beringei beringei) by financing the protection of their habitat, but few systematic studies have focused on the impacts of tourist presence on gorilla behavior. We assessed stress-coping mechanisms (prosocial behaviors), behavioral indicators of stress (self-scratching), direct interactions with humans (agonistic, neutral and avoidance behaviors), and changes in social cohesion patterns (time spent with and number of individuals in close association), in the presence and absence of tourist groups visiting one group of mountain gorillas living in Bwindi Impenetrable National Park, Uganda. Generalized linear mixed models and social network analysis were used to analyse differences in gorilla behavior as a function of (a) presence vs. absence of tourists and (b) proximity to tourists (<3 m vs >3 m). Contrary to guidelines, tourists spent 60% of their viewing time within 3 m of the gorillas. During tourist visits, gorillas increased time spent in prosocial behavior and rates of self-scratching and human-directed behavior, increasing also social cohesion. When tourists approached gorillas within 3 m, prosocial behavior, human-directed behavior, and social cohesion increased, but only adult males increased self-scratching rates. We conclude that tourists are influencing gorilla behavior and we recommend following and enforcing the IUCN guidelines by keeping a minimum 7 m distance when viewing gorillas.

  • 貝ヶ石 優, 延原 利和, 延原 久美, 山田 一憲
    原稿種別: 口頭発表
    p. 33-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    ニホンザルは凝集性が高く安定的なメンバーシップを持つ集団を形成する。しかしそれらの集団では、時に1つの集団が複数の集団に分裂することがある。本研究では、淡路島に生息する餌付け集団(淡路島集団)で観察された、集団内で部分的な分裂が起きた事例を報告する。淡路島集団において、2022年11月に、集団内の複数個体が参加する激しい闘争が観察された。これ以降、本集団では互いに敵対的な2つの小集団が観察されるようになった。2022年12月(25日間)、2023年1月(16日間)および3月(15日間)に、小集団の構成、および小集団同士の出会い場面での交渉を記録した。観察は朝9時ごろから夕方5時ごろまで行い、餌場内で観察された成体を全て記録した。既に餌場内にサルがいる状況で、さらにサルがまとめて入場してきた際には、異なる小集団が入場したと定義し、先に餌場にいた個体の反応、小集団間での敵対的交渉の有無を記録した。異なる小集団の入場前後を別のセッションと定義し、個体名の記録はセッションごとに分けて行った。社会ネットワーク分析の結果、餌場での共在ネットワーク内に2つのコミュニティ(密接に関わる個体のクラスター)が検出された。一方、ネットワーク全体は2つに分断されておらず、個体間の間接的な繋がりは維持されていた。個体レベルでの分析から、どちらの小集団とも親和的な関係を持つ中立的な個体が多く存在し、それらの個体によって集団全体のまとまりが維持されていることが示唆された。小集団同士の出会い場面では、敵対的な小集団間では集団間闘争が観察されたのに対し、中立的な個体との出会いの際にはcoo callを含む親和的交渉が観察された。さらに共在ネットワークの構造は1月から3月にかけて高い類似度を示し、上記の状態が長期間にわたり安定的に維持されていることが示唆された。これらのことから、淡路島集団は、完全な集団分裂ではなく、集団内部分裂と呼べるような状態にあるのかもしれない。

  • 関澤 麻伊沙, 沓掛 展之
    原稿種別: 口頭発表
    p. 34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    霊長類のinfant handling(IH)では、IHの前にハンドラーが母親に毛づくろいをし、母親はハンドラーにアカンボウへの接触を許容するという、毛づくろいとアカンボウの交換が行われる場合がある。しかし、毛づくろいには周囲の警戒が疎かになる、自身の活動時間が減少するなどのコストも存在する。そのため、アカンボウが母親から離れている場合など、母親に毛づくろいを行う必要性のない場合、ハンドラーは母親に毛づくろいをせずにアカンボウに接触すると考えらえる。そこで本研究では、宮城県金華山に生息する野生ニホンザルA群を対象として、IHの前に行われる毛づくろいの役割について検証した。対象群を3年間観察し、観察期間中に生まれたアカンボウとその母親24組を対象に、誕生から12週齢まで約1000時間の行動データを収集・分析した。その結果、ハンドラーによるIHの前の毛づくろいは、母親とアカンボウが接触しているとき、およびハンドラーよりも母親の方が優位な場合によく行われていた。また、毛づくろいの時間は、血縁度が低いほど長くなっていた。これらの結果は、IHの前の毛づくろいはIHに必須ではないこと、ハンドラーがIHの前に母親に毛づくろいを行うかどうかは、アカンボウへの接触しやすさと、母親と自分との社会関係に依存してることを示している。

  • 中道 正之, 山田 一憲
    原稿種別: 口頭発表
    p. 34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    ニホンザルの木ゆすりは良く知られた行動だが、他のマカク属の種も含めて、季節変化や性差、音声の有無などを定量的に分析した研究はほとんど行われていない。本研究では、2年8カ月の期間にわたって(167日間、約687時間)、餌場近辺に滞在中の勝山餌付け集団(岡山県真庭市)において記録したオトナオスによる842回の木ゆすりとオトナメスの72回の木ゆすりを分析した。また、交尾期においてのみ記録したオスからメスへの279回の目立つ攻撃行動(音声を伴う、20m以上を追いかけるなど)も合わせて分析した。中心部オスは、交尾期だけでなく、非交尾期も木ゆすりを行ったが、音声を伴う木ゆすりは交尾期に多く、非交尾期では少なかった。他方、周辺部オスや集団外オスの木ゆすりは交尾期に集中し、しかも、音声を伴った木ゆすりの割合が中心部オスよりも有意に高かった。餌場入場時や滞在中よりも、餌まき・退場場面(勝山集団では、餌まき後に退場することが多い)では、期待値よりも有意に高い頻度で木ゆすりが生じた。交尾期の木ゆすりは集中的に行われる傾向があった。交尾期のオスからメスへの目立つ攻撃行動は、中心部オスが行い、周辺部オスではほとんど記録されなかった。尚、28歳の高齢αオスは木ゆすりを全く行わず、目立つ攻撃行動もわずかであった。メスの木ゆすりのほとんどは、αメスとその娘たちによって、非交尾期に行われ、音声を伴うことはほとんどなかった。以上の結果から、目立つ攻撃行動をメスに行うことが困難であった周辺部オス、集団外オスは、音声を伴う木ゆすりを行うことで、メスに自身の存在を知らせ、引き付ける木ゆすりの効果(広告効果)をより高めていたと思われる。他方、中心部オスはメスに対する目立つ攻撃行動が可能だったので、音声を伴う木ゆすりの割合が低くなったと思われる。非交尾期の木ゆすりは、中心部オス及びαメスとその娘たちがほぼ独占的に行っていた事実から、彼らの社会的優位性を誇示する機能が主に推測される。

  • 糸井川 壮大, 戸田 安香, 石丸 喜朗, 今井 啓雄
    原稿種別: 口頭発表
    p. 34-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    甘味は炭水化物の指標であり、ほとんどの霊長類が嗜好性を示す味質である。しかし、近年の研究で葉食性の狭鼻猿類であるコロブス類はスクロースなどの天然の糖類に対する嗜好性が低く、甘味受容体(T1R2/T1R3)の糖感受性が著しく低下していることが明らかになった。そこで、本研究では、この現象が葉を主食とする霊長類系統に共通する味覚特性なのかを明らかにするため、コロブス類と系統的に遠縁な曲鼻猿類の中から葉食を特徴としながらも属ごとに葉への依存度が様々なインドリ科(Propithecus属, Avahi属, Indri属)を対象として、甘味受容体の糖感受性を細胞アッセイによって分析した。受容体の機能評価には、スクロースなどの天然糖類に加えて、人工甘味料やDアミノ酸を使用した。その結果、果実-葉食性(Frugo-folivore)のPropithecus属ではヒトなどと同じようにスクロースや人工甘味料、Dアミノ酸に応答が見られた。一方で、若葉を主体とする高度な葉食性傾向をもつIndri属とAvahi属では、一部の人工甘味料には応答するものの、天然糖類やDアミノ酸には全く応答が見られなかった。この結果より、葉食性霊長類では、遠縁な系統間で平行的に甘味受容体の糖感受性低下が起こっていることが示唆された。また、属間で一部の受容体領域を入れ替えたキメラ体や種特異的なアミノ酸残基の変異体を用いて、糖感受性に寄与するアミノ酸残基を探索した。その結果、Indri属とAvahi属それぞれについて、糖感受性低下に寄与するアミノ酸残基を同定した。本発表では、これらの結果を基に糖感受性低下のメカニズムをコロブス類と比較するとともに、インドリ科における甘味受容体の機能進化を考察する。

  • 辻 大和, 福島 美智子
    原稿種別: 口頭発表
    p. 35
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    野生霊長類の採食戦略を考えるうえで、彼らの採食成功の定量化は重要である。これまで、エネルギー・タンパク質の摂取量や要求量とのバランスに関する知見が得られてきたのに対し、代謝機能や組織調整に重要と考えられる、微量元素の摂取量やミネラルバランスに関する情報は不足している。2004年6月から2005年5月にかけて、宮城県金華山島で野生ニホンザル(Macaca fuscata)の行動観察を行い、採食量を記録した。あわせてサルが採食した品目(n = 54)を集め、乾燥粉砕した試料に京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉(KUR)を利用して中性子を照射し、生成した放射性核種から放出される放射線測定により(中性子放射化分析)、17元素の濃度推定を行った。このうち7元素について、要求量(NRC, 2003を参照)との比較に基づいてミネラルバランスを評価したところ、Cuは春に、ZnとMnの2種は春と夏に、IとCaの2種は夏に、摂取量が要求量を上回ることがわかった。いっぽうFeの摂取量は要求量を常に上回り、逆にSeの摂取量は要求量を常に下回っていた。本研究により、1)微量元素の摂取量の季節変化のパターンはエネルギーやタンパク質のそれとは異なり、かつ元素間でも異なること、2)微量元素摂取に貢献する食物品目はエネルギーやタンパク源と必ずしも一致しないこと(例:Zn, Fe, Mnの摂取に葉草本類が大きく貢献していた)が明らかとなった。

  • 中川 尚史
    原稿種別: 口頭発表
    p. 35-36
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    パタスモンキー(パタス)は、熱帯閉鎖林とサハラ砂漠に挟まれたサヘルサバンナ、スーダンサバンナ、ギニアサバンナに広く分布している。これまでその採食生態について詳細な調査が行われたのは、カメルーン・カラマルエとケニア・ライキピアにおいてであり、いずれもアカシア(マメ科ネムノキ亜科)が優占するサヘルサバンナであった。そして、前者ではAcacia sieberianaA. seyalの、後者ではA. drepanolobiumのガムに加え、前者ではバッタなど、後者ではアカシア共生アリなどを中心とした昆虫を主食にしていた(Isbell, 1998; Nakagawa, 2000)。体の大きいパタスがガムや昆虫という小さく分散した食物に依存できるのは、長肢化に伴う効率の良い移動能力の産物であるとされている(Isbell et al, 1998; Nakagawa, 2003)。乾季中期にあたる2022年12月~23年1月にかけて、マメ科ジャケツイバラ亜科が優占するギニアサバンナ帯に位置するガーナ・モレ国立公園に生息するパタスMotel群を対象に食性調査を行った。群れの0歳2頭、1歳4頭、2歳2頭を、原則1時間個体追跡し、各個体の1日のうちの時間帯毎の追跡時間、総追跡時間が同じになるように個体を変えた。行動を連続記録し、採食中はその品目を記録した。その結果、準優占種であるAnogeissus leioarpaCombretum fragransなどのシクシン科の樹種のガムに加え、バッタなどの昆虫を主食としていることが分かった。よって、ギニアサバンナにおいても、食物種は変えながらも長肢を生かした食性を堅持していることが明らかとなった。

  • 大橋 岳
    原稿種別: 口頭発表
    p. 36
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    今回の発表では、ギニア共和国ボッソウにおいて野生チンパンジーの採食品目として記録のないものをリベリア共和国パラのチンパンジーが食べた例を報告する。ボッソウのチンパンジーは国境を越えて遊動することも確認されていることから、リベリアへも広域にチンパンジーの調査を展開しており、とくに2012年以降、ボッソウから58kmほど離れたパラを拠点に調査を実施してきた。パラのチンパンジーはボッソウほど人付けできていないものの直接観察もすこしずつ可能になってきており、踏み跡をたどることで、採食品目を確認できるようになってきた。そのようななか、ボッソウでは複数回捕まえたものの肉として消費されなかったニシキノボリハイラックスを、パラのチンパンジー複数個体が食べる様子を2020年2月に記録し、2023年2月にも、食べた後に地面に残された足先や内臓を確認した。2022年8月にはパイナップルの葉の付け根の食痕、2023年3月には籐の葉の付け根部分の食痕を確認した。いずれもボッソウに存在する種だが、ボッソウでは同じ種の同じ部位を食べたという記録はない。植物のように、チンパンジーにとって比較的日常的に接する種であっても、それを食べ物とみなすかどうかという点は、生まれながらにして同じというわけではないようだ。グループ内の他個体から社会的に影響を受けて、食物の知識を獲得している可能性があり、所属している集団の違いが、食物品目の違いに現れているのかもしれない。

  • 田村 大也, アコモ-オコエ エチエンヌ・フランソワ
    原稿種別: 口頭発表
    p. 36-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    通文化的なヒトの特徴の1つである集団レベルの右利きは、言語との進化的関連性が古くから主張されてきた。しかし、言語を持たないヒト以外の動物にも利き手のような現象があることから、利き手の進化を巡る議論は現在も続いている。非ヒト霊長類を対象とした研究領域では、野生下の情報が極めて少なく、数少ない研究間でも行動指標が異なるため、種間だけでなく種内でさえ直接比較が困難であるという課題がある。本研究では、ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)を対象に、アフリカショウガ(Zingiberaceae: 以下、ショウガ)の採食行動において使う手に左右性があるかどうかを検討した。この採食行動では、片手で茎を握り地面からショウガを引き抜く「片手操作」と、引き抜いたショウガを両手で持ち、片方の手指を細かく動かして髄を取り出す「両手操作」の2つの操作が行われる。21頭を対象に4293例の採食を観察し、各操作を左右どちらの手で行ったかを記録した。その結果、片手操作では13頭は右手、3頭は左手を使うことが有意に多かったが、5頭は引き抜く手に偏りはなかった。一方、両手操作では15頭は右手、6頭は左手を使って細かい動作を行い、全個体で有意な偏りが見られた。使う手の偏りは片手操作より両手操作の方が顕著に強かった。さらに、両手操作では集団レベルで右手を使う個体数が有意に多かった。本研究では、より複雑な操作で個体レベルの左右性が現れやすいという、従来の知見と一致する結果が得られた。さらに、ヒト特有とされてきた集団レベルの右利きは言語の獲得以前の、両手協調操作に進化的基盤ある可能性が示唆された。ショウガ採食行動はアフリカ大型類人猿の複数の調査地で記録されているため、同じ行動を対象とした左右性発現の種内・種間比較を可能とし、利き手の進化的起源を理解するうえで重要な行動指標になることが期待される。

  • -オランウータンのオスにおけるフランジ発達中のホルモン動態
    田島 知之, 義村 弘仁, 黒鳥 英俊, 木下 こづえ
    原稿種別: 口頭発表
    p. 37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    【序論】霊長類の中でも性的二型が顕著であるオランウータンでは、オスの顔に大きく出っ張った頬ひだ(フランジ)が発達する。先行研究からフランジ発達中のオスでいくつかの種類の尿中ホルモンレベルが大きく上昇することがわかっている。しかしいずれも横断研究であったことから、同じ個体の発達を継続して追った縦断的な研究例はこれまでなかった。【方法】本研究では国内3ヶ所の動物園による協力のもと、スマトラオランウータンのオス1個体(11歳から13歳)とボルネオオランウータンのオス1個体(12歳から19歳)を対象として、顔形態の変化とホルモン濃度動態を調べた。正面から撮影された写真をもとに顔形態の相対比率を測定し、フランジサイズの変化を評価した。また定期的に採取した尿中のテストステロン、コルチゾール、成長ホルモンの濃度を酵素免疫測定法により測定した。加えて尿中クレアチニン濃度と尿比重を測定してホルモン濃度補正と除脂肪体重の推定に用いた。【結果・考察】フランジ発達開始年齢は個体間で異なり、これには父親や他のフランジオスから離れた時期の違いが影響した可能性があった。テストステロンとコルチゾールはフランジ発達開始時期に大きく上昇を見せたものの、その後の発達期間中に安定せず変動を示した。推定除脂肪体重がフランジ発達の変化点直前から上昇したため、フランジとともに体重の増加も起きていると考えられる。しかし筋肉や骨の成長を促す成長ホルモンはフランジがある程度成長した段階から遅れて上昇したため、フランジの発達が優先されている可能性が考えられる。2個体による結果ではあるものの、本研究の成果はオランウータンのオスの繁殖戦略にとって重要なフランジという二次性徴が筋骨格に先んじて発達する可能性を示唆するものである。また従来、野生下でも指摘されてきたように社会的状況の変化がフランジ発達のトリガーとなっている可能性を示すものである。

  • 徳山 奈帆子, 坂巻 哲也
    原稿種別: 口頭発表
    p. 37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    集団性霊長類の多くには社会的順位が存在し、高順位個体は低順位個体よりも集団生活の利益をより多く享受することができる。個体の順位決定は長期間にわたる攻撃交渉の結果であることもあれば、一度の激しい闘争により大きな順位の変動が起こることもある。ボノボのオス同士の直接的な順位争いはチンパンジーに比べると穏やかであり、オスが高い順位を獲得するためには母親のサポートが重要であることが知られている。本発表では、メスたちの激しい攻撃によりαオスが一時的に「群れ落ち」し、急激なオス間順位変動が起こった事例を報告する。2012年から2015年3月まで、PE集団の最高齢メスBkの息子であるSNがαオスであった。2015年3月5日、発情したメスの近くでSNが攻撃的ディスプレイを行ったことをきっかけに、Bkを含む4頭のメスがSNを激しく攻撃した。SNはメスたちに噛みつかれて激しい悲鳴を上げて逃げ去り、その後19日間姿を見せなかった。集団に戻ったSNは、それまで第二位、第三位だったオスに対してグリメイスなどの劣位的行動を取るようになり、交尾頻度が大きく低下した。その後SNはαオスとして「復権」することはなく、2019年3月、母親と共に姿を消した。本事例からは、ボノボのオスにとっては母親だけでなく集団内のメスたちとの関係性も順位の獲得と維持に重要であることが示唆される。

  • 島田 将喜, 矢野 航
    原稿種別: 口頭発表
    p. 37-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    マハレ山塊国立公園に生息する野生チンパンジー(Pan troglodytes)M集団のVolta(VO)と名付けられたコドモオスが樹上約7mから墜落し、一時的に正常な行動がとれない状態に陥った。VOは墜落により重度の脳震盪および鼻腔内鼻骨骨折を患ったと推定された。VOは墜落直後の10分程度は意識障害の状態だったものの徐々に回復してゆくプロセスにあったと推測された。近接個体がVOに対して向けた行動を記録し、意識を失ったcollapsed個体や死後間もない死体に対する周囲の個体の行動に関する過去の報告と比較した。当日観察された26個体中14個体がVOに近接し、中でもオトナオスが多く長く近接した。近接個体によるVOの近傍での行動は、滞在、覗き込み、接触、臭いを嗅ぎ、毛づくろいといった配慮行動だけでなく、乱暴な扱い、ディスプレイといった攻撃的な行動も見られ、全体として意識を失った個体や死体に対する行動と類似していた。一方、それらに対する行動として報告されてこなかった「VOの血液を舐める」行動が複数個体から観察された。チンパンジーたちはVOに近接しさまざまな行動を向け、VOの反応を見ることで、容体が回復途上にあると推論できたと考えられる。しかしパントグラントの発声ができないなど、VOは依然としてアニマシー消失がみられた。オトナオスたちが長時間VOを毛づくろいしたり、VOの移動を待ったりしたのは、依然異常な状態のコドモオスに対するオトナオスたちの寛容性や配慮を示唆している。

  • WEISS Alexander , HOBAITER Catherine , ZUBERBÜHLER Klaus
    p. 38
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    Studies of captive chimpanzees have revealed six latent variables (factors) account for individual variation in large numbers of traits. These factors include Dominance, and five further factors—Extraversion, Conscientiousness, Agreeableness, Neuroticism, and Openness—that resemble personality factors found in human societies. A study of personality among chimpanzees who lived or were living in Gombe National Park, Tanzania, however, did not find these factors. One possible explanation for this finding was that, by necessity, a brief version of the Hominoid Personality Questionnaire was used. The present study tested this possibility in 40 chimpanzees in Budongo Park, Uganda. These chimpanzees belonged to either the Sonso or Waibira community. Seven field workers and researchers provided ratings using the Hominoid Personality Questionnaire (HPQ) such that each chimpanzee was rated by an average of 3.875 raters. A total of 46 of the 54 items showed evidence of interrater reliability. We used a regularized exploratory factor analysis to extract factors from 39 items (the maximum possible for the sample size). These factors were identifiable as those found in other studies of chimpanzees. These preliminary findings are consistent with studies that suggest that the six personality factors identified in captive samples are variants of the essential traits of chimpanzees.

  • 佐野 利恵, 福田 治紀, 窪理 英子, 小湊 慶彦, 大石 高生, 宮部 貴子, 兼子 明久
    原稿種別: 口頭発表
    p. 38-39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    【目的】ヒト赤血球のABO遺伝子発現には第1イントロンの血球細胞エンハンサー+5.8-kb siteが関与し、その大半をLTRが占める。これをふまえ、赤血球上のABO式血液型抗原発現量が霊長類の種類により異なる機序を検討した。【方法】チンパンジー、アジルテナガザル、ニホンザルの唾液中の血液型物質検査及び通常の血液型検査(オモテ・ウラ)を行った。血液DNAを用いて、第1イントロン内の+5.8-kb siteを含む領域の3種の霊長類における配列をヒトと比較し、ABOプロモーターの上流に挿入したレポーターベクターを作製し、K562細胞を用いたレポーターアッセイを行った。【結果】ニホンザルの赤血球は、ヒト上科のチンパンジーおよびアジルテナガザルと比し血液型物質量が顕著に少ないと考えらられた。ゲノム解析では、チンパンジーおよびアジルテナガザルにおいては+5.8-kb siteの主要なシスエレメントである転写因子認識配列が保存されているが、ニホンザルにおいては保存されていなかった。レポーターアッセイではチンパンジーおよびアジルテナガザルの配列はABOプロモーターの転写を活性化したが、ニホンザルは転写を活性化しなかった。【考察】赤血球上の血液型抗原の出現は、霊長類の進化におけるヒト上科の分化に伴うLTRの挿入に基づくエンハンサー活性の獲得によると考えられた。

  • 早川 卓志, 金綱 航平, 飯島 なつみ
    原稿種別: 口頭発表
    p. 39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    小型霊長類の特徴的な食性として樹液食がある。スローロリス類やマーモセット類は、下顎の切歯が特殊化し、樹皮に穴をあけるガウジング行動をおこなう。ガウジング後、しばらくすると出てくる滲出液(樹液)を摂取する。季節によっては採食割合の大部分を占めることから、相当の栄養を樹液に依存している。樹液の主成分は糖タンパクからなる水溶性食物繊維であり、その消化には腸内共生微生物が機能的に貢献しているこうした機能の総体を腸内マイクロバイオームと呼ぶ。一方で飼育下では、野生のような多様な樹種に由来する量的にも豊富な樹液を給餌することは難しい。また飼育効果と呼ばれる様々な要因で、腸内マイクロバイオームは野生のそれと劇的に変化してしまう。本研究では、アラビアガムを毎日給餌している飼育スンダスローロリスを対象に、野生由来、F1世代、F2世代において、アラビアガムの選好性と、腸内マイクロバイオームを比較した。その結果、F2世代では選好性が低下し、プレボテラ科細菌の豊富度が有意に減少していた。このことは、飼育下での世代交代に、樹液選好性の変化と腸内細菌の減少が連関することを意味している。腸内マイクロバイオームごといかに次世代に引き継がせていくかも、今後の希少動物の飼育・繁殖における課題である。

  • 橘 裕司
    原稿種別: 口頭発表
    p. 39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    サル類における腸管寄生アメーバの感染状況を明らかにすることは、サルの健康だけでなく、人獣共通感染症対策の観点からも重要である。Entamoeba nuttalliはマカク類を固有宿主とし、赤痢アメーバに最も近縁な腸管寄生アメーバである。ニホンザルにおいても、これまでに飼育下の個体からE. nuttalliを分離しているが、野生のニホンザルにおける腸管寄生アメーバの感染実態は十分に解明されていなかった。演者らは、これまでに青森県脇野沢の北限のニホンザルから鹿児島県屋久島のヤクシマザルまで、国内20カ所以上の地域に分布するサル群について糞便を採取し、各種腸管寄生アメーバの感染状況をPCR法によって調べた。また、E. nuttalliを分離培養し、遺伝子型の比較解析を行った。腸管寄生アメーバのなかでは、E. chattoniの寄生率が最も高く、全ての地域のサルから検出された。次いで、大腸アメーバが広範囲に検出された。一方、E. disparの感染はまれであり、赤痢アメーバやE. moshkovskiiは全く検出されなかった。E. nuttalliは本州に分布する野生ニホンザルからのみ検出され、四国や九州の野生ザルからは検出されなかった。また、遺伝子型解析では、ニホンザル由来のE. nuttalliはアカゲザル由来のE. nuttalliよりも多様性が大きいことが明らかになった。(共同研究者・研究協力者:小林正規、柳哲雄、松岡史朗、辻大和、大井徹、赤座久明、鈴村崇文、川本芳、岡本宗裕、平井啓久、松林清明他)

  • 郷 康広, 野口 京子, 臼井 千夏, 辰本 将司
    原稿種別: 口頭発表
    p. 39-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    「ヒトとは何か」という問いに答えるためには、ヒトだけを研究対象とするのではなく、ヒト以外の生物(アウトグループ)から見た視点も必要不可欠である。そこで、本研究では、ヒトをヒトたらしめている最も大きな特徴である脳の進化を「ヒトとは何か」という問いに迫る切り口とする。ヒトとヒトに最も近縁なチンパンジーを含めた類人猿を対象とし、ゲノムという設計図がそれぞれの脳という場においてどのように時空間的に制御され、種の固有性・特殊性となって現れるのか、それを1細胞が持つ分子情報を可能な限り網羅し比較解析することで、「ヒトとは何か」という問いを明らかにすることを目的とした。昨年度までに短鎖型シーケンサーを用いてヒト(2検体)、チンパンジー(1個体)、ゴリラ(1個体)の前頭前野から得られた約3万細胞のデータを解析した結果、ヒトを含め種特異的な細胞集団を見出しつつある。それらのデータに加えて今年度は長鎖型シーケンサーを用いた完全長1細胞遺伝子発現解析(Full-length single-nucleus Iso-Seq)を同じヒト・類人猿サンプルに対して行った。本発表では、それら2つの異なるデータセットの統合解析の結果見えてくる種特異的な細胞集団の特性を明らかにしつつ、1細胞統合解析から見えてくる「ヒトらしさ」の脳神経基盤に関して考察を行う。

  • 西村 剛, 徳田 功, 吉谷 友紀, 新宅 勇太, Herbst Christian T.
    原稿種別: 口頭発表
    p. 40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    テナガザル類は、大きな澄んだ音声で朗々と歌う「ソング」とよばれる音声行動で有名である。サル類は、ヒトと異なり声帯に加えて声帯膜を有し、後者の振動で発声する。テナガザル類も声帯膜を有しているが、それは声帯に対して側面に離れ、他のサル類のように近接してない。本研究では、日本モンキーセンターで死亡したテナガザル2体から摘出した喉頭の新鮮試料を用いて、それに気流を与えて声帯振動を起こす吹鳴実験を行い、その振動特性を、ハイスピードカメラや声門電図(EGG)等により解析した。テナガザルの発声は、声帯振動を主として、声帯膜の振動はほとんど影響を与えていないことを示した。また、テナガザルのソングでは、ヒトでいうところの地声の振動モードからファルセットのものにシフトするが、それは、ヒト同様に、もっぱら声帯形状の変化により、周波数構成を変化させることで達成されることを示した。テナガザル類は、他のサル類にみられる単音による音声コミュニケーションではなく、連続的に発せられる音声のつながり全体にコミュニケーション上に大きな意味がある。本研究の結果は、テナガザルでは、ヒトのように声帯膜を喪失することでなく、その解剖学的位置を変えることによって、安定的かつ可変的な発声を実現する進化を遂げたことを示唆する。本研究は、科研費(#19H01002、23H03424)の支援を受けた。

  • 矢野 航, 島田 将喜
    原稿種別: 口頭発表
    p. 40-41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

     ニホンザル(Macaca fuscata)は南北に長い列島に広く分布する固有種であり、1種の中で亜熱帯から亜寒帯までの気候変異に適応して、頭蓋顔面部に様々な形態的変異を持つことが知られている。とくに島嶼個体群は個体数の少なさと環境変動の大きさから進化圧が強くかかる。これまでの頭蓋骨研究から、宮城県石巻沖の金華山の個体群には鼻部骨格に強い矮小化が見られていたが、外呼吸器の入り口として重要な機能を持つのは外鼻のうち軟骨および皮膚の形態であることから、進化的適応を議論する上で生体の体表面観察が欠かせない。そこで本研究では亜寒帯の個体群(金華山A群、B1群、D群)と温帯の個体群(嵐山E群)の外鼻サイズを野外で撮影された正面からの写真に基づき比較した。野外撮影写真の場合、カメラに対して角度のある方向を向いていることが多い。そこで本研究では鼻幅、鼻高を同じ傾きを持つ顔面幅、顔面高でそれぞれ標準化し、外鼻の相対サイズを求めた。その結果、金華山個体群は骨格形態と同様の強い外鼻部の矮小化が起こっていることが分かった。これまでの先行研究と合わせて、島嶼化による体サイズの矮小化とベルグマン則による体サイズの大型化が重なり、結果的に全体的には弱い矮小化が起こるとともに、鼻部のような末端部位はアレン則で説明されるような強い矮小化を受け、局所的に小さい鼻部を持つことで放熱を抑えて、寒冷地適応としての体温保持を行っていると考えられる。

  • 森光 由樹
    原稿種別: 口頭発表
    p. 41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    ニホンザルの分布は、連続分布している地域、モザイク状に分布している地域、連続分布から著しく孤立している地域と様々である。特に孤立している地域個体群は、遺伝的多様性の消失が危惧される。ニホンザルの遺伝的多様性を保全するためには、地域個体群間でのオスの移動が重要である。しかし、ニホンザルのオスの分散や移動を定量化した先行研究はほとんど認められていない。そこで、GPS発信機とVHF発信機を用いてオスの移動距離および群れから離脱する季節について分析を行った。兵庫県内の地域個体群、美方(n=9)、城崎(n=7)、篠山(n=2)大河内・生野(n=11)、船越山(n=5)のオス亜成獣(4.5-5歳)計34頭に発信機を装着し約3年間、追跡した。分析に用いたデータは、2012年から2022年までに発信機を装着した個体である。また、分析では他府県で発信機装着したおす個体が兵庫県内で確認された個体についてもでーたに加えた。電波発信機装着個体は血液を採取し、ミトコンドリアDNA第2可変領域412bpの塩基配列を分析し出生群を離脱していない個体であることを確認した。すべての個体が群れを離れ、他の地域個体群(群れ)に移動していた。距離は直線で最大102.3km、最小3.7km、平均24.5±15.7kmであった。全ての個体が5月〜6月に群れから離れ移動し交尾期の9月に群れに接近または加入していた。今後は、移動ルートの詳細についてGISを用いて景観地理との関係について解析する予定である。絶滅地域個体群の保全単位を考える上で、オスの移動頻度や移動距離が今後キーワードになると考えられた。

  • 花村 俊吉, 原 竜也, 藤本 正明
    原稿種別: 口頭発表
    p. 41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    無人島・大水無瀬島(約0.7km2)には、1987年の放獣以降、ニホンザル(以下、サル)が生息している。前年度の本学会大会において、サルの来歴や島の歴史を紹介した。続報である本発表では、1)人と遭遇した際のサルの態度、2)自動撮影カメラを用いて推定しうる社会構造に焦点を当てる。1)については、地元の方々から聞いた遭遇談と、山口県東部海域にエコツーリズムを推進する会(以下、東部エコツー)が上陸した際の藤本による記録(2012〜23年)、カラスバトの個人調査のため上陸した原の記録(2013年)、サルの追跡と観察を試みた花村の記録(2022〜23年)を用いる。少なくとも2010年代前半までは、船釣り中の人がサルにみかんを与えたり上陸した釣り人がサルに弁当を取られたりしており、場合によってはサルが上陸者を取り囲んで威嚇してくることもあった。2012年以降、東部エコツーが毎年1〜7回上陸し、とくにサルを捜索したりはせずに島の内部まで踏査してきたこと、サルに食物を一切与えなかったことにより、サルは上陸者を避けたり姿を現さずに威嚇したりするようになった可能性がある。ただし、一日中サルを捜索したり連日で上陸したりした場合、人が休んでいるとコドモやワカモノが様子見に接近してくることもある(追跡を試みると逃げる)。また、船で近づくだけか上陸するかや、上陸者の人数・行動に応じて、サルの態度は大きく異なるようだ。あまり人慣れの進んでいないサルと人の相互行為について改めて考えてみたい。2)島の尾根沿いの獣道と島の対角線上に位置する2つの浜に計3台設置した自動撮影カメラによって、2022年4月から約1年間で数千枚の画像が記録できた。本抄録執筆時の直前に直近4ヶ月分の記録を回収したばかりであり具体的な結果は発表当日に紹介するが、個体識別を試みてサルの群れの数やサイズ、性年齢構成を推定するとともに、行列の記録やクーコールの発声個体とその文脈から社会構造についても考察をくわえたい。

  • 豊田 有, ゴンカルヴェス アンドレ, 丸橋 珠樹, Malaivijitnond Suchinda , 松田 一希
    原稿種別: 口頭発表
    p. 42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    動物にとって、個体の「死」は避けることができない現象である。霊長類における死生学(thanatology)は、個体が仲間の死に直面した時に、どう振る舞い、どのような影響を受け、それとどう向き合うのかを調べる学問であり、近年注目されている研究領域のひとつである。発表者が2015年から観察を実施しているタイ王国の野生ベニガオザルの調査地では、サルの死体が発見された際には、可能な限り死体に対する他個体の反応を記録し、データの蓄積をおこなってきた。これまでは死児運搬や死体への毛づくろい行動が主な記録事例であったが、2023年の観察期間中には、死体との交尾行動が観察された。類人猿における観察でも記録がない「死体との交尾行動」が記録されたことを踏まえ、本発表ではその詳細を報告するとともに、過去の観察事例もまとめながら、ベニガオザルにおける死生観を考察する。

  • 松田 一希, BÖSCH Janique , MCGROSKY Amanda , TUUGA Augustine , TANGAH Jose ...
    原稿種別: 口頭発表
    p. 42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    昼行性霊長類にとって夜間は、ただ眠るだけの採食や社会行動に有効活用できない時間だと考えられてきた。しかし、夜間にも消化活動は続けられており、より捕食の危機に曝され易いのも夜間である。時間をどう利用するかは、野生動物の活動の重要な制限要因であり、生涯の半分を過ごす泊まり場での時間を有効に利用することは、動物の適応度に大きく影響する。テングザルは葉食に特化し、前胃発酵消化を行う。そのため、消化に要する長い時間は活動制限要因であり、夜間はその消化のための有効な時間だと考えられる。本種では、低頻度だが霊長類初の反芻行動が報告されている。本行動の大半は早朝に観察されており、むしろ夜間に本行動を頻発し、消化効率を高めているかもしれない。そこで、テングザルで観察される反芻行動の適応的意義を探るため、夜間の行動観察を実施した。マレーシア・サバ州キナバタンガン川下流域の野生テングザルを対象に、35夜、計251時間の行動を赤外線ビデオで記録・分析した。その結果、テングザルは夜間に頻繁に起きており、夜間に観察した時間の約3分の1(27.4±24.6%)しか眠っていなかった。一方で、予想に反して、反芻行動は昼間の観察時よりも頻繁に生じているようには見えず、夜間の活動時間に占める割合もわずかであった。夜間に「頻繁に起きる」という適応戦略を、消化や捕食者回避の観点から議論する。

  • Lorraine SUBIAS, Noriko KATSU, Kazunori YAMADA
    p. 42-43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    We investigated whether Japanese macaques possess metacognitive abilities by conducting experiments from 2021 to 2022 on a group of ten free-ranging macaques inhabiting Awaji Island. The macaques were tested on a task where they had to find food hidden in one of four tubes. We observed whether they would look inside the tubes before making a choice when they did not know which tube contained food. We also varied the cost of looking and the quality of the food reward. Our findings revealed that most of the macaques looked inside the tubes more frequently when they did not know the food's location. Some macaques tended to reduce their looks when the cost of looking was high, but only when they already knew where the food was. When a high-quality reward was at stake, a few macaques tended to look inside the tubes more frequently, even when they already knew the food’s location. These results suggest that Japanese macaques adjust their information-seeking behavior based on their level of knowledge, the cost associated with seeking information, and the potential value of the reward.

ポスター発表
  • 吉川 翠, Bhumpakphan Naris , Sutummawong Nantida , 小川 秀司, Chalise Mukesh ...
    原稿種別: ポスター発表
    p. 43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類を理解するには彼らの樹上生活への適応戦略を生態や形態面から研究することが重要となる。だが、樹上性の程度は種や生息環境によって様々であり、比較できる基礎的データが必須である。そこでアッサムモンキー(Macaca assamensis)が樹上にいる割合を2ヶ所の調査地で調べた。タイ北部ピサヌロークのTham Pha Tha Phon (TPTP) Non-Hunting area(北緯16°30’、東経100°39’、標高54m)では2023年に10頭からなるAO群のヒガシアッサムモンキー(M. a. assamensis)を対象に、ネパール中央部カトマンズのShivapuri Nagarjun National Park(SNNP)(北緯27°44’、東経85°17’、標高1,300m)では2014年に52頭からなるAA群のニシアッサムモンキー(M. a. pelops)を対象に、15分間隔のスキャンサンプリングを行って発見個体の性年齢、活動、樹上にいたか地上にいたかを記録した。その結果、ヒガシアッサムモンキーが樹上にいた割合[(樹上にいた回数)/(樹上にいた回数+地上にいた回数)×100]は85.6%であり、ニシアッサムモンキーが樹上にいた割合は70.8%だった。両地域とも、人々が放置するなどした地上の食物を食べることがあったにも拘らず、マカク属の他種と比べて、アッサムモンキーは高い樹上性を示した。樹上にいた割合は、ヒガシアッサムモンキーではオスが81.1%でメスが84.0%、ニシアッサムモンキーではオスが76.6%でメスが67.6%であり、両地域ともオスメス間に有意な差はなかった。霊長類の樹上性には捕食圧、食物資源の分布、他群を見張る必要性等が影響している可能性がある。SNNPではヒョウ(Panthera pardus)の生息が、高い樹上性に影響していると思われる。しかし、同地域に生息するアカゲザル(M. mulatta)の樹上性は高くないので、生息地の捕食圧だけではアッサムモンキーの高い樹上性は説明しきれない。アッサムモンキーがどのような環境で進化してきたのかを解明することが重要であろう。

  • 半沢 真帆, 森光 由樹
    原稿種別: ポスター発表
    p. 43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類を対象として、群内のほとんどの成体個体にGPS発信機を装着し、個体の速度や他個体との距離の経時的変化に着目した研究は、一部の複雄群を形成する種に限られ、単雄群では未だ皆無である。また、単雄群ではハレム雄が群れを先導している可能性もあるが、前述の手法を用いて、雌雄間の距離の調整における性差を検証した研究はない。本研究は、ガーナ・モレ国立公園において、2022年12月から23年3月の間、一群のパタスモンキーのハレムオス(オス)とオトナメス(メス)4頭にGPSを装着し、複数個体の遊動を同時モニタリングした。個体の位置情報は、7時から17時の間10分間隔で収集した。その結果、個体間距離については、オスメス間とメス同士で比較すると、前者の方が長いことが分かった。また、オスメス間の個体間距離と移動速度について、10分ごとの変化を見ると、メスはオスと離れた時にその後の速度はあまり上がらないが、オスはメスと離れると、その後速度が上がる傾向が見られた。オスの速度が上がると、メスとの距離は縮まるのか検証するため、オスの移動速度とその10分後のメスとの距離を算出した。その結果、予想と一致していた一方で、メスとの距離がより離れるというもう一つの傾向が認められた。よって、オスの方がメスとの距離を意識しており、メスと離れると急いで近づくか、何か他の要因によってさらに離れるという特性があることが分かった。また、この特性から、オスが群れを先導している訳ではないことが示唆された。

  • 海老原 寛, 岩田 祐, 箕浦 千咲
    原稿種別: ポスター発表
    p. 43-44
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    群れることのメリットには、採食物の確保、繁殖効率の向上、外敵からの防衛などがある。実際ニホンザル自然群における集団のまとまりは、採食や移動などの行動、季節、採食物の分布により影響を受けることが知られている。一方、加害群においては、農地という採食物が集中して分布する特殊な環境があるだけでなく、外敵である人間との干渉もある。このため、加害群における集団のまとまりには、自然群と異なる影響があると考えられる。そこで本研究では、集団のまとまりをある程度反映すると想定される個体間距離について、どのような要因が影響を与えているか検討することとした。京都府京丹後市に生息する加害群の2~3個体にGPS首輪を装着した。測位時刻は6時、11時、16時、21時に設定した。同群に所属する2個体が同時に測位に成功したデータを抽出し、測位点間の直線距離を計算した。個体間距離の中央値は、春(3~5月)から秋(9~11月)に向かって長くなり、冬(12~2月)に短くなる傾向がある群れがあった一方、季節によってあまり変化しない群れもあった。夏(6~8月)には個体間距離が異常に長くなった群れがあり(最大4065.6m)、分派していることが示唆された。個体間距離が秋に長くなる群れは、秋に植林の利用割合が高くなっていた。また冬には、農地や住宅地の利用割合が高くなっていた。一方、個体間距離の季節変化があまりない群れは、どの季節も農地や住宅地の利用割合が比較的高かった。また2個体とも開放地にいたとき、2個体とも森林内にいたとき、2個体が開放地-森林内に分かれていたときの順で、個体間距離が長くなった。自然群を調査した先行研究とは異なる結果が散見されたが、これらは森林内と農地との採食物の分布や開放地での危険度などの里山的環境が個体間距離に影響を与えていると考えられる。

  • Boyun LEE, Takeshi FURUICHI
    p. 44
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    While infant handling has been reported in primate species, little has been reported about the infants’ reactions to handling. Here, we present a field study of infant handling and infants’ reactions after being handled in Japanese macaques in Yakushima (Macaca fuscata yakui). We tracked 12 infants born in a large macaque group for a year after the birth of each infant and continuously recorded the time and type of infant handling and the infant’s reaction. We found that infants showed certain patterns in their reactions to handling they were targeted for: infants showed quicker reactions to certain types of handling. Some types of the reaction occurred soon after handling, while others occurred more slowly. Long-lasting handling sometimes made infants squeak, even if it was not rough. We also found that vocal responses were the most effective in attracting mothers’ attention. These findings indicate that infants’ behaviors toward handling may have different meanings; infants may express their own conditions that vary depending on the different handling situations they are involved in. As an attempt to highlight infants’ autonomy, this study suggests paying attention to infants even in infant-directed behaviors.

  • 橋戸 南美, 土田 さやか, 伊藤 響生, 本田 剛章, 新宅 勇太, 半谷 吾郎, 牛田 一成
    原稿種別: ポスター発表
    p. 44-45
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    食資源が限られた地域に生息する野生動物は、他の地域では採食しないような二次代謝物質や難消化性物質を多く含む食物を採食することがある。屋久島の標高1700m以上のササ原に生息するニホンザルは、夏の間ササの一種であるヤクシマヤダケ(Pseudosasa owatarii)のタケノコ、新芽のみを食べている。ササ類に近縁なタケ類は有毒な青酸配糖体や繊維質を多く含み、ヤクシマヤダケもこれらを多く含むことが推測される。本研究では、他地域には見られない特徴的な食性を示す屋久島山頂部のニホンザルの腸内細菌を調べ、これらの食性を可能にする腸内細菌の機能特性を解明することを目的とした。屋久島山頂部、低地部、モンキーセンター飼育の3地域のニホンザルの新鮮糞を採取し、青酸配糖体含有培地を用いた培養後のシアン発生量分析・集積培養からの細菌分離、分離菌の糖分解性試験を行った。山頂部個体糞便の培養後のシアン発生量は、低地部および飼育個体よりも低く、シアン発生が抑えられていた。また集積培養で3地域由来個体すべてから分離されたLimosilactobacillus mucosaeの糖分解性を比較したところ、野生由来株は飼育由来株に比べて多種類の糖を分解し、特に山頂部由来株ではトレハロースやセロビオースに対する高い分解性を示した。これらの機能特性が山頂部のササ食に関連していることが示唆された。現在行っている腸内細菌叢解析の結果と合わせ、屋久島山頂部ニホンザルのササ食を支える腸内細菌について考察する。

  • 八鍬 聖, 横山 ちひろ, 林 拓也, 武田 千穂, 川崎 章弘, WEISS Alexander , 井上-村山 美穂
    原稿種別: ポスター発表
    p. 45
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
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    ヒトを含む様々な動物において、パーソナリティと遺伝子多型の関連が見出されている。しかし、そのほとんどは神経伝達物質に関わる遺伝子の多型であり、それ以外の遺伝子に着目した研究は少ない。注意欠如・多動症(ADHD)の症状である不注意および多動・衝動性は、複数のパーソナリティモデルの主要次元との関連が報告されている。最近の研究では、ADHD患者は非定型なミエリン形成を呈することや、ミエリンの形成と維持において重要な役割を果たすスフィンゴ脂質代謝遺伝子の多型とADHDのリスクとの関連が示唆されている。そこで、飼育下のコモンマーモセット128個体において、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1(SMPD1)遺伝子の多型を探索し、質問紙によって評定したパーソナリティとの関連を解析した。その結果、コモンマーモセットのSMPD1遺伝子の3’非翻訳領域に塩基置換(SNP)を発見した。また、このSNPが、「支配性」および「社会性」の次元と関連することが示唆された。このことから、SMPD1遺伝子のSNPがミエリン形成を通して、パーソナリティの個体差に影響する可能性が考えられた。現在、SMPD1遺伝子の他領域や、他のスフィンゴ脂質代謝遺伝子においても解析を進めている。

  • 大谷 洋介, Bernard Henry , Wong Anna , Tangah Joseph , Tuuga Augustine , 半 ...
    原稿種別: ポスター発表
    p. 45-46
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    野生霊長類にとって睡眠場所の選択は捕食者回避や効率的な採食の観点から非常に重要な要素である(Albert et al.2011など)。本研究ではマレーシア・サバ州のキナバタンガン川支流に生息するミナミブタオザルを対象に、睡眠場所選択に影響を及ぼす要因を調査した。対象集団は河川とプランテーションに挟まれた遊動域を持ち、アブラヤシの果実を採食することが観察されている。2012年7、8月に1頭のメスにGPSテレメトリを取り付け、10分おきに50日間位置情報を記録した。また2012年6月から2014年7月の434日間、ボートセンサスを実施し対象種の河岸への出現を記録した。睡眠場所の83.7%(41/49)は川から50m以内にあり、プランテーション境界から50m以内は睡眠場所として選択されなかった。記録された位置データを、switching correlated random walk modelにより滞在モードと移動モードに区分した結果、滞在モードの時間はプランテーション境界から50m以内では有意に短かった[Steel-Dwass, α=0.01]。川岸における対象種の出現頻度は、河岸特異的な果実の存在量と正の相関があり、捕食圧に影響する川の水位と負の相関があった(CtSEM, 95% PCI not including 0)。マカクは採食のために河岸とプランテーションの両方を利用するが、追い払いやトラックの通行などの脅威により、プランテーションで過ごす時間は短くなり、対捕食者戦略の一環として河岸を睡眠場所として好むと推測された。生息地の保全には食物環境の改善だけでなく、野生動物にとっての脅威に配慮した、恐れの景観(Landscape of fear)の概念に基づいた取り組みが必要である。

  • 田伏 良幸
    原稿種別: ポスター発表
    p. 46
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    体温調節行動は多くの霊長類種でみられ、日中の休息場所の選択は気温に応じて変化することが知られている。たとえば、気温が低いときには日向で日光浴をし、暑いときには洞穴で涼む割合が高いことがわかっている。このように霊長類は、個体レベルで見ると気温に応じて自身の体温が快適になるように休息場所を選択する。一方で、個体の体温調節には気温だけでなく湿度も影響しているはずであるが、これまで湿度も含めて休息場所の選択に影響する要因を調べた研究はほとんどない。そこで、本研究は2020年9月から2021年10月にかけて屋久島西部海岸域に生息するニホンザル群の4歳以上のメス24頭を対象に、気温・湿度に応じた休息場所の選択を調べるため、携帯型気象計を用いて計測した気温・湿度と対象個体の休息場所の日照条件について多項ロジスティック回帰を用いて分析した。その結果、まず湿度に関わらず、気温が高くなると日向の利用割合が減少し、日陰の利用割合が高くなることがわかった。一方で、湿度の影響については、気温が約23℃未満のときは、湿度が高いほど日向で休息する割合が高くなる傾向があったが、それ以上の気温になると湿度が高いほど日陰を利用する割合が高くなっていた。このことは屋久島のニホンザルの休息場所選択には気温と湿度が相互作用しながら影響を及ぼしていることを示している。これはニホンザルでもヒトと同様に気温だけでなく湿度が体温調節機能に影響していることを示唆している。

  • 勝 野吏子
    原稿種別: ポスター発表
    p. 46
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/26
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトは会話の際、相手の発話タイミングを予期し、相手と発話テンポを同調させる。ヒト以外の動物の鳴き交わしにおいても、発声の重なりを避けるような調整が生じていることが知られているが、他個体との発声同調は限られた種を除いて確認されていない。そこで本研究では、ニホンザルが近距離で連続的に鳴き交わす音声に着目する。まず、鳴き交わしの際には、先行研究で示されたような相手の発声との重なりを避ける発声間隔の調整が確認できるのかを検討する。そして、鳴き交わしにおいて発声の種類やテンポが収束するのかを検討する。嵐山集団のニホンザル成体メス15頭を対象とした。個体追跡観察により、対象個体の社会行動と、対象個体あるいは周囲の個体のコンタクトコールを記録した。コンタクトコールが観察された場合には、受け手がいたか、鳴き交わしたかどうかを記録した。発声が十分に記録された個体を対象とした予備的な分析の結果、相手に対して返答する場合のほうが、同じ個体が鳴き交わし以外で発声を繰り返す場合よりも発声間隔が短かった。このことは、相手と発声の重なりを避けるような調整が生じていることを示唆する。また、一連の発声内での発声間隔のばらつきを定量化した。鳴き交わしにおいては、相手との間で発声間隔のばらつきが少なくなることが予測される。発表では、発声間隔の個体差と、相手との発声間隔の収束が生じるのかについて議論する。

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