抄録
日本人の平均睡眠時間は、OECD加盟33カ国中最下位であり(OECD、 Gender data portal 2021)、実際に、高校生は授業に加えて塾や部活の影響により睡眠不足になりがちで、日中、慢性的な眠気に悩まされている。本研究は、睡眠の量の不足を睡眠の質で補うことができるよう、日中の運動、特に、手軽で継続しやすい自転車での運動の有無や強度が睡眠の質を高めるのか検証することを目的とする。
被験者は、高校2年男子(被験者A)、女子(被験者B)の2名とする。被験者Aは約5 kmを自転車20分で登校(自転車あり)とバス8分、徒歩2分で登校(自転車なし)を比較する。被験者Bは約5 kmを自転車25分で登校(低強度)と自転車20分で登校(高強度)を比較する。実験は、授業がある平日に行う。介入調査として23時就寝、目覚ましなしの自然な目覚めで6時起床、被験者Aは自転車ありと自転車なし、被験者Bは自転車低強度と自転車高強度を週単位で入れ替えるクロスオーバー試験とする。睡眠の質は、Deep Sleep Headband 2(Philips 社)で測定し、専用アプリSleep Mapperで記録する8項目(中途覚醒回数、レム睡眠回数、浅い睡眠回数、深い睡眠回数、眠るまでの時間、レム睡眠時間、深い睡眠時間、合計睡眠時間)と脳波の形状に着目をする。
記録した8項目それぞれで等分散を仮定しない 2 標本の t 検定であるウェルチの検定を行った結果、被験者Aでは、眠るまでの時間が自転車ありの方が2.58分速かった(t (31) =2.12、p=.042)。さらに、授業で体育がない日を抽出した際も自転車ありが3.82分速かった(t (13) =2.39、p=.035)。脳波の形状は、自転車ありの方が深い睡眠が安定していた。被験者Bでは、合計睡眠時間が“自転車(高強度)”の方が42.11分長かった(t (32) =2.66、p=.012)。脳波の形状は、自転車(高強度)の方が深い睡眠が安定していた。本研究の結果、自転車での運動が眠るまでの時間と合計睡眠時間に良い影響を及ぼすことが明らかになり、睡眠の質に良い影響を及ぼす可能性が示された。