抄録
異種が集まってひとつの群れを形成する現象を混群と呼ぶ。グエノン類のアカオザルとブルーモンキーは、近縁でニッチが酷似しているにも関わらず、複数地域で混群を形成することが報告されている。2種の混群の成立要因は未だ完全には理解されていない。本研究では、行動生態学とゲノム科学の手法を融合し、社会マイクロバイオームという観点から2種の混群の形成メカニズムを明らかにすることを目的とした。社会マイクロバイオームとは、腸内細菌が宿主の社会ネットワークを通じて伝播する過程を指す。社会交渉によって有益な細菌を授受したり、集団として頑健な腸内細菌群集を保持できる可能性がいくつかの霊長類種で報告されている。アカオザルとブルーモンキーの混群においても、種間での細菌の授受による利益があるのではないかという仮説を立てた。ウガンダ・カリンズ森林において、2022年8月〜12月の期間、アカオザルとブルーモンキーの混群1群(N群)のオトナ10個体(2種5個体ずつ)を対象に個体追跡をおこなった。混群内における同種間・異種間の1m以内の近接頻度を記録した。腸内細菌叢解析用の糞便サンプルを採取し、次世代シークエンサーによって細菌組成を調べた。腸内細菌叢解析の結果、優占する細菌系統群は種間でよく似ていることがわかった。個体間の腸内細菌組成の類似度と近接頻度との関係を比較した。傾向としてはゆるやかな正の相関が見られたものの、種差が与える影響が大きく、近接頻度は種間の腸内細菌組成の類似性を説明する有意な因子として推定されなかった。個体観察が群れ内の一部のオトナに限定されていたため、より積極的に種間交渉をおこなうコドモなど、群れ内の他の個体の媒介的な効果を無視してしまった影響が考えられる。今後はより網羅的な個体のデータ収集や、複数の混群との比較を加え、混群内外の種間相互作用と腸内細菌叢の多様性の関係を調べていく予定である。