抄録
周日行性のチャイロキツネザル属(Eulemur)は昼夜を通して採食活動をおこなう。その適応的意義として、高品質な食物が欠乏する時期に昼夜を通して低品質で繊維質な食物を食べ、必要な栄養摂取を満たすためだと説明されてきた(仮説1)。一方、乾燥林に生息する個体群においては、乾季は日中に多肉植物を採食して水分を摂取し、夜になると食物を果実に切り替えてエネルギーを補うという予備的な報告もある(仮説2)。本発表ではマダガスカル北西部の季節乾燥林に生息するチャイロキツネザル(Eulemur fulvus)を対象に、周日の採食戦略に関する2つの仮説を検証することを目的とする。乾季から雨季に変化する2015年7月からの9カ月間、終日観察46回と終夜観察33回を行い(合計948時間)、2群の採食行動を記録した。採食行動の速度と時間、処理する食物の大きさを測定し、各食物の採食量を推定した。各食物の栄養を分析し、終日、終夜のエネルギーおよび水分の摂取量を推定した。また、26種817個体の樹木の結実状況を2週間おきに目視し、果実資源量の季節変化を評価した。乾季の方が熟した果実の資源量が多かったが、チャイロキツネザルは乾季の日中に葉を食べる時間を、雨季の日中に果実を食べる時間を増やした。乾季の日中の葉食は多肉質の葉を採食し、水分を多く摂取したが、繊維の摂取量は増えなかった。日中のエネルギー摂取は雨季の方が多かった。夜間の採食時間は乾季の方が長く、果実を多く食べる傾向にあったが、摂取エネルギーに季節差はなかった。したがって、本研究では仮説1は否定され、仮説2が部分的に支持された。チャイロキツネザルの周日行性は、環境ストレスに対応しながら昼夜を通して必要なエネルギーや水分を摂取するための柔軟な採食戦略であると考えられる。