抄録
ニホンザルの交尾と出産には季節性があり、高緯度地域では出産時期が早く、低緯度地域では遅くなる。しかし、ニホンザルの分布の両端にあたる下北半島と屋久島ではこの傾向からの逸脱がみられ、特に屋久島では出産時期が早い傾向がある。本研究では、出産時期について報告があるどの調査地よりも屋久島に近い鹿児島県大隅半島における出産時期をカメラトラップのデータから推定する。2020年1月から2021年12月の24ヶ月の間、稲尾岳(北緯31度07分24秒)周辺にカメラトラップを設置した。総カメラ日数は7,344、1ヶ月あたりの平均カメラ日数は611.9であった。オトナメスが撮影された859の動画ファイルを対象として、アカンボウの出産状況をまとめた。
アカンボウを確認できた最も早い日は2020年5月19日と2021年5月12日で、いずれも母親の背中に乗っていた。これらの日以降、12月まで毎月少なくとも1回はアカンボウが撮影されたが、移動時にメスの腹部につかまり体毛が黒いアカンボウが確認された最後の日は、2020年12月14日、2021年11月4日であった。
母親の背中に乗って運ばれるようになるのがおよそ生後4週目以降であることから、本調査地では4月上旬頃には出産が始まっていることが推測される。また、出産期の終わりについては、移動時にメスの腹部につかまる体毛が黒いアカンボウを一律に4週齢とみなすならば、これまでに報告されているほかの地域よりも遅い時期まで出産が続いていたことになるが、4週齢以降も腹部につかまって移動することはあり、カメラトラップのデータだけでは推定に限界がある。直接観察に比べ精度が劣る点には十分注意を払わなければならないが、大隅半島のニホンザルの出産時期は、より低緯度に位置する屋久島よりも遅く、むしろ他の調査地域のように緯度から予想される時期に近いという傾向が示唆される。