霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
ニホンザルのコドモの成長に伴う毛づくろい技術の発達
田辺 雄亮
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 57

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抄録
毛づくろいはニホンザル(Macaca fuscata)の社会において最も頻繁に行われる社会交渉のひとつである。毛づくろいには,体毛についたシラミ卵を除去する衛生的機能と,個体間の親和関係を形成・維持する社会的機能があることが知られている。これらの機能の存在を考えると,正しく毛づくろいができる能力の獲得はニホンザル社会において重要な意味をもつ。毛づくろいにおいて微小な卵を的確に除去するには指先の精密な動きが求められるが,こうした技術は生得的に備わっているものではなく,個体の成長に伴って発達すると予測される。そこで本研究は,毛づくろい技術の発達過程を明らかにするために、ニホンザル嵐山群において1~5歳の全26個体およびその母親の一部8個体を対象に,毛づくろいの様子をビデオカメラで詳細に記録した。毛づくろい技術を評価する指標として,シラミ卵の除去に成功する「除去成功率」と,シラミ卵の除去を途中で諦める「除去中止率」を設定し,年齢間で比較した。また,嵐山群ではシラミ卵の除去時に口を用いる個体が多く観察されたため,毛づくろい技術の指標として「口の使い方」を追加で設定した。調査の結果,指を用いた場合の除去成功率は2歳でオトナと同等になることが分かった。一方,口を用いた場合の成功率は1歳の段階でオトナと同程度となった。また、除去中止率は1歳で高かったが,2歳以上ではオトナとの差はなかった。これらの結果から、指先の微細な操作を必要とする毛づくろい技術は、1歳から2歳にかけて獲得されると考えられる。また,口の使い方はコドモ期の途中に変化しており,永久歯の萌出時期と関連している可能性がある。ニホンザルにおいて複雑な操作が必要な他の行動と比較すると,毛づくろい技術は比較的早期に発達していた。この結果は,日常的によく行われ、複合的な機能をもつという、ニホンザル社会における毛づくろいの重要性を反映していると考えられる。
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