抄録
「エネルギー最大化」「時間最小化」といった動物の採食戦略は,彼らの活動時間配分に反映される。従来,葉食性の霊長類は時間最小化戦略を採ると考えられてきたが,最近ではむしろエネルギー最大化を支持する結果も得られており,彼らの採食戦略についての理解は不十分である。我々は,インドネシアに生息するコロブス亜科のサル2種(ジャワルトンTrachypithecus auratusとシルバールトンTrachypithecus cristatus)を対象に活動時間配分を通年調査し,食物環境との関連性を調べた。ジャワルトンが二次林に高密度(300-345頭/km2)で生息するのに対して,シルバールトンは海岸林に低密度(101頭/km2)で生息するという違いがある。この違いに着目し,森林環境や個体群密度など生態学的要因が採食戦略に及ぼす影響を評価しようと考えた。2種のルトンはいずれも休息割合が高かった(ジャワルトン:34%,シルバールトン:46%)。いっぽう,採食割合(43% vs 7%)と移動割合(18% vs 40%)は,種間で大きく異なっていた。ジャワルトンは若葉や花の利用可能性が低い季節に休息割合を増やし移動の割合を減らした(時間最小化戦略)。これに対して,シルバールトンは果実の利用可能性が低い季節に採食割合を増やした(エネルギー最大化戦略)。食物不足に対する反応の種差は,食物資源をめぐるグループ内/グループ間競争の程度の違いに起因する考えられた。本研究は,コロブス類の採食戦略は固定されたものではなく,生息環境に特異的に決まることを示した。