抄録
漁港機能の拡充と漁業活動の利便性向上のために漁港改修を行う場合, 施設周辺で埋め立てを含む地形改変を行うのが一般的である. しかし, 漁港周辺に水産資源の涵養場となる良好な藻場がある場合には, 利便性の向上・機能の拡充と海域環境の保全という相反する条件の調整が漁港や周辺地域の発展を考える上で大きな問題となる. 鎌倉市に位置する都市近郊立地型の腰越漁港では, 周辺海域環境の保全と調和した改修計画の立案を目指して, 市民との合意形成会議が行われた. 大都市近郊の鎌倉市では市民の環境意識や行政活動への参画意識が高い一方, 漁業は基幹産業ではないため, 漁業者が地域社会では少数派になる. そのため漁港事業の意義が地方とは異なる. 良好な自然環境に依存する漁業を支援する施設の拡充が, 環境に負荷を与えるジレンマの調整の過程と結果について, 合意形成会議の成立の背景にある地域の特性を含め考察する.