抄録
棚田を保有する地域における「多自然居住地域の創造」を目指した地域計画に資することを目標に, 住民自身による地域資源の認識と, それらの生態学的な評価を試みた. 対象地の大塀和西地区は吉備高原に位置する, 水田作を主体とした一般的な傾斜地農村である.
アンケート調査によると, 地域住民は伝統的な農村の地域景観の保全しながら, 地域を自然公園的に活用してゆきたいという意向を持っていた. しかしながら, 農業に付随した形で形成され維持されてきた景観構造は, 農業構造の変化とともに変質しつつあり, 生物多様性も失われつつあった.
住民が維持を望む景観要素である棚田や管理アカマツ林は, 稲作を行ってゆくための補助的な管理活動によって維持されてきたものであり, そのような管理体系を持続し得ない現在, 新たな管理方法を確立しなければならない. 周辺の林地や草地を持続的に管理するシステムを確立することは, 地域住民が望む景観要素を維持することにつながるとともに, 生物の多様性を高めることにつながる.