オオウメガサソウは部分的菌従属栄養植物であり,発芽時の栄養供給に菌の関与が必要と考えられる.本種は北半球に分布し,日本では北海道,青森,岩手,茨城県にみられる.分布の南限地,茨城県ひたちなか市では個体数が激減し,絶滅の危機にある.
南限地での発芽条件を明らかにするため,2018年秋採集の種子を包んだパケットを様々な環境に埋め,5ヶ月後と10ヶ月後に回収し,発芽の有無を観察した.その結果,胚が膨張し種皮を破る発芽初期の状態の種子が確認されたが,発芽時に関与する菌や発芽に適した環境条件の特定のためには,今後も調査を継続していく必要がある.
また,南限地と北方(北海道・青森県)の個体群の繁殖状況を比較するため,2019年7~8月に更新状況調査を行った.この結果,いずれも実生による更新は確認できなかったが,北方の生育地のほうが,個体の生育密度・開花数・ポリネーターが多く,種子繁殖の可能性が高かった.南限地ではポリネーターの不足を補う人工授粉が効果的だと考えられる.さらに,次世代シーケンサーを用いて遺伝的集団構造の解析を行った結果,南限地の個体群は遺伝的にほとんど均一で,北方に比べて遺伝的多様性が低いことから,早急に保全策を講じる必要がある.