自然保護助成基金助成成果報告書
Online ISSN : 2189-7727
Print ISSN : 2432-0943
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はじめに
目次
第7期協力型助成 学協会助成
  • 矢後 勝也, 谷尾 崇, 平井 規央, 伊藤 勇人, 佐々木 公隆, 中村 康弘, 永幡 嘉之, 神宮 周作, 水落 渚, 荒牧 遼太郎, ...
    原稿種別: 第7期協力型助成 学協会助成
    2025 年34 巻 p. 1-13
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    主にシカ食害による植生破壊により国内で最も絶滅寸前のチョウとなった「種の保存法」の国内希少野生動植物種・ツシマウラボシシジミの保全を目的として,a)植栽による保全活動,b)農林業との協働活動,c)地域住民との連携活動,の 3 つの課題に取り組み,サーキュラーエコノミーを基盤とした持続可能な保全システムの構築を目指した.植栽による保全活動では,主に本種が好む環境を備えた椎茸榾場でチョウの食草・吸蜜植物等の栽培・植栽を行なった.農林業との連携活動では,椎茸のブランド化を模索しながら,サーキュラーエコノミーを見据えた廃棄予定の椎茸販売を目的とする加工実験を試行した.椎茸をふるさと納税の返礼品とする協議を行い,エコツーリズムによる寄附金も募った.地域住民との連携活動では,植栽体験やリーフレット・缶バッジの配布を通して保全の普及啓発に努めた.保全シンポジウムも開催し,域外保全の拠点・足立区生物園の貢献により対馬市長から足立区長への感謝状と,足立区長から対馬市長へのチョウ標本の贈呈式が行われ,行政間レベルでの強固な保全体制も築くことができた.

第8期協力型助成 国際NGO助成
  • 萩原 幹子, 鈴木 希理恵
    原稿種別: 第8期協力型助成 国際NGO助成
    2025 年34 巻 p. 14-24
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    コンゴ共和国北西部にあるオザラ・コクア国立公園の本部があるンボモ村は,この数年マルミミゾウによる農業被害が悪化し,食料不足や貧困の原因になっている.野生生物と共存する生活を確立するため,獣害防除と収入の向上を核に村づくりに取り組む若手リーダーを養成する活動に取り組んだ.しかし農業を主にした1年目の活動の結果,ゾウの作物被害や雇用問題で国立公園と村人の関係は良好と言えず,また村の若者たちは学業を中断していたり,手に職をつける意志も無いなど,リーダーとなる人材を見つけるのは困難と判明した.2年目は収入源創出活動として,村人たちに関心の高かった養蜂教室に重点をおき,基礎知識を学ぶ座学と,ミツバチの野生群を取込む巣箱の設置,女王バチの捕獲などの実践を行った.幅広い年齢層の村人15名が第一段階の研修を修了した.養蜂はミツバチおよびその生息環境の保全につながる活動であり,国立公園の観光客への蜂蜜の販売を目指し,別の財源で養蜂教室を継続していく.

第8期協力型助成 学協会助成
  • 内田 泰三, 今西 純一, 入山 義久, 小野 幸菜, 橘 隆一, 田中 淳, 津田 その子, 中島 敦司, 中村 華子, 古野 正章, 吉 ...
    原稿種別: 第8期協力型助成 学協会助成
    2025 年34 巻 p. 25-35
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    阿蘇の草原再生,地域経済に寄与するために,ススキ等野草地(半自然草原として維持されている牧野)の構成種を地域性種苗として緑化・復旧事業に活用し,流通させることを目指した取り組みを行った.生態系に配慮した緑化の推進,地域性植物の活用には地域の生産力,社会全体における価値観の共有化も欠かせない.本活動に多様な主体と取り組む中で,生物や生態系の多様性の保持,伝統的な視点を大切にした持続的な地域管理,地産資材の活用による地域の活性化などを進めている.活動では阿蘇市波野地区で地域の植物や生活を取り上げた写真展を開催し,緑化に使用する草原植物の種子採取のワークショップ開催などの普及活動,活用が望める緑化植物ススキ,ヨモギ,ヤマハギ,コマツナギ種子採取に向けた調査などの現地活動を地域の方と協力して実施した.2023年には採取した種子の阿蘇地域における事業への活用を推奨し,現地導入工事を実施した.また,地域性種苗の使用・流通の拡大に寄与すると考えられる情報を整理して発信した.

第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
  • 冨士田 裕子, 近藤 玲介, 加藤 ゆき恵, 金子 和広, 石川 弘晃, 首藤 光太郎, 井上 京
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 36-50
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    新たな国定公園指定の基礎資料とするため,広大な面積を有する一方で既往研究が限られる北海道東部の茨散沼湿原と兼金沼湿原で,地形・地質,維管束植物相,植物群落の調査を行った.泥炭の層序から両湿原の主要部はおよそ6ka頃に湿原形成が開始したことが明らかとなった.茨散沼湿原では希少種16種を含む60分類群が,兼金沼湿原では希少種22種を含む159分類群が確認され,兼金沼湿原の周縁部を除き外来種は確認されなかった.兼金沼湿原の植物群落は4つに区分され,うち主要3群落は他の北海道低地湿原にも認められる小凹地の植生に相当した.両湿原ともに希少種を含む多様な湿生植物の生育環境として重要であり,適切な保全と管理が強く望まれる.

  • 保田 昌宏
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 51-57
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    宮崎県日向市には特定外来生物であるスウィンホーキノボリトカゲが,宮崎県日南市にはオキナワキノボリトカゲが定着し,生態系への影響が危惧されている.これらの個体数抑制のために,生け捕りや粘着トラップでの捕獲が実施されてきたが,キノボリトカゲの密度が徐々に上昇してきており,より効果的な捕獲方法の開発が求められる.キノボリトカゲは4月から11月頃まで樹上や地上で発見されるが,12月から3月は冬越していると思われたが,場所は不明であった.そこで本調査では,キノボリトカゲの冬越しの場所を突き止め,冬季捕獲も可能とするために調査を実施した.本研究の結果,キノボリトカゲは地面や落ち葉の下で不動化し越冬していることが明らかになった.不動化したキノボリトカゲはほぼ全て捕獲可能であり,簡易ビニール袋温室を用いた効果的な防除の可能性が示された.

  • 中西 希, 中本 敦, 伊澤 雅子
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 58-65
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    絶滅危惧種であるツシマヤマネコが生息する長崎県対馬では,2000年前後からニホンジカの個体数増加が目立つようになり,島内全域で下層植生の急激な衰退が生じた.これに伴い小型哺乳類の個体数減少につながることが懸念されたため,これらを主要な餌資源とするツシマヤマネコの個体群維持のためには,シカの増加が小型哺乳類に与える影響の程度を把握することが急務となった.2021~2022年には森林と草地において調査を実施し,小型哺乳類の個体数減少を確認した.今回はツシマヤマネコの繁殖が確認されている地域における小型哺乳類の生息状況の確認を目的とした.捕獲調査の結果,ニホンジカの駆除の進行に伴って,アカネズミとヒメネズミの2種の個体群がすみやかな回復傾向を示していることが確認できた.

  • 速水 将人, 大脇 淳, 中濱 直之, 新田 紀敏, 濱野 友, 榊原 正宗
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 66-76
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    防風林は,強風害などを防ぐために設置される低地林である.近年,防風林の境界維持や保育に必要な草刈りが,国内希少野生動植物種アサマシジミ北海道亜種を含む生物多様性保全に寄与することが明らかになった.本研究では,広大な格子状防風林がある北海道根釧地域を対象に,本種の生息状況を解明し,防風林管理による本種の生息地の維持・創出可能性を検証した.その結果,本種の分布は約500 km2の範囲に不連続的な9地点が確認され,全て防風林・河畔林縁に接する草刈り草地に生息していた.また本種は,植生高が低く,土壌が乾燥していない明るい環境で個体数が多かった.今後,本種の生息地周辺の防風林で本種の好む環境や分布・生態を踏まえた管理を実施することで,本種の生息適地の維持・拡大や,生息地間の移動経路の創出が可能である.

  • 出口 翔大, 澤 祐介, 手井 修三, 吉田 一朗, 大坂 英樹, 出口 さおり, 長野 康之, 本村 健, 青木 大輔
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 77-82
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ノジコEmberiza sulphurataは絶滅危惧種の渡り鳥である.渡りの中継地である福井県の中池見湿地以後の詳細な渡りルートおよび越冬地は不明であり,本種の保全にはそれらの解明が必須である.本研究では,繁殖地でノジコに超小型軽量ジオロケーター(GL)を装着し,その後の繁殖地における残留率および帰還率を調べ,本種の渡りルートおよび越冬地の解明を試みた.2023年および2024年に16個体にGLを装着し,2024年には帰還した3個体のGLを回収した.2023年の残留率は66.7%で,2024年の帰還率は調査地全体で23.1%であった.装着した1個体は,中国南部からフィリピンにかけての滞在が推定され,既知の越冬地と重複した,しかし,推定誤差が大きく,詳細な渡りルートおよび越冬地の推定には至らなかった.今後は解析方法を改善し,渡りルートおよび越冬地の推定精度を向上させる必要がある.

  • 今村 彰生, 源 利文, 坂田 雅之
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 83-90
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ニホンザリガニは固有種で,北海道と青森県に分布する.本研究では本種個体群の中長期的な保全に貢献することを目的とし,北海道中央部において,環境DNA分析を用いてニホンザリガニの生息の有無を確かめ,pH,電気伝導度,水温を測定した.2022年10月-2024年6月に,2ヶ月に1回の採水調査を計11回,7地点で実施した.ザリガニ類のベイトトラップ調査,ニジマスの環境DNA解析,目視・捕獲も実施した.その結果,低pHの地点,夏季に高水温の地点も含めた全地点でニホンザリガニの環境DNAが検出された.ベイトトラップでは4地点で個体を確認した.一部の地点ではニジマスのDNAや個体を確認したが,ウチダザリガニ個体は検出されなかった.ウチダザリガニやニジマスの不在はニホンザリガニ存続に重要と考えられる.個体とDNAの検出が最も多かったのは酸性(pH2.5-4)の2地点であり,ウチダザリガニとの低pH耐性の差異は検討課題である.

  • 横川 昌史
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 91-101
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    大阪府レッドリスト2014に掲載されている415分類群の植物について,大阪市立自然史博物館の植物標本室に配架されている標本を精査し,4,732点の標本のデータベースを構築した.また,標本ラベルに記載された地名情報を基に,すべての標本に採集地の緯度・経度情報を付与し,分類群ごとの採集地の分布図を作成した.採集年代の情報と分布図から,近年標本が採集されていない分類群や地域を特定し,野外調査を通じてレッドリスト掲載植物の生育情報の充実を図った.本プロジェクトで作成したデータベースや分布図は,次回のレッドリストの改訂に貢献するほか,レッドリスト作成の基礎となる地域植物誌研究への活用も期待される.

第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
  • 伊藤 彩乃, 庄司 顕則, 大和 政秀, 糟谷 大河, 遊川 知久
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
    2025 年34 巻 p. 102-110
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    部分的菌従属栄養植物のオオウメガサソウは,世界的な分布の南限地である茨城県で個体数が急減し,保全が急務となっている.本研究では本種の南限個体群の来歴を明らかにするため,国内各地から植物体試料を収集し集団遺伝構造と系統の解析を行った.その結果,南限個体群は北方の集団と遺伝的に明確に区別され,単一の祖先集団に由来することが明らかとなった.また繁殖生態を明らかにするため,生育が良好な青森県の自生地において野外播種試験を試みた.その結果,十分に成長した個体は確認されず,発芽後の成長に適した環境が乏しいことが推察された.一方,茨城県で別途実施した野外播種試験では胚が伸長し分枝した個体が確認され,成長時における特定の担子菌類Serendipitaceaeとの共生が示唆された.土壌中の菌群集の解析により,本菌の分布は限定的と考えられた.

  • 岡崎 純子, 長谷川 匡弘, 古井 陽登, 木場 勇樹, 木下 桂, 本多 寛明, 木下 栄一郎
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
    2025 年34 巻 p. 111-119
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    広域分布種の地域個体群は分布周辺部では縮小し絶滅の危機に直面する.キキョウ科ツリガネニンジン類は分布南限の沖縄県では準絶滅危惧種に指定されこの種の保全には交配様式や野外での種子生産の情報が必須である.本研究では分布南限2集団(沖縄島名護市,渡嘉敷島)で訪花昆虫相,蜜分泌特性,結実実態を明らかにした.昼行性・夜行性昆虫の訪花が観察されたが,昼行性昆虫は盗蜜・盗粉行動を示し訪花頻度からも夜行性蛾類が有効な訪花昆虫であった.蜜分泌は夜間に行われ夜行性昆虫に対応した特性を示した.2集団とも結実率は50%以上で十分な種子生産が行われていた.だだし,名護市集団の環境は造成・荒廃が進んでおり高い絶滅リスクに晒されていた.一方で渡嘉敷島集団は適切な草地管理により絶滅が回避されていることが明らかになった.

  • 廣瀬 慎美子, 山口 智生, 高見 宗広
    原稿種別: 第33期プロ•ナトゥーラ•ファンド助成 特定テーマ助成
    2025 年34 巻 p. 120-128
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マイクロプラスチック(以下MPs)と呼ばれる直径5 mm以下の小さなプラスチック片は海洋環境問題の一つとなっている.本研究では,稚魚のMPsの取り込み状況を明らかにするために,2022年5月から8月,2023年4月から8月に駿河湾の流れ藻とそこに集まる稚魚を採集した.ブリ(Seriola quinqueradiata),カワハギ(Stephanolepis cirrhifer),ニジギンポ(Petroscirtes breviceps)の稚魚から消化管と鰓を取り出し,10 % KOH処理により組織を溶解した後,実体顕微鏡下で見つかったMPs候補について顕微FT-IR分析を行った.その結果,稚魚79個体中11個体(13.9 %)からMPsが見つかった.MPsは消化管から3個,鰓から8個得られ,同一個体から複数のMPsは見つからなかった.MPsの素材はポリエチレンテレフタレート(PET)のほか7種類に同定され,多様なMPsを保持していた.他の地域の稚魚の報告に比べ流れ藻の稚魚の保持するMPsは少ないが,ブリの稚魚(モジャコ)のように養殖の天然種苗として供給される水産有用種も含まれることから,採苗や養殖過程でも注意が必要である.

  • 寺嶋 太輝, 山本 裕, 手嶋 洋子
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
    2025 年34 巻 p. 129-136
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ウミツバメ類は,体サイズが小さく,多くの種が遠洋で採餌を行うため,海鳥の中でも未だ生態情報が限られている種類である.近年,ウミツバメ類は海洋プラスチック汚染リスクが高いことが危惧されている.本研究では,伊豆諸島神津島の属島である祇苗島(ただなえじま)で繁殖するオーストンウミツバメ(Hydrobates tristrami)の海洋プラスチックに吸着および添加されている残留性化学物質の濃度を尾腺ワックス中から定量した.その結果,ポリ塩化ビフェニル(PCBs)が,北太平洋に生息する他の海鳥種と比較して,本種において高い濃度で検出された.またベンゾトリアゾール系紫外線吸着剤(UV-BTs)についても数個体から高い濃度で検出が認められた.このことからウミツバメ類は,海洋汚染に高いレベルで暴露されていることが示唆され,今後さらに詳しい調査を行う必要がある.

第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
  • 井上 正隆, 山本 捺由他, 武田 和也, 河村 雅史, 田谷 以生
    原稿種別: 第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 137-145
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    オガサワラハンミョウは小笠原諸島固有の昆虫で現在は兄島のみに生息する絶滅危惧種である.2010年から環境省を中心にさまざまな保全事業が進められているものの,野生下での減少に歯止めがかからず,絶滅回避にはその原因解明が急務となっている.本研究では本種の生態情報を収集して新たな保全策立案につなげるために,ポータブル電源からの給電で最大255時間の連続撮影が可能な長時間撮影装置を用いて幼虫の生態を観察した.3,818時間の撮影の結果,本種幼虫の主な餌生物がトビムシやアリであることを野外で初めて明らかにした.さらに,幼虫の「引っ越し行動」を雨天時に観察するなど,雨天時の行動について新たな生態的知見を得ることができた.餌生物や雨の影響を明らかにしたことで,本種の減少要因解明に向けて重要な知見が深まった.

  • 髙田 隼人, 中村 圭太, 矢野 莉沙子, 鷲田 茜, 菅野 友哉, 渡部 晴子, 饗場 木香, 菅野 貴久
    原稿種別: 第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 146-154
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    減少が続くニホンカモシカの個体群を適切に保全管理していくためには,簡便かつ高精度な個体群モニタリング手法の確立が必要である.最近ではセンサーカメラを用いた密度推定手法が開発されているが,ニホンカモシカのモニタリングに適用可能かどうかは検討されていない.そこで本研究では,個体識別法と糞塊法,REM・REST法(新手法)による密度推定およびそれらにかかる労力と初期費用を比較し,モニタリング手法の有効性を検討した.その結果,糞塊法,REM法,REST法の推定密度は個体識別法の推定密度の14%以下であり,非常に過小評価となった.糞塊法,REM法,REST法は推定精度に大きな差はみられなかったが,労力および初期費用が最も低かったことから,現状では糞塊法が有効な手法と考えられた.

  • 前迫 ゆり, 上甫木 昭春, 島田 直明, 武田 義明, 永松 大, 長谷川 泰洋, 原 正利, 深町 加津枝, 渡部 俊太郎, 劉 大可
    原稿種別: 第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 155-167
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は社叢を対象に調査を行い,生物多様性と文化的サービスの現状と課題を探り,「30by30」に寄与する研究をめざした.1970年代に調査された「社寺林研究」(土井林学振興会)の社叢と2024年に調査した社叢の群集構造(NMDS)解析を行った.その結果,近畿,中国,九州の社叢において低木層の種数の減少傾向,林床性種群から攪乱(荒廃)種群あるいはシカの不嗜好植物への植生動態を示した.この要因としてシカの採食影響が考えられた.その一方,絶滅危惧種(VU)が確認され,社叢が生物多様性の保全に貢献していることを再確認した.社叢の文化的サービスとして祭礼,植物資源,地域コミュニティ,文化的空間との関係が浮かび上がった.これらの調査をもとに,2024年度に5カ所の社叢を自然共生サイトに申請した.

  • 芝 里万杜, 小野田 雄介, 青柳 亮太
    原稿種別: 第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2025 年34 巻 p. 168-173
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    石灰岩土壌は,高pHを特徴とし,リンやマンガンの可給性が低い貧栄養な土壌であると考えられてきた.しかし,近年,発達の進んだ石灰岩土壌で極めて高いリン可給性が報告されており,このことから土壌発達によってpHが低下し,石灰岩土壌の性質が貧栄養から富栄養に変化しているのではないかと推測されている.そこで本研究では3つの石灰岩地帯で植生調査・土壌採取を行い,土壌発達が石灰岩土壌の栄養塩可給性に与える影響を明らかにすることを目的とした.土壌のpH,リン可給性,交換態陽イオン濃度を調べた結果,pHは各地域間で有意に異なり,リン可給性・マンガン可給性はpHの低下にしたがって上昇していた.これらの結果は,石灰岩土壌では,土壌の発達に伴ってリン・マンガンの可給性が増加することを支持している.

第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内活動助成
第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内活動助成 地域NPO枠
第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 海外助成
  • Juanita GÓMEZ, 本郷 峻, Nathalie VAN VLIET, Luisa ACHICANOY, Edilberto LA ...
    原稿種別: 第34期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 海外助成
    2025 年34 巻 p. 212-222
    発行日: 2025/05/30
    公開日: 2025/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    コロンビアのアマゾン川沿岸に位置するプエルト・ナリニョ地区は,過去10年間で観光業が急速に発展し,この社会経済的変化が先住民の野生生物利用と価値観に影響を与えたと思われる.狩猟パターンの変化と集団間の価値観の違いを評価するため,2つのコミュニティ―観光業の影響が最も大きいプエルト・ナリニョ市街地と,観光業がほとんど行われていない奥地の集落であるティピスカでワークショップとアンケート調査を実施した.また,観光客へのアンケートも実施した.その結果,多くの市街地のハンターが観光ガイドとなり狩猟の頻度を減らすなど,観光が消費的な慣習から非消費的な慣習へと価値観をシフトさせることで,野生生物の保護を促進する可能性が示唆された.また,観光が価値観の異質化を助長する可能性も示唆された.野生生物を人間の利用と利益のための存在としてみる「人間優位の価値観」に対して,プエルト・ナリニョの住民の賛否は二極化していたが,ティピスカの住民の多くは肯定的な認識を持っていた.また,観光から直接的な利益を受けない地元の人々は,直接的な利益を受ける人々よりも,人間優位志向の活動を可能にする,規制の少ないオープンなツーリズムを支持する傾向が強かった.また,観光客は人間と動物の共存を重視する「相互主義的」な観光活動を好んでおり,これは野生動物保全にプラスの影響があることを示唆しているが,特に男性の間では人間優位志向の活動への需要が顕著に残ってもいた.価値観の多様化は,野生生物管理に複雑さをもたらすため,特に観光から利益を得ている人とそうでない人の間で,グループ間の異なる視点を考慮する必要がある.

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