自然保護助成基金助成成果報告書
Online ISSN : 2189-7727
Print ISSN : 2432-0943
最新号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
はじめに
目次
第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
  • 川喜多 遥菜, 阪口 翔太, 増田 和俊, 小牧 義輝, 出野 貴仁, 田中 健文, 薮内 良昌, 瀬戸口 浩彰
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 1-9
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    コバトベラは小笠原・父島固有のトベラ科樹種であり,現存自生株が4個体のみの絶滅危惧種である.小石川植物園と父島では域外保全株が育成されているが,次世代の遺伝的多様性や父性貢献度など,保全上重要な情報は未詳である.本研究では,コバトベラの保全株について遺伝解析を実施し,保全遺伝学的に貢献する情報を取得することを目的とした.まず小石川植物園で育成されている域外保全株についてSSRマーカーによって親子解析を行った.その結果,保全株には現在野外で生育している株が持たないアレルを有することが明らかになった.また当グループが自生株の種子から育成した実生について同様の解析を行ったところ,この年のものは全て自殖で生じた個体であることが判明した.以上より,域外保全株の一部は,野外で既に枯死した個体か,未発見の個体から遺伝変異を受け継いでおり,種内の遺伝的多様性の維持に特に貢献しうることが示された.また本種の性表現は未詳だったが自殖能力をもつことが分かった.今後,近親交配の影響を避けて次世代を育成するためには,人工交配で他殖由来の実生を生産する取り組みが望ましい.

  • 大嶋 元, 下村 礼介, 玉谷 宏夫, 田中 純平, 井村 潤太, 関 良太, 角屋 真澄
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 10-19
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    全国でツキノワグマ(Ursus thibetanus:以下,クマ)が,二ホンジカ(Cervus nippon:シカ)やイノシシ(Sus scrofa)を捕獲するために設置されたくくり罠で,錯誤捕獲されている現状がある.しかし,山間部で起きているクマの錯誤捕獲の現状は明らかになっていないことから,長野県の東信地区クマ対策員として2016年~2022年までに得た696個体分のデータを基に調べた.クマが錯誤捕獲されやすい条件として,時期や気温,標高,植生が関係していると推定された.また,改良くくり罠の効果検証では,シカの捕獲頭数(例年と同頭数)を減らさず,クマが改良罠を解除して逃走できることが分かった.

  • 黒沢 高秀, 山ノ内 崇志, 岡田 努
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 20-27
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    櫻井信夫氏が1990年4月1日から東日本大震災直前の2011年3月2日に観察した主に福島県相双地域の野生生物や植生,景観,里地里山の様子について記した手書きの「植物観察と採集日記」(No.1~4),および約2,000点の印画紙の写真を電子化およびデータベース化した.これらの情報を,同時に採集され,福島大学貴重資料保管室植物標本室FKSEに保管された標本により同定を再検討した上で,正確な植物名で公開した.これらの情報の中には,ソナレマツムシソウなどの全国的にも希少で保護上重要な植物の情報も含まれ,オニハマダイコンとシンテッポウユリの侵入初期の状況が詳細に記録されていた.本研究を通じて,福島県海岸部および帰還困難区域を含む市町村に関して,民俗・文化や海岸開発経過など震災前の多面的な様相を記録することができた.

  • 伊藤 玄, 北村 淳一, 山中 裕樹
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 28-41
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    シロヒレタビラの在来,外来系統の検出を目的に種特異的環境DNA検出系の作成を試みた.しかし作成した検出系では,同所的に生息する可能性の高いカネヒラの増幅が捨てきれないため,シロヒレタビラの種特異的プライマーの作成が困難であった.そこで,現在までにシロヒレタビラの確認記録のある三重県員弁川,雲出川,祓川,大堀川,五十鈴川の各水系において,MiFishプライマーを用いたメタバーコーディング法による環境DNA解析によるシロヒレタビラの検出を試みた.しかし,シロヒレタビラは検出されず各水系における生息密度が相当に低い可能性が示唆された.一方で,シロヒレタビラと同じタナゴ亜科魚類であるカネヒラ,タイリクバラタナゴ,ヤリタナゴ,アブラボテが同所的に確認された地点が得られた.これらの地点は,シロヒレタビラが生息している可能性の高い地域と考えられた.今後,メタバーコーディング法によって絞り込まれた各地点においてさらなる調査を行うことで,シロヒレタビラを発見できる可能性がある.

  • 須貝 杏子, 田淵 千捺, 山﨑 健太郎, 鈴木 節子, 葉山 佳代, 矢後 勝也, 庄子 恭平
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 42-50
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    小笠原諸島固有のチョウであるオガサワラセセリは,グリーンアノールの捕食圧や外来植物の繁茂により絶滅の危機に晒されている.年に5~6回の多化性である本種を野生下で安定的に存続・維持させるためには,年間を通じて成虫の食物である吸蜜植物を確保することが求められる.在来の吸蜜植物として植栽候補種となるオオハマボッス・シマザクラ・マルバシマザクラについて,マイクロサテライトマーカーを用いて遺伝的変異と遺伝構造を明らかにし,その結果を基に種苗配布区を設定した.いずれの種も列島間で大きな遺伝的分化が見られ,種内全体では距離による隔離が見られた.そのため,列島をまたぐ種苗の移動は控えるべきであると考えられた.オオハマボッスは近接する集団間でも遺伝的変異が見られ,島内であっても最も近い集団から種苗を調達すべきであると考えられた.シマザクラとマルバシマザクラは列島内で遺伝構造が形成されており,島内で種苗を調達する場合にはその遺伝構造に配慮する必要があると考えられた.

  • 名波 哲, 徳岡 純平, 松山 周平, 伊東 明
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 51-58
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    外来植物であるセイヨウタンポポに関する研究は,人間の活動が活発な都市部やその近郊で行われてきた.しかし近年,人間の影響が小さいはずの高山帯でもセイヨウタンポポの侵入が報告されている.本研究では,伊吹山,白山,後立山連峰の3つの高山帯において,セイヨウタンポポおよびセイヨウタンポポと日本在来タンポポとの雑種タンポポの定着状況を調べた.いずれの高山帯においてもセイヨウタンポポと雑種タンポポは,駐車場やゴンドラ乗り場など,人為攪乱の多い場所に生えていた.形態からセイヨウタンポポと判断される個体の約半数は雑種タンポポであり,さらに,雑種タンポポの個体数の割合は,標高が高くなるにつれて増加する傾向があった.伊吹山や白山では,侵入したタンポポのクローン多様性は低く,限られた数のクローンが個体数を増やしている傾向があった.一方,後立山連峰ではクローンの多様性が高く,さまざまな遺伝子型をもつセイヨウタンポポ,または雑種タンポポのクローンが,侵入して定着していることが示唆された.

  • 山口 典之, 田尻 浩伸, 手嶋 洋子, 中原 亨, KONGSURAKAN Praeploy, 大槻 恒介
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 59-67
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    カンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeはウミスズメ類の中でも,もっとも希少な種のひとつと言われており,近年は集団営巣地でのネズミ類やカラス類による捕食が深刻である.本研究では,福岡県烏帽子島で繁殖するカンムリウミスズメの効果的な保護・増殖手法を確立することを目的とし,巣箱を島内に設置した.また巣箱内などにセンサーカメラを設置して,基礎生態データの収集も実施した.2022年に29個,2023年30個の巣箱を設置した.2022年は3個に出入りの痕跡があり,巣立ち成功したと考えられる巣箱は1個であった.2023年は12個に出入りの痕跡があり,4個の巣箱で巣立ちが成功した.巣箱に設置したカメラにより,繁殖に関わる多様な行動の画像と映像が記録された.2022年の繁殖期には,ハシブトガラスが烏帽子島に侵入し,少なくとも29個体の成鳥と50個の卵が捕食された.2年間に巣箱架設により,この繁殖地の推定繁殖巣数を17-25%程度増加させることができた一方で,捕食害による個体数減少は深刻であった.今後,烏帽子島個体群を回復させるためには,巣箱の継続的な設置が必要であると考えられる.

  • 松田 純佳, 黒田 実加, 松石 隆
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 68-75
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    北海道周辺海域において死亡漂着した鯨類の胃内容物を調査し,その中のプラスチックゴミの出現状況や,その組成を記録するとともに,同時に捕食していた餌生物種を明らかにして,餌種や捕食様式とプラスチックゴミの出現傾向との関連を分析し,鯨類のプラスチックゴミの取り込みのメカニズム解明と,影響軽減への方策に資する基礎的知見を得ることを目的として研究調査を行った.2012年から2023年9月までに北海道に漂着した鯨類のうち,アカボウクジラ科鯨類において海洋プラスチックの取り込みが目立った.アカボウクジラ科鯨類の胃内容物を調査した結果,テカギイカ科イカ類をはじめとする中深層性の頭足類を主に摂餌しており,その食性が海洋プラスチックの取り込みやすさに関係している可能性が考えられた.

第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
  • 小林 真, 小林 悠佳, 工藤 岳
    原稿種別: 第32期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
    2024 年 33 巻 p. 76-80
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    植物のどのような形質が気候変動に対する種の反応に関係しているかを明らかにすることは,将来の高山植物群集の構成を推定するために不可欠である.気候変動に対する種によって異なる反応のメカニズムを理解するには,地上部と地下部の両方について,器官レベルおよび個体レベルの形質を含むさまざまな形質を同時に包括的に調べる必要がある.本研究では,日本の大雪山系の広葉草本12種を対象に,過去40年間で優占度が減少・増加したことが調べられている種について,26の機能的形質の違いを比較した.増加した種はより大きな根茎を持っていることなどがわかった.この研究から,地下部の個体レベルの形質(特に根茎)の理解が,気候変動に対する種の反応のより効率的な予測に貢献する可能性があることを示唆している.

2021年度 緊急助成
第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
  • 澤田 明, 高木 昌興, 佐々木 瑠太, 金杉 尚紀, 細江 隼平
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 85-96
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    遠隔島嶼や高山地域などの多くの鳥類の地域個体群は危機に瀕している.危機に陥らせる要因の解明には繁殖成績の正確な記述が要になる.本研究では,限られた調査時間と調査人員の中で,そうした地域で効率的に繁殖に関するデータを得るための新しい調査手法の確立を目指した.鳥類の繁殖データをとる場合,調査者は繁殖期を通して巣の見回りを行うことが多い.しかし,これには莫大なコストと鳥への負担がかかる.我々は,ダイトウコノハズクの個体群を例に,巣箱内に取り付けたトレイルカメラで自動的に繁殖状況を記録する方法の有効性を検証した.その結果,トレイルカメラによる調査は巣の見回りによる調査と同等か,より確実に繁殖の進捗を記録できることが明らかになった.加えてトレイルカメラによる調査は,カメラの設置と回収および一度の電池交換という3回の巣への訪問のみでその高精度なデータを取得できていた.繁殖成績を調べる調査においてトレイルカメラの有効性を確認できた.今後多くの希少種の調査にトレイルカメラが活用されることが期待される.

  • 柿添 翔太郎, 菅谷 和希, 三田 敏治, 中瀬 悠太, 小松 貴
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
    2024 年 33 巻 p. 97-103
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    2021年12月,沖縄本島においてこれまでに全く未知の超洞窟性チビゴミムシ族Trechiniの新属新種が発見された.本研究ではこの新属新種の分類学的研究を進め,オキナワアシナガメクラチビゴミムシRyukyuaphaenops pulcherrimus Sugaya, Kakizoe, Ooka, Tamura & Sone, 2023として記載と公表を行った.また,保全生物学的観点からさらなる調査の実施と本種の遺伝的集団構造の解明を進めた.チビゴミムシ族に代表される日本産地下性昆虫は,その調査の困難さから系統解析および集団遺伝解析に用いるDNAサンプルの収集が著しく立ち遅れている.よって本研究では,日本産チビゴミムシ族や他の地下性昆虫のDNAサンプル収集を目的として,地中トラップの改良,井戸水の調査方法の改良を行い,北海道,九州,沖縄県の各地で野外調査を実施した.その結果,日本産チビゴミムシ族32属のうち25属および他の地下性生物のDNAサンプルの収集に成功し,DNA配列決定を進めた.本稿では,上記の成果のうち公表済みのオキナワアシナガメクラチビゴミムシの分類学的成果を中心に,得られた成果と今後の展望を述べる.

第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内活動助成
第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内活動助成 地域NPO枠
第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 海外助成
  • 高橋 和也, 西川 博章, 田辺 礼子, TRAN Dong Quang, TRAN Tuyen Thi
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 海外助成
    2024 年 33 巻 p. 133-143
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    黄花ツバキはその経済的価値の高さから,無秩序な花・蕾の収穫による個体群の劣化が懸念されている分類群である.本研究は,ベトナムクエホン県に自生する黄花ツバキの一種Camellia quephongensisの生態的側面を明らかにし,保全方法を提案することを目的とするものである.調査の結果,急傾斜で不安定な斜面に成立する樹齢20~25年程度の二次林内や洪水の影響下にある河畔林内に生育していることが確認された.同種は攪乱によりダメージを受けても側芽を発達させ再生し多幹化する.このことが不安定立地での生育を可能にしていると考えられた.個体群サイズと齢分布を解析したところ,攪乱頻度が高い場所ほど個体群のサイズは小さく,稚樹・幼木の少ない逆ピラミッド型の齢分布となっていた.本種は人里近くの低標高地に生育し,ここには生育地のほかに人為的攪乱を受けている若い林分がモザイク状に分布していた.これら若い林分を潜在的生育地と想定した保全区の設定と計画的な収穫が必要である.

第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 海外助成
  • 石川 由紀, LUU Dung Viet, 小寺 昭彦, NGUYEN Quang Van, 小菅 丈治, NGUYEN Hien Than ...
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 海外助成
    2024 年 33 巻 p. 144-153
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ベトナム北西部に位置するスァントゥイ国立公園(Xuan Thuy National Park, XTNP)はラムサール条約登録地であり,多くの絶滅危惧種の生息地でもある.ワイズユースが認められているが,近年は国立公園内においてエビの集約的養殖が増加してきている.植物プランクトンや動物プランクトンなどの微生物相はXTNPにおけるマングローブ生態系の基盤であるため,集約的養殖が微生物相に与える影響について調査を行った.塩分,電気電導度,栄養塩濃度は集約的養殖場周辺の水とその他の地点では有意に異なる値を示した.植物プランクトンのアルファ多様性は塩分,電気電導度,リン酸塩と有意な関係を示した.また,集約的養殖場周辺の水体に生息する動物プランクトンのうち,富栄養化の指標であるワムシの平均個体数は,その他の地点と比べて11.8-62.9倍高い値を示した.重回帰分析の結果,塩分とリン酸塩がアルファ多様性に有意に影響を与えており,富栄養状態の微生物相になっていることが分かった.集約的養殖場周辺の水体の微生物生態系はすでに影響を受けており,ベトナムの水質基準に照らし合わせても集約的養殖場周辺の栄養塩濃度は最悪のレベルであった.マングローブ生態系保全のためには,廃水処理設備の導入などが今後必要である.

第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
  • 山本 将也, 池上 温人, 川本 晴希, 福井 萌花, 松原 信之
    原稿種別: 第33期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 特定テーマ助成
    2024 年 33 巻 p. 154-161
    発行日: 2024/05/30
    公開日: 2024/05/30
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ヒメタツナミソウは奄美群島の喜界島だけに生育するシソ科の多年草である.土地の造成工事などによって個体群は衰退傾向にあり,2020年には国内希少野生動植物種に指定された.本種はクローン繁殖能力が極めて高く,見かけ上の個体数と遺伝的な個体数(クローン数)には大きな乖離があると予想され,保全を進める上で大きな課題となっていた.そこで本研究では,残存する個体群の実態を把握するためにゲノムワイド情報を用いた集団遺伝解析を行った.島内で確認されているヒメタツナミソウの全集団から140個体を採集し,DNA分析に供した.MIG-seq法により取得したSNPs情報を用いて集団遺伝解析を行った結果,59クローンが存在することが明らかとなり,単一のクローンで形成されている大きなパッチも確認された.また,遺伝的多様性は近縁種と比較して低かったが,閉鎖花による自殖の影響は検出されなかった.本種の個体群維持のためには,クローン多様性が高い小さなパッチを優先的に保護したり,パッチ間でクローンを移植させたりすることが有効であると考えられた.

feedback
Top