豪雪地を含む東北地方に分布を拡大させるニホンジカ(Cervus nippon;以下,シカ)の予防的対応が急がれている.そこで,従来技術では検知が困難な侵入初期段階の低密度シカ個体群でも,個体検知可能な新手法としてボイストラップ法を考案し,その技術の高度化を目的とした評価試験を東日本各地で実施した.ボイストラップ法は,オスジカの鳴き返し行動を利用したAAM法(active acoustic monitoring)と,野外に設置したレコーダーを用いてオスジカの鳴声(howlとmoanの2種の咆哮)を録音し機械学習により検知するPAM法(passive acoustic monitoring)の2つからなる.AAM法は6調査地で7セット実施し,那須地域および朝日・飯豊山系にて鳴き返しを得ることに成功した.これは,当該地域にオスの定着個体がすでに分布していることを示唆する.PAM法は5調査地で7セット実施した結果,那須地域と朝日山系にてhowlの鳴声を検知した.これらの調査地は,既往のモニタリング手法では検知が困難なシカ低密度地域であることを考えると,ボイストラップ法の検知力の高さが本研究を通して明らかにされた.