2023 年 32 巻 p. 35-48
ツシマヤマネコが生息する長崎県対馬では,2000年代からニホンジカの個体数が急増し,森林内の下層植生の衰退が目立つようになってきた.下層植生の衰退は小型齧歯類の減少につながる怖れが高いことから,これらを主要な餌とするツシマヤマネコの個体群維持のためには,シカの増加が小型齧歯類に与える悪影響の程度を把握することが急務となる.そこで森林に設置された防鹿柵の内外と,草地及び隣接する森林の2地区4カ所において,2021・2022年の春と秋の計4回,小型哺乳類の捕獲調査を行った.ヒメネズミは柵内外を含め全ての森林で捕獲されたが,アカネズミは防鹿柵内のみで捕獲された.草地ではアジアコジネズミのみが捕獲され,齧歯類の生息は確認されなかった.本調査の結果,ツシマヤマネコにとって最も重要な餌動物であるアカネズミの生息密度は危機的な状況にあることが示唆された.ツシマヤマネコの個体群維持のためには,緊急的な保全策として防鹿柵を設置し下層植生を保持することを提案する.