2021年1月に発効した核兵器禁止条約(TPNW)を作り出したのは、核兵器がもたらす非人道的な被害に着目した「人道アプローチ」の取り組みであった。赤十字国際委員会(ICRC)やオーストリアなど有志国政府が進めたこの取り組みを世界のNGOや被爆者らが後押ししてきた。
これら市民社会が果たしてきた役割として挙げられるのは、第一に、核兵器の非人道性の認識を世界に広げたことである。広島・長崎の被爆の実相の証言に加え、核実験や原発事故の被害、さらに今日核兵器が使用された場合の想定も大いに議論された。
第二に、条約起草への貢献である。当初、化学兵器禁止条約などを参考にしたモデル核兵器禁止条約が作られた、その後、対人地雷やクラスター弾の禁止条約における「規範の強化」という観点が重視された。
第三に、各国政府への働きかけである。NGOが自国において、あるいは関連国際会議において各国代表に働きかけてきたことが、同条約の採択と発効につながった。
今後の課題、とくに日本に関わる重要な課題としては、2022年3月に開かれる第一回締約国会議に向けて、①核被害者への援助と環境回復の課題について被爆国としての経験を生かすことや②核兵器の廃棄と検証の議論に関与することが挙げられ、さらに、③日本がこの条約に署名・批准するために必要な法的・政治的論点を提示することが求められる