平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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巻頭言
特別寄稿
  • 川崎 哲
    2021 年 57 巻 p. 1-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    2021年1月に発効した核兵器禁止条約(TPNW)を作り出したのは、核兵器がもたらす非人道的な被害に着目した「人道アプローチ」の取り組みであった。赤十字国際委員会(ICRC)やオーストリアなど有志国政府が進めたこの取り組みを世界のNGOや被爆者らが後押ししてきた。

    これら市民社会が果たしてきた役割として挙げられるのは、第一に、核兵器の非人道性の認識を世界に広げたことである。広島・長崎の被爆の実相の証言に加え、核実験や原発事故の被害、さらに今日核兵器が使用された場合の想定も大いに議論された。

    第二に、条約起草への貢献である。当初、化学兵器禁止条約などを参考にしたモデル核兵器禁止条約が作られた、その後、対人地雷やクラスター弾の禁止条約における「規範の強化」という観点が重視された。

    第三に、各国政府への働きかけである。NGOが自国において、あるいは関連国際会議において各国代表に働きかけてきたことが、同条約の採択と発効につながった。

    今後の課題、とくに日本に関わる重要な課題としては、2022年3月に開かれる第一回締約国会議に向けて、①核被害者への援助と環境回復の課題について被爆国としての経験を生かすことや②核兵器の廃棄と検証の議論に関与することが挙げられ、さらに、③日本がこの条約に署名・批准するために必要な法的・政治的論点を提示することが求められる

依頼論文
  • 佐藤 史郎
    2021 年 57 巻 p. 7-29
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、核兵器不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons:NPT)の歴史を振り返ることで、同条約と核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons:TPNW)の関係性を検討することにある。

    現在、国際社会において、TPNWをめぐって政治的分断が生じている。具体的にいえば、NPTとTPNWの関係をめぐる意見の相違から、TPNWを支持する非核保有国と、同条約に反対する核保有国ならびに核の傘の下にある非核保有国との間で、政治的分断が生じている。

    この政治的分断について、その表層だけをみていては、ともすればNPTの歴史と論理を見落としがちになる。その結果、NPTとTPNWの関係性を見誤ることとなり、政治的分断がさらに深刻化するおそれがあろう。そこで本稿は、NPTの最大の特徴である不平等性の観点から、NPTとTPNWの関係性を深く検討する。

    本稿の構成は以下のとおりである。第1節では、NPTの目的と不平等性の内容を確認する。つづく第2節では、秩序/無秩序と平等/不平等をキーワードとして、NPTの不平等性が承認されている論理を抽出する。第3節はTPNWの目的とその特徴を確認する。第4節では、再び上記のキーワードを用いて、NPTの不平等性とTPNWの論理を示したうえで、NPTとTPNWの関係性を明らかにする。最後に、TPNWをめぐる政治的分断を解消するための方途を検討する。

  • 除本 理史
    2021 年 57 巻 p. 31-55
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    2011年3月の福島原発事故によって、大量の放射性物質が飛散し、深刻な環境汚染が生じた。地域丸ごとの避難は9町村に及び、役場機能が他の自治体に移転された。こうした大規模な避難は、地域社会に大きな打撃を与え、広い範囲で社会経済的機能が麻痺した。福島原発事故では、健康被害は「ただちに」生じないものとされる。それに代わり、大規模な避難による人びとの暮らしや地域社会の破壊が被害の前面に出る。しかし、奪われたものの総体、つまり日々の暮らしを成り立たせている条件を、全体として可視化するのは容易ではない。不可視化されやすい被害を意識的に明らかにしていくことが重要である。

    福島原発事故は、単なる自然災害ではなく人災であり、公害事件という側面をもっている。本稿ではこの点について「環境正義」論の視点からの既往研究などを踏まえつつ論じる。また本稿では、戦後日本の公害研究の成果を踏まえつつ、事故被害の総体を捉えるために、「ふるさとの喪失(または剥奪)」という視点を提示する。

    みえにくい被害を可視化するには、集団訴訟などの被害者運動が重要な意味をもつ。集団訴訟の原告たちは、国や東京電力の責任を追及するとともに、賠償や環境の原状回復を求めている。また、復興政策のあり方を転換していくことも目標とされている。そこで本稿では、賠償、復興政策の問題点について述べるとともに、それらの見直しを求める被害者の取り組みを概観したい。

  • 中尾 麻伊香
    2021 年 57 巻 p. 57-79
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    原爆被害をめぐる言説は、「反核」や「平和」に関する言動とどのように関わっていたのだろうか。原爆被害が隠されたとされる占領期と原爆被害の実相が明らかにされてきた1950年代を中心に、メディアにおける原爆被害をめぐる言説を検討した本論文は、それらの言説が被爆者の苦しみを生み出した側面を指摘している。原爆投下後の被爆地では、復興の文脈で原爆と「平和」が結びつき、科学の進歩や原子力の平和利用への希求の中、原爆被害は乗り越えたものとされた。占領終結後、原爆被害は全国的に知られるようになるが、それは過去の戦争の惨禍として受け取られた。1954年、アメリカの水爆実験による第五福竜丸の被災を契機に全国的な原水爆禁止運動が起こり、原爆被害への人々の関心の高まりとともに、被害者の援護も進んだ。このとき人々が反対したのは核の軍事利用であり、「平和」利用への道を揺るがせるものではなかった。原水爆禁止運動は、核兵器の恐ろしさを強調することで、とりわけ放射線被ばくと奇形を結びつけ、被爆者差別を助長した。すなわち占領期には原子力「平和」利用への希求が、占領終結後の1950年代には「反核」運動が、原爆被害の不可視化、可視化に関わり、被爆者の苦しみを生み出していた。平和を希求する私たちには、言説の背後の多様性と、言説によって生み出されるものへの想像力を働かせながら、なおも言説を紡いでいくという難題が課せられている。

投稿論文(特集)
投稿論文(自由論題)
  • 吉井 美知子
    2021 年 57 巻 p. 81-107
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    フランスと日本はともに世界屈指の原発推進国であるが、すべての建設計画が実現したわけではない。本研究では市民の大規模な反対運動によって計画が撤回された仏プロゴフと三重県芦浜を事例に、運動のなかで女性の果たした役割について考察する。

    プロゴフは仏西部ブルターニュ半島の先端近くに位置する。ここで1970年代後半に持ち上がった大規模な原発計画を、地元の村落女性を中心に始まった運動で封じ込めた。男性は遠洋航海の仕事で長期に不在、留守番の女性たちは夜ごとに道路をバリケード封鎖したり、終日村の広場に座り込んだりと、粘り強く運動に取り組んだ。

    芦浜は三重県南部の海岸で、1980年代から二度目の原発計画が持ち上がる。1994年、計画容認決議を取らせまいと、漁家の女性たちが夜を徹して古和浦漁協前の最前列に座り込み、計画阻止に大きく貢献した。地域の分断にも長期に耐えた。

    プロゴフ女性は、女性だからできた、毎日毎夜の活動は男性には忍耐力がなくて無理だと証言する。古和浦女性は、男性は世間体や面子を優先するが、女性は子孫に海を引き継ぐことを考えたと述べる。

    両事例は1970年代のフランスや1990年代の日本で、社会的地位の低かった女性が、しがらみのなさを逆手に取って、家族に海を残そうと闘った成果である。女性の地位が向上した現在、今後は女性が権力を持つ側に回り、原発をなくす方向に社会を動かしていくことに期待したい。

  • 鴫原 敦子
    2021 年 57 巻 p. 109-135
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、「開発主義」を分析視覚に用いて、東電福島原発事故後の「復興」が、日本の開発体制の変遷の中でどのような意味を持ったのかを明らかにすることにある。

    日本の原発政策は、経済成長の達成と国力の強化を第一義的国家目標に据える開発主義体制のもと、手厚い保護下で推進されてきた。3.11後の「復興」は、この体制下で「日本経済再生」を最優先に展開されたものであり、事故を経ても原発の重要性が強調されるに至っている。

    その一方で生命に関わるリスクは過小評価され、環境中に放出された放射性物質の処理など、今も置き去りにされている被害がある。こうした困難な問題に対し、現行法との整合性が取れない対処法が積み上げられ、ジョルジョ・アガンベンがいう「例外状態」が常態化している。

    このように核の「平和利用」は、破局的被害を生む核が必然的にもたらす乗り越え難い被害を、周辺と未来世代に転嫁して成り立つ。原発事故は、この構造的暴力を露呈したが、「復興」は再びこれを不可視化する役割を果たしつつある。

    他方、中央集権的成長戦略が地域社会の平和に結びつかないことに気づき始めた市民社会では、生存基盤の自律性を回復するための実践が動き出している。原発による被害の再生産を回避するには、経済成長を至上とする開発主義の解体とともに、「地域民衆の平和」を求める実践のグローバルな連帯こそが重要である。

  • 藤井 広重
    2021 年 57 巻 p. 137-165
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    本稿は、アフリカ連合(AU)における意思決定に関する現況を、対国際刑事裁判所(ICC)政策に関する議論とアプローチから整理し、その変容過程を検証することで、アフリカ域内からアフリカ域外へと影響力を拡大、行使しようするアフリカ諸国による試みの実態解明に貢献することを目的としている。考察の枠組みとして、まず司法化に関する先行研究を整理し、次いでアフリカの一体性を形成するAUの意思決定プロセスとその機能を確認した。最後にAUにおけるICCに対する司法化の具体的な展開について検証し、AUによる国連総会での国際司法裁判所(ICJ)への勧告的意見要請の背景と、この動向がICCに与えうる影響について、AU側の視点から指摘した。

    本稿はAUが対ICC政策において、司法化を進捗させアフリカの一体性を維持し「ひとつの声」として法的権利を主張しながら、ICC司法介入をめぐる交渉に臨んできたことを明らかにした。AUは当初、ローマ規程の枠組みから加盟国の権利を主張してきたが、これに失敗すると次いでAU総会にて決定を行うことで自ら法的権利を作り出した。そして、この法的権利の論拠が揺れ始めると、今度は国際慣習法を根拠にICJへの委任を目指した。AUは総会での議論と決定を巧みに利用することで対外政策を変容させ、アフリカの一体性のもとでアフリカの外部と交渉しようとしている。本稿の考察は、今後のアフリカとアフリカ域外との関係性を捉えるための新しい視点を提示した。

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