2022 年 58 巻 p. 19-45
平和学は、気候危機やコロナ禍といったノン・ヒューマンにどのように向き合い、平和を創っていけるのかという問いが「気候変動と21世紀の平和」プロジェクト立ち上げの契機であったことを確認した。本稿は、ノン・ヒューマンとの平和を生成するためにヒトには何ができるのかを論じた。
第1節ではバイオームとアンスロームの区分を確認し、ヒトの諸活動が地球にどのような負荷(=暴力)をもたらしているのかを論じた。第2と第3節では「複数の文化・単一の自然」という理解自体が問題であり、その脱却のために、「複数の文化・複数の自然」という視座の重要性を論じた。第4節では地球が生命にとって生存可能なのはノン・ヒューマンの複雑な相互作用の結果であることを近年の科学的知見に基づいて論じた。第5節では、ノン・ヒューマンの権利を近代法体系に書き込んだ例として2008年エクアドル憲法と2017年ワンガヌイ川申立調停法を取り上げ、そこではノン・ヒューマンが社会の中心に再配置されつつあることを明らかにした。第6節では、こうした動きによって人間特有の精神・や所有を起点とする近代法体系下の政治的諸概念の中身が変容する可能性を論じた。最後に、近代システムを内側から生成変化させる鍵としての「センス・オブ・ワンダー」に注目し、ノン・ヒューマンとの平和構築という課題に取り組むことの意義を確認した。