世界を破壊し、略奪し、搾取し、傷つけるのではなく、社会を回復させ、育み、共に生きるための社会構想の中心概念に「ケア」がある。人生のライフサイクルにおいてケアする・ケアされるという相互行為が不可避であるとすれば、ケアを支えるのが誰であり、ケアの担い手とどのような関係を築くのかという問いが重要である。現在、ケアは多くの移住女性によって担われているが、国家と市場との共犯関係によるジェンダー化された国際移動は、不自由な労働者を生み出す「構造的暴力」と言える。本稿では、台湾と日本で就労する移住ケア労働者に着目し、多様な脆弱性を明らかにする。そのために移民レジームと福祉レジームという概念を手がかりとし、異なるレジームの交錯点における移住ケア労働者の特徴を踏まえ、移住ケア労働者が移住労働者であることに加えて、ケアという職種がどのように多様な脆弱性と結びつくのかについて検討する。ケア労働は高齢者と排泄に関わることから、社会秩序を乱すものとして忌避され、ケアの現場はグローバル資本主義による廃棄を集中的に体現する構造的暴力に満ちた空間になりえる。一方、国際規範形成やシティズンシップへのアクセス、多文化ケアコミュニティ形成も進行しており、移住労働者を含めたケア労働者の承認と権利付与に向けた対抗の足場も形成されつつある。移住労働者をケアすることは社会をまともなものとするための第1歩なのである。