本稿では,政治哲学を規範研究として捉えたうえで,それが平和という主題にどのようにアプローチしうるかを検討する。政治哲学,とりわけ正義論は,世界内の「である」の側面について考察する実証研究とは異なり,世界内の「べき」について考える規範研究である。その課題に取り組む際のアプローチは理想理論と非理想理論の2つの下位領域に区別することができるが,国際社会においては無政府状態や強制力の不在という構造的条件から,非理想状態に対処するための非理想理論が主要な問いとなる。こうした理論の一例として正戦論がある。ただし,正戦論の内部にも,規範研究が掲げる理想化の水準をめぐり,ユートピア主義と現実主義のあいだで論争が生じている。政治哲学には,非現実的ユートピアをあえて掲げる側面が含まれるが,こうした側面の延長線上に位置づけられる平和研究のありうるアジェンダとして、機会費用の平和主義,戦争廃絶の正義,世界統合論に注目することができる。