2025 年 64 巻 p. 113-133
本稿の目的は、「政治」をノン・ヒューマンに拡張することを提唱する前田幸男『「人新世」の惑星政治学——ヒトだけを見れば済む時代の終焉』との対話を通じて、人新世時代における世界の構成(composition)のあり方を探ることである。「人新世」とは、人類の活動が地質学的な変化をもたらしていることを表す、新たな地質年代を指す。こうした人新世のインパクトを受け、国際関係論においてもポスト・ヒューマンやマルチ・スピーシズなどの多種多様な研究潮流が続々と登場している。本書もこうした流れを批判的に受け継ぎながら、人間とノン・ヒューマンとの新たな関係性を踏まえた存在論について考察した最新の成果として位置づけることができよう。そこで、本稿では惑星限界を迎えた地球において、人間とノン・ヒューマンとはどのような関係性を築くことができるのか、またそのための枠組みとはどのようなものかについて、本書が提案する惑星政治(学)の妥当性を検討する。その上で、人新世時代においては人間同士の関係のみを扱うことはもはや不可能であり、人間と他の生命、さらには活動空間を提供するマテリアルな惑星地球を考慮に入れざるを得ないという基本的な考え方に賛同しつつ、その具体化にあたっては、一足飛びに惑星「政治」を構想する前に、人間とノン・ヒューマンとの会話を豊かにしていくという意味での「外交」が必要であることを論じる。