抄録
ソフィー・ロイドルトの『法現象学入門』は、フッサール以降の法現象学の企てを網羅的に整理したもので、法現象学に関心を寄せる者にとって必読の一冊である。その一方で、現象学研究者が執筆した同書は、現代の法哲学=法理学の議論に対して現象学がいかなる仕方で貢献できるかを十分に考察していない。本稿の目的は、法への現象学的アプローチの可能性と課題を現代の法哲学の観点から整理・考察することである。法哲学の主題は三つに分けて整理されることが多い。すなわち、法とは何かという法の概念の解明を中心とする「法の一般理論」、法の解釈・適用過程や法的推論の構造の解明を試みる「法律学的方法論」、法の目指すべき価値とその具体的な制度構想を探究する「正義論(法価値論)」の三つである。本稿は、それらのうち法哲学に固有の前二者との関係で、現象学的アプローチの可能性を考察し、法的本質直観の分析、法秩序の静態的/動態的現象学、法的価値の構成分析、法的思考における暗黙知の現象学的解明、批判的法現象学という五つの課題を摘出する。