抄録
【はじめに】介護サービスに従事している勤労者の腰痛発生率は高く、作業時の腰痛発生に関する知識の習得や職場での自己管理が重要であるとされる。そこで今回、介護サービススタッフに対する出前腰痛教室を担当し、腰痛に関する情報を収集する機会を得たので報告する。
【出前腰痛教室】社会福祉協議会介護事業課から腰痛教室の依頼を受け、理学療法士が会場へ出向いて90分の講義を担当した。内容は、腰痛に関する基本的な解剖学、運動学、ボディメカニクスなどの知識を説明した。また実技として、職場で可能な腰痛体操の指導し、サービス利用者の床上動作や移乗動作の介護を想定した介護方法について実演を交えて組み立てた。
【腰痛実態調査】聴講者全員に腰痛に関する、無記名式アンケートを配布し終了時に回収した。調査実施に関しては事前に目的を説明し同意を得た。また収集したデータは特定のパソコンのみで解析し主研究者が責任を持って管理した。
回収数は30件(回収率100%)、全て女性であった。年齢は34~66歳で平均48.7歳(SD=8.8)、経験年数は1年~16年で平均7.1(SD=3.9)年となっていた。介護職として就職してから腰痛を経験した者(以下、腰痛群)は、27名に認めた。予防対策として普段実施している内容(重複解答)は、腰痛体操:6名、柔軟体操・ストレッチ:7名、筋力トレーニング:4名、腰ベルトの着用:4名であった。
腰痛群(n=27)の詳細は、時に軽い腰痛:20名、常に腰痛がある:7名であった。就職後腰痛を感じるようになった時期に関しては、1年以内:12名、2年目・3年目:それぞれ5名、4年目以降:5名であった。腰痛と介護業務との関連性は、非常にある:17名、少しある:8名、わからない:2名となっていた。日常生活での困難度は高い順に、中腰姿勢:22名、重量物の挙上または保持:21名、1時間くらいの座位:13名、立位の持続:11名、立ち上り動作:10名であった。
【考察】結果から9割が腰痛を経験しており、中腰姿勢の困難性や就職後早期に腰痛を経験している回答者が多いことが再認識された。今後も就職後早期から介護スタッフの自己管理を習得させる目的での出前腰痛教室や新人研修の開催に腰痛に関する知識を持つ理学療法士が介入する意義は大きいと考える。また日常的に予防として体操を行っている対象者も散見されるが、半数以下であり改善の必要性がある。さらに腰痛と介護業務との関連性も高いとするケースが多く、各自が腰痛予防に関する運動解剖学的な知識を介護場面に活用し、自分の腰への負担を軽減させる能力の向上が重要と示唆された。