関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第28回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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口述発表
神経系
  • 下田 栄次, 米沢 昌宏, 松本 肇, 曽根 理
    セッションID: 1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中発症により、日常生活動作能力が低下し、主たる移動手段が車椅子となり、生活範囲が制限される事が多い。生活範囲の拡大を図る過程において移乗動作の自立は重要だが、移乗動作自立度に関する研究は少なく、各要因の及ぼす影響に関しても明らかではない。そこで、本研究の目的は、脳卒中片麻痺患者を対象にFunctional Independence Measure(以下FIM)における移乗項目に着目し、移乗動作の自立度に影響を及ぼす因子について検討する事である。
    【対象】
    対象は、当院入院中の脳卒中片麻痺患者で、FIM・移乗項目において5点以下を非自立群、5点以上を自立群とし、研究の目的及び方法を説明し、十分な同意と協力が得られた計34名(男性14名、女性20名、年齢75.7歳±10.1歳)。重篤な意識障害、失調症、失語症、立位保持に影響を与える整形疾患の既往を有する者は除外した。
    【方法】
    調査・測定項目は年齢、性別、発症経過日数、FIM・移乗項目、改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)、Japan Stroke Scale-Higher Cortical Function(以下JSS-H)、麻痺側Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)、非麻痺側握力、非麻痺側膝伸展筋力、麻痺側膝伸展筋力の10項目。統計処理にはMann-Whitney検定を用いて単変量解析を行い有意差を認めた項目を独立変数、FIM・移乗項目を従属変数としstepwise法を用いて多変量解析を行った。尚、事前にSpearmanの相関検定により、独立変数間の内部相関を求め、相関が非常に強い場合にはどちらか一方の項目を除外した。有意水準はいずれも5%未満とした。
    【結果】
    HDS-R、JSS-H、BRS上肢、BRS下肢、非麻痺側握力、非麻痺側膝伸展筋力、麻痺側膝伸展筋力にて有意差を認めた。有意差を認めた項目の内部相関に関して「HDS-R」と「JSS-H」(r=0.815)、「BRS下肢」と「麻痺側膝伸展筋力」(r=0.827)との間に非常に強い相関を認めた(p<0.05)。stepwise法を用いた多変量解析では「JSS-H」と「麻痺側膝伸展筋力」が最終選択された。
    【考察】
    今回の結果から、高次脳機能・麻痺側膝伸展筋力の要因が脳卒中片麻痺患者における移乗動作自立度に影響を与える事が示唆された。移乗動作自立度は麻痺側機能に加えて動作を遂行する上で高次脳機能障害に関する評価や訓練が重要であると考える。更に今後の展望として移乗動作自立度における具体的な評価水準に関する検討が必要であると考える。
  • 笹崎 裕貴, 目崎 保
    セッションID: 2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】歩行自立の予後は担当療法士の主観により予測されることが多いと思われる.このとき具体的な数値での指標があれば個人の臨床経験に関わらず,患者の歩行自立を予測する上で有用と考えた.そこで今回,当院回復期病棟における脳血管障害患者の入院時Functional Independence Measure(以下,FIM)を使用し,歩行自立の予後予測に活用する為,検討・調査した.
    【対象】2008年1月から2008年12月の期間に,当院回復期病棟を退院した脳血管障害患者95名(男性60名,女性35名;脳梗塞52名,脳出血43名)とした.ただし,上記の期間に複数回入退院を繰り返した患者,急性増悪により他の医療機関へ転院した患者,クモ膜下出血は除いた.
    【方法】対象から歩行可能な脳血管障害患者を,退院時病棟内歩行の自立群(以下,自立群)と非自立群に分類し,それぞれの入院時におけるFIM運動項目の合計点,認知項目の合計点を比較し,検証した.ただし,歩行可能の定義として,歩行補助具や介助の有無に関わらず,最低10m歩行できる患者とした.また,入院当初から病棟内歩行が自立していた患者は除外した.統計は,2サンプルコルモゴロフ・スミルノフ検定を用い,危険率5%未満を有意水準とした.
    【結果】自立群は35名(男性24名,女性11名,平均年齢68.3±11.0歳),非自立群は35名(男性20名,女性15名,平均年齢73.6±9.1歳)であった.男女比,年齢において2群間比較では有意差を認めなかった.運動項目の合計点において有意差を認め,61点以上であれば,86.4%は歩行が自立していた.各項目別には,トイレ動作は6点以上であれば,92.9%は歩行が自立していた.移乗動作(ベッド・椅子・車椅子,トイレ)が6点以上であれば,94.8%は歩行が自立していた.しかし,移乗動作の5点では自立群が低下し,ベッド・椅子・車椅子移乗では53.3%,トイレ移乗では60%となり,6点以上と比べ低値だった.認知項目の合計点においては,自立群と非自立群には有意差を認めなかった.
    【考察・まとめ】退院時病棟内歩行の自立の可否は,入院時におけるFIM運動項目の合計点が反映されていた.各項目別には,トイレ動作が6点以上であれば高い確率で,歩行が自立していた.トイレ動作と歩行自立度の関連が示唆された為,歩行練習と並行し,継続したトイレ動作練習を行うことで,歩行自立の可能性が高くなると考える.また,移乗動作は,静的姿勢保持から随意運動に移行する動的バランス能力が重要とされる.その為,移乗動作5点の自立群,非自立群とでは動的バランス能力の差が歩行の自立の可否に影響したと考えられる.今回の結果から,認知項目の合計点において有意差は認められず,当院回復期病棟での病棟内歩行の予後予測には運動項目の合計点が指標として有用と考える.
  • 古田島 崇, 大塚 功, 熊﨑 博司, 原 寛美(MD), 井上 勲(MD)
    セッションID: 3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年ニューロリハビリテーションの考え方が広まりつつある.その手法の一つに麻痺側,非麻痺側をともに積極的に使用するBilateral movement training(以下Bmt)があげられる.
     今回,ラクナ梗塞発症後,左片麻痺を呈し,治療アプローチとしてBmtを主として行なった症例を経験した.急性期から杖などの歩行デバイスを用いない理学療法プログラムにより独歩獲得までに至った理学療法(以下PT)経過についてまとめ,考察を加え報告する.
    【症例紹介】
     70歳男性.妻と二人暮らし.病前ADLは全自立.ラクナ梗塞にて当院に入院.発症当日よりPTを開始した.既往歴・合併症は特になし.
     リハ開始時のNational Institutes of Health Stroke Scale(以下NIHSS)は6点.左片麻痺は12段階式片麻痺回復グレード(以下12グレード)で上肢8手指12下肢5.FIM運動項目(以下m-FIM)は37/91点であった.
    【理学療法経過】
     発症当日からKAFO装着,Boby Weight Supported Walker(以下BWS Walker)を使用しての歩行訓練を実施.その後Gait Solution Design(以下GSD)装着とBWS Walkerを使用しての歩行訓練.その後GSD装着での杖なし介助歩行訓練,ポールウォーキング等を行い,徹底してBmtを行なった.  発症8日目には病棟監視歩行を獲得し,発症15日目に病棟内歩行自立となり,発症26日に自宅退院となった.
     なお歩行速度は10m歩行において16病日で43cm/secだったがポールウォーキングでの訓練導入後の歩行速度は向上し,退院時の25病日目では105cm/secとなり,実用レベルまで向上した.
     退院時にはNIHSSは1点.12グレードは上肢・手指・下肢ともに12.m-FIMは90/91点.歩行は杖・装具なしで屋外自立となった.
    【考察】
     本症例は発症当日からBmtを用いた歩行訓練を行ない歩行パフォーマンスの向上が得られた.その理由として脳梁を介す両側大脳半球間の抑制メカニズムに基づきBmtを実施した事で両側の脳の活性化が図られ,左右の脳のアンバランスの改善が行なわれたのではないかと考える.また,ポールウォーキングを実施したことにより歩行に対する不安が軽減され,よりダイナミックに歩行を行なうことができ歩行スピードが向上したと考える.
     将来的に杖なし歩行を獲得すべき症例に対し,早期からのBmtによるアプローチは,Bmtを行なっていない症例と比べ早期に実用的な歩行速度の獲得,歩行持久力の改善に有効なアプローチ方法と考える.
     今後Bmtを行なっていない症例のデータを収集し比較し,新しい脳卒中患者の歩行訓練のストラテジーを提案,検証していきたい.
  • ―当院の状況とALSガイドラインとの比較―
    玉田 良樹, 寄本 恵輔, 大久保 裕史, 佐藤 美由紀, 馬木 良文
    セッションID: 4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 当院における,筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の胃瘻造設術(PEG)の導入時期について調査し,ALS治療ガイドラインで示される時期と実際に造設した時期との間に解離があるかを検討することである.
    【対象】 2001年から2009年1月までに当院において,PEGを行ったALS患者41名(男性22名,女性19名)を対象とした.平均年齢は62±10.9歳.病型は上肢型13名(男性10名,女性3名),下肢型9名(男性3名,女性6名),球麻痺型16名(男性6名,女性10名),呼吸筋麻痺進行型3名(男性3名,女性0名)である.
    【方法】 PEG時の年齢,発症期間,ALS機能評価スケール(ALSFRS-R),病型についてカルテより後方視的に調査し, 1.気管切開前にPEGをした群(PEG先行群)と気管切開後にしたPEGをした群(気管切開先行群) 2.各病型別 3.PEG先行群のPEG時期の呼吸機能 4.気管切開後のPEG造設時期について比較検討した.統計解析はstat View 5.0(1992-98 SAS Institute Inc )を使用した.
    【結果】 44%のALS患者が気管切開後にPEGをしていた.年齢はPEG先行群61.5±10.2歳,気管切開先行群62.8±11.9歳.発症期間はPEG先行群2.2±0.8年,気管切開先行群4.0±4.7年.ALSFRS-Rは,PEG造設群26.1±8.2点,気管切開先行群11.6±5.6点であった.病型別は,球麻痺型ではPEG先行群が75%と多く,呼吸筋麻痺進行型では全例が気管切開先行群となっていた.各病型別は,上肢型3.4±3.4年,下肢型2.5±1.1年,球麻痺型3.1±4.1年,呼吸筋麻痺進行型1.8±0.9年.ALSFRS-Rにおいては,上肢型17.0±9.4点,下肢型16.4±7.9点,球麻痺型24.5±11.1点,呼吸筋麻痺進行型16.3±4.5点であった.呼吸機能は,PEG先行群では拘束性換気障害を呈し,血液ガス分析上は既に慢性呼吸性アシドーシス・代償性代謝が亢進している状態であった.気管切開後のPEG時期は,平均6ヵ月であるがばらつきが大きく,病型別にみてもばらつきが大きいことが認められた.
    【考察】 4割を超えるALS患者が気管切開後にPEGが行われていた.PEGが先行した群においても既に呼吸機能が低下していることが明らかとなり,ALS治療ガイドラインで示される時期と実際に造設した時期との間に解離があることが示された.ALSは様々な経過を辿って進行するため,PEG時期の決定は難しい.またPEGにおいては,患者の明確な意思が重要となる.したがって,ALSにおける嚥下障害に対し,より多くの判断材料を適切な時期に提供し,その中において患者が自由に意思決定できるよう機能的,教育的,精神的にアプローチをすることが必要であると考えられた.
  • 成保 紗織, 目崎 保, 稲田 征男(OT), 大山 夕織(ST)
    セッションID: 5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】経管栄養の患者を治療する中で,身体機能が向上すると摂食・嚥下機能が向上し,食事が経管栄養から経口摂取に変わる印象を受けた.このことから身体機能と摂食・嚥下機能に関連があるのではないかと考えた.今回は食事姿勢である座位に着目し,座位バランス能力と摂食・嚥下機能との関連性について検討した.
    【方法】対象は,当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中患者57名(男性29名,女性28名,平均年齢75.1±18.1歳).内訳は,脳梗塞34名,脳出血19名,くも膜下出血4名であった.対象者の座位バランス能力と摂食・嚥下機能の評価を同日に実施し,関連性を検討した.なお,座位バランス能力はMotor Assessment Scale(6段階),摂食・嚥下機能は藤島の摂食・嚥下能力グレード(10段階)を用いた.座位バランス能力はPT・OT,摂食・嚥下機能はSTが評価をした.統計処理は,危険率5%を有意水準とし,Spearmanの順位相関係数検定を用いて分析した.
    【結果】座位バランス能力と摂食・嚥下機能の間に相関がみられた(p<0.05).座位バランス能力と摂食・嚥下機能がそれぞれ高い患者の人数,座位バランス能力と摂食・嚥下機能がそれぞれ低い患者の人数が多い傾向にあった.座位バランス能力が高い群には,摂食・嚥下機能が低い例はなかった.座位バランス能力が低い群では,摂食・嚥下機能が高い例があった.経管栄養の患者20名の座位バランス能力は,1が12名,2が6名,3が2名,4以上が0名であり低かった.
    【考察】結果より,座位バランス能力が摂食・嚥下機能を図る上での一指標となることが示唆された.座位バランス能力が高い群には摂食・嚥下機能の低い例はなかった.これは,体幹の筋活動が十分に機能し,体幹の安定性が得られたことで,末梢の頭頸部の安定につながり,咀嚼,嚥下に必要な筋緊張が調整され,十分な筋活動が得られたためと考える.座位バランス能力の低い群に摂食・嚥下機能が高い例があった.これは,精神機能低下やpusher症候群等の高次脳機能障害の影響により座位バランスは不安定だが,嚥下に必要な頭頸部や顔面・口腔内の筋緊張は整っていたため,摂食・嚥下機能が高かったと考える.経管栄養の患者は,末梢の頭頸部や顔面・口腔内の筋活動の機能がより低下している.これは,体幹の筋活動が十分に機能せず,中枢部が不安定となっているために生じていると考えられる.また, 経管栄養の患者の中には,精神機能低下により,動作の指示が入らないケースがあると考えられる.そのため,経管栄養の患者は座位バランス能力が低い結果であったと考える.
  • 齋藤 透
    セッションID: 6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】今回は過度な右側弯・前屈姿勢で腰痛、右下肢の痺れを呈する58歳の若年性parkinson病(以下PD)患者を担当した。入院から外来を通じて治療経過を追うと共に、在宅での生活を加味した管理とリハビリ、注意点に対して再考慮したい。
    【症例紹介・方法】症例はH8年に字の書き難さで発症。徐々に前屈・非対称姿勢、右側優位の固縮・振戦を認め、H18年よりシルバーカーを使用。同時期より転倒回数の増加並びに腰痛をきたした。報告時はYhar4。今回は薬剤性の意識障害・異常行動のため入院。座位保持は右上肢優位での支持を要し、歩行は二つ折れの姿勢で前方突進はあるが可能。needは「姿勢を真っ直ぐにしたい」ということであった。治療は1回40分、計4回、外来で週1回、数回の運動療法を実施。起居動作、姿勢、歩行をビデオ撮影し、また検査項目としてTimed Up and Goテスト(以下TUG)の治療前後の比較(シルバーカー使用)。治療に繋げる視点から動作の問題点を検討、自宅での練習及び管理状態を調査した。尚、症例より掲載の承諾を頂いた。
    【結果】TUGの治療前後は23秒から34秒(2/13)、32秒から40秒(2/23)と増加した。治療前後では立ち上がり方、姿勢、前方突進が改善、腰痛・下肢の痺れは減弱、また転倒回数が減少した。
    【考察】結果より時間の延長を認めた要因は、本人が対象姿勢を意識し、ゆっくり動作を行っているためと思われる。非対称姿勢の主要因は右肋骨と骨盤間の伸展活動の低下、二次的要因に右股関節の屈曲内旋固定が見られた。左記に着目し姿勢改善を図ることで運動のbaseとなる全身の筋緊張が整い、体幹の抗重力活動が向上したためと考える。治療場面は背臥位で四肢の運動から体幹の支持性を高め、段階的に立位で体幹を空間で保持をするようにしたことが姿勢に関して認識しやすかったと思われる。自宅での姿勢管理では坐位時は机上に両肘を着き非対称姿勢の管理を喚起し、左殿部に支持面を持つように意識付けし対称的な姿勢に近づけたことが腰痛低下・治療効果の持続に繋がったと考える。
    【まとめ】今回対称的な体幹、抗重力活動を再学習し視覚的な情報により再確認し、実際の環境を工夫することで数回のリハビリにより改善が図れた。今後の課題として、治療の期間を考慮し学習をどれだけ持続できるかを検討していきたい。
生活環境支援系
  • 大峯 智恵, 上遠野 彩, 南崎 惠, 冨澤 徳, 阿部 裕美, 山梨 忍, 神林 薫, 居村 茂幸
    セッションID: 7
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】  当院のある茨城県高萩市は、65歳以上が25.1%の超高齢社会であり、地理的にはJR駅を中心とする市街地と85%を占める山間部に二分される特徴がある。<BR>当院は、主として急性期・回復期病院を退院した地元住民の回復期後期から慢性期・維持期患者の入院訓練継続を行い、在宅環境では通所・訪問リハビリを提供するという、地域と密着した機能を持つ病院である。しかし、これまで病院における医療提供以外の場面では地域住民との交流の機会はなく、高萩市民の特性や地域性を十分把握せずに過ごしていた。地域医療を行なう上で地域を知ることは大切なことであり、今回、茨城県指定地域リハ・ステーションの事業一環として開催している介護予防教室を、地域を知りそこに住む方々と交流を持つ機会にもしようと考えた。以下にその取り組みと結果を若干の考察を交えて報告する。 【対象・方法】  教室開催の広告を当院や公民館に掲示して周知を図った。応募者の年齢は40歳代から80歳代で、総数60名であった。教室の目的であった体力測定・介護予防体操等の合間に参加者と昼食を共にし交流の場とした。また、生活スタイルや地域性に違いがあると予測される山間地域と市街地域の特徴を把握するため、本事業をそれら2か所にて実施した。尚、病院スタッフは医師1名、看護師1名、PT7名、OT5名、ST3名であった。  【結果】  参加者数の内訳は山間部11名、市街地49名である。<BR>その特徴として、市街地域の住民は積極的で意思表示が明確である反面、催事の進行に手際よさを求められ、その、言わば「性急さ」は山間部住民の緩やかな時間感覚と好対照な印象を持った。<BR>昼食時は参加者とスタッフが同席し、和やかな雰囲気のもとに交流を図ることができた。山間部・市街地を通して、今回の開催が参加者の外出の機会となり、「また行なって欲しい」「楽しかった」という意見が多く寄せられた。スタッフからも病院以外に地域の方と関わりが持て、「新たな交流の場となった」という意見が聞かれた。 【考察】  今回の教室開催によって、私達が院内の業務にとどまらず、病院組織そのものが地域に入っていくことで住民との交流の場が形成され、医療機関と住民の距離を近づける機会となったことが実感された。今後、同一地域においても、住民在住地区特性にも配慮した活動がよりよい地域医療に繋がり、また、住民同士の新しい出会いの場となって障害を負った地域住民の療養のための新たな環境・ネットワークを作る機会にもなると考える。今回の目的であった地域との関わりは回を重ねるごとに密になっていくと期待され、地域リハビリテーションケアの基盤を形成する核になるものと考える。
  • ―腰痛実態調査結果に対する考察―
    戸渡 敏之, 松本 潔, 松本 純子
    セッションID: 8
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】介護サービスに従事している勤労者の腰痛発生率は高く、作業時の腰痛発生に関する知識の習得や職場での自己管理が重要であるとされる。そこで今回、介護サービススタッフに対する出前腰痛教室を担当し、腰痛に関する情報を収集する機会を得たので報告する。
    【出前腰痛教室】社会福祉協議会介護事業課から腰痛教室の依頼を受け、理学療法士が会場へ出向いて90分の講義を担当した。内容は、腰痛に関する基本的な解剖学、運動学、ボディメカニクスなどの知識を説明した。また実技として、職場で可能な腰痛体操の指導し、サービス利用者の床上動作や移乗動作の介護を想定した介護方法について実演を交えて組み立てた。
    【腰痛実態調査】聴講者全員に腰痛に関する、無記名式アンケートを配布し終了時に回収した。調査実施に関しては事前に目的を説明し同意を得た。また収集したデータは特定のパソコンのみで解析し主研究者が責任を持って管理した。
     回収数は30件(回収率100%)、全て女性であった。年齢は34~66歳で平均48.7歳(SD=8.8)、経験年数は1年~16年で平均7.1(SD=3.9)年となっていた。介護職として就職してから腰痛を経験した者(以下、腰痛群)は、27名に認めた。予防対策として普段実施している内容(重複解答)は、腰痛体操:6名、柔軟体操・ストレッチ:7名、筋力トレーニング:4名、腰ベルトの着用:4名であった。
     腰痛群(n=27)の詳細は、時に軽い腰痛:20名、常に腰痛がある:7名であった。就職後腰痛を感じるようになった時期に関しては、1年以内:12名、2年目・3年目:それぞれ5名、4年目以降:5名であった。腰痛と介護業務との関連性は、非常にある:17名、少しある:8名、わからない:2名となっていた。日常生活での困難度は高い順に、中腰姿勢:22名、重量物の挙上または保持:21名、1時間くらいの座位:13名、立位の持続:11名、立ち上り動作:10名であった。
    【考察】結果から9割が腰痛を経験しており、中腰姿勢の困難性や就職後早期に腰痛を経験している回答者が多いことが再認識された。今後も就職後早期から介護スタッフの自己管理を習得させる目的での出前腰痛教室や新人研修の開催に腰痛に関する知識を持つ理学療法士が介入する意義は大きいと考える。また日常的に予防として体操を行っている対象者も散見されるが、半数以下であり改善の必要性がある。さらに腰痛と介護業務との関連性も高いとするケースが多く、各自が腰痛予防に関する運動解剖学的な知識を介護場面に活用し、自分の腰への負担を軽減させる能力の向上が重要と示唆された。
  • 山本 晋史, 福嶋 正志, 関 修司, 佐藤 孝彦, 山口 晴保
    セッションID: 9
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】認知症高齢者の多くに失禁やトイレ動作が自立して行えないといった排泄障害がみられ,ケアの最たる問題点の1つになっている.本研究では,排泄障害のある認知症高齢者に対して,定時刻に一定の環境下で排泄誘導を継続することで動作が学習・習熟され,それが施設内の日常生活活動(以下ADL)や認知機能の改善につながるかを検証する. 【方法】老人保健施設の入所者で,トイレ動作が自立して行えない認知症高齢者14名(男性4名,女性10名,平均年齢85.7±6.6歳)を対象に4回/日,それを1日おきに3日/週を3週間(計36回),定時刻に理学療法士がトイレに誘導し,排泄介助を実施した.介助する際には,次の動作を確認する声かけを行い,動作が上手に行えたときには褒める等の増強法を併用した.また個別対応を徹底するために,同時期に介入する人数は3名を限度とした.評価項目は,独自に作成したトイレ動作評価シート,高齢者用多元観察尺度(以下MOSES),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を採用した.評価は介入前,3週間の介入終了時,および介入終了時から3週間を経た時の3時点で行った.統計学的分析には,Friedman検定およびWilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は5%未満とした. 【結果】36回の誘導に対して,実際にトイレで便座に座った回数は28~36回(平均33.4±2.9回,実施率77.8~100%)であった.介入後の失禁頻度に改善はみられなかったが,トイレ動作評価シートの得点は有意に改善(p<0.01)した.MOSESについては,総合得点と引きこもり下位尺度に有意な改善(p<0.01)がみられた.HDS-Rについては,有意な変化は認められなかった.また介入期間中には,自発的な発話の少ない対象者から介助者に対して「ありがとうね」という感謝の言葉がかけられたり,介護職員から「移乗のときに立つのがよくなってきた」との声があがる等,介護場面での質的な変化もみられた. 【考察】介助者を含めた周辺環境を一定にし,その中で対象者の能力を引き出すようなトイレ動作を繰り返し行うことで,認知症高齢者であっても動作能力は向上することが示唆された.また増強法等のコミュニケーションを伴った身体活動が認知症高齢者にとって快刺激となり,施設内での生活に良い影響を及ぼすと考えられた.さらにトイレ動作評価シートやMOSESの点数には反映されなかったが,移乗等の場面で介助量が軽減され,一時的であるにせよ介入が施設内ADLの改善につながったと考えられた.
  • ―T市委託事業を実践して―
    川田 高明, 清水 信三, 角田 淳, 猪熊 智美
    セッションID: 10
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】<BR>平成18年8月、T市に総合福祉センターが開設された。シルバーセンター、児童センター、障害センターの3セクターが集まり福祉の拠点として機能を始めた。T市委託事業として、当群馬整肢療護園が「子ども訓練室」と「水浴訓練室」を 担当して2年半が経過した。センター内で実施している水浴訓練(以下水中運動療法)を、在宅障害児・者の地域支援、新たな理学療法士の職域として実践したので報告する。<BR>【水浴訓練室の概要】<BR>1.利用について<BR>(1)プール:幅4m、長さ12mでスロープから車椅子でも入水出来る。<BR>水深10cm~1m10cm、水温は31~33°室温も適温に調整される。<BR>(2)実施日及び時間:火曜・金曜9:00~17:00、一日5単位、一単位45分<BR>(3)利用条件:市内在住の身体障害者手帳所有者<BR>(4)利用期間:24回<BR>(5)申し込み方法:随時募集<BR>(6)利用不可:医療保険で理学療法、作業療法を受けている方。<BR>2.水中運動療法の流れ<BR>(1)面接:利用者の希望を聞き、医師の確認書をとって頂く。<BR>(2)初回:個人のリスクを確認後、評価、目的、コース、プログラ、次回以降利用の曜日・時間を決める。<BR>(3)実施当日の流れ:自己チェック表記入→準備体操→プログラム実施。<BR>(4)終了時:自主トレメニューを渡す。<BR>【経過】<BR>利用者数は平成18年8月から平成21年1月まで、年度毎に利用者が増加してきた。当初は身体障害者手帳所有者が希望すれば利用できたが、19年度から利用不可条件が入り、回数も平均化するために6ヶ月を24回にした。利用者120名(3才から83才)、60才以上の利用者が61%を占めている。延べ利用者数3083名(H21.1月現在)。疾患別では脳梗塞・脳出血後遺症の片麻痺、変形性股・膝関節症で人工関節術後、脊髄疾患、脳性麻痺の方が上位を、複数の疾患を持っている方が多い。<BR>水中運動療法は、ハロウィック法も取り入れ、10段階プログラムを利用者の目的に合わせ、痛みの軽減、筋力強化、歩行の安定、肥満防止、生活習慣病予防等を含めた簡単な運動を入れ個別、グループで楽しく実施している。<BR>【考察・まとめ】<BR>水中運動療法は水の特性を生かして、痛みの軽減、筋力強化、バランス反応の促通、歩行の安定等小児から老人まで適応可能な治療法である。各疾患によるリスクは医師の確認書により把握、安全第一に「介助は最小限、眼をはなさない」をモットーに実施している。在宅障害者の機能維持増進、肥満予防等を行い自立した日常生活を送る一助になれば幸いである。理学療法士の新たな職域として後継者が育ってくれる事を期待している。生涯、いち理学療法士として障害を持った方の潜在能力を少しでも引き出し、楽しく生活出来る様今後も支援して行きたい。
  • 尾崎 祐一郎, 下井 俊典, 丸山 仁司
    セッションID: 11
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】
    先行研究では, 尿失禁を有する高齢者に対して骨盤底筋運動を行うことで, 尿失禁が改善する効果について報告されている. しかし, 尿失禁を有する認知症高齢者は, 練習の意欲や方法を理解する能力, 運動を持続させる意欲, 行動力を有しないとされ, 運動療法の対象から外れてしまうことが多い. そこで本研究では, 尿失禁を有する認知症高齢者に対し, 骨盤底筋運動を行うことで, 尿失禁回数が減少した1症例を経験したので報告する.

    【症例】
    82歳女性(要介護度3, 寝たきり度B1, 認知度_II_a). 2008年9月に介護老人保健施設へ入所. BMI:21. 5. BI:80点. HDS-R:11点. MMSE:16点. 出産経験なし. 移動は車椅子を使用し, 主に定時誘導により排尿を促す.

    【方法】
    事前評価として, HDS-R, MMME, 排尿尿失禁記録, パッド使用枚数を確認した. 骨盤底筋運動(ブリッジング)を居室ベッドにて行った. 運動内容は, (速い収縮3秒+6秒弛緩)×20回, (遅い収縮10秒+20秒弛緩)×20回, 計40回(速い収縮20回, 遅い収縮20回)×3回/日(朝・昼・夜)×8週間実施した. 事後評価として, 排尿尿失禁記録, パッド使用枚数を確認した. 倫理面およびリスクの配慮として, 対象者および対象家族へのインフォームドコンセントを行った.

    【結果】
    運動前の尿失禁回数は, 平均4. 5回/週, 排尿回数平均3. 2回/日であった.
    運動開始から8週目の尿失禁回数は, 2回/週, 排尿回数平均3. 7回/日であった.

    【考察】
    認知症高齢者に対し骨盤底筋運動を行うことで, 尿失禁回数が減少した. このことは, 認知症高齢者であっても骨盤底筋運動により, 骨盤底筋群の活動が賦活されたことを示唆している. 尿意を感じ, 排尿を抑制したため, 尿失禁回数が減少したと考えられる. 運動前では, 定時誘導による受動的な排尿行動であったが, 運動途中からは, 対象者自らトイレに向かうなど, 能動的な排尿行動が見られるようになった. 運動開始7週目から排尿回数が増加し, 定時誘導以外の時間に排尿行動がみられるようになった. 排尿回数が増加し排尿時間が変化したため, 運動前より介助量が増加した. 今後, 完全な尿禁制を得るためには, 骨盤底筋運動のみではなく, 排尿習慣の再学習などを併用して行かなくてはいけないと考える.  
  • ―高齢者疑似体験装具を用いた検討―
    奥  壽郎, 廣瀬  昇, 加藤 宗規, 丸山 仁司
    セッションID: 12
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 本研究の目的は、高齢者に特徴的な体幹・下肢屈曲姿勢での歩行において、杖を使用することによる呼吸循環反応に与える影響について、非高齢健常者を対象として高齢者模擬体験装具(以下、装具)を用いて検討することである。本研究では、呼吸循環機能低下を有していない非高齢健常者を対象とすることにより、呼吸循環機能低下の影響を除外した屈曲姿勢による影響に限定して検討を行う。[対象]目的を説明し同意が得られた非高齢健常者11名(男性7名・女性4名、平均年齢19.1±0.8歳)を対象とした。[方法]装具を装着しないかつ杖も使用しない条件(以下、条件A)、装具を装着して杖は使用しない条件(以下、条件B)、装具を装着して杖を使用する条件(以下、条件C)の3条件により、トレッドミル歩行速度3.5km/hで5分間の定常負荷を行い、呼気ガス分析、血圧、自覚的運動強度(RPE)を計測して、3条件間での比較検討を行った。なおこの研究は、帝京科学大学の倫理委員会の承認を受けて実施した。[結果] 3条件間における運動時では、HR(bpm)の平均値は条件A・条件B・条件Cの順に93.2、111.0、100.6で、条件Aと条件B(p<0.01)、条件Bと条件C(p<0.05)で有意差が認められた。VE(l/min)は同様に17.2、28.8、23.4で、条件Aと条件B(p<0.05)、条件Bと条件C(p<0.05)で有意差が認められた。TV(ml)は同様に735、969.7、838.7で、条件Aと条件B(p<0.05)、条件Bと条件C(p<0.05)で有意差が認められた。RR(rpm)は同様に23.4、29.7、27.9で、3条件間で有意差は認められなかった。V(・)O2/W(ml/kg/min)は同様に、9.8、17.0、11.7で、条件Aと条件B(p<0.01)、条件Aと条件C(p<0.01)で有意差が認められた。SBP(mmHg)は同様に121.8、130.9、128.4で、条件Aと条件B(p<0.05)、条件Aと条件C(p<0.0)で有意差が認められた。DBP(mmHg)は同様に66.9、68.4、70.2で、3条件間で有意差は認められなかった。RPEは同様に9.6、14.2、12.3で、条件Aと条件B(p<0.01)、条件Aと条件C(p<0.05)、条件Bと条件C(p<0.05)で有意差が認められた。[考察]今回の結果から、体幹・下肢屈曲姿勢においては、それを呈していない状態に比べて呼吸循環器系への負担が増すが、杖の使用により屈曲姿勢を呈していない状態近くまでに負担が軽減すると考えられた。
基礎系
  • 下井 俊典
    セッションID: 13
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】臨床においてバランスの評価や治療に用いられている継ぎ足歩行は, 評価指標として用いる場合の妥当性が検討されていない. 妥当性の1つに予測妥当性があるが, 評価方法の転倒の予測妥当性に関する先行研究も, 過去の転倒経験に対する妥当性を検討した後ろ向き研究が多い. そこで本研究では, 地域在住高齢女性を対象として転倒経験の追跡調査を実施し, 継ぎ足歩行テストの転倒予測妥当性を検討した.
    【方法】対象者は, T県O市の介護予防一般高齢者施策に参加し, 2年間の転倒経験を追跡調査できた女性66名(74.7±6.2歳)である. 測定項目は継ぎ足歩行テスト, CS-30, 5m自由歩行時間とした. 継ぎ足歩行テストとして, 対象者に, 長さ5m, 幅5cmのテープ上を, 片側のつま先と対側の踵を離さないように歩行させ, 要した時間を測定した. また, テープ上から足部が完全に逸脱した回数をミス・ステップ数として計測した. 5mの同テストの所用時間を継ぎ足歩行時間(以下, TGT)とし, 所要時間とミスステップ数から算出する継ぎ足歩行指数(以下, TGI)の2種類のテスト値について予測妥当性を検討した. 転倒の予測妥当性として, 転倒歴の有無別の各継ぎ足歩行テストの結果について, t検定を行い, 弁別妥当性を検討した. さらに, 転倒予測に対する各因子の影響度を検討するため, ロジスティック回帰分析を用いてオッズ比を求めるとともに, 有意とされた継ぎ足歩行テストに関しては, ROC曲線を作成してcut-off値を算出した. また, いずれも有意水準はp<0.05とした.
    【結果】転倒歴の有無によるTGT, 年齢, CS-30, 5m自由歩行時間については有意差を認めなかったが, TGIでは有意差を認めた(p<0.05). また, ロジスティック回帰分析より, TGIは将来の転倒を予測する有意な因子であること, オッズ比1.07が得られた. 算出されたROC曲線から, TGIのcut-off値として24.0が得られたが, ROC曲線の曲線下面積は0.63(漸近有意確率0.08), 感度0.54, 特異度0.79であった.
    【考察】継ぎ足歩行の所要時間とミスステップ数から算出したTGIについて, 単変量解析から, 年齢や他の運動能力に影響されない, 将来の転倒発生の弁別妥当性が認められた. またロジスティック回帰分析からも, TGIは将来の転倒を予測する有意な因子であることが明らかとなった. しかし, ROC曲線については検査価値が低く, 得られたcut-off値の臨床応用については今後の検討が必要である.
  • ―足底部知覚学習と体性感覚入力強化を中心に―
    堀越 一孝
    セッションID: 14
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、足底部識別課題での知覚学習が運動制御に有効であるとされている。また、閉眼での訓練は体性感覚入力を強化し、運動学習にける運動保持に有効であるという報告もある。今回、深部感覚性運動失調患者に対して足底部識別課題と体性感覚入力の強化を中心に介入を行い臨床上の有効性が示唆されたので報告する。
    【方法】対象は、右頭頂葉髄膜腫により開頭腫瘍摘出を試行した66歳男性。術後2病日より理学療法介入を開始した。初期評価時、左下肢深部感覚性運動失調を呈し、立脚期で膝折れ・knee-in著明にて運動制御困難であり非実用的歩行であった。足底部からの体性感覚入力低下に伴う運動制御低下を問題点に据え訓練方法を立案した。方法は、股・膝関節90°屈曲位での坐位姿勢で足底に不安定板を設置し足関節底背屈、回内外方向に他動的に傾斜させその方向を識別する課題を閉眼にて行い、識別課題正答率を効果判定とした。また、閉眼にて荷重・非荷重下にて協調性反復運動を行った。課題に対する誤判断、運動方向や制動に誤差が生じた際には口頭、視覚によるフィードバックを行った。さらに9病日以降で、一定期間(10~16病日)、大腿から下腿へ弾性包帯装着下での協調性反復運動を行い固有感覚圧刺激を加え体性感覚入力の強化を試みた。
    【結果】3~9病日の識別課題正答率は、足関節底背屈4/10、足関節回内外0/10。足関節回内外では、視覚によるフィードバックを行っても課題修正が困難な状況であった。弾性包帯装着下での訓練を試みた10~16病日後の識別課題正答率を比較すると、20病日での識別課題正答率は足関節底背屈10/10、足関節回内外4/10。足関節底背屈の識別課題では患者自身「自信を持って回答できるようになった」と表現していた。協調性反復運動では閉眼による運動制御が可能となり、それに伴い歩行では立脚期の膝折れ・knee-inの改善が見られ、1本杖歩行・階段昇降一足一段の実用歩行獲得に至った。
    【考察】識別課題では、学習による知覚の変化が生じるとされている。これは、識別課題正答率の改善と患者自身「自信を持って回答できるようになった」と表現していることからも知覚の変化に関与があったと考えられる。さらに固有感覚圧刺激による体性感覚入力が知覚学習に影響を及ぼしたと考えられる。本症例において、足底部の知覚向上が歩行における立脚期の運動制御に有効であり、運動学習における運動保持に有効である可能性が示唆された。
  • 元井 光夫, 茂木 佳美, 常田 康司, 藤本 幹雄(MD), 美原 盤(MD)
    セッションID: 15
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中片麻痺患者の歩行能力に高次脳機能障害が影響を及ぼすとした多くの報告がある。しかし、高次脳機能障害の種類や程度が与える影響を検証した報告は少ない。本研究では、当院回復期リハビリテーション(リハ)病棟を退院した脳卒中片麻痺患者を対象に、高次脳機能障害が歩行自立に及ぼす影響を検討した。
    【方法】対象は、平成19年1月から平成20年10月に当院回復期リハ病棟に入棟した初発の脳卒中片麻痺患者835例のうち、病前ADL自立を条件とし以下の除外基準(運動失調、四肢麻痺、両側片麻痺、状態悪化)を適応した292例(平均年齢65.8±12.2歳)とした。方法は、従属変数を退院時の歩行自立の有無とし、独立変数を退院時の年齢(ダミー変数カテゴリー4段階)、性別、麻痺側、意識障害の有無、下肢の麻痺重症度(3段階)、行動観察上の半側空間無視(USN)(3段階)、線分二等分検査(2段階)、視空間認知(Stroke Impairment Assessment Set)、行動観察上の注意障害(3段階)、星抹消検査(2段階)、認知機能障害の有無、行動観察上の失行の有無、失語(SIAS)の13項目とした。多重共線性を考慮した上でロジスティック回帰分析を行い、抽出因子及び回帰式を求めた。
    【結果】歩行自立には、年齢(Odds Ratio 2.60、95%信頼区間1.57-4.30)・意識障害(OR 7.75、95%CI 2.10-28.61)・麻痺重症度(OR 7.71、95%CI 3.11-19.12)・USN(OR 5.52、95%CI 2.26-13.53)・注意障害(OR 4.65、95%CI 1.95-11.08)・認知機能障害(OR 4.03、95%CI 1.43-11.32)の6項目が有意に関連していた(p<0.05)。高次脳機能障害であるUSNや注意障害は机上検査である線分二等分線検査や視空間認知、星抹消検査からは有意な関連性がない結果となった(p>0.05)が、行動観察上の重症度より有意な関連性が認められた(p<0.05)。回帰式のScore=-10.573+0.956年齢+2.048意識障害+2.042麻痺重症度+1.709USN+1.537注意障害+1.393認知機能障害で正判別率89.7%となった。
    【考察】歩行自立に及ぼす影響として、1.高次脳機能障害は意識障害や麻痺重症度より影響は低い、2.高次脳機能障害の中ではUSNや注意障害の影響が高い、3.高次脳機能障害は年齢や認知機能より影響は高い、の3点が考えられた。これより、歩行能力は意識(基盤的認知能力)や麻痺重症度に強く依存するものの、行動時の空間認知(方向性注意)や必要な対象に注意を向ける能力、および、現在の状況を理解できる認知機能とのバランスが必要と思われる。そのため、歩行能力に対しての高次脳機能障害の評価は、机上検査よりも行動観察上の重症度を評価することが大切であると考えられた。
  • 舟久保 一也, 磯野 賢, 宮下 大佑, 佐藤 聡, 山田 俊幸, 山本 咲
    セッションID: 16
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    日常生活において棚に置いてある物を両手で把持しようとした際、バランスを崩し転倒する高齢者に遭遇する。本研究では、両上肢挙上およびリーチ動作肢位が上肢挙上角度別に重心動揺にどのような影響を及ぼすか検討する。
    【方法】
    対象は、本研究の趣旨を説明し同意が得られた健常成人25名(平均年齢27±5.2歳)とした。測定は、直立立位、両上肢挙上位(以下、リーチなし群)、両上肢挙上位からリーチした肢位(以下、リーチ群)とし、上肢挙上角度は135度、90度、45度の3パターンとした。リーチは上肢長の20%の距離とし、上肢挙上角度やリーチ距離の指標には、あらかじめ固定した台にメジャーを貼り付けた器材を使用した。測定は、重心動揺計(ANIMA社製G-6100)を用い、各肢位とも裸足・閉脚で静止立位を30秒間行った。 データの抽出は、直立立位の総軌跡長(cm)を基に各パターンから除して算出した。リーチなし群とリーチ群の上肢挙上角度による差の比較はt検定を行い、各パターンの比較は、一元配置の分散分析を行い、多重比較検定を用いて検討した。なお、有意水準は5%とした。
    【結果】
    両群共に上肢挙上角度の増加に伴い総軌跡長の割合が増加する傾向を示した。リーチなし群とリーチ群は全ての上肢挙上角度において有意差が認められた(p<0.05)。両群共に135度挙上位に比べ90度と45度挙上位で総軌跡長の割合が有意に減少した(p<0.05)。また、90度と45度挙上位では有意差は認めなかった。
    【考察】
    両群ともに、上肢挙上角度の増加に伴い総軌跡長の割合が増加したのは、重心位置が高くなるためと考える。リーチ動作は、平衡を保つために、足ストラテジーと股ストラテジーが作用することが諸家により報告されている。今回、135度挙上位でのリーチでは、90度と45度挙上位でのリーチに比べて股ストラテジーが作用しにくいため有意差が認められたと推察する。一方、リーチなしでの両上肢挙上は、鈴木らによると上肢挙上角度が78.6度の時点に達するまでは体幹の安定性として、それ以降は体幹の伸展運動としての機能を発揮するとされている。そのため、135度挙上位に比べ90度と45度挙上位では体幹の伸展運動による影響が少ないと推察する。今回、上肢135度挙上動作やリーチ動作は、高度な姿勢制御が必要になることが示唆された。今後、上肢挙上やリーチ動作等、上肢の活動を取り入れた訓練を行い、日常生活における転倒防止につなげていきたい。
  • 安彦 鉄平, 島村 亮太, 安彦 陽子, 新藤 恵一郎, 竹井 仁
    セッションID: 17
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 骨盤の前後傾は下肢や脊柱のアライメントに影響を与え、様々な障害を引き起こすことは周知されている。そのため骨盤の前後傾は臨床的に非常に重要視されているが、詳細な測定はレントゲン写真や三次元動作解析装置を利用したものが多く、時間と設備を要する。さらに先行研究では骨盤傾斜角度を測定するための骨指標が統一されていない。そこで日常的に利用可能な装置を用いて骨盤傾斜角度の検討をした。さらに本研究では最も正確に測定ができる指標を検討した。 【方法】 対象は腰痛の既往のない健常成人男性8名、左右骨盤16肢とした。対象者の年齢は28.0±3.4歳(平均±標準偏差;以下同様)、身長は172.0±4.8cm、体重は62.0±6.5kgであった。対象者には研究の主旨と方法を説明し書面にて承諾を得た後、測定を実施した。本研究は東京都リハビリテーション病院及び首都大学東京研究安全倫理委員会の承諾の下で実施した。  測定器具は東大式ゴニオメーターの2本の柄の部分にそれぞれmie社製マルチ角度計(以下;傾斜計)を取り付けた。傾斜計は床面を0度に設定した。 測定肢位は解剖学的立位とした。骨盤中間位は上前腸骨棘と恥骨結合を結んだ線と鉛直線が平行となるよう傾斜計が90度を示すところとした。測定は骨盤中間位の上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線(以下;A-P)、上前腸骨棘と腸骨稜の頂点を結んだ線(以下;A-I)、腸骨稜の頂点と上後腸骨棘を結んだ線(以下;I-P)と水平線との角度を1度単位で測定した。傾斜計の測定は理学療法士A、Bの2名で行い、検者Bは検者Aの測定直後に同様の方法にて測定した。さらに後日、検者Aは同じ被検者に対し、再度測定を実施した。統計処理は、検者内・検者間信頼性は級内相関係数(以下;ICC)を求め検討した。 【結果】 検者内信頼性はA-P、A-I、I-Pの順にICC=0.77、0.39、0.05であった。検者間信頼性もA-P、A-I、I-Pの順にICC=0.91、0.76、0.12とA-Pで最も高い値を示した。検査者Aの初回の測定値はA-Pは14.1度±1.7であった。 【考察】 検者内、検者間信頼性はA-PでICC=0.7以上で信頼性は良好であった。これはASISとPSISの形状が棘であり正確に触診可能な骨指標であると考えた。また腸骨稜は幅が広く常に同じ頂点を指標にすることが困難だったと推測した。今後A-Pを用いることで信頼性の高い骨盤傾斜角度の設定が可能であると考える。またA-Pの骨盤傾斜角度は平均14度であり、先行研究に近い値であり簡便で臨床で測定しやすい器具であることを示した。
  • ―1RM法の再現性および等尺性膝伸展筋力と1RMの関連―
    武市 尚也, 石阪 姿子, 西山 昌秀, 堅田 紘頌, 山川 留実子, 平木 幸冶, 井澤 和大, 渡辺 敏, 松永 優子, 松下 和彦
    セッションID: 18
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     昨今,筋力評価法の一つとして,簡便な筋力評価機器であるHand Held Dynamometer (HHD)を用いた方法が活用されている。また,一般的に筋力増強運動の負荷設定の方法としては,1 Repetition Maximum(1RM)が用いられる。しかし,入院患者を対象とし,HHDで測定した値をもとに1RMの予測の可否について詳細に検討されている報告は少ない。本研究の目的は,膝伸展筋に限定し,1RM法の再現性およびHHD値からの1RMの予測の可否について明らかにすることである。
    【方法】
     対象は,当院リハビリテーション科において理学療法施行中の入院患者134例268脚(男性71例,女性63例)である。このうち,1RMの再現性は,20例40脚(男性10例,女性10例)を対象とした。1RMの測定肢位は,体幹を60度後傾した端座位とした。検者は,測定側の大腿遠位部を固定後,重錘を対象者の下腿遠位部に負荷し,下腿下垂位から膝関節を完全伸展するように指示した。そして最終挙上位で3秒保持可能な最大重錘量(kg)を1RMとした。なお1RMは,3日以内に同方法で2度の測定を行った。 HHDは,アニマ社製μ-tasF1を用い,測定肢位は,端座位,膝関節屈曲90度とした。検者は,圧力センサーを対象者の下腿遠位部に固定し,下腿下垂位から膝関節を伸展するよう指示した。HHDの測定は,左右3回施行し,その等尺性膝伸展筋力値(kgf)をHHD値とした。なお患者背景は,基礎疾患,年齢,身長,体重を診療記録より調査した。解析には,級内相関係数(ICC)および1RM法による膝伸展筋力値を従属変数,HHD値を独立変数とする単回帰分析を用いた。統計学的有意差判定の基準は5%とした。
    【結果】
    1.基礎疾患および各指標の平均値
     疾患の内訳は呼吸器47例,循環器38例,代謝23例,消化器18例,その他8例であった。各指標の平均値は,年齢:70.0±13.5歳,身長:157.3±9.5cm,体重:51.6±11.1kg,1RM:4.6±2.2kg,HHD値:22.5±10.0kgfであった。
    2.1RMの再現性
     1RMは1回目:4.2±2.1kg,2回目:4.4±2.2kg,ICCは0.93であった(p=0.01)。
    3. HHD値と1RMとの関連
     解析の結果,1RM=HHD値×0.183+0.474 (R=0.82,R2=0.67,p=0.02)の予測式が得られた。
    【考察】
     1RMの再現性は,ICCが0.93と良好であった。また,HHD値から1RMが予測できることが明らかとなった。以上より,HHDによる筋力評価で得られた値から,膝伸展筋力増強時の負荷設定が可能と考えられた。
骨関節系
  • 倉田 勉, 本所 泰子, 佐藤 陽介, 小口 敦, 松本 徹, 矢内 宏二, 笹原 潤, 鮫島 康仁, 小黒 賢二
    セッションID: 19
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】アキレス腱断裂術後、踵上げ練習で機能回復が順調に進まない症例の経験や、運動機能不全の代表である跛行の改善不良により筋力回復が滞った経験から、我々は筋力、動作両面を解決する方法を模索している。そして過去行った足底圧による歩行分析で術後早期は立脚期の荷重移行が遅延することを報告し、跛行改善のためには荷重や重心の円滑な移動が重要と考えている。
    【目的】アキレス腱断裂後の跛行改善を目的に考案した船底型装具の効果を明らかにすること。
    【方法】対象は当院で3bundleのアキレス腱縫合術を施行した患者11名で、術後1週から機能的装具を装着し、6週で装具除去、荷重は術後3週までに全荷重とした。船底型装具は従来の機能的装具上から着脱可能なもので、船底型装具を使用しない6名を従来群、使用した5名を船底群とした。使用頻度は術後3週から6週にかけて週3回程度の外来リハビリ時、装具装着下で自然な歩容を確認する程度である。歩行分析に足底圧分布測定装置Foot scan system(Nitta社製)を用い、歩行立脚期の踵と前足部の圧力転換期(以下、移行時間)を跛行程度の指標とした。重心移動評価は平衡機能測定装置バランスマスタ(NEUROCOM社製)を用い、両脚立位で一定方向に重心前後移動した際の方向制御(Directional Control;以下DC)を専用ソフトウェア上で算出した(速度3種類;低・中・速)。なお歩行・重心移動評価は術後2・3ヶ月に行った。加えて筋力回復の指標に術後の片脚踵上げ可能時期を記録した。片脚踵上げ可能の目安は床面から踵挙上5cm以上とし、条件はMMTに準じた。
    【結果】移行時間(%)は術後2ヶ月;従来群80.2±8.8、船底群74.1±6.5、術後3ヶ月;従来群54.5±13.9、船底群56.8±13.1で両群に差を認めなかった。DC(%)は低・中・速の順に、術後2ヶ月;従来群63.5±10.2・71.7±12.8・70.5±17.5、船底装具群79.0±4.8・84.2±5.7・83.6±6.2、術後3ヶ月;従来群66.5±13.2・78.5±8.7・85.2±2.6、船底群82.8±1.1・83.2±8.0・89.2±3.0となり、船底群がより方向制御された重心移動を行っていた。片脚踵上げ可能時期は従来群93.2±24.4日、船底群68.0±15.6日で船底型装具の使用により、筋力回復は早まる結果となった。
    【考察】従来と同様の術式、後療法でも比較的短時間の船底型装具の介入によって、より円滑な重心移動の獲得と筋力回復を順調に進めることが可能で、装具使用により筋活動の向上が期待でき、アキレス腱断裂後のリハビリに有用な装具と考えられた。しかし目的の跛行改善は足底圧上、装具の効果を認めず、重心移動を促すことによって期待できる筋活動以外に跛行改善の要因を検討すべきと考えられた。
  • 橘 香織, 水上 昌文
    セッションID: 20
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年車椅子スポーツの競技レベル向上に伴い,新たなスポーツ障害が発生するケースが増加している。特に慢性関節痛は多数を占めていると思われるが、これまでにその発生状況等の把握はほとんどなされてこなかった。そこで本研究では、車椅子バスケットボール競技選手を対象として慢性関節痛の発生頻度,好発部位を明らかにし,障害重症度との関連を検討することを目的とした。
    【方法】 499名の選手に対して郵送法による無記名式アンケート調査を施行した。質問項目は、回答者の属性に関する項目(性別・年代・車椅子バスケットボール経験年数・クラス)と症状に関する項目(慢性関節痛の経験の有無、発生部位、発生時期、持続期間)に関するもの計10項目であった。慢性関節痛の部位については、最大5箇所までの複数回答可とした。慢性関節痛は(1)車椅子バスケットボールをするたびに関節に生じる、あるいは悪化するもの、(2)車椅子バスケットボールを休むと痛みがなくなる,あるいは痛みが軽くなるもの、(3)こうした症状が少なくとも1ヶ月以上完治しないもの、の3つの条件を満たすものと定義した。また、急性外傷は除外した。
    【結果】 回答は499名中274名(54.9%)から得られた。そのうち「慢性関節痛の経験あり」と答えた者は54.9%と、実に2人に1人以上という高率であった。中には一人で複数箇所の関節痛を訴えた者も多く、発生件数はのべ319件で、発生件数を回答者数で除した一人当たりの発生件数は1.21件であった。発生部位で最も多かったのは肩関節(32.6%)、ついで肘関節(17.6%)、手関節(16.3%)、腰部(12.5%)、頚部(7.8%)の順であった。車椅子バスケットボール障害度クラス毎の発生部位の割合を見ると、脊髄損傷者が多く含まれるクラス1からクラス3では肩関節痛が最も多かったのに対し、下肢切断がほとんどを占めるクラス4では腰に疼痛を訴える者が最も多かった。
     【考察】 今回の調査では、対象者の半数以上がなんらかの慢性関節痛の経験があることが明らかとなった。この結果には、近年著しく激しさを増している競技レベルの変化ならびに競技用車椅子の改良が影響している可能性が考えられる。発生箇所については肩関節が最多で、車椅子バスケットボールにおいては車椅子駆動や移乗動作において体重が負荷されることに加え、シュートやパス動作においてより広範な可動域における関節への負荷を要求されるため、より肩関節への負担が大きいことが予測される。またクラスによる好発部位の違いは、使用している競技用車椅子の設定ならびに駆動パターンの違いが影響している可能性が考えられた。
  • 鬼村 優一, 遠藤 辰弥, 北原 侑奈, 池田 崇, 鈴木 浩次
    セッションID: 21
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    現在、当院ではMIS-THA術後7日間の自宅退院プロトコールにて術後リハを行っている。短期間での退院を可能とするため、術前筋力や歩行能力から術後機能予測を実施しているが、罹患期間と術後機能との関係は明らかではない。また、従来法THA術後QOLと手術待機期間としての報告はあるが、MIS-THAの術後機能と罹患期間に関する先行研究は乏しい。今回我々は、股関節痛を自覚した時期から手術を施行するまでの経過年数(以下、罹患期間)が術後機能回復の指標となりうるか調査する目的で本研究を行った。
    【方法】
    2007年4月から2008年3月までにMIS-THA(mini-one anterolateral incision)を施行し、データを収集し得た、片側性変形性股関節症患者31例を対象とした。罹患期間は、診療録より後方視的に調査した。対象者の罹患期間の中央値(4年)から上の群を長期群(n=16,平均12.4年)、下の群を短期群(n=15,平均2.0年)と群分けし、年齢、性別、BMI、術前・術後3日目・術後2ヶ月の10m歩行時間および外転筋力に関して両群で比較検討した。外転筋力測定は等尺性収縮による最大筋力を測定し体重で除した(N/N%)。統計処理は年齢、BMIに関しては対応の無いT検定を、性別に関してはχ2検定を、10m歩行時間および外転筋力の術前・術後3日・術後2ヶ月での分析は分散分析後、Fisher's PLSD法を用い、統計学的有意水準は危険率5%未満として分析した。
    【結果】
    年齢、性別、BMIに関しては有意差を認めなかった。2群間の比較に関しては、外転筋力、10m歩行時間とも有意差を認めなかった。各郡内の比較では、外転筋力、10m歩行時間とも、両群の術前と術後3日目の比較は有意に低下し、術後3日目と2ヶ月は有意に改善した。術前と術後2ヶ月に関しては、外転筋力のみ短期群は有意に改善し、長期群は有意差を認めなかった。
    【考察】
    2群間の比較において、術前と術後2ヶ月の外転筋力の回復と10m歩行時間の短縮にそれぞれ有意な差を認めなかった。このことから、罹患期間の長短が術後2ヶ月時点での外転筋力および歩行能力の回復に影響しないことが考えられる。そのため罹患期間に関わらず、同一の術後7日間での自宅退院プロトコールにて術後2ヶ月での機能回復が見込めることが示唆された。また、郡内での比較において短期群のみ術後2ヶ月時点での外転筋力は有意に改善していることから、罹患期間が短いほど早期に外転筋力が改善する可能性も示唆された。
  • 磯山 政勝
    セッションID: 22
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】変形性股関節症などに対して人工股関節全置換術(THA)が行われる。日々の診療において術前、術後の理学療法を経験することは多い。しかしながら、両側THAの既往をもった重度の下肢麻痺を有する脳卒中後遺症片麻痺の理学療法を経験することは少ない。今回1症例を経験したので報告し、THA術後の脱臼予防を踏まえて脳卒中後遺症片麻痺の運動療法を考察する。【症例】80歳代、女性、両側THAを他院にて受け5年以上経過していた。現病歴:右上下肢脱力にて発症、当院救急外来受診入院となる。MRIにて左側脳室から頭頂葉に脳梗塞が認められた。ヘパリン、ラジカットにて保存的に加療された。理学療法は回復期病院転院までの21回実施した。【経過およびアプローチ】起き上がり訓練、患側下肢の運動促通及びコントロール、ROM訓練、平行棒での立位保持訓練、平行棒での歩行訓練を行った。最終評価時、起き上がり:全介助から軽介助、Brunnstrom-stage:下肢1から3、下肢ROM著変なし、平行棒内立位保持時間:10秒未満から180秒、平行棒内歩行:オルトップ装着、振り出し全介助1m未満から中介助で1往復可能となる。【考察】脳卒中後遺症片麻痺の運動療法は動作が努力性になり麻痺肢の筋緊張が高まり、正常な運動の促通、運動のコントロールが困難にならない様に進めることが原則である。しかしながらTHA術後の理学療法では脱臼予防の観点から基本動作が指導される。5年以降の遅発性脱臼の誘因として股関節屈曲角度と外転筋筋力があげられている。本症例では起き上がり訓練は仰臥位から実施した。起き上がりが努力性にならないように配慮した。車椅子座位では右股関節は屈曲・内転・内旋位をとっていることが多く、車椅子から立ち上がる際、股関節を90度以上屈曲し、それに伴う右股関節の内転、内旋の動きが見られた。歩行訓練はオルトップ装着にて平行棒内患側下肢振り出し介助にて実施した。車椅子に腰掛ける際、患側下肢が内転・内旋位のまま股関節を屈曲してしまうことがあるため立位保持能力が十分でない状態では、介助者は十分に注意を払う必要がある。本症例は右上肢を使うことができたので右股関節が外転・外旋位になるように左回りにて方向転換を実施した。腰掛ける際の患肢の運びの介助も容易であった。また患側上肢の使用が可能であったため片麻痺の従来の起き上がりを意識した健側がベッド端になる寝方ではなく、患側をベッド端にすることで、麻痺側下肢を上にした側臥位と横座りを回避した。両側THA術後の片麻痺の運動療法についての報告はあまりされていないため今後の検証が必要であると思われる。【まとめ】両側THA術後に脳卒中後遺症右片麻痺になった1症例の治療経過を報告し、基本動作訓練の方法について考察した。本症例は右下肢が弛緩性麻痺であり文献的に術後脱臼のリスクファクターと考えられたため、脱臼予防の観点から基本動作の方法について述べた。
  • 田中 優路, 加藤木 丈英, 白井 智裕, 園田 優, 斎藤 義雄
    セッションID: 23
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】腱板機能低下症例や肩甲胸郭機能低下症例等の
    の理学療法では、腱板機能訓練と肩甲胸郭機能訓練を目
    的としたCuff-Yexercise(以下Cuff-Yex)が推奨されて
    いる。従来、Cuff-Yexは低負荷での運動が有用とされて
    いるが、動画において、リアルタイムに可視的な関節・
    筋肉の動きを確認している報告は少ない。
    当院では放射線技師の技術によりMRIの動画撮影が可能で
    ある。運動による動きを可視的に観察する事が容易である。
    そこで今回、動画MRIを用いて肩関節外旋動作を異なる負荷
    量にて撮影し、負荷量による肩関節周囲筋群の関係性とCuff
    -Yexについて検討したので報告する。
    【方法】対象は肩関節疾患既往のない健常人13名(男性7
    名:女性6名,平均年齢:28±4.66)測定筋は棘下筋・小
    円筋・三角筋とした。MRI(GE社製)にてスライス面は大
    結節部とした。負荷量は、Thera-Band社製TUBING長さ10cm
    を用いて、Yellow張力:0.55kg(100%伸長率)Green張力:
    2.73kg(100%伸長率)無負荷(Free)にて比較。開始肢位
    は、肩関節内転内旋位肘関節90度屈曲位。肩関節75度内旋
    位から0度まで外旋、動画撮影を行う。動画にて負荷量の変
    化による、棘下筋・小円筋・三角筋後部繊維・上腕骨頭の
    動きを観察。最大外旋位における三角筋後部繊維の断面積
    を測定。
    【結果】Free、棘下筋・小円筋の収縮のバランスがよく、
    上腕骨頭の関節窩上での支点が定まり動きも良い。Yellow
    ・Greenは三角筋後部繊維の収縮が強くなり、代償動作が
    増え、骨頭の動きも悪くなる。男女では女性の方が顕著に
    違いが確認された。
    【考察】Cuff-Yexの目的として、Outer Muscle(以下、OM)
    の関与を抑制しInner Muscle(以下、IM)中心の収縮が効果
    的とされている。さらに、主としてIMで肩関節を動かすこ
    とができるよう、バイオフィードバックさせる意味をもち
    腱板訓練の最も基本となる。今回の実験でFreeにて外旋動
    作を行うことで、三角筋後部繊維の関与が少なく、棘下筋
    ・小円筋中心の訓練を行うことが可能である事が視覚的に
    動画から確認された。
  • 黒木 麻衣, 佐藤 謙次, 中山 貴文, 江連 智史, 岡田 亨
    セッションID: 24
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肩こりに対する運動療法の一つに患部のストレッチ療法がある.肩こりをもたらす代表的な筋の一つである僧帽筋上部線維のストレッチは,臨床でよく用いられるがその効果について客観的に検証した報告は少ない.本研究の目的は,表面筋電図を用い筋疲労の観点からストレッチ効果を検証することである.  【方法】対象は本研究に同意を得た健常人18名(男性12名,女性6名,平均年齢25.2歳)とし,無作為に介入群(男性7名,女性3名,平均年齢25.0歳)と対照群(男性5名,女性3名,平均年齢25.5歳)に振り分けた.介入群に対してはアクティブIDストレッチングに準じて僧帽筋上部内側線維,外側線維へのストレッチを実施した.ストレッチ時間は15秒間各2セットとし検者の指示のもとに行なった.対照群においては同時間安静座位をとらせた.筋疲労の測定にはNoraxon社製表面筋電図Myosystem1400および日本MEDIX社製Hand-Held-Dynamometorを使用した.測定課題は右肩甲骨挙上等尺性収縮(最大筋力比50%)とし検者の口頭指示にて運動を1分間継続した.測定肢位は椅子座位とし,床から垂直に固定した自家製固定用ベルトで右肩峰を固定した.筋電図の導出筋は右僧帽筋上部線維とし,十分な皮膚処理を実施した後,双極誘導にて電極を貼付した.解析方法は周波数解析を用い,測定課題中の中央周波数を算出した.運動開始直後10秒間と運動終了直前10秒間の中央周波数からそれらの減少率を算出した.統計学的処理は対応のあるt検定を用い介入前後の減少率を比較した.なお,有意水準は5%未満とした. 【結果】介入群では中央周波数の減少率が介入前で8.9%,介入後5.6%であり,介入後で減少率が有意に低値を示した.対照群では介入前7.0%,介入後8.0%で中央周波数の減少率に有意差はみられなかった. 【考察】過去の報告によると中央周波数の減少率が高いほど筋疲労の程度が大きいことを表す.したがって,介入後に減少率が低値を示したことで,ストレッチにより筋疲労の程度が小さくなることが示唆された.僧帽筋ストレッチは運動負荷に対する筋疲労を軽減させることが客観的に示された.        
生活環境支援系
  • 相原 知英, 磯野 賢, 白須 彩花, 山下 順子, 丸茂 高明, 山口 富美子, 手塚 あい
    セッションID: 25
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    在宅復帰を図る上で、住宅改修は重要である。住宅改修は患者の身体機能や動作能力、家族のhope、介護力等が複雑に影響する。これらをふまえ、当院では事前に関係スタッフがどのような改修を行うべきか提案している。改修するにあたり、手すり設置の提案が多くみうけられた。そこで今回、手すりの設置に着目し患者の身体機能・動作能力との関連性を調査した。
    【対象】
    平成18年4月から20年6月までに当院へ入院・自宅退院し、退院後行った電話アンケートにて実際に手すり設置をしたことが確認できた脳卒中患者15名を対象とした。
    【方法】
    調査する項目は、改修時の身体機能(Brunnstrom Recovery Stage:以下BRS、非麻痺側MMT、認知症の有無、高次脳機能障害の有無)と動作能力(立ち上がり、立位保持、移乗動作、歩行能力、階段昇降、トイレ動作)、退院後の移動手段とし、カルテより抽出した。手すり設置については設置場所を調べ、各項目との相関を調査した。統計処理はSpearmanの順位相関係数を用いてそれぞれ有意水準5%未満とした。尚、これらの調査に使用した情報はデータ化し、個人が特定できないよう配慮した。
    【結果】
    手すりの設置場所についてはトイレが最も多かった。トイレへの手すり設置は、非麻痺側上肢MMT、麻痺側下肢BRS、歩行能力と相関を認めた(P<0.05)。その他の設置場所と各項目との相関は認められなかった。トイレへ手すり設置した患者は、上肢MMT4以上の者が100%、下肢BRS_III_の者が40%、歩行能力は歩行補助具使用下で見守りの者が50%であった。またトイレ動作に関連のある動作として手すり使用下にてそれぞれ、立ち上がり90%、立位保持80%、移乗動作60%、トイレ動作30%の者が自立であった。
    【考察】
    トイレに手すり設置を行った患者は、非麻痺側上肢MMT4以上で麻痺側下肢BRS_III_、歩行能力は見守りの者が多かった。これらの身体機能と動作能力を有した患者は、安全性や介護負担を考慮し退院後の移動手段は車いすとなる傾向があった。車いすでのトイレ動作には、立ち上がりや立位保持、移乗動作が関与する。今回の調査でトイレに手すり設置した患者は、手すり使用下で立ち上がり、立位保持、移乗動作が自立となる傾向であったため、トイレへの手すり設置が多かったものと思われる。今回の結果から、非麻痺側上肢MMT4以上で麻痺側下肢BRS_III_、歩行能力は見守りの患者が在宅復帰するにあたり、トイレへの手すり設置を十分に検討していく必要があると考える。今後は、対象者を増やし他の改修や福祉用具、家族の介護力も視野に入れさらに住宅改修について調査していきたい。
  • ―回復期リハビリテーション病棟における転倒発生状況調査から―
    柴田 由理, 鈴木 純, 常田 康司, 藤本 幹雄(MD), 美原 盤(MD)
    セッションID: 26
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中患者において転倒は予後に影響を与える重大なリスクである。我々は、転倒リスク管理として脳卒中患者の病棟内歩行自立を判断する際に独自の基準を用いて評価を行っているにもかかわらず、病棟内歩行自立と判断した症例においても転倒することが経験された。今回、転倒防止の一助を目的とし、回復期リハビリテーション(リハ)病棟における脳卒中患者の転倒発生状況調査を行い、病棟内歩行自立基準のあり方について検討した。
    【方法】1.平成19年4月1日~平成20年10月31日までに回復期リハ病棟内で発生した転倒に関するインシデントレポート(IR)を収集した。2.IRの中から、日中病棟内歩行自立と判断した後に就寝時間以外(7時~21時)に病棟内で起こった転倒事例を抽出し、転倒発生場所・時間・状況を後方視的に調査した。なお、当院独自の病棟内歩行自立基準は、歩行準備・関連動作能力6項目、基本歩行能力6項目、応用歩行能力5項目、応用動作能力4項目、危険管理能力12項目の合計33項目から成っている。また、転倒の定義については「本人の意志からではなく、地面またはより低い面に身体が倒れること」(Gibson MJ 1990)に準じた。
    【結果】期間内に起こった転倒は延べ834件であり、そのうち病棟内歩行自立後に起こった転倒は延べ19件であった。発生場所は、病室11件(57.9%)、廊下6件(31.6%)、トイレ・食堂が各1件(各5.3%)であった。発生時間はばらつきがあり一定の傾向はみられなかった。発生状況は、危険管理に関するもの6件、歩行準備・関連動作、応用動作、移乗動作に関するものが各3件、基本歩行に関するものが2件、応用歩行に関するものが1件、不明1件であった。また、当院の自立基準で想定されている要因による項目での転倒が12件(63.1%)、想定されていない要因による項目での転倒が7件(36.8%)であった。
    【考察】当院では病棟内歩行自立基準を歩行のみでなく、応用動作等の病棟内歩行関連動作も含め、転倒のリスクがあると想定される要因を考慮して作成していた。しかしながら、今回の結果では、基準に該当する要因においても、また、基準に含まれない要因による転倒も多く存在していた。このことから、転倒のリスク管理として病棟内歩行自立基準を運用するためには1.基準を作成するだけでなく、スタッフの基準適用遵守の定期的な確認、2.IRなどから得られたデータを基にした定期的な基準の更新、の2点が必要と思われた。
  • 瀧口 江理, 赤澤 美奈, 北村 美咲, 森谷 友羽, 渡邉 浩文
    セッションID: 27
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院は急性期病院であり、整形外科患者は、受傷後すぐに松葉杖指導を行なう場合が多い。一般的に、高齢になるにつれ松葉杖歩行の獲得が困難になると言われているが、詳しい指標は提示されていない。今回、転倒リスクの軽減につなげることを目的に、松葉杖歩行の安定性が年齢や荷重量により違いがあるかを検証したのでここに報告する。
    【対象】
    当院リハビリテーション科に平成19年~平成20年にかけて松葉杖指導を受けた患者より、乱数を用いて無作為に抽出した100症例(平均年齢39.8±22.3歳、男性60例、女性40例)とした。
    【方法】
    年齢、荷重量、安定度のデータを使用し安定性の違いの有無をX〈SUP〉2〈/SUP〉検定を用いて検討した。不安定と判断した基準として、見守りまたは介助が必要なため、何度も繰り返し指導が必要だった症例とした。
    また、ここで使用される情報についてはヘルシンキ宣言に基づいて行った。
    【結果】
    年齢における安定・不安定の関係に有意差が認められた (p<0.05)。年齢・荷重量の関係、荷重量と安定・不安定との関係においては、有意差は認められなかった。年齢別に不安定性の出る確率をみると、60歳代から急激に上昇する傾向がみられた。
    【考察】
    今回の結果より、年齢が高くなるほど松葉杖歩行時の安定性が得られ難くなることが示唆された。年齢が高くなるにつれ、身体能力の低下が出現してくるため安定性の獲得が難しく転倒の危険性が高くなると考えられる。また、荷重量が多いほど支持面が得られるため安定性が増すとの仮説を立てていたが、荷重量に関係なく不安定性が出現していた。これは、部分荷重の難しさが関与しているのではないかと考えられる。以上のことから、高齢者の松葉杖指導をする際は、荷重量に問わず転倒に注意した松葉杖指導を行うことが必要である。
    【まとめ】
    今回は初回松葉杖指導における安定度の調査を行った。今後、不安定性が出ている原因について、更に研究していく事を今後の課題としたい。
  • 中川 和昌, 金城 拓人, 半田 学, 猪股 伸晃, 今野 敬貴
    セッションID: 28
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    姿勢により分類された運動介入を特定高齢者施策の事業の一環として実施し,その効果を検討する.
    【方法】
    群馬県みなかみ町在住の特定高齢者施策の運動機能改善事業に参加している65歳以上の高齢者を対象とした.事業参加者に対しては以前より継続した運動介入・定期的な体力測定を実施しているが,今回は2ヶ月毎に計3回の体力測定を実施し,その3回の測定全てに参加する事が出来た25名 (平均年齢83.3±5.6歳,男性2名,女性23名)を対象とした.全ての対象者は主治医の許可後,本事業に参加しており,全員に対し十分な説明後,参加同意を得た上で体力測定及び運動介入を実施した.
    評価項目は体重(kg),体脂肪(%),握力(kg),椅子立ち上がりテスト(回/30秒),開眼片脚立位保持時間(秒),Timed Up and Go Test (TUG: 秒),10m歩行時間(秒),老研式活動指標,WHO-5であった.また全ての測定時に,外出頻度 (日/週),疼痛の有無とその程度を調査した.
    両測定期間で共通して介入した内容は,週1回の頻度で実施した集団運動20分程度,各対象者に対してPTが選択した3個程度の個別運動であった.加えて第2回の体力測定の後,対象者を姿勢別に5群に分類し,その姿勢毎に適していると考えられた介入運動を追加して指導した.全ての運動は自宅でも実施可能な内容で統一している.
    統計解析は各測定項目の計3回の測定値に対してFriedman検定を実施し,有意差が認められた項目において,各測定間をWilcoxonの符号付順位検定を実施した.有意水準は危険率5%以下とした.
    【結果】
    第1回と第2回の体力測定間の日数は50.4±7.8日,第2回と第3回の体力測定間の日数は47.3±3.1日であった.第2回に指導した運動の実施頻度は5.8±1.5日/週であった.
    体力測定の結果,第1回と第3回の体力測定間で片脚立位保持時間 (5.4±5.1秒→7.9±8.2秒),TUG (9.1±2.3秒→9.9±2.6秒)の項目において有意差が認められた.また,第1回と第2回の体力測定間では何らかの疼痛を有している人数に変化はなかったが (16名→17名),第2回と第3回の体力測定間では減少した (17名→9名).
    【考察】
    姿勢に対するアプローチは疼痛軽減の効果が得られ,有効な介入方法であると考えられた.さらに一般的な運動介入に加えて実施する事で,静的バランスにより効果的である可能性が示唆された.
  • ―身体寸法、車いす寸法、座位能力からの検討―
    高野 利彦, 鈴木 康夫, 茂手木 章浩, 秋山 ひとみ, 肥土 真利絵
    セッションID: 29
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当施設では平成20年度からシーティングに取り組み始め、当施設入所者(以下入所者)に必要な車いすの把握が課題となった。先行研究では、高齢者の身体寸法を測定した結果、普通型車いすでは不適合とされている。そこで本研究では、入所者の身体寸法と座位能力、車いす寸法や種類の現状を分析し、今後必要な車いすと取り組みを検討することを目的とした。
    【方法】調査期間は平成20年10月10日から同月24日までとした。対象は、入所者49名(男性7名、女性42名:平均年齢84.8±7.2歳)とし、車いすも調査期間中のものとした。なお、本人あるいは家族に対し、本研究の目的と内容を説明し同意を得たのち実施した。調査方法は、各入所者の担当者(理学療法士3名、作業療法士2名:平均経験年数5.0±6.2年)が身体寸法を測定し、Hoffer座位能力分類(JSSC版)を調査した。車いすは台数確認および寸法測定、クッションの調査を実施した。
    【結果】入所者の身体寸法の平均値(男性/女性)は、座位臀幅35.5±2.8cm/32.8±2.7cm、座底長44.1±2.1cm/41.8±3.4cm、座位下腿長41.8±3.0cm/37.1±2.2cm、座位肘頭高23.4±5.0cm/17.5±3.1cm、座位肩甲骨下角高41.5±3.7cm/36.1±3.9cmであった。入所棟内の車いすの種類と台数は、普通型車いす(4種類)62台(80.5%)、低床車いす(2種類)4台(5.2%)、リクライニング車いす2台(2.6%)、モジュラー車いす2台(2.6%)、本人所有の車いす7台(9.1%)であった。79.2%を占める3種類の普通型車いすの寸法の平均値は、座幅40.2±1.3cm、奥行40.0±0.0cm、前座高44.3±2.3cm、アームサポート高22.3±0.8cm、バックサポート高38.2±1.0cmであった。車いす使用者のHoffer座位能力分類(JSSC版)の各群の割合は、手の支持なしで座位可能な群52.6%、手の支持で座位可能な群34.2%、座位不能な群13.2%であり、その中で座面クッション使用者は36.8%であった。
    【考察】入所者の身体寸法と車いす寸法を比較した結果、特に女性において車いすが大きすぎ、不適合となっていた。普通型車いすの中で、最も座幅が狭く、前座高の低い車いすが多く使用されていたのは、台数が多いことや女性の座位下腿長と適合していたためと考えた。また、Hoffer座位能力分類(JSSC版)の各群において、適切な寸法、種類の車いすやクッションを使用していない状況であった。座面クッション使用後はモジュラー車いす、低床車いすが女性に適合しやすくなる。そのため、まず座面クッションの補充を行い、その後クッションの寸法と女性の身体寸法を考慮した車いすやティルト車いすを補充していく必要があると考える。
  • 遠藤 弘司, 森尾 裕志, 井澤 和大, 平木 幸治, 笠原 酉介, 渡辺 敏, 大森 圭貢, 清水 弘之
    セッションID: 30
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【背景】  本邦における標準型車椅子や洋式トイレの座面高は,40cm前後のものが多い.また,高齢患者に対する理学療法場面では,立ち上がり動作における手支持の必要性の有無を評価し,ADL指導や筋力スクリーニングテストとして活用していることも少なくない.しかし,椅子から手支持を用いた立ち上がり動作可否と,その要素とされる上下肢筋力,バランス能力,下腿長との関連については明らかではない. 【目的】  座面高40cmの台からの立ち上がり動作において,手支持の有無と上肢筋力,下肢筋力,バランス能力,および下腿長との関連を明らかにすること. 【方法】  対象は後述する測定項目を施行した入院高齢患者280例中,座面高30cm以下の台から手支持を用いずに立ち上がれる症例(n=177),および座面高40cmの台から手支持を用いても立ち上がれない症例(n=7)を除いた96例(年齢平均78.9歳)である.なお,中枢神経疾患,運動器疾患,精神疾患を有する例については対象から除外した.立ち上がり動作は座面高40cmの台を用い,その可否と手支持の有無を調査した.上肢筋力指標には握力 [kgf],下肢筋力指標には等尺性膝伸展筋力 [kgf/体重],バランス能力指標には前方リーチ距離 [cm]を用いた.年齢,体格に関する指標は,診療記録より後方視的に調査した.対象者96例を手支持なしで立ち上がれる群(手なし群)と,手支持を必要とする群(手あり群)の2群に選別し,各指標の比較およびそれらの関連について検討した.解析には,χ二乗検定,t検定を用いた.また,立ち上がり動作に関わる要因について,年齢,BMI,握力,等尺性膝伸展筋力,前方リーチ距離,下腿長を説明変数,立ち上がり動作における手支持の有無を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った.次に,最終選択された変数に対し,ROC曲線を用いて,そのカットオフ値を求めた.統計学的有意差判定基準は5%とした. 【結果】  手なし群は47例,手あり群は49例であった.性別(p=0.57),年齢(p=0.17),身長(p=0.26),体重(p=0.71),BMI(p=0.34),握力(p=0.19),前方リーチ距離(p=0.19),下腿長(p=0.63)は2群で有意差はなかった.ロジスティック回帰分析で最終選択された変数は,等尺性膝伸展筋力(p<0.001)のみであった.立ち上がり動作に際し,手支持の有無を判別する等尺性膝伸展筋力のカットオフ値は,0.24 kgf/体重(感度80.9%; 特異度69.4%; 陰性適中率79.1%; 曲線下面積0.75)であった. 【考察】  座面高40cmからの立ち上がり動作における手支持の有無は,上肢筋力,バランス能力,下腿長の要因に比べ,下肢筋力の要因を強く反映すると考えられた.また,等尺性膝伸展筋力が0.24 [kgf/体重]を下回る場合には,座面高40cmの立ち上がり動作に際し,手支持が必要となる確率が高くなることが考えられた.
骨関節系
  • ―矢状面のLaxityに着目して―
    坂下 大, 高橋 賢, 木賀 洋, 石井 義則, 野口 英雄, 武田 光宏
    セッションID: 31
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】当院の先行研究では,後十字靭帯(PCL)温存型人工膝関節全置換術(TKA)の術後膝関節可動域は,PCLが影響を及ぼすと推察され(2007関東甲信越ブロック理学療法士学会,2008日本理学療法学術大会),矢状面Laxityとの関連性も認められる(2008関東甲信越ブロック理学療法士学会)と報告してきた.今回,PCL温存型TKAにおいて,引き出し力,人工関節の拘束性,軟部組織の緊張により構成される矢状面Laxityの膝関節屈曲肢位による差に着目し,術後6ヶ月時獲得膝関節屈曲可動域を比較することで,PCL温存型TKAの術後可動域に対する理学療法について考察した. 【対象】平成14年6月から平成20年6月までに,外傷歴のない変形性膝関節症により当院にてPCL温存型TKA(機種:LCS Total Knee System(Depuy))を施行した70膝関節(男性:5関節,女性:65関節,平均年齢:71歳)を対象とした.手術は全例同一術者により施行され,後療法は術後翌日より全荷重を許可し,可動域については抜糸まで自動運動を,抜糸以降は他動運動も加え実施した. 【方法】本研究の同意を得た後,術後6ヶ月時に,膝関節屈曲可動域測定および膝前後方向総変移量(Total A-P displacement:TD(単位mm))を測定した.TDの測定方法は,測定肢位は膝関節屈曲位30°,75°とし,KT-2000 Knee Arthrometer(MEDmetric)を用い,113Nの前方引き出し力と89Nの後方引き出し力を加えたものを3回計測し,その平均値を算出した.その後,TDが30°より75°の方が大きい群をA群,30°より75°の方が小さい群をB群と分け,A群とB群の膝関節屈曲可動域の比較を行った.統計処理は、ウェルチのt検定を用いた.(有意水準5%). 【結果】全体の平均膝関節屈曲可動域:112.6±14.2°,平均30°TD:7.8±3.9,平均75°TD:8.6±4.2であり,A群は44関節(30°TD:7.1±4.0/75°TD:9.7±4.3),B群は26関節(9.2±3.6/6.7±3.4)に分類された.平均膝関節可動域はA群:115.6±12.2°,B群:107.7±16.2°であり,有意差が認められた.(p=0.038). 【考察】本デザインは,前後方向の拘束性はないことを考慮すれば,本結果より75°屈曲位での矢状面Laxityが大きい方がroll-backを誘導しやすく,大きな可動域が得られやすくなる可能性が示唆された.今後,画像を含めた追評価の必要もあるが,本デザインにおいて屈曲位での,より大きな矢状面Laxityを得られるような後療法を考慮する必要性が示唆された.
  • ―リハビリテーションガイドラインを用いて―
    柳田 鷹王, 高橋 真, 江連 智史, 石垣 直輝, 岡田 亨
    セッションID: 32
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】我々にとって、腰痛患者治療の際、身体機能だけでなくQOLの向上に目を向ける事が重要である。当院では身体機能、QOL双方の向上を目指した独自のリハビリテーションガイドラインを試験的に運用している。本研究の目的は、当院のガイドラインに沿って評価、治療した外来腰痛患者の経過を調査し、その有用性を検討することである。
    【対象と方法】対象は当院で腰部疾患の診断を受けて、リハビリが処方されてから2ヶ月まで経過観察可能であった13名(男性4例、女性9例、平均年齢は53.1±19.4歳)とした。下肢神経症状を有する症例やX線画像上器質的異常を呈する例,また手術例や注射の併用例は除外した。評価、治療は同意のもと当院リハビリテーションガイドラインに基づいて実施した。評価項目は疼痛評価(以下NRS)、Finger-Floor Distance(以下FFD)、Heel-Buttock Distance(以下HBD)、Straight Leg Rising(以下SLR)、Roland-Morris Disability Questionnaire(以下RDQ)とした。検討項目は、前述した5項目をリハビリ初回時(以下初回時)と初回時から1ヵ月時、2ヵ月時に評価し、各々の平均値を各時期で比較した。統計学的処理はTukeyの多重比較を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】初診時、1ヶ月時、2ヶ月時の各時期における結果を以下に示す。NRSは5.3点、2.9点、2.7点。FFDは17.5cm、5.0cm、5.2cm。SLRは62.7°、71.0°、73.4°。HBDは6.5cm、2.6cm、2.2cm。RDQは6.7点、3.4点、1.9点。全5項目は初回時と1ヶ月時、初診時と2ヶ月時の比較でそれぞれ有意な改善を認めた。しかし1ヶ月時と2ヶ月時の間では、全ての項目で有意差は認められなかった。
    【考察】過去の報告によると、週3日以上の腰痛体操実施によりRDQ、VAS、FFD、HBDは初回から2週目で有意に改善し、その後8週目まで維持されたと述べている。先行研究と同様、本研究では5つの評価項目全てが初回時と比較し1ヶ月時、2ヶ月時ともに有意に改善していた。また腰痛特異的QOL尺度であるRDQに着目すると、初診時が6.7点であったのに対して1ヶ月時は3.4点、2ヶ月時は1.9点となり、日常生活に支障のないレベルまでQOLは改善していた。 この事から外来腰痛患者に対しては、本研究の結果をふまえた治療ゴールの設定が可能であると考える。
  • ―術後固定期の理学療法を中心に―
    桑原 隆文, 小海 努, 風間 裕孝
    セッションID: 33
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では腰椎固定術後の固定期として3ヶ月間の硬性コルセットの使用を行っている.従来,固定期の理学療法(以下:PT)は下肢柔軟性の改善,体幹・下肢筋群の強化,ADL指導が主流であり,臨床上,固定除去時に必要以上の拘縮が形成され,PTが長期化する事を経験する.今回,第1腰椎破裂骨折に対して前方徐圧固定術を施行した症例の術後PTを経験し,良好に回復した為,経過及び固定期PTについて報告する. 【症例】24歳男性.平成20年11月11日に屋根にてペンキ塗装中に転落し受傷する.同日,当院受診し第1腰椎破裂骨折と診断され,11月20日に腰椎前方徐圧固定術(Th12‐L2)を施行する.両踵骨骨折も合併し,同日に骨接合術も施行する.術後4日よりPT開始となり,3ヶ月で骨癒合は良好であった為,固定除去が許可された. 【初期評価】腰背部痛はみられないが,広背筋・腰部多裂筋にスパズムが認められた.SLRは両側60°でThomas test・Ober testは両側共に陽性であった. 【固定期PT】選択的な多裂筋の収縮訓練,下肢筋群・広背筋のリラクゼーション・ストレッチ,術創部周囲の滑走性の維持,体幹・股関節周囲筋群の筋力強化 【経過】固定除去時,SLRは両側80°でThomas test・Ober testは両側共に陰性で疼痛なく,体幹屈曲70°(FFD 0cm)・伸展35°可能であった.その際,非固定椎間の滑らかな前後彎が得られていた.この時点でJOA-scoreは29/29点であった.その後もADL上疼痛なく,現在も経過観察中である. 【考察】本症例では,受傷時の脊柱後彎強制により腰部多裂筋の損傷が生じていた.さらに3ヶ月間の安静により固定除去時,必要以上の拘縮が形成されると予想された.固定期では,従来のPTに加え,Dr.に確認し,骨折部に配慮した上で選択的な腰部多裂筋の収縮訓練を実施した.同訓練はその解剖学的特徴から非固定椎間の可動性維持も可能と考え,スパズムが改善しても継続して実施した.その結果,固定除去後も非固定椎間の拘縮を形成する事なく,良好に回復した.本症例では選択的な多裂筋の収縮訓練は非固定椎間の可動性維持に有効であったと共に固定期PTにおいてDr.に固定性等を確認した上で実施しても良い一手段と考えた.今後は更に症例数を増やし,検討していきたい.
  • 三浦 雅文, 柴 ひとみ, 斎藤 昭彦
    セッションID: 34
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】スランプテストは頭部から脊髄、坐骨神経、その分枝に至る神経系の動力学的評価として用いられる。Maitlandらが報告した正常反応は年齢を考慮されていないが、ヒトの身体組織は加齢による変化を受けているため、年齢によって正常反応が異なる可能性がある。本研究は年齢による正常反応の違いを明らかにすることを目的とした。 【方法】対象者は無症候健常者57名で、10代~50代までを年代ごとに5群に分けた。事前に研究内容を説明し同意を得た。スランプテストは端坐位から胸腰椎屈曲(ステージ1)、頚部屈曲(ステージ2)、右膝伸展(ステージ3)、右足背屈(ステージ4)、頚椎屈曲と下肢の解放(ステージ5)を行い、その後ステージ3から左下肢を同様に行った。各ステージごとに体幹部、大腿部、下腿部、足部のどの部位に反応が生じたかを調査した。統計は5群間でχ2独立性の検定を行い、有意差有りの項目で2群ずつχ2独立性の検定を行いどの群間で有意差があったかを調べた。有意水準はすべて5%未満とした。 【結果】反応が生じた部位はほとんどが大腿部と下腿部であった。スランプテスト全体で大腿部に反応を生じた者は左右とも40代で最も多くなる傾向が見られ、左の40代50代群間、40代10代群間で有意な差が見られた。下腿部の反応に有意差は無かった。ステージ別ではステージ3で大腿部に反応が生じた者は左右とも40代が最も多く、右は40代30代群間と40代50代群間で、左は40代と他のすべての群との間で有意差が見られた。下腿部の反応に有意差は無かった。ステージ4で大腿部に生じた反応に有意差は見られなかった。下腿部に反応が生じた者は左右とも50代が最も多かったが、有意差は見られなかった。 【考察】40歳代が若い年代よりステージ3の大腿部に反応を生じる者が多かったのは、加齢によって伸張性や可動性に変化が生じ、組織が感作され易くなってきているためと考えられる。 50歳代はテスト全体で生じる反応数が40歳代より減少しており、組織の状態が慢性化することで反応が低下していることが考えられる。さらに高齢になると脊柱の変形なども生じはじめ、さらに反応が乏しくなることが予想される。一方で有意ではなかったが50歳代は40歳代よりも遅いステージで、より抹消に反応を訴える者が多い特徴が見られた。これは反応の低下が中枢側から末梢へ徐々に生じている可能性が考えられる。 本研究はパイロットスタディとして有意義であり、今後は対象者数と年齢層を増やすことや生じた反応を神経原性と侵害受容器性に鑑別することなどで、より信頼性の高い研究にしていきたい.
  • 大場 恵美, 杉浦 史郎, 豊岡 毅, 志賀 哲夫, 大山 和美, 西川 悟(MD), 村上 仁之
    セッションID: 35
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 肩関節構成体には多数の固有受容器が存在しており、変化する角度に対応できる精密な協調運動の一役を担っている。そのため、肩関節構成体の損傷は、固有受容器に異常をきたし、臨床場面でも関節位置覚が低下している症例を経験することがある。しかし、肩疾患患者を対象とし、角度を区分し関節位置覚の誤差を検討したものは少ない。そこで今回、関節位置覚について肩疾患患者と健常成人を対象とし、患側健側間での違いと、誤差が生じやすい角度について調査した。 【方法】 対象は34名68肩である。内訳は、肩疾患患者22名44肩のうち患側22肩を疾患患側群(以下P患群)、健側22肩を疾患健側群(以下P健群)とし、健常成人12名24肩を健常群(以下N群)とした。方法は、閉眼自動運動における肩関節前方挙上を用いた。まず、前方挙上にて設定した目標点の位置を記憶させ、下制させた。再び記憶した目標点まで前方挙上をさせ、この位置を到達点とし、目標点との誤差を計測した。また、前方挙上範囲は(a)0~30度(b)30~60度(c)60~90度に3区分し、(a)~(c)をランダムに測定した。統計処理は、Mann-WhitneyのU検定とWilcoxonの符号付順位検定を用いて、有意水準は5%未満とした。 【結果】 0~30度においては、P健群(3.9±4.4cm)に比べP患群(5.7±3.7cm)の誤差が有意に大きく(p<0.01)、P患群(5.7±3.7cm)とN群(3.2±1.9cm)においても同様の結果がみられた(p<0.05)。30~60度では有意差は認められなかった。60~90度の範囲では、P健群(3.0±1.9cm)とP患群(4.6±3cm)にて有意差がみられた(p<0.01)。なお、N群間の左右差は、(a)~(c)の全ての範囲で有意差は認められなかった。 【考察】 P群の0~30度、60~90度にて、患側と健側との間に有意差が認められたこと、また他の前方挙上範囲と比べ0~30度にて誤差が生じやすいことが分かった。つまり、肩関節構成体を損傷した場合、特に初動角度で関節位置覚に異常をきたすことが示唆された。これらの原因として、0~30度は腱板の機能が低下したことにより、筋紡錘による求心性情報が低下したためと推測した。30~60度では、腱板に加え三角筋や僧帽筋の筋紡錘が働き、誤差が少なかったと考えた。60~90度では、肩疾患患者は腱板に加わる圧刺激が影響し、関節位置覚の認識が困難になったと推測した。 【まとめ】 今回、肩疾患患者の関節位置覚は、特に0~30度の初動角度で健側に比較し患側が低下することが認められた。今後の理学療法においても、初動角度での関節位置覚に着目する必要性が示唆された。
  • 粕山 達也, 坂本 雅昭, 川越 誠, 加藤 和夫(MD)
    セッションID: 36
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】足関節の背屈制限はスポーツ傷害および高齢者の転倒との関連が報告されており,理学療法を行う上で重要な機能障害の一つである.足関節背屈可動性には下腿三頭筋の柔軟性が影響を及ぼすことが明らかにされているが,他にも足関節背屈運動には踵骨の副運動が伴い,足底腱膜や踵骨の動態が影響を及ぼすと考えられる.そこで,本研究の目的は足関節背屈運動と足底腱膜および踵骨動態との関連を明らかにすることとした.
    【方法】対象は本研究の趣旨に同意の得られた健常成人男性10名(平均年齢27.1±3.7歳,身長175.9±5.3cm,体重67.3±8.2kg)とした.測定肢は全例右側とした.測定項目は,足関節背屈可動性の指標に足関節背屈角度およびBennelらの母指壁距離を使用し,足底腱膜および踵骨動態の指標には足底腱膜厚,足底腱膜長,足底腱膜厚率(足底腱膜厚を足底腱膜長で除した値),踵骨回転角度を使用した.踵骨の回転角度は膝伸展位と膝屈曲位にて実施し,踵骨の背側方向の運動をプラスとした.足底腱膜の踵骨の動態測定は,長座位にて超音波画像診断装置(GE社製LOGIQe,B-mode,10MHz)を用いて足底腱膜の踵骨付着部付近を観察した.各項目の相関分析および膝関節肢位による踵骨回転角度の比較を行った.
    【結果】足関節背屈角度および母指壁距離と足底腱膜厚率,踵骨回転角度には有意な相関は認められなかった.足底腱膜厚は平均0.33±0.06cmであり,足関節背屈運動に伴う足底腱膜厚の変化は観察されなかった.足関節背屈運動における踵骨回転角度は膝伸展位-1.8±5.2度,膝屈曲位7.6±4.4度で有意に差が認められた(p<0.05).
    【考察】足関節背屈可動性と足底腱膜との関連が認められなかった理由として,足底腱膜は強固な腱組織であり,十分な伸張性を有さず足部アーチ構造の変化により背屈運動に影響していることが考えられた.また,踵骨の回転との関連については,足関節背屈運動は矢状面に加えて前額面での運動も行われるため,今回のように矢状面のみの観察においては明確な関連が示されなかったと考えられた.足関節背屈運動において踵骨が膝伸展位にて底側に牽引され,膝屈曲位で背側に牽引されることが示され,膝関節の肢位によって腓腹筋およびアキレス腱の緊張が変化し,踵骨の動態に影響を及ぼすと考えられた.今後は腓腹筋およびアキレス腱の形状、足底腱膜の中足骨側も併せて観察し,生体内での足関節背屈運動の全容を明らかにすることで,背屈制限に対する効果的な介入方法を検討していくことが課題である.
神経系
  • 黒澤 翔, 加藤 誠, 山口 智史, 大須 理英子  , 御園 靖子, 積田 尚子, 横山 明正, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    セッションID: 37
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     われわれは,回復期病院と連携し,リハビリテーション専門医の処方のもとPT,OT,STによる,少人数・集中型の個別性を重視したリハビリテーション(以下,リハ)を通所リハにて実施している.今回,回復期病院退院後の脳卒中患者を対象とし,集中的なリハによる効果を検討した.
    【方法】
     対象は2007年5月から2009年1月までに当通所リハを利用した106名の中で,以下の選択基準にあう脳卒中患者24名(平均年齢66.1歳±22.1)とした.1)初回発作の脳卒中,2)発症後180日以内に当通所リハの利用を開始し週1回以上利用している者.除外基準として,1)高次機能障害,認知症によって指示理解が困難,2)疼痛や拘縮,整形外科的疾患などにより評価が困難である者.訓練時間は、3時間程度.難易度を対象者にあわせて調節したプログラムをPT・OTにより実施した.評価項目は,10m歩行時間(至適速度),timed up and go test(以下TUG)とした.評価は,開始時,6か月後に実施した.さらに,対象者を開始時の麻痺重症度(ブルンストロームステージ;以下ステージ)により,群分けしその効果の違いを検討した.統計処理は,初回利用時と6か月後において,各評価項目で対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%未満とした.なお本研究は,東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会において承認を得ている.
    【結果】
     開始時のステージは,3が7名,4が6名,5が11名であった.訓練頻度は,1週間に1回が3名,2回が15名,3回が4名,4回が2名であった.全対象者での解析では,10m歩行時間,TUGにおいて有意な時間の短縮を認めた(p<0.01).ステージ別の解析では,ステージ3においては,10m歩行時間で平均41.4±19.7秒から平均25.5±13.6秒と有意に改善を認めた.ステージ4においては,TUGで平均35.9±16.2秒から平均24.6±9.3秒で有意な改善を認めた(p<0.05).一方,ステージ5においては,初回と6か月の間に有意差を認めなかった.
    【考察】
     今回,回復期病院を退院後の脳卒中患者に対し,通所リハにて集中的なリハを継続して行い,効果を認めた.ステージ別の解析において,ステージ3,4においては機能向上が得られたが,ステージ5では有意な改善は認められなかった.麻痺の重度な対象者においては,回復期病院にてリハを施行後も,まだ十分な伸びしろがあり,更なる集中的なリハによって,運動パフォーマンスの改善がはかられたものと考えられる.一方で,麻痺が軽度な対象者においては,訓練の強度や難易度の調整をしていても,十分な効果が得られなかった.今後,対象者を増やすとともに,訓練量や評価尺度の工夫を行い,さらなるリハ効果を検討していきたい.
  • 加藤 誠, 山口 智史, 黒澤 翔, 大須 理英子, 御園 靖子, 積田 尚子, 横山 明正, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    セッションID: 38
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     回復期病院を退院後に,その機能や能力を維持・向上することは重要である.しかし,退院後も継続したリハビリテーション(以下,リハ)を行い,その状態を維持,向上することは困難であることが多い.当通所リハビリテーション(以下,当通所リハ)では,回復期病院と連携し,リハビリテーション専門医の処方のもと理学療法士,作業療法士,言語聴覚士による,少人数・個別性を重視したリハを行っている.今回,当通所リハ利用した慢性期脳卒中患者へのリハ効果を検討したので報告する.
    【方法】
     対象は,2007年5月から2009年1月までに当通所リハを利用した慢性期脳卒中片麻痺患者18名(平均年齢64.1歳±10.0).発症日(初回発作)から初回利用日までの期間が6か月以上(196日から2343日)であった.下肢の麻痺レベルはBrunnstrom stage(以下,Brs)2が1名,Brs3が6名,Brs4が8名,Brs5が3名であった.高次機能障害,認知症,著明な疼痛等,指示の理解や歩行が困難である者は除いた.本研究は,東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会において許可された.評価項目は,下肢伸展筋力,10m最速歩行時間,timed up and go test(以下,TUG)とした.下肢伸展筋力は三菱電機社製strength ergo240を使用し麻痺側,非麻痺側下肢伸展ピークトルク値を計測し,下肢伸展筋力とした.また麻痺側下肢伸展ピークトルク値を非麻痺側下肢伸展ピークトルク値で割った値を健患比として算出した.評価は,利用開始時,3か月後,6か月後に行った.統計処理は各評価項目で対応のあるt検定を利用開始時と6か月後で行い,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
     利用開始時と比較し麻痺側下肢伸展筋力では,平均20.6±14.3Nmから平均27.3±17.2Nmと有意な改善を認めた(p<0.05).一方で,非麻痺側下肢伸展筋力は,変化を認めなかった.健患比においては,平均0.44±0.21から平均0.63±0.24と有意な改善を認めた(p<0.01).またTUGにおいても,平均27.6±18.0秒から平均22.9±14.1秒で有意な時間の短縮を認めた(p<0.01).10m最速歩行時間においては,改善傾向を示したが有意差を認めなかった.
    【考察】
     今回,慢性期脳卒中患者においても,少人数・個別性を重視したリハによって,機能や能力を改善することが示唆された.またこの改善には,麻痺側下肢の筋力改善とそれに伴う左右非対称性の改善が,TUGなどの動作能力の向上につながったと考えられる.回復期病院を退院後,回復した機能,能力を維持・向上することは,通常の日常生活だけでは困難であることが多く,利用開始時には活動性低下による麻痺側の廃用が起こっていたと推察される.そのため,退院後も継続したリハを行うことは重要であると考えられる.今後,症例数を増やすと共に,機能・能力の関連性についても検討を行なっていきたい.
  • ―入院初期の身体要因から退院時歩行自立度の予測が可能か―
    大滝 雄介, 滝沢 真実, 熊谷 ゆう, 米沢 昌宏, 松本 肇, 曽根 理
    セッションID: 39
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【はじめに】回復期リハビリテーションにおいて、入院初期の面談情報から患者・家族へ退院時の歩行自立度を伝えられることは、患者本人と退院時目標を定め、円滑な退院計画を進める上では有効であると考える。そこで本研究は、脳卒中片麻痺者を対象として、担当理学療法士が判断した退院時屋外歩行自立群(以下A群)、屋内歩行自立群(以下B群)、屋内要監視群(以下C群)の3群の入院初期身体要因を比較し、退院時歩行自立度の判断に際しての一助となる指標を得ることを目的とする。
    【対象】対象は、平成19年12月~平成21年1月に当院に入院し、理学療法を施行した脳卒中片麻痺者24名(70.1±9.1歳)とした。条件は入院時、重症な合併症がなく、自力で歩行が可能な初発の脳卒中片麻痺者とし、いずれも本研究に同意が得られた症例とした。内訳は平均年齢A群(11名)65.4±7.6歳,B群(7名)70.1±6.9歳,C群(6名)78.7±8.5歳、発症から入院までの期間A群68.2±40.1病日,B群78.0±33.9病日,C群114.5±22.0病日。下肢Brunnstrom Recovery StageはA群5:4名・6:7名,B群4:1名・5:3名・6:3名,C群3:1名・4:2名・5:2名・6:1名であった。
    【方法】調査項目は1)年齢、2)発症から入院までの期間(以下期間)、3)BRS、4)非麻痺側膝伸展筋力、5)Functional Reach(以下FR)、6) 6分間歩行距離(6-Minute Walking Distance、以下6MD)の6項目とし、いずれも調査時期は家族面談が開催される入院後1ヶ月とした。統計学的分析には、各群間にて一元配置分散分析、Tukeyの多重比較検定を行った。次にA・B群間、B・C群間にて有意差が得られたものを従属変数、退院時歩行自立度を説明変数とし、判別分析にてA・B群間、B・C群間での判別式を求めるとともに、的中率を求めた。有意水準はいずれも5%未満とした。
    【結果】6MDはすべての群間にて有意差を認め、FRはA・C群間、B・C群間にて有意差を認めた。年齢・期間についてはA・C群間のみ有意差を認めた。また、A・B群間、B・C群間での判別式は、(A・B群間)=0.012×6MD-4.337、(B・C群間)=0.033×FR+0.026×6MD-6.176が得られ、それぞれの正答率は83.3%、100%であった。
    【考察】すべての群間にて6MDの有意差を認めたことから、歩行距離の指標は脳卒中片麻痺者の退院時歩行自立度を判断する際の客観的指標となり得ることが示唆された。またB・C群間にてFRに有意差を認めたことから、屋内歩行自立度にはバランス能力の指標が関連しており、先行研究を支持する結果であった。またA・C群間にて年齢・期間に有意差を認めたことから、脳卒中片麻痺者の歩行自立度を検討する際は、年齢を統制し、障害の重症度も含めて検討することが、判別式の妥当性を高めることにつながると考えた。
  • 藤田 真介, 常田 康司, 藤本 幹雄(MD), 美原 盤(MD)
    セッションID: 40
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】
    脳卒中片麻痺患者に対し、患者の運動機能に鑑み装具が処方されている。今回、どのような機能因子が処方者の判断に影響を及ぼしているかを検討し、適切な装具処方の一助とした。
    【方法】
    対象は、平成19年1月~平成20年10月に当院回復期リハビリテーション病棟へ入棟した脳卒中片麻痺患者のうち、装具を処方しなかった285例(年齢70±12.6歳)、入棟後7日以内に装具を処方した107例(年齢69±10.4歳、長下肢装具:KAFO 39例、短下肢装具:AFO 68例)とした。方法は、従属変数を装具処方の有無とし、独立変数を入棟時のStroke Impairment Assessment Set(SIAS)、Trunk Impairment Scale(TIS)、Functional Balance Scale(FBS)の下位項目とした。多重共線性を考慮して相関係数の高い項目を削除し、SIAS下肢近位・腹筋力・垂直性・下肢筋緊張・空間認知、TIS静的座位・動的座位・協調性、FBS前方リーチ・片脚立位にてロジスティック回帰分析を行い、抽出された因子からReceiver-Operating-Characteristic(ROC)曲線にてcut off値を求めた。さらに、処方装具(KAFO・AFO)を従属変数として同様の統計処理にてcut off値を求めた。
    【結果】
    ロジスティック回帰分析の結果、装具処方の有無では、SIAS下肢近位(Odds Ratio 2.80、95%信頼区間2.08-3.78)、SIAS垂直性(OR 0.52、95%CI 0.30-0.91)、SIAS下肢筋緊張(OR 2.29、95%CI 1.36-3.85)が有意に関連していた(p<0.05)。ROC曲線の結果、SIAS下肢近位は4点以上(感度0.821、特異度0.869、Area Under the Curve:AUC 0.893)、SIAS筋緊張は2点以上(感度0.772、特異度0.710、AUC 0.789)で装具が処方されない傾向にあり、SIAS垂直性は2点以下(感度0.846、特異度0.495、AUC 0.675)で装具が処方されていなかった。処方装具では、SIAS下肢近位(OR 1.81、95%CI 1.04-3.15)、TIS動的座位(OR 3.32、95%CI 1.16-9.49)で有意に関連していた(p<0.05)。ROC曲線では、SIAS下肢近位は1点以上(感度0.799、特異度0.769、AUC 0.818)、TIS動的座位は1点以上(感度0.765、特異度0.897、AUC 0.858)でAFOが選択される傾向にあった。
    【考察】
    装具処方の有無の目安として、麻痺側股関節の最大屈曲が可能、下肢筋緊張が軽度亢進~正常の2点が考えられた。SIAS垂直性ではROC曲線で特異度が低く、目安として重視されていなかった。AFO処方の目安として、麻痺側股関節の運動が可能、端座位にて左右への重心移動が可能という2点が考えられた。
  • 水澤 一樹, 江原 義弘, 田中 悠也, 古川 勝弥
    セッションID: 41
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】バランスは重心(COG)と支持基底面の関係から定義される.そのため静的姿勢保持においてCOGの評価は重要だが,複雑な計算が必要となり簡便には行えず,実際には足圧中心(COP)でCOGを代用することが多い.しかしCOPはCOGよりも振幅が大きく,動揺方向の位相が逆転する場合もあるとの指摘があり,COGとCOPは異なる可能性がある.また最近では静的姿勢保持の評価指標として身体動揺加速度を用いた報告もある.頭部加速度(AFHD)で重心加速度(ACOG)を代用している報告があるが,頭部は重心位置から大きく離れており,ACOGとAFHDは異なる可能性がある.そこで本研究の目的は,上述したバランス評価指標の相互関係を検討することとした.

    【方法】本研究は新潟医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施された.対象は健常者10名とし,本研究について十分な説明を行い,書面にて同意を得た.赤外線カメラ9台を含む3次元動作解析装置と床反力計2台を用い,サンプリング周波数100Hzにて対象者のCOPおよび頭部座標を抽出し,COGは対象者に貼付した37個の赤外線反射マーカーから計算した.対象者には直立姿勢を60sec間保持させ,開眼・閉眼にて各1回ずつ計測した.COGと頭部座標は2階微分し,ACOGならびにAFHDを求めた.さらにCOG,COP,ACOG,AFHDのそれぞれにおいて1秒ごとに最大振幅(最大値-最小値)を求めた.COGとCOP,ならびにACOGとAFHDの類似性を検討するため,相互相関関数(CCF)を求めた.またCOGとCOP,ならびにACOGとAFHDの最大振幅における差の有無を検討するため,対応のあるt検定を行った.いずれの解析も開眼・閉眼ごとに行い,有意水準はp=0.01とした.

    【結果】COGとCOPのCCFは開眼・閉眼ともにTime shift≒0(sec)でピーク値(r=0.98,0.97)を示した.またCOGとCOPの最大振幅には有意な差を認めた.ACOGとAFHDのCCFは開眼・閉眼ともにTime shift≒-0.1(sec),つまりAFHDがACOGに約0.1sec先行してピーク値(r=0.53,0.60)を示した.またACOGとAFHDの最大振幅には有意な差を認めた.

    【考察】COGとCOPは同期して変化し,両者の波形はかなり強く類似していた.しかし最大振幅が異なることから,COPでCOGを代用できないことが考えられた.またAFHDはACOGよりも約0.1sec先行していたものの,両者の波形は強く類似していた.しかし最大振幅が異なることから,AFHDでACOGを代用できないことが考えられた.本研究では健常者におけるバランス評価指標の相互関係を明らかにした.本研究結果を一般化するには,バランス障害を有する者を対象とし,今回の結果と比較検討する必要がある.
教育管理系・生活環境支援系
  • 石坂 勇人, 水嶋 優太, 加藤 祝也, 林 光弘, 多賀谷 信美, 岸田 さな江
    セッションID: 42
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】 平成18年当院では「乳がん患者の会」立ち上げに向けて多職種からなる「乳がんサポートチーム」が結成され、チーム医療の重要性から理学療法士(以下PT)も発足当時から参加している。発足より3年目を迎えこれまでの活動内容と患者会でのアンケートを通してチーム内におけるPTの役割と患者会の意義を再認識したので報告する。 【方法】 質の高い医療・ケアの提供を目的としたサポートチームによる「乳がん情報提供の会」を「リボンの輪」と命名し、年4回開催している。1部に乳癌に関する講義を行ない、2部には患者を少数グループに分けてのグループディスカッションを行なっている。PTもサポートスタッフとして私服での会の運営とグループディスカッションにファシリテーターとして参加している。 疾患に対しての質問事項や退院後の生活のことなど治療の場面では知ることの出来ない患者の意見を聞くため「リボンの輪」終了後の毎回アンケート調査やグループディスカッションにより情報を収集し分析した。 【結果】 アンケートはこれまでに7回実施し、433名の総参加者数のうち275名(64%)から返答を得ている。参加者の年齢は20歳代から70歳代までと幅広く、徐々に家族・夫婦での参加者も増えており、また当院以外で手術を受けた患者も友人の勧誘等で参加をしている。 アンケート結果やグループディスカッションからは以下のようなことが多く聞かれた。 ・治療について最新情報を知りたい・体験談等を少人数で話し合いたい・遺伝や転移の問題について・心のケアがほしい:話を聞いてもらえる場所、気持ちが楽になる場所・入院中に指導された事項が気になり何も出来なかった。リハビリテーションに関わる質問ではリンパマッサージ、術後の肩関節可動域、ストレッチについてなどであった。アンケートやグループディスカッションでの質問については専門分野のスタッフが返答し、共有情報として参加者全員に配布すると共に診療科窓口にも資料を置いてある。 【考察】 アンケート結果から、PTの役割も治療のみではなく、治療に伴う指導内容についても患者側ではどのように受け取られているのか確認することが必要であり、心のケアが欲しいなどの声は患者が抱える様々な背景を考慮した対応が必要ではないかと考えられた。 【まとめ】 アンケートや患者間の話し合いの場を通して、更なる質の高い医療・ケアを提供するために医療者側の意識改革と患者の声を聞く耳を持つPTの側面も求められていることを認識した。
  • ―受講生が抱える悩みと講習会プログラム―
    西潟 央, 村永 信吾
    セッションID: 43
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】2008年3月時点の日本理学療法士協会の資料によると、理学療法士有資格が約6万5千人、21~30歳の年齢分布が全体の約46%を占めていた。これらの数字から経験年数10年未満で管理職に相当する理学療法士が増えていると推測される。さらに変化する医療情勢で管理職は、様々な部門内の仕組みづくりに取り組まなければならない。このような背景の中、2002年から当メディカルセンターでは日本理学療法士協会主催の講習会「リハビリテーション部門における管理運営」を開催してきた。講習会を通して聴取してきた受講生が現場で抱える悩みや問題、および講習会プログラムについて報告する。 【方法】講習会後に満足度や感想を兼ねたアンケートを実施し、2007年からは講習会前にもアンケートを行い受講生側の悩みや現場の問題を聴取している。これらのアンケートをレビューし、受講生の動向および現場の悩みや問題と思われるキーワードをテキストマイニングで調べた。 【結果】2002年受講生の経験年数は10.2年で、2009年の講習会では13.9年であった。講習会後のアンケートでは期待値以上の評価を得たが、ほぼ毎年数名から「プログラム内容が多い。聞き慣れない言葉で十分に理解ができず、消化できない。」という意見が出ていた。また直近3年の講習会前アンケートから受講生が抱えている悩みや問題のキーワードでは「教育」に関するものが多くみられた。 【考察】ここ数年の傾向として管理運営において、「教育」に関する取り組みや仕組みづくりが重要と感じている受講生が多いと思われる。これは講習会を運営している側も同様に取り組んでいる重要課題の一つである。そのため、これまでの電子カルテやISO(International Organization for Standardization)9001、BSC(Balanced Score Card) などマネジメントツール概論の紹介を減らし、2007年から問題解決思考、2009年には教育に視点を置いた管理概念として「ナレッジマネジメント」というキーワードをもとに、現場の教育に関する事例をプログラムの中に提示した。受講生から理解や共感が得られる評価を得たが、受講生が現場で即応用できるレベルまで構築されていないためさらなる検討を感じている。 【まとめ】当メディカルセンターにおける管理運営系現職者講習会に参加した受講生の動向をレビューした。アンケートから受講生が現場で抱えている悩みや問題としているキーワードを調べた。「教育」に関するキーワードが多くみられた。
  • 竹渕 謙悟, 榊原 清, 高橋 智子, 高井 淳子, 中條 浩樹, 小川 奈保, 園田 晃大, 臼田 修久
    セッションID: 44
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【はじめに】
    近年の少子化により大学全入時代を迎え学生は多様化している。養成校は学生指導の中でより一層学生個人に配慮した肌理の細かさが要求されるようになった。そのような背景の中で当校は教育改革の一環として、平成20年度の臨床実習より実習要項を大幅に変更した。その目的は、より円滑で教育効果が高い実習内容とするために経験や体験を重視した実習とすること、指導者と学生とのコミュニケーションを促すこと、学生の評価を成果物ではなく臨床実習の取り組み方を重視することなど多岐に渡る。また具体的な変更内容としては登校日の導入、実習課題からケースレポートを削除、成績評価の方法・書式の変更、実習日誌の書式の変更、施設間連絡表の変更などがある。変更に関わる事項について対象学生に対しては実習前指導の中で、指導者については臨床実習指導者会議の中で資料等を用い説明をした。
    今回4年次の総合実習および3年次の評価実習の終了後にアンケートを実施し、臨床実習形態の変更に伴う現状を調査したところいくつかの知見を得たので報告する。
    【方法】
    当校在学中の4年生および3年生の計79名を対象とした。内容は臨床実習に関連する26項目について選択式の質問紙(一部記述)を用い匿名にて行った。
    【結果】
    登校日に関してほぼ100%の学生が導入について肯定的であった。学生と指導者のコミュニケーションに関する項目では、実技中心の実習ほど十分なコミュニケーションが取れている傾向が見られた。また、ケースレポートが中心の実習ほど実技に掛ける時間の割合が少なく実技練習や準備に掛ける時間が少ない傾向が見られた。
    【考察】
    登校日の目的は学生のモチベーションの維持と実習の進捗状況の確認である。登校日の最も良かった点は実習地訪問に出る前にある程度実習の進捗状況が確認できたことであった。また成果物主義の臨床実習はレポート作成にその大半の労力と時間が費やされ、目前の患者の評価・治療が後手に回るという本来の臨床実習の意義から外れる危険性がある。今回の調査では実技を通した臨床実習がより良い実習に繋がる可能性が認められた。そして、臨床実習がより充実するためには指導者と学生がどれだけコミュニケーションを取れたかがとても重要になる。今回の調査でも実技を充実させるためには指導者と学生のやり取りが必要であることが認められた。時代に合った教育効果のある臨床実習となるよう今後も検討を続けて行きたいと考える。
  • 池上 直宏, 麻生 義行, 伊藤 健志, 市川 静香
    セッションID: 45
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】患者満足度調査は、近年医療の質を評価する手段として多くの病院で実施されている。今回我々は、当院リハビリテーション(以下リハビリ)科において患者満足度調査を行い、興味深い結果を得たので以下に報告する。
    【対象】当院リハビリ科に1ヶ月以上通院されている患者様で、平成21年1月9日から23日までに来院され、脳血管または運動器リハを行った方のうち、本研究の目的に対して同意を得られた方を対象とした。有効回答数は54名(男性24名 女性30名 平均年齢70±8.0歳)だった。アンケートの性質上、高次脳機能障害および改定長谷川式簡易知能評価スケールで20点以下の方は除外した。<BR> 【方法】アンケートは無記名自記式とし、配布期間は2009年1月9日から23日、提出期限を30日とした。質問項目については、川村らの研究を参考に当院独自のものを作成し、満足度については「環境・設備」3項目、「スタッフの接遇」5項目、「治療」5項目に対する4段階評価と、リハビリ科全般に対する点数評価(10点満点)とした。それぞれの項目には、自由記述欄を設けた。各項目について単純集計を行い、さらにリハビリ科の全般的満足度を目的変数、それ以外の各項目を説明変数とした重回帰分析を行った。
    【結果】単純集計の結果、すべての質問項目において「満足」「やや満足」とした人が90%以上となり、全体的に高い満足度が得られた。しかし、「予約方法」「リハビリの頻度」「リハビリの実施時間」「現時点でのリハビリの効果」については、「満足」とした人は80%以下となり、その他の項目に比べ少なかった。各自由記載の内容も、上記に関するものが多かった。重回帰分析の結果、全般的満足度に影響する因子としては「現時点でのリハビリの効果」(p<0.01)と「リハビリの実施時間」(p<0.05)で有意な正の相関を示した。
    【考察】単純集計及び重回帰分析の結果より、「現時点でのリハビリ効果」と「リハビリの実施時間」は当院リハビリ科に対する満足度に影響する重要な因子と考えられる。これは、当院来院患者の多くが慢性的な障害や疼痛を持ち、治療効果が現われるのに期間を要する場合が多いこと、また治療時間についての事前説明が十分でなかったことが、その一要因ではないかと思われる。
    【まとめ】一般的に、外来施設は患者様が主体的に選択して受診する傾向がある。よって、患者様に「選ばれる」病院になるためにも、今回の結果を踏まえた上で改善に努めていきたい。
  • 吉際 俊明
    セッションID: 46
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院は許可病床736床のうち、退院患者の約8割が死亡退院という終の棲家の役割を担っている。そのため、人生の最晩年を豊かに過ごしていただくための医療・看護・介護等のサービスを提供することを目指している。その中でリハビリテーション(以下リハ)室では、全患者を対象に、セラピストが直接評価・訓練を最低週一回実施する直接的サービスと、日常生活援助の中でリハ的サービスが実施できるよう、看護・介護職へ働きかけなどを行う間接的サービスを、心身の能力別に提供している。今回はその中でも、寝たきりの患者を中心に提供している「拘縮予防」の結果と、そこからみえる終末期におけるリハサービスの必要性を示す。<BR> 【方法】対象は入院患者のうち障害老人の日常生活自立度B2からC2までの延べ1088名(2007年6月から2009年2月)。必要最低限の清潔保持や、納棺時まで美しい姿勢を確保するという目的の下、対象部位と運動方向を設定し、原因を問わずこれらの可動域が確保されない場合に「拘縮」と定義付けた。そして、この「拘縮」の予防が看護・介護職の主導で実施されるように、各セラピストは関節可動域の確認(直接的リハサービス)や、ケアの中での関節運動の指導・徹底、拘縮状態の定期報告(間接的リハサービス)を行っている。<BR> 【結果】2007年6月時点では入院対象者515名のうち、上記対象関節にて一部でも「拘縮」が起こっている人は214名(約41.6%)であったが、2009年2月現在では対象者523名のうち154名(約29.4%)と減少した。<BR> 【考察】一般的にこれまで維持期(特に終末期)のリハでは、身体機能・能力の向上を望むことは難しく、目標設定や効果も曖昧なまま漫然と行われる傾向があった。現在当院では、全患者に対し週一回以上セラピストとしての関わりもち、患者の心身の状態を早期に把握し、直接的な介入の必要度を分類し、必要度に応じて看護・介護職へ働きかけるなどしながら、心身の状態別にリハサービスを提供している。今回は「拘縮予防」というリハサービスによって入院患者の拘縮者数を減少させることができ、この結果は、終末期でも目標を明確にした上でリハサービスを提供する事の必要性を示せたものと考えられる。<BR> 【まとめ】当院のリハ室は、心身機能の維持・向上を図るだけでなく、拘縮予防や転倒転落予防など、豊かな生活を送るためのサービスを提供している。今回は、その中でも拘縮予防というリハサービスを提供し、入院患者の拘縮者数を減少させることができた。今後は他のレベルの患者へのリハサービスの効果を検証し、終末期リハの必要性を更に示していきたい。<BR>
  • 宮下 祐輔, 堀内 俊樹, 赤澤 美奈, 森谷 友羽, 渡邉 浩文
    セッションID: 47
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】
    当院では二次救急病院として、交通外傷の患者が多く搬送される。中でも軽度外傷に分類される頚椎捻挫いわゆる“ムチ打ち”のリハビリテーション(以下リハビリ)を行っている。そこで当院に来院される頚椎捻挫患者の傾向を検証するため、頚椎捻挫のリハビリのプログラムをまとめ、痛みを中心とした改善度の調査を行い、後ろ向き研究の18症例を報告する。
    【対象】
    平成20年度に交通外傷にて頚椎捻挫の診断によりリハビリを受けた中で、説明と同意を得た(平均年齢42.76±12.7歳、男性8名・女性10名)18症例(継続中の患者も含む)。
    【方法】
    対象者の年齢、リハビリ開始まで期間と痛みの改善度(開始時と最終時のNRSの差)、リハビリ終了までにかかった日数と回数調査を行い、痛みの改善度を基準にそれぞれ相関検定を行った。
    【理学療法プログラム】
    急性期は触れるだけで痛みを強く訴えることが多く、ホットパック、マイクロ波、干渉波や牽引などの物理療法で対応する。触れることが可能になると、徒手療法で介入する。主症状は筋緊張の亢進、筋スパズムと関節可動域制限に加え全般に痛みを伴う。徒手療法はまず皮膚レベルから介入する。改善に合わせて筋レベルに介入し、関節可動域練習や筋力強化と進めていく。以降アプローチを進めるが、身体的改善が見られない場合もある。その上で精神面でのサポートをする。社会復帰等勧める中で、復職等のアドバイスもしていく。
    【結果】
    痛みの改善度との各相関係数は、(1)年齢0.18、(2)リハビリ開始までの期間0.5、(3)リハビリ終了までにかかった日数0.038、(4)リハビリ回数0.16であった。 (2)のリハビリ開始までの期間と痛みの改善度が中等度で正の相関を示したが、その他の相関はほとんどみられなかった。(p<0.05)
    【考察】
    頚椎捻挫のリハビリの治療に関して検証を行なった結果、痛みの改善度とリハビリ開始までの日数に相関がみられた。このことは受傷直後の炎症期に徒手療法を開始するより、症状が落ち着いてから開始する方がより良いリハビリが提供できると考えられる。しかし、その他の項目に関しては、相関が見られなかった。このことは、頚椎捻挫の身体症状のばらつき(骨、筋、異常感覚、感覚障害、筋力低下)や重傷程度(強さ)、患者個々の精神的な問題や取り巻く環境が大きく影響しているのではないかと考える。今後は症例数を増やし、痛み以外の症状や環境因子を視野に入れ検討していきたいと考える。
骨関節系
  • 宮内 秀徳, 鈴木 智, 高村 隆
    セッションID: 48
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院では2002年より全例鏡視下にて腱板修復術を施行している。また、一次修復が不能であった広範囲腱板断裂に対してテフロンフェルトを用いたpatch法(以下patch法)を施行している。近年、鏡視下で行われるpatch法に関する術後成績の報告は散見されるが、術後腱板筋力についての報告は極めて少ない。諸家の報告では、広範囲腱板断裂に対する鏡視下腱板修復術(以下ARCR)やpatch法施行後の筋力回復の成績は、良好ではないと報告されている。今回、当院にてpatch法を施行し術後12・24・36ヶ月で筋力測定を行えた症例を数例経験したので、外旋筋力の経時的な回復について検討し報告する。 【方法】測定に同意を得たpatch法施行患者、12ヶ月2名・24ヶ月3名・36ヶ月3名、計8名の外旋筋力を、MEDICAL DEVICE SOLUTION社製ISOBEXを用いて、座位にて6秒間測定し、健患比の平均を算出したものを用いて期間別での回復、達成度合を検討する。 【結果】patch法施行患者における外旋筋力の平均は12ヶ月で70%、24ヶ月で79%、36ヶ月で91%であり、約36ヶ月まで外旋筋力の向上が見られる結果となった。 【考察】当院でのpatch法施行後の理学療法としては、術直後から外転装具にて固定し、肩甲帯や患部外運動を積極的に開始する。装具固定期間は通常より1週間長い4週間の固定とした。また、退院後は週2回程度の頻度で理学療法を行っている。今回、patch法施行患者の外旋筋力の回復が遅れた原因については、断裂筋の組織学的問題や筋萎縮による腱板の機能不全が考えられる。断裂の大きさと機能の関連性について緒家の報告では、可動域・筋力・ADL等、有意性は無いが大断裂の方が予後不良の傾向にあると述べている。今回、当院で行った測定結果においても、可動域・外旋筋力の回復は広範囲断裂以外のARCR施行患者と比べ回復に期間を要する結果であった。しかし、36ヶ月まで筋力の改善が見られたことから、patch法施行患者においても、期間を要すれば約36ヶ月前後で健側90%程度の外旋筋力回復は臨めるのではないかと考える。本研究では各期間で外旋筋力の向上が見られる傾向となったが、今後の課題としては断裂筋の組織学的問題を考慮し、理学療法プログラムを再考する必要があると考える。
  • ―撓側手根伸筋と棘下筋の筋活動量に着目して―
    佐々木 晃子, 亀山 顕太郎, 岩永 竜也, 下井 俊典
    セッションID: 49
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【目的】手関節に痛みを有する患者の中には、健側に比べ肩甲骨面上から上腕骨の内側上顆と外側上顆を結んだ線(以下 内外顆線)が大きく逸脱している症例が存在する。このような症例は、中枢部の肩甲骨と上腕骨の位置が変位した結果、肩甲上腕関節の機能不全が生じ、末梢部の前腕の筋に負荷がかかり疼痛の一要因になっていることが考えられる。そこで今回、肩甲骨と上腕骨の変位が肩関節下垂位外旋時の前腕の筋活動量に与える影響を調べた。
    【方法】対象者は健常成人10名の利き手上肢10肢とした。肩甲骨と上腕骨の位置関係は、端座位で上肢下垂位、肘90°屈曲位、手関節中間位。肩甲骨面上に内外顆線を一致させた肢位Aと、他動的に肩甲骨を外転・前傾、上腕骨を伸展させ、肩甲骨面上から内外顆線を外旋方向に逸脱させた肢位Bの2条件とした。さらに、この2条件下にて、抵抗負荷を加えない肩関節外旋運動、抵抗負荷を加えた肩関節外旋運動の計4パターンの橈側手根伸筋と棘下筋の筋活動量を、表面筋電図を用いて導出した。肩関節外旋運動の運動範囲は、下垂位内旋45゜から内外旋0゜までとし、外旋運動の負荷形態はゴムチューブを使用した。以上の4パターンの測定を各パターン2回ずつランダムに行い、各条件、外旋運動最終域で5秒間等尺性収縮の筋活動量を積分波形を用いて比較した。また、この際、肢位Aで外旋運動を行ったときの橈側手根伸筋と棘下筋の筋活動量を1としたときの、肢位Bにおける変化を求めた。
    【結果】橈側手根伸筋の筋活動量に関して、肢位Aに比べ肢位Bの抵抗無では10名中9名が増加し、抵抗有では8名が増加したが有意差はみられなかった。棘下筋の筋活動量に関して、抵抗のあるなしに関わらず、肢位Aに比べ肢位Bでは有意な増加(p<0.05)がみられた。
    【考察】今回、同じ運動量でも、肩甲骨面上より内外顆線を逸脱した位置では中枢部の棘下筋の筋活動量が増加した結果より、肢位Bは肢位Aと比較し非効率的な位置関係であることが示唆された。また、肢位Bのように肩甲帯という中枢部の位置が非効率的にある状態で、末梢の運動を反復することにより、前腕への負担が増大し、障害につながることが推測される。また、ゴムチューブを用いた抵抗時にも同様な結果が得られたことから、腱板訓練を行うときにも、上腕骨と肩甲骨の位置関係に注意しながら行うことが、効率的な運動につながることが推測される。今回、橈側手根伸筋に関しては、活動量の増加はあったが、ばらつきがみられ、有意な差が認められなかったため、条件を変えて検討していきたい。
  • ―外傷性大腿切断の一症例を経験して―
    市川 崇, 浅香 満
    セッションID: 50
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/11
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    【はじめに】切断術後の断端管理はSoft dressing,Semi Rigid dressing,Rigid dressingの三者が代表的である.本症例は外傷性であり感染の危険性や術創部の治癒の問題により,術後初期の断端管理法はSoft dressingが選択された.術創部の治癒は順調であったが,上手く断端の浮腫をコントロールすることが出来なかった.しかし,その後Rigid dressingへと変更することで断端の浮腫を軽減させ,断端の成熟促進に繋がった.本症例を通してRigid dressingの有効性を再考するとともに,そのメカニズムについて若干の考察を加え報告する.
    【症例紹介】56歳.女性.診断名:両下肢挫滅,出血性ショック.現病歴:自宅の畑で耕運機の操作を誤り,刃に挟まり受傷.同日,当院救急外来受診.右下肢は大腿中央部に皮下までの挫創,下腿は損傷が激しく,裂挫創が数か所.左下肢は鼡径部で裂挫創,内転筋群・大腿静脈の損傷,両下肢とも砂,埃による汚染が激しい状態.緊急手術となり,右大腿切断術,左下肢鼡径部洗浄,左大腿静脈を結紮して止血,デブリードメントを施行.手術後5病日より理学療法開始となる.
    【経過】術後初期はSoft dressingで断端管理を行った.術創部や皮膚の状態は順調に回復していたが,断端の浮腫の軽減を図ることが困難であったため,13病日よりRigid dressingへ変更した.変更することでSoft dressingの際,変化がみられなかった断端周径が14病日には坐骨結節下10cmで0.5cm,15cmで1.5cm,20cmで1.0cmと浮腫の改善が図れた.16病日に巻き直しを行い,18病日には術創部の傷の状態も良好であるため吸着式ギプスソケットを作製した.19病日には坐骨結節下5cmで5.0cm,10cmで4.0cm,15cmで4.5cm,20cmで3.0cmとさらなる浮腫の軽減が図れた.21病日より左下肢部分荷重を開始,また左下腿三頭筋の拘縮改善の為にTilt Table起立練習を開始した.その後,25病日よりナイトソケット装着開始,33病日よりパイロン義足装着練習を開始,39病日より平行棒内立ち上がり練習を開始,41病日にはソケットを再作製し,46病日より平行棒内歩行練習開始となる.そして55病日に回復期リハビリテーション病院への転帰と至る.
    【考察】本症例は,断端管理法をSoft dressingよりRigid dressingへ変更することで,術後断端の浮腫のコントロール,さらには断端の成熟促進や治療期間の短縮等,さまざまなRigid dressingの利点を生かすことができた症例であると考えられる.当院では義肢装具士が常勤していない為,医師からの相談を受けPTが実施した.Rigid dressingは巻き直しの煩雑さ等の欠点もあるものの,メカニズムを考え,利点を考慮すると今回の症例には適した断端管理法であったと考えられる.Rigid dressingは断端管理法の一選択肢として有効であると再確認出来たとともに,もっと臨床で選択されるべき断端管理法であるのではないかと考える.
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