抄録
【はじめに】
脳卒中治療ガイドライン2009では、急性期リハビリテーションにおいて、装具を用いた早期歩行練習が推奨されている。またPerryは正常歩行において、立脚期に足関節ロッカー機能が作用していることを提唱している。これまで脳卒中片麻痺患者に対する理学療法(以下PT)では、足関節底屈制限装具が多く用いられてきた。正常歩行に近い歩容の獲得には、足関節ロッカー機能の再学習が不可欠であり、そのためには足関節の底屈、背屈運動が可能な装具が有用ではないかと考えられる。今回、急性期脳幹部BADの患者に対して、杖なし2動作歩行の獲得を目標に油圧緩衝器底屈制動長下肢装具(以下KAFO)とGait Solution Design (以下GSD)を用いた歩行練習を行ったので、考察を加えて報告する。
【症例】
77歳男性、発症前modified Rankin Scaleは 0。平成22年11月、脳幹部BADを発症。入院当日よりPTを開始。上田式12段階片麻痺機能テスト(以下12Grade)は左上肢6手指5下肢5であった。2病日目より離床、起立練習を開始。3病日目よりKAFOを用いた歩行練習を開始した。
【説明と同意】
本症例には症例報告をさせていただく主旨を説明し同意を得た。
【評価方法及び使用機器】
歩行能力の指標として10m歩行速度を測定した。歩容の分析にはGait Judge(安井ら、2009)を用いて、歩行時足関節底屈トルクを測定し、荷重応答期及び立脚終期における底屈モーメントを評価した。
【PTプログラム及び経過】
起立-着座練習、装具を用いた歩行練習を中心に1日6単位実施した。
9病日目に装具をKAFOからGSDへ変更して歩行練習を実施した。11病日目、左下肢12Gradeは8に改善し、4点杖とGSD使用で見守りでの歩行が可能となった。10m歩行は39.8秒。Gait Judgeでは荷重応答期底屈トルク平均2.2Nm、立脚終期底屈トルク0Nmであった。上記PTプログラムに加え、股関節伸展筋、足関節底屈筋の筋力強化練習を追加した。22病日目、左下肢12Gradeは10に改善し、T字杖とGSD使用で2動作自立歩行を獲得した。10m歩行は9.0秒。Gait Judgeでは荷重応答期底屈トルク平均4.0Nm、立脚終期底屈トルク平均3.4Nmとなった。
【考察】
Gait Judgeを用いて足関節底屈トルクを測定することにより、歩容の評価を行い、その結果に応じたPTプログラムを設定することが可能であった。GSDは底屈制動及び背屈フリーの機能を有し、これを用いた装具療法により、ロッカー機能の再学習と、2動作歩行パターンによる独歩が獲得されたものと考えられた。Gait Judgeによる歩容評価とGSDによる装具療法は2動作歩行の獲得に有効ではないかと考えられた。