抄録
【目的】
過度の安静は、エコノミー症候群にみられる血液性状の変化と血流の低下を起因とした重篤な静脈血栓を生じる。静脈血栓症の基礎には静脈還流時間(VRT)異常が認められる。飛行機内では7~8時間以上で発病頻度が高く15時間以上では危険とされる。地上では被災地避難所生活者で静脈還流機能の低下が認められ、健常な地域生活を行う人でさえVRT異常の発生が考えられている。血管合併症を持つ人において重要な保健行動上必須の情報であるが、現在十分な報告は少ない。本研究の目的は、日常生活環境にある地域住民において安静-非安静時間比に着目しVRT異常の有無を確認し、この値の多寡とVRTの異常発生率(オッズ比、OR)を求めることを目的とした。
【方法】
2009年1月から2010年2月の間、ポスターにより研究参加募集したX町住民で教育研究機関主催による健康増進プログラムに参加した26名平均年齢59±7歳(平均±SD)、男性14名女性6名における前向きコホート研究サブ解析としてフォトプラスチモグラフィーによる足部底背屈運動負荷による一時静脈還流遮断後再還流量時間(VRT)および姿勢と強度による身体活動係数を利用した身体活動量(PA)の測定および、24時間の生活行動調査(DLA)の調査に基づく分析を行った。分析は安静-非安静時間比に着目し、この値の多寡とVRTの異常発生率ORをSPSSv16により求めた。
なお、本研究はプライバシーおよび人体に影響を与える研究が含まれるため、倫理的配慮についてヘルシンキ宣言に沿った研究として行われた。対象者には説明と同意を得て行った。
【結果】
VRTおよびPA、DLAデータが介入前に得られた解析対象件数は26件中19件であった。
平均年齢 44歳(±7)、体重61kg(±8.5)、男性13名 、女性6名.
安静平均13時間.非安静平均10時間.睡眠時平均7時間.
VRT:平均26.3秒(±15.1)安静-非安静時間の比が1.0を超えた場合、VRT異常発生に対するOR12.0倍95%信頼区間1.05-136.79であった。安静-非安静時間とVRT異常発生に対するカイ二乗値のフィッシャー直接確率p=0.04であった。
【考察】
本研究の対象者は7時間の睡眠に加え、6時間の安静座位を取っている実態が示された。飛行中とは異なり連続安静座位ではない場合、睡眠および安静座位時間以外の身体活動時間が12時間を下回る場合は局所運動不足に見られる血流停滞を惹起する不活動にあると考えられる。この知見は、例数の限界はあるものの、安静時間は血流増加を伴う身体活動に対して1日当たり50%未満に置くことで異常発生率を減じる可能性を示唆する。
【理学療法学研究としての意義】
本研究課題の実装性が確認された。本研究は安静時間が非安静時間よりも50%以上の人において、静脈還流機能の異常発生率を示す可能性が高いことを示した。