抄録
【目的】
歩行補助車使用者(以下、使用者)の交通上の課題について明らかにすることを目的とする。対象とした歩行補助車は四つの車輪がついており前方へ押すタイプのものとした。
【方法】
使用者206名を対象とし、直接ヒアリング法によってデータを収集した。調査の実施期間は2008年1月から6月であった。調査に要した時間は1名につき25分から50分であった。
【結果】
歩行補助車のタイプは大型シルバーカーが53%(110名)、小型シルバーカーが32%(65名)、ショッピング型シルバーカーが10%(21名)、把持型歩行車が4%(9名)、四脚四輪歩行車が1%(1名)であった。
「転倒経験のある者(7%,206名中14名)」と「転倒しそうになった経験のある者(18%,37名)」を合わせて「転倒有り」とし、「歩行補助車の大きさ」(補助車大・補助車小)と「転倒経験」(有・無)の間でχ2(検定を行った。その結果有意な差が認められ、補助車小を使用する者は転倒しやすい傾向があることが確認された(χ2(1)=9.29,p<0.01)。
歩道に関して困ることを選択式で尋ねた。「段差(58%,119名)」、「凹凸(57%,118名)」、「点字ブロック(54%,111名)」、「斜道(52%,107名)」での移動は50%以上の者が困ることとして挙げていた。歩道に関して困ること(それぞれの項目における有・無)と「歩行補助車の大きさ」(補助車大・補助車小)の間でχ2(検定を行った。その結果、「凹凸」に有意差が認められ(χ2((1)=10.65,p<0.01)、さらに「段差」(χ2((1)=5.21,p<0.05)、「点字ブロック」(χ2((1)=4.40,p<0.05)において有意な差が認められた。
【考察】
使用者の5割以上の者が段差、凹凸、点字ブロック、斜道は移動しにくい歩道であると認識していた。歩行補助車は車輪がついていることから路面の状況に影響されやすいと言える。車いす使用者のなかには「点字ブロックがじゃまに感じることがある」と認識している者がいる(水野・徳田,2010)。点字ブロックは視覚障害者が安全に移動するために必要なものである。しかし、使用者や車いす使用者にとっては、車輪の方向が定まらずバリアになっていると考えられる。
小型の歩行補助車は、転倒しやすい傾向があり、また道路環境によって歩行が困難になることが確認された。小型の歩行補助車は大きいものに比べて、軽く小回りが利く。しかし、道路環境がバリアフリーではない場合は、ハンドルが安定せず、歩行しづらい。歩行環境の整備を進めるとともに、特に歩行能力が低い者が小型の歩行補助車を使用する際には、実際に凹凸のある道路や点字ブロックの上を走行するなどの練習をする必要がある。