抄録
【はじめに】
臨床実習において学生の統合解釈能力の評価は重要であるが,臨床においてはその評価が実習指導者の主観や経験則に委ねられており,そのため実習指導者の能力の相違によって学生の統合解釈能力の評価が均質的に行われないことが推測される.これに対して有馬は問題解決モデル(PS-model)を用いて客観的に統合解釈能力評価を行う方法を考案し,教員を対象にした研究においてその評価者間信頼性を確認した.しかしながら,臨床理学療法士におけるそれは未だ確認されていない.そこで本研究の目的を,PS-modelを用いた評価方法を臨床の理学療法士が行った場合の評価者間信頼性について確認することとした.
【対象と方法】
対象は,臨床経験年数3年目の理学療法士10名とした.対象には事前にPS-modelにもとづく評価方法を十分にトレーニングした.方法は3名の学生がPS-modelにもとづいて作成した問題解決構造と模範的マスターマップおよび症例データを対象に与え,概念地図法による基準にて採点させた.なお採点は,マスターマップにおいて重要と思われる概念およびリンクをそれぞれの理学療法士が選択し,学生が作成した問題解決構造図との一致率で求める方法とした.評価者間信頼性については級内相関係数(ICC)を算出し判断した.
【結果】
統合解釈評価におけるICC(2,1)は0.887(95%信頼区間,0.639~0.999)であった.
【考察】
今回の方法を用いた統合解釈能力の評価における評価者間信頼性はalmost perfectであった.したがって,この方法による統合解釈能力の評価は,評価者間信頼性という観点からは有用であると言える.本研究での評価者は臨床経験年数の浅い理学療法士だが,マスターマップを用いることでそれぞれの評価者が主観的に重要と思われる統合解釈の概念およびリンクを選択したとしても,評価者間の採点結果には信頼性があることが検証された.つまり,臨床においてもPS-modelおよび概念地図法を用いた統合解釈能力の評価を行うことで均質的に学生の評価を行えると推測される.
【まとめ】
臨床理学療法士による問題解決モデルおよび概念地図法を用いた学生の統合解釈能力の評価における評価者間信頼性を検証し,高い信頼性を確認した.