関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 225
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老人性うつ病を有する利用者様に対するスピリチュアルケアの一例~スピリチュアルペインに注目して~
原田 脩平加藤 仁志鳥海 亮
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抄録
【はじめに】
スピリチュアルペインとは,「自己の存在と意味の消失から生じる苦痛」と定義されている.それは,時間存在,関係存在,自律存在よって支えられている.今回,介入を行った症例は,うつ病と腰痛を呈する80歳代の女性である.症例の「死にたい」「誰も分かってくれない」などの訴えをスピリチュアルペインとして捉えてアプローチを行った結果,改善がみられた.
【症例紹介】
80歳代女性.診断名:老人性うつ病,脊柱管狭窄症,腰椎すべり症.現病歴:平成23年2月頃より痛みが生じ,保存的治療を行っている.生活癧:元来,多趣味で活発的であったが,腰痛になってからは,家に閉じこもることが多くなっている.主訴:腰が痛い,もう死んでしまいたい.倫理的配慮:口頭にて同意を得た.
【理学療法評価】
<精神状態>GDS:14/15<スピリチュアルペイン>過去の自分と比較して,現在の自分に落胆している様子あり,希死念慮もみられていることから自律存在(-),周囲の人たちに対する感謝の思いは強いことから関係存在(+)<疼痛>腰部に鈍痛を訴えており,動作で痛みが増強するようなことはなく,慢性化している.<視診・触診>L4/5の腰椎が前額面上で右に変位し,矢状面上で腹側へ滑っている.<ADL>自立レベル
【経過】
利用開始当初は,ネガティブな発言をしながらも集団体操やプールへの参加が見受けられた.利用開始3ヶ月後,介護認定調査が行われ,変更が無いことに対し「誰も分かってくれない,これなら死んだ方がいい」との発言があり,関係存在が(-)に傾き始めていた.利用時は本人の訴えを傾聴することで,関係存在を(+)に維持できた.さらにその4ヶ月後,自宅にて転倒し,本人より利用を一時中断するとの連絡が入った.それにより会うことができなくなったため,手紙を用いてスピリチュアルペインに働きかけた.その結果,利用再開を決意された.来所時に「手紙ありがとうございます.もう見捨てられたかもしれないって思っていました」と,利用中断時の思いを話されていた.現在も変わらず利用中であり,生活も自立レベルを維持している.
【考察】
本症例は関係存在という支えを2度失いかけたが,適切なアプローチをすることでその喪失を阻止でき,身体機能も維持することができた.スピリチュアルペインは終末期の問題というイメージが強いが,本症例の経験によりリハビリテーションの分野でも十分に利用できるものと考えられた.身体機能の低下による,生活の変化は,スピリチュアルペイン発生の原因になる可能性があると考えた.苦しみを持ちながらも,生きる人たちを支えるには必須を知識ではないかと考えた.
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© 2012 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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