関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 96
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肺癌術後患者における6分間歩行距離を用いた運動耐容能-歩行距離と運動強度の客観的・主観的指標の経時的変化-
新井 健一國澤 洋介武井 圭一森本 貴之丸山 薫山本 満
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抄録

【目的】
肺癌術後の運動耐容能と客観的、主観的指標を用いた運動強度を調査し、肺癌術後患者における6分間歩行距離(6 minutes walking distance:6MD)を用いた運動耐容能評価の特徴を検討することとした。
【方法】
対象は、当院入院中の肺癌患者で腫瘍摘出術を施行した後に理学療法を処方された者14名(病期Stage:I8名、II3名、III3名。術式:胸腔鏡下切除術14名。摘出部位:上葉5名、下葉7名、上葉+下葉(部分的)2名、年齢:65±10歳)。測定項目は、6MD、主観的体力(「術前を100%として、今の体力は何%か」)、運動強度は客観的指標として6MD前後の脈拍差、SpO2最小値、主観的指標としてBorg Scale(BS)とした。測定時期は、術後の胸腔ドレーン抜去時を初回評価(術後5±2日)、退院前を最終評価(術後13±2日)として2回行った。分析は、初回・最終間の各測定項目の比較について対応のあるt検定を用いた。統計ソフトは、SPSS Ver. 19を用い、有意水準は5%とした。なお、本研究の実施にあたっては所属機関の倫理機関審査委員会が定める申請規定、個人情報は所属機関の患者個人情報保護規則を順守した。
【結果】
6MDの結果(初回・最終)、390±109m・474±113mであり初回に比べ最終で有意に増加した。脈拍差は、24±10bpm・24±9bpmで有意差なし。SpO2最小値は、94±2%・94±2%で有意差なし。 BSは、12±1・13±1であり初回に比べ最終で有意に高かった。主観的体力は、63±18%・78±9%であり初回に比べ最終で有意に増加した。
【考察】
6MDは最終で有意に増加したが、初回のBSは12、SpO2は顕著な低下を認めなかった。一般的に、肺癌術後は呼吸機能の低下が運動耐容能の制限因子になる。しかし、今回の結果からは呼吸機能に対して高強度の運動負荷ではなかったと考えられた。このことは、6MDは対象者自身による歩行速度の調整で運動強度を決定する特徴があり、術後早期では呼吸機能の低下以上に運動強度を制限したためと考えられた。BSと主観的体力が最終で有意に増加したことから、肺癌術後の6MDの改善にはより高い運動強度にも耐えうる自信、自己の体力に対する自信といった心理的側面が影響することが示唆された。
【まとめ】
肺癌術後は、早期から歩行が可能で全身状態が安定していれば術後2週ほどで自宅退院となる。しかし、「がん」を患うこと、肺を摘出することは心理的・身体的負担は大きく、術後の運動強度を残存機能以上に制限することは多く経験する。肺癌術後患者に対する6MDは、このような自己で運動強度を高められるかという心理的側面を反映した運動耐容能の評価指標であると考えた。

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© 2012 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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