関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: S-009
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シンポジウム1 スポーツ理学療法に期待される役割
運動発達に基づく成長期のスポーツ理学療法
粕山 達也
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抄録

 スポーツ分野の理学療法士に期待される役割は多岐に渡るが、成長期の子供たちへの支援は地域で働く理学療法士にとって関わりやすい職域の一つである。地域のスポーツクラブや学校の部活動など、自らが巣立った地域で活躍する理学療法士は多い。我々はこれまでオリンピック選手の育成や学校保健分野の運動器検診の支援、小学校への縦断的な運動指導を通じて、障害予防活動を啓発してきた。成人や高校生のスポーツ障害者を目の当たりにした時に感じる動作時の違和感は、筋力や柔軟性では片付けられないものであった。

 スポーツ動作に必要な走る・投げる・跳ぶといった基本的運動能力は、10歳頃までに土台が形成され、専門的運動能力を獲得するために重要な能力である。基本的運動能力は、運動発達の積み上げによって構築されていくものであり、一朝一夕に完成するものではない。成長期の理学療法を展開する上で、神経科学や運動発達の理論的背景を持ち合わせることは、臨床的視野を広げてくれると感じている。発達段階に応じた適切な指導が、障害予防において重要であり、最新の運動発達や運動学習の研究を通じて、理論と根拠を基にした成長期の理学療法について提案する。

 また、地域で活動して子供たちを支援するために、1)臨床能力、2)研究能力、3)調整能力の3つの能力が重要であると考える。

 臨床能力とは、現場で適切な評価をして治療を行う純粋な理学療法士としての能力であり、パフォーマンス向上のためにトレーニングを指導する能力となる。実際の現場では、この臨床能力だけで活動している理学療法士が圧倒的に多い。一方で、潜在的に現場が求めているものとして研究能力がある。研究能力とは、実際の選手の状態を可視化し、指導者や保護者に伝えるための能力となる。子供の成長発達は著しく、身体骨格が変化しやすい成長期では、急激にパフォーマンスが上下することがある。そうした状態を継続的に評価し、記録として残すことで、個別に最適化したトレーニングを行うことが可能となる。本シンポジウムでは、現場で利用できる研究活動について情報提供を行い、研究能力の必要性についてお伝えする。最後の3つ目が調整能力である。調整能力は、コミュニケーション能力と重なる部分があるが、他者や組織とどのように関係を構築できるかという能力である。地域で活動するためには様々な方の理解や支援が必要である。地域のクラブ活動だけでも、指導者・保護者・地域関係者との関わりがあり、学校保健ともなると学校、教育委員会、医師会など大きな組織との関わりも必要となる。 そのため、理学療法士としての能力を活かすためには、自らの立場を客観的に捉えて、適切な立ち位置が取れなくてはならない。様々な活動を通じて得られた経験とコツを会員の皆様と共有し、地域で奮闘する理学療法士にとって役立つ機会となれば幸いである。

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© 2019 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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