関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会
選択された号の論文の295件中1~50を表示しています
基調講演
  • 松永 篤彦
    セッションID: S-001
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     四半世紀以上も前の自分の経験に基づいた話をすると、その頃の理学療法の現場では、一人の入院患者を理学療法が開始されてから退院までの間は当然のこと、退院後も外来で継続して(一貫して)担当することは希ではなかった。つまり、その頃に急性期や回復期という言葉で線引きして理学療法を組み立てていたかは定かではないが、病態が安定した時期から積極的に理学療法を展開し、運動機能やADL動作(立位・歩行動作など)を継続して観察(評価)しながら、個別的とはいえ評価に応じて理学療法を提供していたと思う。例えば退院が近づくと、退院の条件(家庭・家屋環境など)を満たす運動機能やADL能力を有しているのか、さらには退院後の外来では自宅で思った通りに生活できているのか、あるいは退院後の生活に十分適応できていない場合はその理由を探りながら実施するなど、いわば、節目節目で評価に基づいた理学療法を展開していたことになる。ただし、今思えば、長期にわたり一貫して担当できたおかげで、長期的な予後(ADLレベルなど)を的確に予見し、病態への影響やその他の合併症を予防できるかなどの疾病管理の観点から、評価指標を活用しながら理学療法を再考した覚えは殆どない。

     さて、現在の理学療法の現場はどうだろうか?発症後(術後)の病態が未だ安定していない時期から理学療法を開始することは至極当たり前に行われるようになったが、担当患者の病態が安定してくると、回復期リハビリテーションを展開する病院等へ直ぐさま転院してしまう。この時期は主治医による急性期治療に沿った厳重なリスク管理と理学療法介入が必要となるなど専門的で高度な知識と技術が要求される。ただし、その後に実施される回復期の理学療法で専門的な知識と技術が必要でなくなるわけではない。とかく、回復期ではADLの再獲得に主眼が置かれるが、同時に再発や合併症予防など疾病管理に目を向けた包括的な指導内容を適宜提供していかなければならない。つまり、回復期においても、もはや前述のように長きにわたり一貫して患者を担当できないことから、根拠に基づいた指導指針を明確に打ち出し、可及的早期に施設や在宅につなげていくなど的確な地域連携が求められおり、その果たす役割と責任は大きい。まさに、多様なニーズに対応できなくてはならない。

     筆者らの研究チームでは心疾患患者に対しては約20年前より、腎疾患(血液透析患者)に対しては約15年前から、定期的な身体機能評価を展開してきた。定期的な評価だけかと言われるかもしれないが、この長期間に蓄積された評価データから得られた情報はそれぞれの対象患者に対する疾病管理としての理学療法を展開するうえで有益なものとなり、現在では関連する診療ガイドラインにも活用されるようになっている。本講演では筆者らの研究成果をもとに具体的な疾病管理方法を提示するが、いま一度、原点に立ち返り、定期的な評価の重要性(有益性)を認識いただければと思う。そして、臼田 滋学会長が掲げられた「多様なニーズに挑む!」の足がかりとなれば幸いである。

教育講演1
  • 大渕 修一
    セッションID: S-002
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     中世までの医療は、西洋・東洋で差がなかった。東洋医学の漢方に当たるものはハーブ療法として、瀉血にあたるものは理髪店の看板にと様々な証拠がこれを物語っている。更には、加持祈祷も当時の医療の拠点を兼ねていた教会で行われていた。

     近世で東洋と西洋を大きく隔てたのは、デカルトによる操作的定義の理解である。人間と病気は不可分と思われてきたこれまでから、人間の中から発熱、疼痛などを取り出し測れる対象とすることによって治す医療としての西洋医療が大きく発展した。繰り返しになるが西洋では、制約があることは理解しつつも便宜的に人間と病気を分離したことが西洋医学の進歩の根源であることはよく理解しなければならない。

     このような操作的定義によって多くの病気が治癒するとともに、完全には治癒できない慢性疾患が意識されるようになった。慢性疾患は治癒不可能なのであるのだから、病気との共存が命題となる。操作的定義によって分断された人間と病気の再統合が必要になったと言える。このような中で障害の概念が形成され、障害との共存を促すリハビリテーションの体系が築かれることになった。

     治す医療とリハビリテーションを手に入れた現在は老化への対応を必要としている。障害と同様に老化は取り除くことができないのであるから、リハビリテーション技術で応用可能な部分は多いだろう。 しかし不十分でもある。すなわち老化への対応の帰結は死なのである。新しい予防理学療法学ではより良く生きた結果としての死とは何かが説明できなければいけない。すくなくとも予防理学療法学の帰結が死の否定であってはいけない。老化を制御することと平穏に死ぬことを同時に満たす予防理学療法学をわれわれは創出できるのだろうか。

教育講演2
  • 神谷 健太郎
    セッションID: S-003
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     日本人を対象とした前向きの登録観察研究であるJCARE-CARDからの報告では、心不全の増悪によって入院した患者の1年以内の再入院率は左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者では23.7%、左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者では25.7%、全死亡率はそれぞれ8.9%、11.6%と報告されており、実に、4人に1人の割合で1年以内に再増悪で入院してくることになる。特に、退院後3~4か月の間に再入院イベントの発生率が高くvulnerable phase(不安定な時期)とも称される。在院日数の短縮化が進む中、いかに再入院を予防するかが重要なアウトカムとなっている。

     運動療法を主体とした心臓リハビリテーション(CR)は、心不全患者の運動耐容能を改善し、左室駆出率が低下した心不全患者の心不全再入院リスクを低下させるため、ヨーロッパ心臓病学会(ESC)、米国心臓協会(AHA/ACC)をはじめ、主要な循環器関連学会のガイドラインにおいてClass ⅠAの治療として推奨されている。

     心不全に対する運動療法を主体としたCRの効果を検証した最近のメタ解析では、CRはQOL、運動耐容能の改善に有効であることが示されているが、死亡や再入院などの予防に有効か否かについては、他のメタ解析と相反する結果となっており、さらなる検証が必要である。加えて、これらのメタ解析に含まれる心不全患者は平均年齢が60才程度の白人男性の患者が主体となっている。また、CRの予後に対する効果を検証した論文はすべてHFrEFの患者を対象としている。つまり、HFpEF、高齢、女性、白人以外の患者に対するCRが及ぼす影響は明らかでなく、また、これらの心不全患者で有病率の高いフレイルを合併する患者に対するCRの影響はほとんどわかっていない。筆者らの最近の報告では、高齢心不全患者におけるフレイルおよびサルコペニアの合併率はそれぞれ、56%と35%に上ることが明らかとなっており(Tanaka et al. J Card Fail. 2018, Kamiya, et al. JCSM Clin Reports, 2018)、より平均年齢の高い施設や地域ではさらに高値を示すことは明白である。

     筆者らは、AMED心リハ研究(班長:磯部光章、榊原記念病院院長)のなかで、これらのエビデンス診療ギャップを埋めるための多施設共同研究を実施し、最近報告した。CRの普及状況を調査した実態調査では、エビデンスに基づく外来CRは本邦の心不全患者の7%に歯科提供されていないことが明らかとなった(Kamiya, Isobe, Circ J. 2019)。さらに、外来心リハが予後に及ぼす影響を調査した研究では、臥位らCRにより26%のイベントリスク軽減が認められた。これらの効果は、HFpEFやFrailを合併する患者においても同様に認められた。フレイルを合併する心不全患者は理学療法士が重要な役割を担わなければならない患者群であり、さらなるCRの普及に貢献することが期待されている。

     本講演では、心不全治療とリハビリテーションのトピックスについて紹介するとともに、心臓リハビリテーションを専門としない理学療法士が心不全を合併する患者に遭遇したさいに、どのようなポイントに注意をして理学療法を行えば良いか、そのポイントについて紹介したい。

教育講演3 呼吸理学療法の歴史と発展すべき方向性 -基礎研究の応用から臨床実践まで-
  • 久田 剛志
    セッションID: S-004
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     2013年に発表されたATS/ERSの呼吸リハビリテーションに関するステートメントでは、“Pulmonary rehabilitation is a comprehensive intervention based on a thorough patient assessment followed by patient-tailored therapies, which include, but are not limited to, exercise training, education, and behavior change, designed to improve the physical and psychological condition of people with chronic respiratory disease and to promote the long-term adherence of health-enhancing behaviors.”と記されている。言い換えると、「呼吸リハビリテーションとは、慢性呼吸器疾患患者の身体および心理的な状況を改善し長期の健康増進に対する行動のアドヒアランスを促進するための、患者個々の必要性に応じた治療であり、徹底した患者アセスメントに基づいた包括的な医療介入である。運動療法、教育、行動変容だけが含まれるものではない。」と定義されている。

     呼吸リハビリテーションの到達点に関する考え方には歴史的な変遷が見られる。すなわち、排痰法や呼吸法習得などを主な目的とした時代を経て、1990年代頃からは運動療法を主体とするものになった。 エビデンスが最も豊富なCOPDについて述べると、確かに、2002年のMyersらの報告や2004年のBODE indexの報告でみられるように運動耐用能が良好な患者ほど死亡リスクが低いことがわかる。そのため運動耐用能を向上させることを目標にすることは理にかなっていた。しかし、導入時に運動耐用能を向上させても、効果が一時的であっては良いとは言えない。良好な状態を維持することが不可欠であるが、現実的には困難である。その後の研究では、運動耐用能よりも加速度計を搭載した機器による身体活動性のモニタリングの方が予後に関連性が高かったことが2011年に報告された。また、身体活動性の重要性とともに注目されているのがCOPDにおける全身性炎症である。COPDでなぜ全身性炎症なのか?その原因を身体活動性の低下に求める考えがトピックになっている。つまり、運動することによって骨格筋が収縮しその刺激がトリガーとなってmyokineが筋線維から合成・分泌されるが、myokineは抗炎症性にオートクライン、パラクライン的に筋周囲の組織に作用し、ホルモン様に遠隔臓器にまで作用するからである。このようなエビデンスが集積することによって、呼吸理学療法の方向性も見えてくる。患者個々の必要性に応じた治療の中には栄養療法も含まれる。単独での効果は乏しいが運動療法との併用で効果が期待できる。特に、BCAA、ω3脂肪酸、ホエイ蛋白などの可能性が報告されている。われわれは、ω3脂肪酸に関連する脂質メディエーターの研究も進めており、今後の可能性について言及したい。

  • 鵜澤 吉宏
    セッションID: S-005
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     呼吸理学療法の本邦での初期は肺結核を患った患者への回復を支援する目的や肺結核にて手術を受ける患者の術前後の呼吸機能温存目的に用いられ「肺機能訓練」や「肺理学療法」と称され主に排痰や気道管理を目的に実施されていた。その後これらの内容に運動療法による筋力向上など身体機能改善や歩行・日常生活動作の改善を目的にした内容を含め呼吸理学療法が実施されてきた。1990年代になると救急や集中治療領域などで無気肺や肺合併症の予防・改善に対する排痰手技が用いられるようになり、急性期領域の治療へ理学療法士が参加するきっかけの一つとなったと思われる。このように呼吸理学療法は、換気の改善、気道内分泌物の喀出、酸素化の改善呼吸困難感の軽減などを目的に発展してきた。

     2000年代になると慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対するリハビリテーションではCOPD患者の機能障害は、呼吸 機能の低下とともに骨格筋機能不全が一因である可能性が言われCOPD患者を対象に運動療法を中心とする呼吸リハビリテーションが積極的に行われるようになった。またその後身体活動量と予後の関連が報告され、身体活動の維持向上の重要性が示されている。

     一方、急性期治療の中で集中治療室(ICU)に入室した患者がICUを退室後、または医療機関を退院した後に身体機能や認知機能低下などがみられることから、ICUに入室し人工呼吸器を装着後早期よりリハビリテーションを開始することにより、その機能予後が改善するということが報告された。その後ICUでリハビリテーションは、2018年には診療報酬において特定集中治療室管理料に早期離床リハビリテーション加算が新設された。ICUにおいて多職種と共同して離床やリハビリテーションが広まることになった。ICUでの早期離床にかかわる治療が呼吸理学療法ということではないが、ICUに入室されている患者には呼吸管理目的の方も多く、前述した呼吸理学療法を実施する機会が多い。

     このように今後も急性期から維持期に渡って幅広く呼吸理学療法が展開されていくことが期待できる。高齢化の影響を受け、身体の脆弱性(フレイル)や並存疾患による予後への影響が言われており、高齢化が進む社会を考慮すると、ますますその関連は強くなっていくことが予想できる。患者層を把握し、呼吸理学療法を提供していくことも今後の課題になる。

教育講演4 介護予防の街づくりにおける理学療法士の役割
  • 田中 康之
    セッションID: S-006
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     筆者は、今回のテーマである「介護予防の街づくり」の最大の成果は「その街に暮らし続けたいと思う人が増え、且つ暮らし続けられる人が増えること」であると考えている。そして、そのためにはその人がその街で居心地が良いと思え、究極には自らの存在価値が見出せることが必要であると考えている。

     その街での「居心地の良さ」には、その人に適する物理的・人的・法制度等の環境が整い、その環境の中でその人が持てる能力を活用できることが条件の一つであろう。この環境が整うためには、「その人」自身すなわち住民一人一人や自治会などの住民組織、住民に関わる保健・医療・福祉の専門職、その地域にある企業、学校、行政など、そのコミュニティを構成するまたは関わる全ての人や組織が当事者として取り組む必要がある。そして「その人が持てる能力を活用できる」ためには、「その人」自身の努力だけではなく、潜在的な力を見出す・引き出すための支援も必要であろう。

     一方で、「その人」は画一的な存在ではない。介護予防で対象とする高齢者をステレオタイプに考えることは不適切である。したがって、その土地・土地で取り組み方や達成すべき目標が異なるのが自然であり、それはコミュニティをそのコミュニティに適した状態にしていく取り組みでもあると言えよう。

     上述のようなコミュニティに関わる全ての人や組織が、当事者としてコミュニティをそのコミュニティに適した状態にしていく活動、一言でいえば「コミュニティの自助力」の向上が「その人」の「居心地の良さ」につながるものであり、それは「地域」を「リハビリテーション」する活動ではないかと筆者は考えている。

     さて、そのコミュニティの中の「その人」、そして「コミュニティの自助力の向上」に対して理学療法士はどのような働きかけ方ができるのか。このことについて本講演では「理学療法士『しか』できないこと」、「理学療法士『なら』より良くできること」、「理学療法士『でも』できること」の視点から、参加された方々が自ら考えるための素材提供をしたい。

  • 齊藤 道子
    セッションID: S-007
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     我が国では少子高齢化が進み、介護人材不足、社会保障費増加の問題が深刻となる中、各市町村は地域包括ケアシステム構築にむけて住民主体の通いの場の拡充、住民同士が支え合える地域づくりに力を入れている。

     そのような中、玉村町では、理学療法士が地域包括支援センターに配置され、介護予防事業、認知症総合支援事業、生活支援体制整備事業(協議体=地域づくりを協議する場)を担当し、地域ケア会議ではコーディネーターを務めている。現在、様々な政策に関わる中で、理学療法士としての視点が生かされ、その役割も広がりつつあると感じている。今回は、町職員として日々行っている地域での活動や、期待されている役割、最近感じている事について報告させて頂きたい。

    <玉村町で実際に理学療法士が活動している事業と役割>

    1.介護予防事業

     ①健康教室(はつらつ健康教室等)の企画、予算管理、運営、運動や脳トレを指

      導

     ②住民主体の通いの場(居場所・筋力トレーニング等)への介入、健康講座の実

      施

     ③住民サポーターの養成(健康サポーター養成講座の企画、予算管理、

      運営、指導)

     ④介護予防イベント(体力測定会、筋トレまつり等)の企画、予算管理、運営、

      実施

     ⑤大学との連携事業の企画、予算管理、運営、実施(居場所に対する効果検証事

      業等)

    2.認知症総合支援事業

     ①認知症初期集中支援チームのチーム員として、自宅訪問、相談、チーム員会議

      の開催

     ②認知症地域支援推進員として認知症カフェ立ち上げ、認知症サポーター養成講

      座講師

    3.生活支援体制整備事業(協議体)

      ・第1層協議体の構成委員として、地域住民や各種団体とまちづくりについて

       協議

    4.地域ケア会議事業(自立支援型地域ケア個別会議)

      ・ 地域ケア会議のコーディネーターとして、事例を評価分析し、課題解決に向

       けて自立支援の視点より多職種が連携できるよう調整

    5.その他

     ①困難事例の自宅を訪問、本人の心身状態や生活能力、住宅環境等を評価し対応

     ②生活困窮者のごみ屋敷の掃除(毎回ではない)

     以上、このような活動を日々行う中で、特に感じることは、病院での勤務では個人を評価することが多いが、地域では個人だけでなく様々な地域の現状や課題を評価し、それをどう改善に導くかを専門職だけでなく、地域住民と協働し検討を重ねることが多いということだ。

     また地域住民から理解を得るのに非常に苦労した経験より、最終的には住民との信頼関係や、伝え方が重要であると理解している。よって最近では状況に応じて、自ら寸劇や漫才を行い、わかりやすく、笑いをとりつつ理解を促すこともある。

     今後理学療法士をはじめリハビリテーション専門職には、介護予防や自立支援の視点からの提案が、個人に対してだけでなく地域づくりに対しても期待されてくると思われる。

教育講演5
  • 加辺 憲人
    セッションID: S-008
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    1.回復期リハビリテーション病棟の目的と課題

     回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)の入院目的は、「1.日常生活活動(以下ADL)の向上、2.寝たきりの防止、3.在宅復帰」の3つである。また、回復期病棟の役割は、「1.発症早期に重度者を急性期病院から受け入れること、2.集中的に十分なリハビリテーションを提供すること、3.ADLを改善し在宅復帰を可能とすること、4.在宅ケアへの移行に際し十分な連携をとること」を基本として始まったが、求められる役割は少しずつ変化してきている。3時間のリハビリテーションを365日提供するために必要なシステムの整備が進み、提供する「量」は確保されつつあるが、その結果としての「実績」が求められている。効果的かつ効率的なリハの提供を通して可及的迅速に生活機能障害の回復を最大限に促し、たとえ重症者であっても自宅復帰を可能にすることが重要である。さらに、自宅復帰後のフォローアップ体制も必要な役割である。量から「質」を伴う実績へ、当日はその中で理学療法士の多角的役割として何かできることはないかを一緒に考える機会としたい。

    2.質的ニーズに対しての役割

     現在の診療報酬では、入院1日あたりのFunctional Independence Measure(以下FIM)運動項目の得点の増加を示す指数として「実績指数」による段階的な評価部分が設けられている。診療報酬は病院経営に直結する内容であり、この段階制の管理において理学療法士が活躍することによって、職務の範囲拡大の可能性があると考えている。当法人では多職種が所属する病棟の管理責任者を理学療法士が担うことを試行的に実践している。FIM運動項目の中で移動が関連する項目は多く、実際に回復期病棟入院者において移動や立位動作の自立可否は自宅復帰を目指す上で特に重要な課題になりやすい。そのため、転倒リスクのアセスメントに関する知識やADLの自立に必要な姿勢制御や歩行に関する知識を有する理学療法士が病棟管理責任者またはチームでの中心的役割を果たすことで良質な実績が高まることが期待されている。また、理学療法士は実用的な在宅生活を意識した身体活動量のマネジメント、運動能力やADLの予後予測といった生活全体の提案ができるため、理学療法の提供のみでなく多職種と連携しながら入院者の生活全体に介入することで、さらに活躍できる職種であると考えている。

    3.身体活動量マネジメントにおける役割

     回復期病棟に入院している者の生活機能の回復を最大限に高めるためには積極的な直接的な理学療法の提供のみでなく、理学療法以外の時間帯における身体活動量の多寡が重要な課題である。ベッド上のポジショニングや車いすのシーティングといった姿勢の調整から始まり、ベッドサイドや主要な生活空間における環境の整備を通して、できるだけ生活動作を能動的に実施する頻度や時間を確保することが理学療法士の役割であることは周知の通りである。とくに近年では、看護・介護スタッフや家族を巻き込んだリハビリテーション医療の有用性を示す報告が増えている。移動や立位動作に介助を要する者の場合、看護・介護スタッフや家族とのセルフエクササイズ、または日常生活の円滑な遂行を促進するためには理学療法士による内容の提案や介助伝達が果たす役割は大きい。しかし、ケアスタッフとの連携は難しく様々な工夫が必要である。歩行能力に応じた理学療法の提供や身体活動量マネジメントについてのヒントを当日は共有したい。

シンポジウム1 スポーツ理学療法に期待される役割
  • 粕山 達也
    セッションID: S-009
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツ分野の理学療法士に期待される役割は多岐に渡るが、成長期の子供たちへの支援は地域で働く理学療法士にとって関わりやすい職域の一つである。地域のスポーツクラブや学校の部活動など、自らが巣立った地域で活躍する理学療法士は多い。我々はこれまでオリンピック選手の育成や学校保健分野の運動器検診の支援、小学校への縦断的な運動指導を通じて、障害予防活動を啓発してきた。成人や高校生のスポーツ障害者を目の当たりにした時に感じる動作時の違和感は、筋力や柔軟性では片付けられないものであった。

     スポーツ動作に必要な走る・投げる・跳ぶといった基本的運動能力は、10歳頃までに土台が形成され、専門的運動能力を獲得するために重要な能力である。基本的運動能力は、運動発達の積み上げによって構築されていくものであり、一朝一夕に完成するものではない。成長期の理学療法を展開する上で、神経科学や運動発達の理論的背景を持ち合わせることは、臨床的視野を広げてくれると感じている。発達段階に応じた適切な指導が、障害予防において重要であり、最新の運動発達や運動学習の研究を通じて、理論と根拠を基にした成長期の理学療法について提案する。

     また、地域で活動して子供たちを支援するために、1)臨床能力、2)研究能力、3)調整能力の3つの能力が重要であると考える。

     臨床能力とは、現場で適切な評価をして治療を行う純粋な理学療法士としての能力であり、パフォーマンス向上のためにトレーニングを指導する能力となる。実際の現場では、この臨床能力だけで活動している理学療法士が圧倒的に多い。一方で、潜在的に現場が求めているものとして研究能力がある。研究能力とは、実際の選手の状態を可視化し、指導者や保護者に伝えるための能力となる。子供の成長発達は著しく、身体骨格が変化しやすい成長期では、急激にパフォーマンスが上下することがある。そうした状態を継続的に評価し、記録として残すことで、個別に最適化したトレーニングを行うことが可能となる。本シンポジウムでは、現場で利用できる研究活動について情報提供を行い、研究能力の必要性についてお伝えする。最後の3つ目が調整能力である。調整能力は、コミュニケーション能力と重なる部分があるが、他者や組織とどのように関係を構築できるかという能力である。地域で活動するためには様々な方の理解や支援が必要である。地域のクラブ活動だけでも、指導者・保護者・地域関係者との関わりがあり、学校保健ともなると学校、教育委員会、医師会など大きな組織との関わりも必要となる。 そのため、理学療法士としての能力を活かすためには、自らの立場を客観的に捉えて、適切な立ち位置が取れなくてはならない。様々な活動を通じて得られた経験とコツを会員の皆様と共有し、地域で奮闘する理学療法士にとって役立つ機会となれば幸いである。

  • 鳥居 昭久
    セッションID: S-010
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     2013年に2020東京パラリンピックが開催決定となった後、障がい者スポーツを取り巻く環境が変わり始めた。世界では、2001年の国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)の合意、2008年北京大会以降、パラリンピックは文字通りオリンピックと同格のものとして扱われるようになり、競技力も高い水準になってきた。一方で、我が国では、障がい者スポーツ関係者以外においてはパラリンピックへの理解は高くはなく、スポーツ界でも障がい者スポーツは別の次元のことと感じられていたと言える。しかし、2013年以降、メディアへの露出度は年々高まり、多くの国民においてもパラリンピックを頂点とする競技スポーツとして障がい者スポーツへの関心が高まってきた。

     そもそも、理学療法と障がい者スポーツの関係は以前から深いものである。1940年代に英国を中心に障がい者が積極的にスポーツに取り組み始めた背景は、故グッドマン博士がリハビリテーション医療にスポーツを取り入れたのが始まりであり、我が国においても、1960年代、故中村裕博士の下で多くの理学療法士が学び、各地の障がい者スポーツの現場において積極的な関わりを持ち現代に至っている。しかし、スポーツに取り組める環境が整った施設の中の患者と関係者に限定されていた取り組みが、一般病院における理学療法としての広がりは少なかった。また、日常生活活動能力の獲得後のステップと思われていたスポーツ活動に対しては、医療保険制度の範疇では限界があり、一般医療機関の理学療法士と、障がい者スポーツの間には未だ距離が感じられる。理学療法士協会の専門領域において、障がい者スポーツは生活支援領域に含まれていたことからも、我が国の理学療法士界の認識として、障がい者スポーツが“スポーツ理学療法”から遠かったことは否めない。

     障がい者スポーツは、“Rehabilitation Sports”“Recreation Sports”“Competitive Sports”の三つの側面を持ち、Rehabilitationの側面以外では、健常者とまったく同じであり、スポーツに取り組む人が、たまたま何らかの障害を有しているだけのことである。また、そもそも理学療法は“障害を有している人”が対象であり、スポーツ理学療法の対象に“障害を有している人”が含まれることに違和感は無い。加えて、元々障害が有るが故に、スポーツ活動をすることによって身体に何らかの負担が掛かり、スポーツ外傷や障害を発生する可能性が高まる。これを適切に予測、対応できるのは本来理学療法士の得意分野のはずなのである。

     近年、予防医学における理学療法の重要性が認識されているが、障がい者スポーツの世界においても、怪我を未然に防ぎ、より高いパフォーマンスを発揮するために必要な理学療法アプローチが必要である。 理学療法士がその専門性を活かし、特別支援学校や各地域における障がい者のスポーツ活動へ積極的な支援を行い、パラリンピックを頂点にした高い競技レベルの障がい者スポーツ選手の支援のみならず、全ての障がい者が普通にスポーツを楽しめる社会の構築に寄与すべきである。 今回、様々な角度から、スポーツ理学療法と障がい者スポーツの関わりについて述べる。

  • 板倉 尚子
    セッションID: S-011
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     1928年アムステルダムオリンピックに人見絹枝選手が日本女子選手として初出場し、800mで2位(記録2分17秒6)となり日本人女性初のメダリストになった。現在の800m世界記録はヤルミラ・クラトフビロバ選手(チェコスロバキア/1983年7月26日)の1分53秒28であり55年間で約24秒短縮されている。人見選手もヤルミラ選手も大柄な体格で男性的な容貌だったと記録されており、これまで国際的に活躍する女性選手は一般女性に比較しスポーツに秀でた身体的特徴を有する一部の選手だったのではとおもわれる。近年は多くの女性がスポーツ活動に参加する機会が増え、国際大会においても女性アスリートの活躍は著しく好成績を得ている。競技レベルでスポーツ活動に取り組む女性アスリートを支援するには、女性の心身の特徴をふまえ、多職種の専門家がチームを編成し女性の心身をサポートする必要があるが、人見選手のメダル獲得から91年が過ぎてなお、その環境は十分とはいえない。

     男性はトレーニングを行うと血中テストステロンが増加し筋蛋白合成を高めて筋力が増加する。一方で女性の身体は男性に比べてトレーニングによる筋量増加の変化が起きにくい。その背景には女性のトレーニングによる血中テストステロンの増加は低く、女性のテストステロンは主に副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)から再合成されると報告されているものの、トレーニングによる筋量増加は男性ほどの変化がみられないのが特徴として考えられている。コンタクトスポーツ、特にラグビーなどのコリジョンスポーツでは強い筋力発揮が必要であるがトレーニングメニューに難渋する選手がある。

     骨格で最も成人男女の差があらわれるのは骨盤であり、一般的に女性骨盤は男性骨盤に比べて横径が大きく、また大腿骨の形状は男性に比べ女性が小さいといわれており、また大腿頸部の前捻角も男女差があるといわれている。このような女性の骨格の特徴は下行性運動連鎖に影響をあたえやすい。女性の骨格は男性に比べて股関節の位置が重心線に対して外方に位置するため、Closed kinetic chain(CKC:閉鎖運動連鎖系)において中枢から末梢へと生じる下行性運動連鎖に影響が生じやすい。また、女性の身体は関節柔軟性が高く、足部が柔らかいアスリートでは荷重により足部アーチの形状が崩れ末梢から中枢へと上行性運動連鎖の破綻が生じやすい。女性アスリートへの動的アライメント対策はスポーツ外傷・障害の予防となる。本シンポジウムでは女子体育大学健康管理センターでの取り組みとともに、女性アスリートのスポーツ外傷・障害への理学療法について紹介する。

シンポジウム2 学校教育現場に求められる小児の理学療法士の役割を考える
  • 小玉 美津子
    セッションID: S-012
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     1932年わが国初の肢体不自由児養護学校として、東京市立光明養護学校が設立され、その後1940年に整肢療護園が開設され、医療と教育と生活支援を使命とした「療育」という概念が歩み始めた。養護学校の新設が1956年公立養護学校整備特別措置法の交付に伴い開始され、肢体不自由児の多くは肢体不自由施設の併設養護学校、隣接養護学校に通学していた。1971年文部省(現在の文部科学省)は、特殊教育諸学校の教育課程に各教科、道徳、特別活動と並んで、従来の「体育・機能訓練」を「養護・訓練」という名称に変更し、より重要な教育活動の一領域として位置付けた。2000年「養護・訓練」は障害者施策の動向とともに「自立活動」へと名称変更した。2007年学校教育法等の一部改正により「特殊教育」から「特別支援教育」が学校教育法に位置付けられ、すべての学校において、障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していくことになった。 2009年に特別支援学校の学習指導要領が改定され、障害の重度・重複、多様化に対応するとともに、専門的な知識や技能を有する教師間で協力して指導を行うことや外部の専門家を活用することが明記され、中央教育審議会では「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」が2012年に報告され、教育環境のユニバーサル化やインクルーシブ教育の展開に向けた取り組みが始まり、さらに理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の活躍が期待されている。

     神奈川県教育委員会では2008年より、センター的機能の充実や障害の重度重複、多様化へ対応するため理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理職の資格を有する専門職を自立活動教諭(専門職)として採用し、2019年度現在、神奈川県立特別支援学校27校に理学療法士11名、作業療法士12名、言語聴覚士10名、心理職13名が配属されている。神奈川県教育委員会は、自立活動教諭(専門職)の特徴として、 ①日常性②同僚性③連続性④発展性をあげ、教職員とチームとして支え合い向上し合うことで、各自がさらに力をつけ、チーム全体の教育力が向上し、発展していくことを期待するものと説明している。特別支援学校に勤務する理学療法士は外部専門家とは違い、教員チームの一員として、個別教育計画の作成や具体的な教員からのニーズに対し、日常的に教育場面に入って、日々の学校生活を観察する中でアドバイスし適切な対応を一緒に考えている。また校外においては、センター的機能として近隣の小中学校あるいは、理学療法士が配置されていない特別支援学校に巡回相談を実施している。ある保護者は、小学部入学から高等部卒業までを「花の12年間」と話し、学校生活に継続的にかかわれる理学療法士に期待の声を寄せた。「医療モデル」から病気や障害をもちながらも自分らしく生きる「生活モデル」への視点を大切にし、今後も教員と共にこども達の学習意欲や生活意欲を引き出していきたい。

  • 高橋 一史
    セッションID: S-013
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     2007年に障がいの種類や程度に応じ特別の場で指導を行う「特殊学級」から、障がいのある児童生徒一人ひとりのニーズを把握し適切な教育的支援を行う「特別支援教育」が改正学校教育法において法的に位置付けられた。特別支援教育は教育のみでなく、医療、福祉、労働と様々な側面からの取り組みが求められ、専門家の活用が積極的に行われるようになった。理学療法士も専門家として学校現場で指導、助言を求められるニーズが高まった。

     2007年に「茨城における小児の発達を支える地域リハビリテーションを考える会(以下、茨城小児リハの会)」が子どもに関わる様々な関係職種が連携し、地域毎で子どもと、その家族のニーズに応じた一貫した支援を提供するネットワークを構築することを理念に設立された。これによって、教育と医療を繋ぐネットワークが不十分であった状況が改善され、担当者同士が顔を合わせる機会が増加し、現場主導で独自のネットワークシステムが作られていくこととなった。茨城小児リハの会は茨城県特別支援学校長会や茨城県理学療法士会はじめ茨城県医師会、茨城県看護協会などの各関係団体より世話人が派遣され、県内の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医師、看護師、社会福祉士、特別支援学校教員など教育・医療・保健・福祉・労働といった幅広い職種が参加している。

     本会の活動の中核として、リハビリテーションと特別支援学校の連携・協働が画策された。現在では全国的に広がりを見せている理学療法士をはじめとするリハ専門職による特別支援学校への派遣事業が、2007年より本会を事務局として茨城県において始まった。県内特別支援学校6校へのセラピストの派遣から始まり、次第に規模を拡大し、2017年度には県内ほぼ全校にあたる20校に対して実施されるようになった。参加療法士数は40名で、訪問回数はのべ214回である。他に専門職の連携強化を目的とした事例検討会「小児リハ・ネットワーク会議」が県内4か所で開催され、医療、教育、福祉関係者が参集し、活発な議論が行われている。

     本会の活動が開始してから11年が経過し、現在では医療者、教育者が対等な立場で意見交換が行えるようになった。また、課題として、特別支援学校の実情を把握して助言を行う事のできる療法士をいかに育成していくのか、知的部門の特別支援学校において療法士がどのような役割を担え、教育的な成果を上げる事が可能なのか等の検証が挙げられてきている。時代の変化と共に医療の考え方や学校教育のニーズも移り変わっていく。そうした中で、時代に合った連携、協働の形を模索し続けていく。

  • 松尾 洋
    セッションID: S-014
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     千葉県には特別支援学校が43校あり、6404名(平成30年度)の児童・生徒が在籍している。理学療法士は、主に「外部専門家」として特別支援学校の教員への指導という形で関わりをもっている。近隣の医療機関の理学療法士や各市町村の発達支援センターの理学療法士がそれぞれ活動している。一部、千葉県理学療法士会が適任者を紹介することも行なっているが、千葉県理学療法士会として全てを把握できていないのが現状であり、今後の課題としていきたい。

     外部専門家として特別支援学校と関わる中で教員に対しアンケート調査を実施した。アンケート内容は①理学療法士はどんな職種か知っていましたか、②理学療法士のアドバイスは適切でしたか、③理学療法士との連携は今後も必要ですか、④特別支援学校での理学療法士の常勤の必要性を感じますか、⑤理学療法士への要望、意見、感想とした。教員49名中27名(回答率56.2%)より回答を得た。すべての回答者が理学療法士との連携の必要性を感じていた。記述式のアンケート結果では、外部専門家として、かかりつけの理学療法士との連携にメリットあげる声が多かった。特別支援学校の教員は理学療法士との連携の必要性を感じている。特に医療情報や普段の理学療法介入の目標を共有するなど、外部専門家としてかかりつけの理学療法士が関わることの必要性やメリットが示唆された。

     本シンポジウムでは千葉県の現状と課題に加え、外部専門家としての関わりをもつなかで感じた「かかりつけの理学療法士」と特別支援学校の教員との連携についての私見をご紹介させていただく。

  • 黒川 洋明
    セッションID: S-015
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     どんなに障がいが重くても「就学」「学校生活」は子どもやその家族にとって、ライフステージの大きな変化であり、新たな社会参加となる。

     特別支援学校は、一人の子どもとして学校に寄せる期待と特別な教育的ニーズを踏まえ、子どもの発達保障と幸せを追求していく重要な環境となる。また学校卒業後の生活に向けて子どもの自立する力を伸ばしていくTransition支援としても重要な役割を担っている。

     Transition(移行)とは、学校生活から卒業後の生活への移行の側面だけでなく、障がいのある子どもから大人への移行という発達的側面もあり、この時期における支援の重要性が多く報告されている。

     医学・医療の進歩充実により、特別支援学校に在籍する子どもの障がいは、重度・重複化、多様化してきており、一人一人の状態に応じたきめ細かな指導・支援が重要となる。

     2009年告示の学習指導要領には、「生徒の障害の状態により、必要に応じて、専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして、適切に指導ができるようにする」ことが規定されており、外部専門家として身体や呼吸機能、生活環境等を総合的に評価し、支援を行える理学療法士の役割は大きいと考えられる。

     東京都は、早い時期から自立活動に外部専門家を導入している都道府県のひとつである。東京都の肢体不自由特別支援学校の自立活動の指導は、自立活動専任教員と学部担任がペアを組み、児童生徒2名を担当することを基本としてきた。

     この専任体制の歴史は長く、東京都の独自事業として1963年の学習指導要領で「体育・機能訓練」が制定された時に、機能訓練師として各肢体不自由養護学校に三療(針、灸、あんまマッサージ)の資格者を配置したことに始まる。その後、1973年に養護・訓練を行うための養護・訓練教諭普通免許状(現在の自立活動教諭普通免許状)が制定され、養護・訓練教諭の採用枠を新設、自立活動教諭の採用枠として現在に至る。

     2003年に東京都の盲・ろう・養護学校の異動要綱が改定された結果、多くの学校で長年肢体不自由教育を支えてきたベテラン教員が他校種へと移り、変わって他校種から肢体不自由教育未経験の教員が配置された。また、1963年当時からの自立活動専任教員が定年退職の時期を迎えることも重なり、肢体不自由教育の専門性の継続のために、2004年から自立活動への外部専門家導入を開始している。

     外部専門家の指導内容は、導入校の事情によって異なり、活動内容は一律ではないが、教員への指導だけではなく、児童生徒のアセスメント、教員の作成する個別指導計画作成へのアドバイス、児童生徒の直接指導も含められている。

     本シンポジウムでは、東京都内の特別支援学校に関わる外部専門家に実施したアンケート結果を踏まえ、学校教育現場における子ども達へのより豊かな支援について、皆様と一緒に考えていきたい。

  • 小川 克行
    セッションID: S-016
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     群馬県理学療法士協会(以下県士会)では平成25年度より県教育委員会から「特別支援学校機能強化モデル事業」への参加を県作業療法士会および言語聴覚療法士会とともに委託されて協力を開始し、現在も参加している。県士会地域局小児リハビリ部(以下小児リハ部)は県教育委員会との準備・調整、県士会員との調整役を担っている。

     派遣にあたってはPTの責任者を県内4エリアにそれぞれ配置し、各エリアの教育現場からの依頼を受けている。派遣時の流れは、まず各特別支援学校の専門アドバイザーが教育現場からの相談を受け、県教育委員会を通じてPT責任者が依頼を受けている。依頼を受けたPT責任者が派遣するPTの調整・決定をし、派遣している。派遣されたPTは訪問後に報告書を提出して各エリア責任者と小児リハ部長とで内容を共有している。

     現在、事業に登録しているPTは75名おり、所属施設、対応可能な分野も多岐に渡っている。平成25 年度~30年度の6年間で派遣は特別支援学校、小学校、中学校、高校、幼稚園・保育園に延べ119件実施した。相談内容は学習時の姿勢、机・椅子の適合、運動の指導方法、歩行介助、ストレッチの方法、運動負荷の程度、学校の環境設定、体育・行事の参加方法など多岐に渡っている。参加したPTからは「学校教育現場での工夫を知ることができた」、「担当児の学校での様子を確認できたことで、実施している理学療法を見直す良い機会となった」など参加が有意義であった意見が多くあった。学校からの相談内容は事業を継続する中で変化がみられている。開始当初は「何か必要なことがあるか見てほしい」といった抽象的な内容が多かったが、現在ではより具体的な相談内容となっており、1人の児に対してOT・STと相談内容を区別をした相談が挙がるなどPTの専門性についての理解も進んでいるように感じている。

     今後の課題として派遣参加者数を増やすことと訪問後の対応がある。現状では事業への参加経験があるPTは登録者のうち半数未満であり、今後多くの登録者が参加できる形をつくることで多様なニーズに対応しやすくなる。また、登録者から普段小児理学療法に関わっていない、経験が浅いなどで参加への不安を感じる声もあり、昨年度より派遣時に経験者に同行する形で見学者の受け入れを開始した。今後工夫を重ねて多くのPTが参加できる体制を作っていきたい。訪問後の対応においては、訪問後の経過やアドバイスがどのように活かされているかをPT側が把握しきれていないなど課題も多くあり、今後県教育委員会と情報共有、連携していける体制づくりも必要であると考えている。

     本シンポジウムでは、本県における事業開始までの準備とその後の経過、現在抱えている課題について報告する。各地域でそれぞれ取り組み方が異なると思われるので、情報交換を通じて学校生活の支援について考える機会となることを期待している。

シンポジウム3 運動器系理学療法が果たすべき役割
  • 秋吉 直樹
    セッションID: S-017
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     私はこれまではこれまでスポーツに起因した運動器疾患に対する理学療法に従事してきたが、近年、理学療法士の役割は、ベッド上やリハビリテーション室内で確認できる機能や能力の課題に目を向けるだけでなく、ゴール設定やプランニング、他職種との連携、傷害統計、競技特性の理解など様々な知識や技術が求められている。その背景には、これまで医療施設とスポーツ現場のギャップ、医療従事者と指導者・保護者とのギャップなど様々な問題を抱えてきたことなどが挙げられる。今回のシンポジウムでは、これらの課題を解決するための糸口を以下の項目に焦点を当てて解説する。

    1) 時間だけを考慮した競技復帰→パフォーマンス基準に基づいた競技復帰

     スポーツに起因した運動器の傷害に対してリハビリテーションを実施する場合、医療施設内では疼痛や動作の改善がみられてもスポーツ競技の現場に復帰した後に再発することも少なくない。特にサッカーで多くみられるハムストリングス肉離れや前十字靭帯損傷、コンタクトスポーツに多い脳震盪などは再発が多いことが問題となっている。これらの再発を予防するためには、“時間だけを考慮した競技復帰”から“パフォーマンス基準に基づいた競技復帰”が重要である。リハビリテーションの段階において、ランニングを始める基準、練習に合流する基準、試合に復帰する基準などを選手・指導者などと共有しリハビリテーションを進めていく必要がある。この基準を作成するうえでは、傷害の受傷機転などメカニズムの理解、競技に必要な体力面の理解、栄養や睡眠など体調面の理解、指導者やチーム状況などの理解など、多岐にわたる情報を集約する必要がある。

    2)Rehabilitation → Prevention(リハビリテーションから予防へ)

     運動器系理学療法では、リハビリテーションだけではなく傷害の予防が注目されており、野球肘検診、Jones骨折検診、足関節検診など全国で展開されている。傷害の予防の4ステップ(Mechelen 1985)では、外傷・障害統計→原因究明→予防介入→効果検証のステップを踏む必要があると言われている。 UEFAやNCAAなど海外では大規模な外傷・障害統計が行われているが、日本ではまだ十分とは言えないのが現状である。したがって、各競技や年代別でどのような傷害がどのくらいの頻度で発生しているのかは不明である。また検診などの事業で陽性であった対象者に対して二次検診や介入が実施されているが、偽陰性が多いことも課題の1つであり、検診やスクリーニングテストの意義を再考する必要もあると言われている(Bahr 2016)。傷害の要因は多因子であり、1つの要因だけでは解決できないことが多いため、選手を取り巻くスタッフが協働して取り組んでいく必要がある。

  • 田村 暁大
    セッションID: S-018
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     医学系研究について、諸外国から発表される総論文数が年々著しく増加傾向にあるのに対して、日本では伸び悩んでいる現状である。さらに、総人口当たりの論文数をみると、先進諸国から大きく引き離されており、これはリハビリテーション研究でも同様な傾向である。このような背景には、日本の研究者(博士号取得者含む)数の減少や研究活動を阻害する環境的な要因があると考えられている。更には、国際学会などに参加して最新の知見を得ることや研究活動に触れる機会が少ないことも、研究活動を妨げている要因かもしれない。

     医学系研究は、大きく「基礎研究」と「臨床研究」の2つのカテゴリーに分類される。運動器系理学療法における「基礎研究」の多くは、ある特定の疾患や動作、条件などを想定し、健常者を対象として行う研究である。「臨床研究」とは、厚生労働省の定義によると、疾病の予防・診断・治療方法の改善、疾病の原因および病態の理解・患者の生活の質の向上を目的として人を対象として実施されるものをいう。研究活動に従事するにあたり、医学的価値のある「基礎研究」を十分に積み重ねながら、質の高い「臨床研究」へ応用・発展させることがEBMとEBPTを実践するために必要不可欠であることの認識が必要である。

     理学療法士として、臨床や教育現場での活動に加えて研究活動にも従事することは、時間的にも環境的にも難しいケースが多いと感じる。研究活動を進めていくにあたり、基礎研究または臨床研究の行える環境を作ること、またはそのような環境に身を置くことが大切である。さらに、理学療法士一人ひとりの研究活動の実践により、多くの患者さんの悩みを解決する手段が増えることを認識して、研究活動を行う意義を明確化することが重要である。また、「運動器」とは、身体の構成要素としてそれらの機能的連合によって運動と身体活動を担うものと定義されていることからも、運動器系理学療法におけるEBM・EBPTは、運動器疾患だけではなく他領域の疾患や症例への応用も期待される。そのため、運動器系理学療法における研究活動として、質の高いEBM・EBPTを実践するための土台を構築することは、日本の理学療法がグローバルスタンダードに近づくために必要な要素であり、理学療法士の価値を高めるために重要な意味を持っていると考えている。

     以上のことから、今回、運動器理学療法における基礎的な研究論を紹介し、研究現場での現状や研究を行う意義などをお伝えしたいと考える。そして、研究活動について少しでも理解してもらえることとこれから研究活動を行っていきたいと考えている理学療法士が自らの研究疑問(リサーチクエスチョン)を解決するための助けになることを期待する。

  • 城下 貴司
    セッションID: S-019
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     今回与えられた「運動器系理学療法が果たすべき役割-教育現場から-」というテーマに対して、その歴史、現状、そして今後の果たすべき役割および将来像についての以下の3つに分類し考えたい。

    ●歴史(理学療法教育の歴史)

     理学療法の起源は、紀元前ギリシアのピポクティスのから多くの関連書目があることはよく知られている、最も古い教育課程として記録があるのは1894年のイギリスでの理学療法団体のようである。本邦では1910から1920頃(大正年代)の記録がある。1956年あたりから本格的に(昭和32年)国会に提出されるようになり、1963年度(昭和38年度)教育予算としては国立療養所東京病院に当てられリハビリテーション学院が開校した。実現しなかったが、臨床部門の予算として運動器と内部障害はPTの予算として、精神はOTの予算としての案もあったようである。

    ●運動器系理学療法の教育現場の現状(運動器系理学療法のカリキュラムと学生の質?)

     ・運動器系理学療法のカリキュラム

      いくつかの養成教育機関で公開されているシラバスを参照すると、以下の2通

     りの傾向があった

       1 )運動器系理学療法の範囲すべて網羅すること困難なため、主要な疾患を

        抜粋して断片的に講義する。

       2 )運動器系理学療法の疾患別知識は行わず、その養成教育機関に所属して

        いる教員の専門とする治療技術を中心に講義及び実技をする。

         上記の方法をとるのはコアカリキュラムという考え方があると思える。

         しかし、それで本当に運動器系理学療法の教育は問題ないのかを考え

        る。  

      現状の理学療法の教育現場でカリキュラム構成する上で大きな比重を占めてい

     るのは、以下の3つと思える。

       1)文部科学省から理学療法教育の指定規則(96単位)

       2)大学の4年制の課程の場合、卒業所要単位の規程(124単位以上)

       3 )理学療法士協会の理学療法教育ガイドライン(1版)理学療法教育モデ

        ル・コア・カリキュラム

                             (平成22年4月)

        上記のみで運動器系理学療法を考えていいのかを考えたい。

     ・学生の質?  

       現状の教育現場で避けては通れない問題に学生の質の問題がある、これは問

      題視され久しい。しかし、この問題は過剰な養成校の設立と少子化に伴って

      生じた自然現象であり何ら不思議なことではない。  

       ここで考えたいのは、「学生の質の低下は学生だけの問題なのか?」「カリ

      キュラム編成や実習単位を変更することで、それは解決されるのか?」「理学

      療法教育のグローバススタンダードは?」等を考え、根本に潜んでいる問題は

      ないのかを考えたい。

    ● 今後の果たすべき役割および将来像

     上記の歴史と現状から、筆者の運動器系理学療法の授業構成やその方法論も紹介しながら、将来性のある理学療法士や理学療法士を目指す若者達もしくは彼らが関わる患者様のために、現状の我々が運動器系理学療法をどのような方向性を導かなければいけないかを考え、そのために筆者は今何をしているのかを紹介する予定である。

市民公開講座
  • 牧迫 飛雄馬
    セッションID: S-020
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

     「健康は第一の富である」(詩人・思想家、ラルフ・ワルド・エマーソン)と言われことがあるように、何事を行うにも健康であることが基本であり、我々にとって健康とは何事にも替えがたい優先順位の極めて高い状態と言えるかもしれません。

     2016年(平成28年)国民生活基礎調査によると、介護・支援が必要となった主な原因で最も多いのは認知症(18.0%)となっています。2000年に介護保険が始まって以来、介護の原因として最も多かった脳血管疾患(脳卒中)を認知症が上回る状況です。また、要支援者に限ってみてみると、高齢による衰 弱(16.6%:第2位)、骨折・転倒(15.2%:第3位)といった疾病とは分類しがたい原因が上位を占めています。そのため、記憶や注意力といった認知機能、筋力や歩行能力といった身体機能を良好な状態に維持することは、介護予防の観点から急務の課題となっています。

     『認知症』は予防できるのでしょうか・・・。現在のところ、認知症の予防または認知症の発症を遅らせることができる確な方法は明らかとなっていません。しかし、徐々に認知機能が衰えていく状況をくいとめて、認知機能を向上させ、脳機能を良好に維持して鍛えていくことで、認知症の発症を遅らせることができるのではないかと期待されています。

     その効果的は方法のひとつが、身体活動を促進することであるとされています。運動は比較的に低コストで実施が可能であり、認知症予防の取組の中核的な役割を果たす可能性が示唆されています。しかし、運動によって脳賦活を促進することを目指すうえでは、単純な運動課題では脳活動の活性化を促すことは難しいと言わざるを得ません。そのため、認知機能の改善・維持に対して効果的な介入方法を実践するためには、筋力トレーニングおよび柔軟運動、有酸素運動、脳賦活を促進する運動、健康行動技法などを効率的に組み合わせることが必要であり、とりわけ認知課題を負荷しながら(二重課題、多重課題)の有酸素運動などによって、より効率的に脳の活性化を図ることが期待されています。

     本講演では、日常のなかでもできる認知症および要介護の予防のための実践方法を交えながら、基本的な考え方を紹介します。認知症の予防、介護予防のための基本的な考え方と日常のなかで実践できる予防方法を習得し、明日からの生活に活かしてみませんか。

口述
  • 木村 遊, 大野 敦生, 豊田 裕司, 高須 孝広, 下川 翔平
    セッションID: O-001
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】本症例は肩関節初動時に放散痛と挙上最終域で衝突感を訴えていた.この原因が頚部の椎間関節障害によると仮説を立て介入を行い,改善が得られたため報告する.

    【症例】50代女性.平成31年1月に当院に受診し頚椎症,肩関節周囲炎と診断された.介入時は4月であり主訴は右肩関節挙上困難と運動時痛であった.

    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,目的および方法を説明し同意を得た.

    【評価】疼痛:挙上初期から頚部右側〜右前腕尺側に放散痛(NRS7),挙上80°で衝突感(NRS4).筋緊張:僧帽筋上部線維,頭半棘筋の緊張亢進.肩関節ROM右:屈曲:80 °,外転:60 °.頚部ROM右:側屈:15 °.MMT(右/左):三角筋,棘上筋,上腕二頭筋(3 /4).整形外科テスト:Neer・Hawkins test,Spuring test右側陽性.動作観察:挙上運動で肩甲骨挙上,前傾が先行的に起こる.画像所見:頚椎MRI:C5 /6,C6 /7狭窄.

    【仮説】本症例の疼痛は筋力低下部位,頚椎MRIより椎間孔での狭窄によるものと考える.挙上困難な原因は椎間関節障害により主動作筋の筋力低下が生じ,大胸筋等で代償運動が出現した結果,ROM制限や衝突感が出現したと考えた.

    【治療】1.頚部筋緊張緩和2.頚椎モビライゼーション

    【結果】疼痛:放散痛消失,挙上110°で衝突感(NRS4).肩関節ROM右:屈曲110°,外転100°.頚部ROM右:側屈:30°.MMT(右/左):三角筋,棘上筋,上腕二頭筋(4 /4).整形外科テスト:Spuring test陰性.

    【考察】疼痛と挙上困難の原因は整形外科テストや主動作筋の筋力低下を生じていたことから神経根症状とインピンジメント徴候が考えられた.肩関節周囲炎が拘縮期に移行しており,ROMのEnd feelから軟部組織の伸張性が低下している.このことから上腕骨頭の骨頭偏位によりインピンジメント徴候が起こることも予想されるが,主訴である疼痛の質や部位がC5 〜C7神経支配領域であるため椎間関節障害の問題と考えた.

  • 鈴木 数基, 古西 幸夫, 菅原 成元, 浜辺 政晴
    セッションID: O-002
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】今回,黄色靭帯骨化症(OLF)により歩行障害を呈した症例に対して,段階的に装具の変更を行い,歩行自立に至ったため報告する.尚,ヘルシンキ宣言に則り説明し同意を得た.

    【症例紹介】70歳代女性.入院前ADL自立.診断名:胸椎OLF.頚椎後縦靭帯骨化症.診断から1年後に歩行困難となり第1-5胸椎後方固定術,第1-5/11-12胸椎椎弓切除術施行.術後22日目に当院に転院.

    【初期評価:入院1週目】MMT[右/左]股関節屈曲2/5,伸展2/3,外転3/4,膝関節伸展2/5,足関節背屈1/5,底屈2/2.握力(㎏)右28.0/左22.6.両下肢の深部感覚中等度鈍麻.Berg Balance Scale(BBS)12点.歩行:裸足で平行棒内両手支持軽介助.歩容は4動作前型.右遊脚期は下垂足.右初期接地で前足部接地後にExtension Thrust Pattern(ETP)と体幹前傾し,右立脚中期にTrendelenburgを呈する.FIM80点.

    【治療および経過】1週目:右シューホーン型短下肢装具使用.ETPの抑制は不十分.3週目:金属支柱付き短下肢装具に変更.足継手はダブルクレンザックを使用し背屈10°固定.車輪付き歩行器で歩行開始.6週目:ETP の軽減に伴い足継手を背屈遊動に変更.8週目:裸足で踵接地可能だが,足を擦るためオルトップLHに変更.9 週目:両手T字杖歩行開始.

    【最終評価:入院15週目】MMT股関節屈曲3/5,伸展4/5,外転4/5,膝関節伸展4/5,足関節背屈3/5,底屈2/3.BBS40点.歩行:右オルトップLH使用.両手T字杖自室内自立,車輪付き歩行器病棟内自立.歩行速度0.69m/秒.連続歩行距離240m.歩容は2動作前型.ETP,Trendelenburgは軽減.FIM110点.

    【考察】本症例は胸椎以下の障害であり,両下肢の感覚障害と筋力低下を呈していたが,①上肢機能が維持されており歩行補助具の使用が可能であった点と②歩容の変化に合わせて段階的に装具の種類や設定を変更した点が,歩行自立に至った要因と推測される.

  • 飯野 穂奈美
    セッションID: O-003
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】高齢の脊髄損傷者は若年者に比べ施設退院が10倍にもなり,高齢であることが自宅退院阻害の一番の因子になると言われている.今回,84歳の脊髄損傷者が,移乗動作を獲得により自宅退院が可能となったため報告する.尚,本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者に説明し同意を得た.

    【症例紹介】84歳男性.第6胸椎破裂骨折で脊椎後方固定術施行.その後Z日に弛緩性対麻痺が出現し椎弓切除術を施行するも,対麻痺残存.第5胸椎レベルの脊髄完全損傷となり,Z+55日目に当院へ転院となる.入院時の家族HOPEは移乗・トイレ動作・排尿排便コントロールの自立であった.

    【経過】脊髄損傷患者において座位保持はADLの基本であり,在宅復帰する上で移乗動作の獲得も重要であると考え,座位保持を含む移乗動作に着目した.入院時,端座位では股関節周囲筋の麻痺による安定性限界の中での重心の制御が困難なこと,それに伴う恐怖心による肩甲骨の挙上・頭頸部の過緊張が見られ全介助を要す状態であった.そこで恐怖心の軽減や重心コントロール能力向上を目指し,座位保持訓練,ワイピング,外乱刺激,重心移動訓練を実施した.また移乗動作においては,広背筋・前鋸筋・僧帽筋の筋力低下や下肢可動域制限による横移動困難を認めたため,鉄アレイを用いて漸増的上肢筋力強化訓練,SLRストレッチ,push up訓練を実施した.その結果,座面に手をついた状態での端座位保持が可能となり,上肢筋力の向上,下肢柔軟性向上に伴い横移動での移乗動作が見守りで可能となった.

    【考察】座位バランスに焦点を当てた介入や適切な筋力訓練や可動域訓練を行ったことで,座位保持能力向上及び移乗動作能力向上を獲得した.これにより,高齢脊髄損傷患者の自宅復帰が困難と言われている中で,本症例は自宅復帰を実現した.高齢者が増加する中で,自宅復帰の阻害因子を明確にし,適切な介入を行うことが必要である.

  • 澁澤 佳佑
    セッションID: O-004
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】慢性炎症性脱髄性多発神経炎(以下、CIDP)は、再発性または慢性進行性に末梢神経の脱髄を生じ、筋力低下または感覚障害を示す疾患である。今回、経過の長い症例の筋力、バランス能力の変化を踏まえ報告する。

    【倫理】日高リハビリテーション倫理委員会(承認番号190301号)の承認を得た上で、書面にて症例の同意を得た。

    【症例】CIDPを呈した70歳台男性で、入院日(第0病日)の約2年3か月前より振戦、ふらつきを認め、症状悪化により、神経内科を受診し診断され、ステロイドパルス療法を実施していた。第83病日より担当した。認知機能は軽度低下していたが、リハビリは協力的であった。易疲労性を認め、日中は臥床傾向であった。両下肢の表在・深部感覚は重度鈍麻であった。Functional independence measure(以下、FIM)は57点であり、歩行時著明なふらつきを認めた。

    【経過・結果】ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社ミュータスF-1:以下、HHD)を用いて膝伸展筋力を計測した。計測は3回行い、最大値(単位:kgf)を結果に用い、同日体重(単位:kg)の計測を実施した。結果は、初回から約2週間ごとに、右10.3、13.2、13.7、14.1、14.4、14.4、19.9、左10.7、12.6、13.7、13.5、16.2、16.2、17.0、体重は48.0、47.4、46.9、49.3、49.8、49.0、50.9であった。Berg Balance Scale(以下、BBS)は約1か月ごとに計測し、10点、45点、47点であった。第126病日に車椅子でのトイレ自立、第135病日に病棟内U字型歩行器歩行自立、第179病日に自宅内固定式歩行器歩行自立、FIM102点となり、自宅退院となった。表在感覚は軽度鈍麻と改善したが、深部感覚は著変なく残存した。

    【考察】HHD・BBSの結果には、神経の回復、日中活動量の増加、栄養状態改善が関与したと考える。CIDP症例に対する理学療法を長期的に行うことで、筋力、バランス能力、ADLの向上を図ることができる可能性が示唆された。

  • 齊藤 大樹, 根本 祐司, 沼尻 一哉, 河野 衛
    セッションID: O-005
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】頸椎術後の合併症である第5頸髄領域(以下: C5)を中心とした麻痺は,MMT2以下の上肢近位筋の脱力が生じると完全回復が難しく,予後不良であったと報告されている.しかし,今回,頸椎椎弓形成術後に右C5麻痺を呈した超高齢者へ神経回復過程に合わせた長期的な介入を行った結果,右上肢機能の改善を認めたため報告する.尚,ヘルシンキ宣言に基づき本人に説明,同意を得た.

    【症例紹介】認知症がない92歳男性.手指巧緻性障害及び跛行を呈する頸椎症性脊髄症に対し椎弓形成術を施行した.術後3日目に右C5麻痺を認め,MMT(Rt/Lt)は僧帽筋4/4 三角筋2/4 上腕二頭筋1/4 上腕三頭筋2/4 ,Gripは13.6kg/10.5kg,頸椎JOA scoreは6.5点,右上肢は手機能が残存しているが近位筋が麻痺し,補助手としての機能も乏しい状態であった.

    【経過と治療】針筋電図検査等が実施され,機能回復に合わせ介入を行った.抗重力運動が不十分であった術後 18 ヶ月までは麻痺筋への負荷に注意し,低頻度パルス刺激での神経筋電気刺激や重力の影響を調整した状態で上肢運動を行い,代償動作を抑制した中で関節運動を促した.また,補装具を作成し,獲得された機能を生活動作に反映させていった.経過比較として座位での右肘自動屈曲角度を追い,術後 0 〜6 ヶ月では0°であったが,術後 9ヶ月から徐々に改善を認めた.術後24ヶ月のMMTは僧帽筋4/4 三角筋2/4 上腕二頭筋3/4上腕三頭筋4/4,頸椎JOA score は9.5点,座位での右肘自動屈曲は120°となり,右手で口元までリーチ及び食事動作が可能となった.

    【考察】本症例は超高齢者であってもコンプライアンスが良く,神経回復に合わせて負荷量を調整しながら継続的なアプローチが行えた為,麻痺筋への適正な刺激入力が増加し,良好な経過を辿ったと考える.また,術後9 ヶ月から麻痺領域の機能回復を認めたことは神経,筋ともに回復の可能性があることを示しており,長期的な介入を行う価値があると考える.

  • 藤澤 俊介, 古谷 英孝, 伊藤 貴史, 田澤 智央, 五十嵐 秀俊, 大森 圭太, 星野 雅洋
    セッションID: O-006
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】脊椎矯正固定術の術後成績を調査したメタ解析では,術後患者は術前と比較しOswestry Disability Index(ODI)の臨床的最小重要変化量(Minimally Clinically Important Difference:MCID)を上回らないことが報告されている.脊椎矯正固定術後患者におけるODIのMCID達成の可否に影響を与える術前予測因子を調査することを目的とした.

    【方法】研究デザインは後ろ向きコホート研究とした.対象は後弯症,側弯症,後側弯症に対して脊椎矯正固定術を施行し,6 ヶ月以上経過した者とした.脊椎手術歴,認知障害,神経系疾患を有する者,術前ODIが0-15,85- 100%の者は除外した.従属変数はMCID達成の可否とした.独立変数は年齢,性別,BMI,固定椎間数,術後期間,Pain Catastrophizing Scale,Tampa scale for kinesiophobia,Functional Reach Test,腰痛,下肢痛,感覚障害の有無,喫煙の有無,併存疾患の有無(高血圧,糖尿病,心疾患,精神疾患,変形性関節症),脊椎パラメータ(sagittal vertical axis:SVA),術前ODIとした.データ解析は,単変量解析により予測因子を抽出し,それらを独立変数とした多変量解析を用いて術前予測因子を抽出した(有意水準5%).

    【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に従い実施した.

    【結果】対象は128名(女性110名),平均年齢±標準偏差73±6.1歳であった.71名がMCIDを達成していた.単変量解析の結果,BMI,SVA,術前ODI,下肢痛,感覚障害,年齢,固定椎間数,喫煙が抽出された.多変量解析の結果,MCID達成の可否に影響を与える術前因子は,感覚障害(p<0.01,OR=0.29),SVA(p=0.01,OR=1.01),固定椎間数(p=0.03,OR=0.81)であった.モデルの予測精度は感度0.72,特異度0.60であった.

    【考察】脊椎矯正固定術後患者のODIのMCID達成を予測する術前因子が明らかとなった.この結果は,患者教育や理学療法介入を実施する上での一助となり得る.

  • 土屋 里沙, 井川 達也, 鈴木 彬文, 草野 修輔
    セッションID: O-007
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Spinal Stenosis:LSS)患者は,腰部多裂筋の萎縮・脂肪変性を認める.また多裂筋の脂肪変性は腰痛や腰椎の機能障害を来たすとの報告がある.しかし,術前の多裂筋の横断面積が手術後の歩行や生活範囲に与える影響に関しては明らかにされていない.よって本研究の目的は,LSS患者の多裂筋横断面積が術後の歩行や生活範囲に与える影響を明らかにすることとした.

    【方法】対象は,当院でLSSに対し椎弓切除術を施行した男性35例(平均年齢69.8±7.7歳)とした.評価項目は術前後の10m歩行時間,Zurich claudication questionnaire(以下ZCQ)の重症度と身体機能,Lifespace assessment(以下LSA),JOABPEQの疼痛関連,腰椎機能,歩行機能,社会生活,心理的,腰痛のVisual Analogue Scale(以下VAS)とした.多裂筋横断面積の測定は,L4/5高位のMRI横断像用い(T2),ImageJ (1.46ver.)を使用し計測した.その後,多裂筋横断面積の中央値で,萎縮群と非萎縮群の2群に分類した.統計はMann−Whitney U検定と,群と時期を2要因とし,年齢で補正した混合モデル反復測定二元配置分散分析を用 いた.有意水準は5%とした.

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき患者,家族に説明と同意を得て実施した.

    【結果】萎縮群は17名(年齢72.5±7.3歳,多裂筋横断面積185.6±38.3mm2/ m2,非萎縮群は18名(年齢67.2±7.1 歳,多裂筋横断面積287.0±44.6 mm2/ m2)であった.術前は,10m歩行時間,LSA,JOABPEQ社会生活において2群間に有意差を認めた.混合モデル反復測定二元配置分散分析の結果,交互作用は認めなかった.10m歩行時間,LSA,JOABPEQ社会生活において,群と時期の両方に主効果を認めた.

    【考察】術後6か月時では,術前多裂筋横断面積の大小によらず,歩行能力と生活範囲が改善するが,萎縮群は非萎縮群を超える改善は認めない.以上より,術前の多裂筋の萎縮は,術後6 ヶ月時の歩行能力や生活範囲に関連することが示唆される.

  • 浦田 龍之介
    セッションID: O-008
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】腰部脊柱管狭窄症(LSS)は疼痛や痺れに伴い歩行障害を呈する退行変性疾患である。LSS患者において、身体および精神機能が著しく低下している患者を多く経験するが、症状重症度との関連を示した報告はない。 本研究の目的はLSS患者の症状重症度と身体および精神機能の関連を明らかにすることである。

    【方法】当院でLSSと診断された術前患者51例(女性29例、男性22例、平均年齢68.7±8.8歳)を対象とした。選択基準は脊椎・下肢に手術既往のない独歩可能な者とし、検査に同意が得られた者とした。基本属性(年齢、性別、身長、体重)、罹患年数、VAS(腰痛、殿部下肢痛、殿部下肢痺れ)、Pain catastrophizing scale(PCS)、腰背筋断面積(L4/5 高位の脊柱起立筋群および多裂筋)、脊椎矢状面アライメント(SVA、LL、SS、PT、PI)、股関節屈曲および伸展可動域、膝関節伸展筋力、背筋力、片脚立位時間、10m歩行速度を調査した。本研究では症状特異的評価表であるZurich claudication questionnaire サブスコア重症度得点(ZCQS)を母集団の中央値で重症群と軽症群に分類し、各調査項目を比較検討した。統計解析はカイ二乗検定およびt検定を用い、有意水準はいずれも5%とした。

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき患者、家族に説明と同意を得て実施した。

    【結果】重症群(2.86≧ZCQS)は25名(70.5±8.3歳)、軽症群(ZCQS<2.86)は26名(67.1±9.1歳)であり、基本属性に有意差は認めなかった。VAS(殿部下肢痛、殿部下肢痺れ)、PCS、L4/5高位の多裂筋断面積は二群間に有意な差を認めた。

    【考察】LSS患者の症状重症度は精神機能と多裂筋断面積と関連することが明らかとなった。しかし、背筋力や下肢筋力、10m歩行速度などの身体機能はLSSの重症度とは無関係に低下すること明らかとなった。

  • 是枝 直毅, 萩原 耕作, 湯田 健二
    セッションID: O-009
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】脊柱アライメントは腹筋群と脊柱起立筋群の持続的な活動にて制御されており,腰仙椎アライメントの変化と体幹屈筋/伸筋比(以下F/E比)に関連があると報告されている.しかし腰椎と連続した構造体である胸椎に着目した報告は少なく,胸腰椎アライメントを変化させる因子としてF/E比の関与が予測されるが明らかではない.そのため,本研究は胸腰椎アライメントとF/E 比の関連を検討することにした.

    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に目的及び方法を説明し同意を得た.

    【方法】対象は脊柱に整形外科疾患の既往がない健常女性25名(年齢20.5±4.3歳)とした.脊柱アライメントの評価はMilneらの報告に準じ,自由曲線定規を使用し,静的立位における胸椎後弯指数と腰椎前弯指数を対象ごとに3回測定し,その平均値を測定値とした.また,骨盤傾斜の評価はASISとPSISを結んだ線とASISを通る水平線とのなす角を骨盤傾斜角と定義し,測定した.体幹筋の評価はMcGillらの報告に準じ,体幹の屈曲と伸展の検査肢位の保持時間を測定し,屈曲の保持時間を伸展の保持時間で除した値であるF/E比を算出した.統計学的分析は脊柱アライメントの各測定項目(胸椎後弯指数と腰椎前弯指数、骨盤傾斜角)とF/E比間との相関をPearsonの積率相関係数を用いて検討し,有意水準は5% とした.

    【結果】胸椎後弯指数とF/E比に相関は認められなかった.一方で腰椎前弯指数とF/E比に負の相関(r=-0.48,p<0.05)があり,また骨盤傾斜角とF/E比にも負の相関(r=-0.47,p<0.05)を認めた.

    【考察】胸椎アライメントとF/E比との間には相関はなく,相互に影響を及ぼさないことが示唆された.胸椎の形態的な特徴も結果に影響したと考えられ,今後は胸椎アライメントと他因子の関連についても検討が必要である.なお,腰仙椎アライメントとF/E比との間には相関があり,体幹の屈筋群と伸筋群の活動の変化が腰仙椎アライメントを変化させる一因であると示唆された.

  • 樋口 大輔
    セッションID: O-010
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】腰椎術後痛のある高齢者において健康関連quality of lifeと関連する活動量パラメータを明らかにすることを目的とした。

    【方法】腰部脊柱管狭窄症に対する手術を1年以上前に受け、腰部または下肢に疼痛が残る65歳以上の人12人(75.1 ±4.0歳;男性6人、女性6人)を対象とした。測定・調査項目は疼痛強度のほか身体活動量、健康関連quality of life(QOL)とした。身体活動量の測定にはHJA-750C (オムロン社製)を用い、装着時間1時間当たりの平均歩数、歩行時間、活動時間(1 〜2METs /2 〜3METs /3METs 〜)、歩行エクササイズ(Ex)、生活活動Ex を求めた。健康関連QOLの調査にはSF-36を用いた。疼痛強度を調整変数とし、身体活動量パラメータとSF-36 の下位スコアとの偏相関係数を算出した。統計解析の有意水準は危険率5%とした。

    【倫理的配慮】演者所属機関の倫理審査委員会の審査を受け、研究実施の許可を得た。また、各対象者に研究の内容を口頭で説明し、研究参加の同意を記名にて得た。

    【結果】2 〜3METsの活動時間および生活活動Exは全体的健康感(2 〜3METsの活動時間:.62、p<0.05、生活活動Ex:.66、p<0.05)と正の相関を示した。一方で、歩行時間および歩行Exは社会生活機能(歩行時間:− .67、p<0.05、歩行Ex:−.63、p<0.05)と、1 〜2METs の活動時間は全体的健康感(−.64、p<0.05)および日常役割機能(精神)(−.62、p<0.05)と負の相関を示した。

    【考察】低強度よりも中等度の強度の生活活動を多く行うほど全体的な健康感が高かったことから、健康関連QOLが高い人と低い人とでは行っている日常生活活動の内容が異なることが考えられた。また、歩行を多く行うほど社会生活機能が低かったことは、他者との関わりが少ない人は空いた時間に散歩を行う傾向にあるのかもしれない。

    【まとめ】腰椎術後痛のある高齢者において中等度以上の生活活動時間は健康関連QOLの一側面と正の関連を示す。

  • 西 恒亮, 岩崎 俊弥, 中島 邦喜
    セッションID: O-011
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】循環器疾患患者を対象に運動器疼痛ならびに運動実施に関するアンケートを行い,循環器疾患患者における運動器疼痛有訴率ならびに運動器疼痛が運動実施へ与える影響について調査する事を目的とした.

    【方法】当院循環器内科または心臓血管外科を受診し基本日常生活動作が自立している203名に対し無記名・自己記入式アンケート調査を行った.アンケート内容は1.運動器疼痛の有無 2.運動器疼痛の部位 3.運動実施の有無 4.運動器疼痛が理由による運動非実施の有無とし,疼痛部位は複数回答とした.対象は運動器疼痛を有する者とし,主治医より末梢動脈疾患による下肢痛と説明受けている者は除外した.

    【倫理的配慮】北関東循環器病院倫理審査委員会の承認を得た.本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,対象者には研究の目的,方法を書面にて説明し同意を得た.

    【結果】運動器疼痛を有する者は73名(男性54名女性17 名未回答者2名 年齢71.8±9.9歳)で全回答者の36%,除外基準対象0名であった.疼痛部位は上肢18名,下肢29名,頚部11名,腰背部40名であった.運動器疼痛を有する者のうち運動実施者は33名,運動未実施者は39名,未回答者1名であった.運動器疼痛が理由による運動未実施者は18名で,運動器疼痛を有する運動未実施者の46%であり,疼痛部位は上肢2名,下肢11名,頚部3名,腰背部11 名であった.

    【考察】循環器疾患患者において,運動器疼痛が理由による運動未実施患者は運動器疼痛を有する運動非実施者の約半数であり,部位は下肢や腰背部に多い傾向であった.循環器疾患患者の運動実施向上のために下肢痛や腰背部痛の確認や対応が必要であると考えられる.また,運動器疼痛を有していても運動実施の有無が分かれることから,運動実施のために運動器疼痛を有する循環器疾患患者における運動実施に影響する因子を更に検討することが必要であると思われた.

  • 善田 督史, 津島 健司, 角田 亘, 服部 知洋, 清藤 晃司, 小河 裕樹, 吉田 誠也, 府川 泰久, 木戸 聡史, 丸岡 弘
    セッションID: O-012
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】呼吸器疾患において、大腿四頭筋の筋力は運動耐容能や日常生活動作(ADL)と関連する。また、急性呼吸不全患者は、炎症や臥床に伴い筋萎縮を伴い易いと報告とされている。本研究は、急性呼吸不全患者における大腿四頭筋の筋厚とADLの関連性を検討した。

    【方法】2017年10月〜2019年3月で、当院に入院した急性呼吸不全患者26名(年齢74.9±7.6歳)を対象とした。 疾患は慢性閉塞性肺疾患8名、間質性肺炎12名、非結核性抗酸菌症6名であった。筋厚の測定部位は、先行研究に則り大腿直筋と中間広筋を合わせた筋厚とした。測定機器は、超音波画像診断装置を用いてBモードで撮影した。仰臥位にて股関節中間位・膝伸展位とし、膝蓋骨上縁と上前腸骨棘を結んだ直線の中間点に目印を付け、筋の走行に垂直となるようにプローブを接触させ画像を記録した。ADL評価は、The Nagasaki university Respiratory ADL Questionnaire(以下NRADL)を用いた。すべての評価は入院後一週間以内に行われた。解析について、先行研究のカットオフ値に則りNRADL>50点をADL維持群、NRADL≦50点をADL低下群とし、Mann−Whitney U検定にて群間比較を行った。また、大腿四頭筋筋厚とADLの関連性を確認するためSpearmanの相関係数を用いた。

    【倫理的配慮】本研究は、当院倫理審査委員会にて承認の上実施した。

    【結果】大腿四頭筋筋厚とADLには中等度の相関を認めた(r=0.43 、p<0.05)。また、ADL低下群で、有意に大腿四頭筋筋厚の低下が認められた(ADL維持群21.4± 3.9mm、ADL低下群11.0±4.8mm、p<0.05)。

    【考察】本研究より、大腿四頭筋筋厚とADLにおいて関連性が示された。また、ADL低下群で筋萎縮が顕著となるため、早期より廃用性筋萎縮の予防が必要と考えられた。

  • 棚橋 由佳, 高橋 さおり, 篠原 綾華, 水野 剛
    セッションID: O-013
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】当院では数年前から呼吸器外科の術前患者を対象に、外来での栄養・運動療法介入を行ってきた。術前から介入をすることで、体重減少の抑制、術前身体機能として握力・運動耐用能、骨格筋量、呼吸機能の改善効果を得ている。今回「手術のための準備センター(Preoperative Surgery Center:以下PSC)」を開設、専任理学療法士を配属し、術前リハビリ対象を拡大した。 当院のPSC活動と現状について報告する。

    【方法】構成職種は、麻酔科医、手術室看護師、歯科医、歯科衛生士、管理栄養士、理学療法士である。看護師から手術当日までの過ごし方や手術当日の流れ・注意点の説明を行い、必要に応じて、術前栄養指導、術前リハビリを実施している。術前栄養指導ではMNA-SF、術前リハビリではサルコペニアの有無、6分間歩行試験などを評価し、対象者に応じた栄養・運動療法を提供する。

    【倫理的配慮】本研究におけるデータ使用については、当院倫理委員会で承認を得た。

    【結果】開設後1年間にPSCで術前リハビリ介入を行ったのは全366例、消化器外科185例、呼吸器外科181例。開設前の1年と比較すると13.9人/月から30.8人/月に増加した。特に開設に伴い対象を拡大した消化器外科症例は1~2人/月から15 〜16人/月に増加した。術前外来期間は、消化器外科平均10.5±6.1日、呼吸器外科平均12.6 ±6.1日。術後在院日数は消化器外科21.1±19.0日、呼吸器外科6.3±3.3日であった。

    【考察】術前リハビリの対象診療科・疾患を拡大したことで、術侵襲の高い症例や術後ADL低下リスクの高いより多くの症例に対して、術前から運動指導や術後に向けたオリエンテーション介入が出来る。また、術前から介入することで手術前の身体機能を把握することができ、ゴール設定や退院後の運動指導内容の検討に繋がると考える。

    【まとめ】今回、PSC開設し専任理学療法士を配属したことで、術前リハビリ対象者の拡大に繋がった。

  • 桜山 眞也
    セッションID: O-014
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】心疾患患者の二次予防行動としての外来心臓リハビリテーション(以下、心リハ)の普及が課題の中、当院は2017年1月から外来心リハを開始したが、参加率(心大血管疾患リハビリテーション料算定した心筋梗塞・狭心症・心不全患者)は6%であった。この要因を調査し解決策を立案・実行し、参加率に与える影響を調査した。

    【方法】問題点把握の為、循環器病棟看護師(23名)・リハスタッフ(7名)を対象に心疾患患者の二次予防行動に関するアンケート調査を実施し、看護師の外来心リハの理解不足・両者共に動機付け方法が不統一であることが判明。解決策として、2018年7月〜11月間で勉強会の開催や患者教育のツール(紙面)の運用を開始。解決策実施後、アンケート調査を行いマンホイットニーのU検定(有意水準5%未満)で統計学的処理をした。導入前後の参加率は、カイ二乗検定(有意水準5%未満)で統計学的処理をした。

    【倫理的配慮】アンケートの取得データは統計学的処理をし、本研究以外では使用せず、不利益を被らないことを書面にて説明し、回答をもって同意を得たこととした。

    【結果】①看護師の外来心リハの理解度が21.7%から73.9 %と有意に改善。②動機付け方法が統一されたと思うかについて看護師で13.0%から91.3%、リハスタッフで28.6 %から100%と両者共に有意に改善。③参加率は6.6%から28.2%と有意に改善。

    【考察】勉強会の開催で外来心リハ理解度の向上、ツール運用で動機付け方法を統一したことが参加率改善に繋がったと考える。外来心リハ参加促進には、他職種が連携し、患者教育を行う有効性が示唆された。今後もツール運用を継続し、患者の特性に合わせて指導時間・回数を調整し、教育の質の向上を図り、外来心リハ参加と再入院の関連性について当院でも明らかにしていきたい。

    【まとめ】短期間で参加率改善効果を得られたことは、今後二次予防を促進する上で、その意義は大きいと考える。

  • 比嘉 和也, 坂本 雄, 根岸 裕
    セッションID: O-015
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】慢性心不全患者の治療アドヒアランス向上や適切な自己管理能力の獲得は心不全増悪の予防に繋がり、生命予後延長やQOLの改善が期待できることが近年報告されている。またアドヒアランスの決定因子である自己効力感を向上させることが自己管理能力の向上に繋がると言われている。しかし、自己管理の指導方法は散見される程度でまだ確立されていない。そこで心不全で再入院を繰り返す患者に対し、テスト形式による自己管理指導が自己効力感に及ぼす影響について検証したため報告する。

    【方法】当院に心不全が原因で入院しつつ認知機能に問題が無く机上のテストに回答ができる計12名の患者を対象とし、介入群6名、Control群6名の2群に分類した。介入群では看護師・薬剤師・栄養士による標準的な指導に加え、理学療法士が心不全手帳に基づき健康管理における机上のチェックテストを実施。Control群では看護師・薬剤師・栄養士・理学療法士による標準的な指導を実施。 効果判定は慢性疾患患者の健康行動に対するセルフエフィカシー尺度を使用し、統計解析はwelchのt検定を用い有意水準を5%とした。

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき、対象患者には本研究の旨を説明し同意を得た。

    【結果】介入群は効果量6.83±5.64、Control群は効果量−0.17±1.17との結果となり、介入群はControl群と比較し有意に高値を示した。

    【考察】Reflection活動と呼ばれる自身の課題や知識を振り返り再検討する行為は、促されることで記憶の定着と意識の変容に繋がることが報告されている。今回実施したテスト形式による介入はReflection活動にあたるとされ、Reflection活動となるテスト形式の介入を意識的に行うことにより、知識向上と意識変容が促され自己効力感の向上が図られたと考える。実際に心不全患者においての自己効力感向上が心不全患者の再入院率に及ぼす影響については今後の研究で明らかにしたい。

  • 関 仁志
    セッションID: O-016
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】足漕ぎ車椅子による下肢のペダリング運動が、歩行のためのcentral pattern generator(以下CPG)の賦活をもたらす可能性がある。(関和則:2006)、機能的電気刺激(以下FES)の効果として、末梢神経を電気的に刺激することで筋収縮を促す事や筋収縮に伴う求心性の感覚入力による神経経路の改善が見込まれる。今回はウォークエイド(以下WA)と足漕ぎ車椅子の併用により、脳卒中患者の歩行能力に関わる効果を検証した。

    【方法】対象は当院回復期入院の脳梗塞3名。(内訳は男性3名、歩行自立2名・見守り1名、平均年齢77.0±10.5、発症から介入までの日数48±32.9日、下肢Brunnstrom stage(以下BRS)Ⅴ2名、Ⅳ1名)。研究デザインはBAB 型。介入期B1(運動療法に加えWA+ 足漕ぎ車椅子併用10分)、非介入期A(運動療法に加え足漕ぎ車椅子使用10分)、介入期B2(運動療法に加えWA+ 足漕ぎ車椅子併用10分)各期を5日間とし、15日間行った。介入初日、各期終了時に10m通常・最大歩行速度を測定し、各期の上昇率を右記の式により求め(各期測定値/最終測定値×100)、各期毎の差を求めた。また初期と最終でBRS・足関節背屈関節可動域(自動運動)・Modified Ashworth Scale(以下MAS)を測定した。

    【倫理的配慮】対象者にはヘルシンキ宣言に基づき研究の目的および内容を説明し、本研究参加の同意を得た。

    【結果・考察】通常・最大歩行速度の上昇率はA期に比べB1.B2期で高かった。(通常歩行速度:B1期7.7%、A 期3.8%、B2期7.8%、最大歩行速度:B1期6.2%、A期−6.4%、B2期7.6%)BRS、MAS、足関節背屈関節可動域では変化はみられなかった。併用する効果はCPGの賦活・筋収縮を促す事により、歩行速度の向上が期待できると考える。

    【まとめ】WAを併用した足漕ぎ車椅子によるペダリング運動は歩行速度向上に寄与する結果となった。今後の課題として症例数増加、様々な歩行レベルの症例に対し、効果の比較・検証をしていきたい。

  • 佐藤 剛章, 対馬 栄輝, 荻原 啓文, 宮川 大地, 野田 恭宏
    セッションID: O-017
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】歩行速度の低下や非対称性,最大発揮筋力の減少など歩行の欠陥が潜在的に患者の安定性を低下させ,転倒リスクの増加,歩行関連の疲労の増加,歩行効率の低下を引き起こす.歩行速度は脳卒中患者の地域社会での移動能力の予測因子とされ,近年,様々な疾患を対象として簡易的な歩行解析装置を用いた研究がなされている.しかし,慢性脳卒中患者の歩行速度に影響する要因については十分に検討されていない.そこで,本研究では慢性脳卒中片麻痺患者を対象に,簡易歩行分析システムによって測定された歩行指標と歩行速度の関連を検証した.

    【方法】対象は慢性脳卒中片麻痺患者30名とし,それぞれの自由歩行を,簡易歩行分析システムを用いて測定した.測定項目は,歩行指標である歩行時健側・麻痺側の床と足部の最大距離(FH),足部の側方移動距離,股関節・膝関節屈曲-伸展角度,足関節背屈-底屈角度,踵接地時の床面と足底角度,つま先離地時の床面と足底角度 (TOA)とした.統計解析は従属変数を歩行速度,独立変数を歩行指標としたステップワイズ法による重回帰分析を行なった.有意水準は5%とした.

    【倫理的配慮】今回の発表に際し筆頭演者所属施設の倫理委員会の承認を得ている(承認番号:2018039).

    【結果】相関係数は,麻痺側FHとTOA,健側の足関節最大背屈角度と足関節最大底屈角度がr=0.9(p<0.01)であった.重回帰分析で有意な関連要因として抽出された因子は,麻痺側TOA(p<0.01),麻痺側と健側の股関節最大伸展角度(p<0.01),健側膝関節最大屈曲角度(p<0.01)であった(R2=0.77).

    【結語】本研究の結果から麻痺側TOAと,麻痺・健側最大股関節伸展角度,健側膝関節屈曲角度の増加が歩行速度向上に影響する事が明らかとなった.今回の結果は歩行速度向上を目的とした治療の一助になると考える.

  • 宮川 大地, 佐藤 剛章, 荻原 啓文, 和形 光, 小池 由恵, 東 恵美, 野田 恭宏
    セッションID: O-018
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】近年,慢性期脳卒中片麻痺患者の歩行障害に対する治療法として,痙縮筋へのボツリヌス療法(Botulinum Toxin:BTX)が主流となり,先行研究では下肢BTXによる治療効果として,Modified Ashworth Scaleの改善や,BTXと機能的電気刺激の併用による身体機能改善効果も報告されている.しかしBTX後の機能改善に関する先行研究は,身体機能面の変化を見た報告が多く,関節角度や立脚・遊脚時間などの歩行指標に関する報告は見当たらない.そこで本研究では,簡易歩行分析装置を用いて測定した歩行指標をアウトカムにBTX治療と短期集中リハビリテーションの介入効果を明らかにすることを目的とした.

    【方法】慢性期脳卒中片麻痺患者12名を対象とし,入院時の自由歩行を,Reha Gait®を用いて計測した.計測項目は歩行中の股関節・膝関節・足関節屈曲-伸展角度,足趾離地角度,踵接地角度,歩数,一歩行周期あたりの立脚時間及び遊脚時間の割合とした.BTX施注後3週間の短期集中リハビリテーションを行い,再評価を行った.統計解析は各項目の入院時,退院時の測定値に対し対応のあるt検定を用いて検討を行った.有意水準は5%未満とした.

    【倫理的配慮】今回の発表に際し筆頭演者所属施設の倫理委員会の承認を得ている(承認番号:2019005).

    【結果】介入前と比較し介入後では,麻痺側の足趾離地角度(p<0.05),一歩行周期あたりの立脚時間(p<0.05)及び遊脚時間(p<0.05)に有意差を認めた.その他の項目に有意差は認めなかった(p>0.05).

    【考察】BTXと短期集中リハビリテーションの介入効果として,歩行時における麻痺側下肢の立脚時間の延長と,足趾離地角度の増加に有効であると考える.一方で関節角度で有意差が見られなかったのは,可動域制限が痙縮や筋短縮以外の要因も影響している事が考えられる.

  • 久保田 悦章, 市川 遥, 杉山 矩美, 吉野 涼太, 法山 徹
    セッションID: O-019
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】脳卒中患者の歩行自立可否は転帰先を検討する上で重要であり、患者本人や家族も自立を望んでいる事が多い.先行研究では回復期病棟入棟時の運動機能から,歩行自立に関連する要因を検討しているものは多いが認知機能を含めて検討したものは少ない.本研究では,回復期病棟入棟時の基本属性や運動及び認知機能から歩行自立に関連する要因を検討した.

    【方法】当院回復期病棟に入棟した脳卒中患者84名を対象とした.調査項目は年齢,性別,病型,麻痺側,発症後日数,入棟時NIHSS,mRS,Br.Stage,基本動作能力,FIM総得点,運動得点(mFIM),認知得点,及び下位項目,退院時移動とした.退院時移動(歩行)が6点以上を自立群,5点以下を非自立群とし単変量解析を行った.その後従属変数を歩行自立可否,単変量解析で有意差を認めた項目を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った.採択された変数はROC曲線を用いcut off 値を求めた.単変量解析はt検定,Mann-whitneyのU検定,χ2検定で実施し,有意水準はp=0.05とした.本研究は当院企画運営委員会の承認を得て行った.

    【結果】自立群は43名(男28,女15),非自立群は41名(男14,女27)であった.歩行自立群と非自立群の単変量解析において,年齢,麻痺側,発症後日数を除く項目に有意差がみられた.多重ロジスティック回帰分析では,性別,mFIMが採択された(判別的中率81.0%).有意な独立変数は性別(OR3.46.95%CI1.19-10.04, p<0.05),mFIM(OR0.94.95%CI0.91-0.96, p<0.01)であった.歩行自立のcut off値はmFIM46点(感度81.4%,特異度75.6%, AUC0.88)となった.

    【考察】脳卒中患者の歩行自立には性別,入棟時mFIM が関連していることが示唆された.性別は,平均年齢が女性で高かったことが影響したと思われた.mFIMはADL全般を反映しており,歩行の自立においても重要な因子であることが考えられた.また,cut off値の精度については比較的良好であり,歩行の自立において臨床上の指標となり得る可能性が示唆された.

  • 山崎 紳也, 今井 千晶, 永井 功一
    セッションID: O-020
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【目的】回復期病院退院後の生活アンケート調査の結果から脳卒中片麻痺症例の退院後生活における転倒の有無について背景を調査した。

    【対象】2016年5月退院者よりアンケート送付した(自宅退院者へ3か月後)脳血管疾患患者341人において、2019 年3月末までに記名での返答があった退院時歩行自立患者61人のうち、入院中情報を確認できた53人を解析対象とした。

    【方法】退院後3か月間の転倒の有無から転倒群18人、非転倒群35人に群分けした。入院中情報より性別、年齢、退院時のFIM認知項目(以下FIMC)、下肢Brunnstrom recovery stage(以下Brs)、下肢感覚障害・下肢装具の有無、FBS、歩行速度、アンケートへ結果から、住宅改修・介護保険サービス利用の有無・家庭内役割個数を2 群間で比較した。統計解析にはX2検定、t検定、正規性がない項目にMann−WhitneyU検定を実施。統計ソフトEZRを使用し、危険率5%とした。なお、入院時にアンケートについて、研究使用の同意を得ており、本研究は当院の倫理委員会の承認を得ている。

    【結果】性別において、男性44人、女性9人とアンケート返信に偏りがあったが、群間での有意差は認めなかった。 年齢は転倒群65.4±12.3、非転倒群65.6±17.7、FIMCはそれぞれ28.0、28.5、また感覚障害・下肢装具の有無において有意差を認めなかった。Brsはそれぞれ4.0と5.25 (p<.05)、FBSは31.2と53.0点(p<.001)、歩行速度は47.6 と67.5m/分(p<.05)と有意に転倒群が低かった。住宅改修、介護保険サービス利用の有無、家庭内役割個数に有意差は認めなかった。

    【考察】性別の偏りは、アンケート回答者が配偶者である場合が多く、女性の返答率が高い結果と考えられる。 2群間で有意差を認めた項目は身体機能、歩行、バランス能力であり、障害の程度が転倒おける主な要因であった。病棟歩行が自立してもバランス、速度が低い場合、さらに転倒に留意した介入が求められる。

  • 長谷川 正浩
    セッションID: O-021
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】慢性期でも理学療法士には維持にとどまらない機能回復が求められている.今回,慢性期片麻痺者(以下:協力者)に対し,遊脚期の歩容改善に着目しPNFアプローチを行った.立脚終期の改善が遊脚期の変化に関連するという報告もあるが,それだけでは変化しなかった.立脚期前後との連続性のある介入を行うことで変化が得られた.今回の介入方法と経過の特徴について,考察を加え報告する.

    【協力者】右片麻痺(BRS:Ⅴ-Ⅴ-Ⅳ)を呈し,約10年が経過した50代前半の男性.ROMや感覚,日常生活上のバランス問題なし.主訴は右足の引っ掛かり.希望は走れるようになりたい.なお協力者には今回の趣旨を説明し,同意を得て行った.

    【方法と経過】月1回,2 〜3単位分の時間で計4回(継続中)実施した.変化は画像にて確認.主訴,希望から小走りができることを目指し,まずは体幹前傾,分回しなど代償が目立つ遊脚期の改善を目標とした.立脚終期で股伸展,踵離地なし.推進力不足が主因と考え,PNF にて①前足部荷重で股伸展位での筋収縮(閉鎖性運動連鎖:CKC)を促した.股伸展,踵離地はみられたが,遊脚期は変化しなかった.戦略を見直し,①からの遊脚初期の股・膝屈曲運動(開放性運動連鎖:OKCへの切り替え),遊脚終期の膝遠心性伸展運動(OKC),荷重応答期(CKC)までと介入範囲を段階的に広げた.臥位や立位など様々な姿勢で目的の運動を行った.毎回介入した相まで変化するという結果であった.

    【考察】歩行周期は繰り返される.推進力だけで遊脚期の問題が解決しない場合,立脚期との連続性のある介入をすることにより変化する可能性を確認できた.また遊脚期は運動学習の観点から考えると難易度が高く,相応な介入を必要とした.介入が不足している相への効果が波及しない一因と推察された.慢性期でも運動の特異性を考慮したPNFアプローチを行うことで,遊脚期の歩容改善が導けるものと考えられた.

  • 山本 精一
    セッションID: O-022
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】脳血管疾患患者で、身体機能が著明改善するも高次脳機能障害の影響からADL自立困難となる例は多く、本症例も心原性脳塞栓症、右中大脳動脈閉塞となり同様に自立に至っていない。これらを脳画像所見、各種理学療法評価などで検証し治療介入した。

    【症例紹介】70代男性、既往心臓弁膜症、2型糖尿病、今回心原性脳塞栓症発症。第1病日JCS100、BRS(左)上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅱ、感覚脱失、FIM18点。第80病日JCS 1、BRS(左)上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅲ、感覚重度鈍麻、FIM60点と身体機能改善も星印末梢左13見落としなど左USNあり。コース立方体7/131点、三宅式検査で短期記憶低下なし。発症早期MRIで右頭頂葉・側頭葉と、前頭葉・後頭葉一部に梗塞巣。以上から右前頭葉運動野、頭頂葉感覚野及び感覚連合野損傷と、上縦束など連合繊維遮断があり、運動感覚障害と感覚運動統合の影響で高次脳機能障害出現と考えた。感覚運動障害に対し下肢体幹促通や基本動作訓練に加え、残存視覚や記憶など代償利用し左USN改善や着衣動作などADL改善目指し介入した。

    【倫理的配慮】本発表はヘルシンキ宣言に基づき、本人と家族に趣旨説明し、文書にて同意を得ている。

    【結果】第150病日BRS(左)上肢Ⅳ手指Ⅳ下肢Ⅴ、感覚中等度鈍麻、FIM69点、FBS26/56、TUG15秒台、10m 歩行10秒台、線分抹消左15見落とし、コース立方体2/131点。身体機能さらに改善も左USN、ADL場面での判断能力低下などあり自立せず。但し、記憶・視覚の代償で廊下での左方向転換、着衣動作も目印で可能となった。

    【考察】第150病日のCTでは正中線シフト戻り、陳旧性梗塞も放線冠など皮質脊髄路にない為、身体機能回復したと考える。但し右上下頭頂小葉などの頭頂葉や側頭葉に依然大きな梗塞巣あることが、感覚運動統合や構成障害、左USN残存原因と考える。しかし視覚や記憶など残存機能使用で、生活場面での自立度向上が得られることも確認された。

  • 原田 涼平, 富田 英正, 副島 美和子, 村山 浩一
    セッションID: O-023
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】理学療法(以下PT)室と病棟との移乗動作の自立度に相違が生じていた症例を経験した.病棟での移乗動作の問題点が改善するために,症例及び看護師への動作方法の伝え方を工夫したことで,病棟での自立度が向上したので以下に報告する.

    【症例紹介】症例は左脳幹・左小脳梗塞を発症した40歳代男性である.右片麻痺,左上下肢及び体幹に失調症状,構音障害,嚥下障害を呈していた.既往歴に14歳時に脳挫傷(前頭葉)があった.発表に関して,本人に書面にて説明し,同意を得た.

    【経過】発症から43病日に当院へ転院し,覚醒及び耐久性の低下を認めた.FIM運動項目得点(以下FIM運動),FIM認知項目得点(以下FIM認知)はともに25点,FIM 移乗(椅子・ベッド・車いす)項目得点(以下FIM移乗)は2点だった.182病日には覚醒及び耐久性が改善し,FIM運動は46点,FIM認知は30点,FIM移乗は4点となった.しかし,PT室での移乗動作は介助を要さず監視で実施可能であり,病棟での能力との間に相違がみられた.病棟での移乗動作を評価したところ,方向転換時にふらつきがみられ,その場面で転倒リスクを認め介助を要していた.PT評価より,ふらつきが生じる問題点は,右下肢支持性低下と体幹不安定性と考えた.そこで症例及び看護師に対し,問題点を改善するための動作方法を,運動学的な用語を極力使用せず平易な言葉で伝えた.その後,病棟にて適切な方法で移乗動作を繰り返すことができ,その結果,移乗動作は改善し,207病日のFIM運動は65点,FIM認知は32点,FIM移乗は6点(修正自立,手すり使用)となった.

    【考察】他職種と情報を共有する際には,分かりやすい言葉を使うなどの工夫が必要であるとの報告がある.今回,問題点を改善するための動作方法を,平易な言葉で症例及び看護師へ伝えたことで,病棟でも適切な動作を反復することができ,移乗動作の自立度の改善につながったと考えられる.

  • 大塚 貴司, 伊藤 貴史, 石井 健史, 寺島 優
    セッションID: O-024
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【背景】回復期病棟の脳卒中片麻痺者(以下,片麻痺者)は,車椅子での生活を余儀なくされている.そのため入院中の片麻痺者は活動量が低下することが予測される.廃用症候群の予防という観点からも,片麻痺者自身が車椅子を駆動し移動することが重要である.しかし,片麻痺者の車椅子駆動は非麻痺側のみで行われ,麻痺側の運動が得られにくいことに加え,非対称性の姿勢を助長するデメリットがある.関矢らは,麻痺側の下肢も使用する足漕ぎ車椅子を用い,歩行速度の改善,下肢交互運動獲得が可能であることを示唆している.そこで,今回,足漕ぎ車椅子を使用し麻痺側の筋活動を向上させることにより,麻痺側の下肢機能へどのような影響を及ぼすか一症例にて検討することとした.

    【方法】本症例は,被殻出血により右片麻痺を呈した60 代男性であった.Brs:上肢Ⅱ・下肢Ⅲの運動麻痺を認めていた.運動性失語を認めるが指示理解良好であった.入院時の移動能力は,モジュラー型車椅子を使用していた.研究デザインをABA法とし,通常の運動療法前に自主練習として,病棟にて方向転換を含む車椅子自操を10分間,A期はモジュラー型車椅子,B期は足漕ぎ車椅子とし,各期間7日間施行した.アウトカムとして,車椅子走行距離,下肢荷重率,FACTを施行した.本研究はヘルシンキ宣言に沿って対象者の倫理的配慮を行った.

    【結果】結果は,走行距離(7日間の平均):A期52.9m,B期300m,A’期116.3mであった.下肢荷重率(Kgf/Kg)とFACT(点)(初期/ A期後/ B期後/ A’期後)は, 0.26/0.27/0.33/0.27および7/8/13/13であった.

    【考察】今回,足漕ぎ車椅子駆動を行った結果,下肢荷重率・FACTの上昇を認めた.ペダリングにより座位での麻痺側足底への荷重率が増大し静的座位バランスが安定したと考えた.これにより座位における支持基底面内の重心移動が可能になったと考えた.病棟における足漕ぎ車椅子駆動は麻痺側下肢の筋収縮を促し廃用症候群の予防,座位でのADL拡大に寄与すると考えた.

  • 若林 航輝, 石井 文弥, 棚橋 由佳, 櫻井 敬市, 大竹 弘哲
    セッションID: O-025
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
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    【はじめに】脳梗塞により右片麻痺,構音障害を呈した症例に対し,建築業への復職を目標に,片脚立位を中心とした立位バランス能力に着目して,腹斜筋群の活動を向上させる座位リーチ練習を実施した.その結果,立位バランス能力の改善に至ったので報告する.

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づいて十分に説明し,同意を得た.

    【症例紹介】60代男性.MRIにて左内包後脚から放線冠にかけて微小梗塞が認められ,右片麻痺,構音障害を呈した.病前ADLは自立.HOPEは復職したい,不安定な足場でも歩けるようになりたい.第2,3病日ではBrunnstrom Stage(以下Brs)は上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ.感覚は右上下肢触覚軽度鈍麻,深部感覚左右差なし.立位バランスとして,片脚立位は右側3.0秒保持可能,左側保持困難.Berg Balance Scale(以下BBS)42点.Timed Up and Go(以下TUG)右回り10.8秒,左回り10.9秒.歩行は独歩見守り,ワイドベースであり,右足底全面接地.立脚中期に体幹・骨盤帯が右側へ過剰に偏位.

    【方法】第2 〜6病日では、低緊張筋群に対し,四肢の運動やROM練習を行った.BBS・TUGは改善傾向であったが,片脚立位は介入前後で変化は認められなかった.第7病日より,腹斜筋群に着目して座位リーチ練習を実施した.練習前後で片脚立位保持時間の延長を認めたため,プログラムに追加した.その他に,座位リーチ練習の際に股関節屈曲を追加することで課題難易度を調整し,練習を継続した.

    【結果】第13,14病日では片脚立位保持時間(R /L,秒)は19.0 /7.0まで改善し,BBS 54点,TUG 右回り7.1秒,左回り7.5秒となった.歩行は右踵接地みられ,右立脚中期での体幹右側偏位は軽減した.

    【考察】片脚立位は転倒に関連する指標として知られて いる.四肢の運動やROM練習では改善が認められなかったが,腹斜筋群に着目して座位リーチ練習を行うことで片脚立位保持時間の即時的・経時的変化を得られたためその有効性が示唆された.

  • 片倉 哲也, 石井 頌平, 三木 啓嗣, 水谷 純子, 小幡 加奈, 川村 慶
    セッションID: O-026
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】機能予後予測から正の方向へ大きく逸脱する症例を経験する事がある.今回,重症くも膜下出血を発症,意識障害が遷延し療養病院への転院の可能性があったが,徐々に意識障害が改善し回復期病院へ転院となった症例を経験したためその特徴及び経過を報告する.

    【症例】発症前ADL自立の50歳代男性.椎骨動脈解離によるくも膜下出血発症し同日入院,Hunt & Kosnik分類4,WFNS分類5.

    【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に則り対象者家族へ説明,書面にて同意を得た.

    【経過】2病日にコイル塞栓術実施し3病日より理学療法開始となったが,理学療法開始時は安静度ベッド上でありJCS200であった.5病日に開頭血腫除去術と外減圧術を実施.14病日に人工呼吸器離脱.29病日に頭蓋形成術とV-Pシャント術を実施.31病日にJCS30,安静制限解除となり端座位練習開始.37病日に能動的な動きは認めない状態であったが3人介助にて起立練習開始.51病日に起立時に体幹・下肢筋の活動を認めるようになり1人介助にて起立練習可能となった.56病日に2人介助にて歩行練習開始.66病日に手指把握動作を認めるようになり1人介助にて平行棒内歩行練習開始.72病日トイレ誘導開始.78病日回復期病院へ転院となった.退院時評価はJCS3,気管切開のため言語表出困難だが理解はわずかに可能,MMT四肢3,ROM左肩と両手指・股・膝・足関節に軽度可動域制限あり,起居・移乗動作は能動的な動きを認めるが中等度介助,歩行は中等度介助で歩行器歩行可能となった.

    【考察】重症くも膜下出血症例は一般的に生命・機能予後が悪く意識障害を遷延しやすいとされているが,本症例は発症前ADL自立,かつ若年,脳血管攣縮による脳梗塞が発生しなかったため歩行器歩行可能となったと考える.くも膜下出血,特に重症例は発症後早期に転帰を予測する事は難しい症例も多く,重症であっても様々な転帰を意識した理学療法を実施することが良いと思われる.

  • 平林 拓也, 木島 隆
    セッションID: O-027
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】今回,脳梗塞により重度運動失調に伴いADLに介助を要し,屋内歩行獲得困難となったが,身体機能,適した環境設定をもとに,症例の能力を最大限生かせる方法を検討した結果,四足歩行で屋内移動が獲得された一症例を報告する。

    【症例紹介】60代男性,平成X年Y月Z日に左後頭葉,右小脳領域に脳梗塞を発症。その後,入院中に両側橋領域に再梗塞を認め,動作時振戦が出現。Z日+31日後当院入院。著明な関節可動域制限,筋力低下,運動麻痺はないものの重度運動失調を呈し,FBS19点,SARA25点,FIM56点でADLに介助を要した。症例からトイレに行きたい,ご家族から屋内移動獲得という希望が聞かれた。

    【倫理的配慮】当財団倫理委員会にて承認を得た。症例,ご家族に書面にて同意を得た。

    【経過】入院時の身体機能,家屋状況,症例,ご家族の希望を踏まえ,伝い歩きにて屋内移動獲得することを検討。理学療法では運動失調に対し,重錘による失調軽減,感覚入力や動作反復による運動学習再獲得を図った。尚,歩行訓練は前腕支持型歩行車歩行,伝い歩きを中心に実施。しかし,症例が上記を獲得するためには,限定された家屋環境の設定,FBS19点,SARA25点という客観的指標から伝い歩きは実用性が乏しいと判断した。そのため,症例の病室内を退院後の生活を想定し,四足歩行が可能になるよう環境を設定。屋内移動を四足歩行での獲得を目指し,四足歩行を訓練で主に実施した。最終評価ではFBS32点,SARA20点,FIM81点となりADLは寝返り〜移乗動作は見守り,食事と更衣は見守り〜軽介助,トイレ動作は軽介助,病室内は四足歩行見守りにて可能となり,180日間の入院を経て自宅退院となった。

    【まとめ】回復期リハビリテーションは実績指数が求められ,FIM向上は必要不可欠である。本症例はFIMに反映されることはないが,身体機能,環境設定,症例,ご家族の希望を考慮し,症例の能力を最大限生かせる方法を検討した結果,四足歩行で屋内移動を獲得することが可能となった。

  • 萩原 裕崇, 二田 明子
    セッションID: O-028
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】今回、右脳梗塞によりContraversive Pushing(以下Pushing)を呈した症例を担当する機会を得た。座位・立位ともに陽性。車椅子座位では左側に姿勢が崩れ長時間の保持が困難であった。Pushingは日常生活自立度を著しく低下させ、入院期間が有意に延長することが報告されており、Pushingに対する治療方法は確立されていないのが現状である。また座位のリーチ動作では立位のリーチ動作に比べ厳しくなく、必要となる筋は主に体幹部であると考えられており、座位での物品課題におけるリーチ動作によりPushingが軽減したとの報告がある。 Pushingを客観的かつ定量的に評価するための指標としてはScale of Contraversive Pushing(以下SCP)が報告されている。このSCPを用いて座位での物品課題における介入を実施した。

    【症例紹介】70代女性診断名:アテローム血栓性脳梗塞(右外側線条体動脈領域)X年Y月Z日に発症し、35日後に当院へ転院。基本動作:起居動作 全介助,座位 中等度介助,立位 重度介助理学療法評価(35病日目):BRS(左側)上肢Ⅱ - 手指Ⅰ - 下肢Ⅰ SCP:6点FIM 52/126点(運動21点,認知31点)

    【倫理的配慮】本症例に今回の発表について十分な説明を行い、同意を得た。

    【方法】前方に机を用意し、左上肢を机上に手掌を接地するように置いた。足底は全面接地させ股関節、骨盤を中間位になるよう後方介助しながら物品運搬課題を施行。課題は右側方から左斜前方へ向けて輪入れを行った。

    【結果】43病日目 基本動作:起居動作 軽介助,座位 監視,立位 中等度介助 BRS:上肢Ⅲ - 手指Ⅱ - 下肢Ⅲ SCP 3,25点 FIM 55/126点(運動24点,認知31点)

    【考察】今回、物品運搬課題を行うことでSCP 6点→ 3,25点へ変化し、Pushingの改善を認めた。要因として姿勢を整え、課題を行うことにより①左体幹部の伸展②右体幹筋が賦活され、座位保持が可能になったと考えられた。しかし、今回の介入方法では立位、歩行については検討していないため、今後の課題として取り組んでいきたい。

  • 市川 拓
    セッションID: O-029
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】当院では治療や予防医学の観点からNordic walk (以下:NW)やHonda歩行アシスト(以下:HWA)を積極的に使用している.今回双方のメリットを併せる事で相乗効果を得ることが出来たので以下に報告する.

    【目的】慢性期片麻痺患者へT-cane walk(以下:TW)とNWをHWAにて測定を実施.患者の主観的側面と療法士の客観的側面から最適な歩行補助具を選定し,HWA にて相乗効果を得る.

    【方法】対象は70歳代女性.右前頭葉の出血にて第8病日に当院へ入院.左半身の症状は特に見られなかったが23 年前に左被殻出血を発症し運動麻痺の後遺症がある.右側の機能はSIAS-m:上肢1-0/下肢4-4-0,筋緊張:下腿三頭筋MAS2.歩行はプラスチック短下肢装具を着用し中等度介助.第21病日時点で歩行が最小介助になった為,HWAにてTWとNWにて測定を行った.その結果NWの方が主観的(姿勢が伸びる,足が出しやすい),客観的(股関節伸展角度,歩調,速度)ともに高値を認めた為,NWを選択しHWAでの訓練を行った.

    【倫理的配慮】本症例には個人情報を削除した上で報告させていただく主旨を書面にて説明し同意を得た.

    【結果】第21病日時点 TW:10m歩行20.0秒,6分間歩行240m,右股関節伸展角度3°,歩調87歩/分 NW:10m歩行17.0秒,6分間歩行300m,右股関節伸展角度8°,歩調95歩/分 第57病日時点NW:10m歩行12.5秒/歩,6分間歩行400m,右股関節伸展角度18°,歩調108歩/分

    【考察】本症例は,右上下肢の痙縮が強く,立脚期の体幹前傾・股関節伸展不足を認めていた.歩行アシストでは股関節に作用するモーター出力によって,上半身と骨盤の代償動作の抑制を行うことが出来るが,本症例では代償動作の抑制に限界を感じた.そこでNWを併用することで上肢による支えと高い位置での杖の把持による体幹の正中保持が行いやすくなる.その結果,歩行アシストとNWの効果が合わさる事で,股関節伸展角度,歩行効率の向上を認めた.

    【まとめ】慢性期片麻痺患者への歩行再建のためにはNordic Walkが有用となる可能性がある.

  • 海津 陽一, 井上 魁斗, 高池 美友, 高橋 悠
    セッションID: O-030
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】左被殻出血後,右片麻痺を呈し,靴べら式プラスチック製短下肢装具(SHB)の自己装着困難であったが,巻き戻し法を獲得,自立に至った症例を経験したので報告する.

    【方法】50歳代女性,54病日SHB納品,64病日〜SHB装着練習開始した.理学療法評価(64病日)はBrunnstrom stage上肢Ⅰ-手指Ⅰ-下肢Ⅲ,感覚障害は表在・深部とも軽度鈍麻.認知機能良好,軽度運動性失語を認めた.BBS42点,四点杖歩行安定性良好だがSHB装着困難により非自立であった.SHBは継手なし,イージーリング使用.A:SHB-下腿間にベルクロが挟まる,B:股関節可動域制限により足を組めない,C:靴-SHB合体(靴のなかにSHBを入れた複合体)の装着ではつま先の挿入困難という問題点を有し,装具使用満足度も低かった.Aに対し,先行研究を参考に仮止め用ベルクロを貼付した.B・Cに対し,巻き戻し法を考案した.巻き戻し法は,靴-SHB合体上に足を置く,最上部ベルクロを仮止めする,SHB下腿部を足が上行するようSHBを下に動かす,つま先挿入後再び足を下降させ装着する方法である.効果指標は,装着成否・装着に要した時間(64 〜92病日:毎日)を計測した.また,使用満足度:QUEST2.0(1-5 の5段階,12項目),心理効果:PIADS(-3-+3の7段階,26項目)を評価した.

    【倫理的配慮】患者様には十分説明し,書面上の同意を 得た.

    【結果】練習開始後2日間と2週後に失敗,その他は成功 した.装着時間を開始後1週/ 2週/ 3週/ 4週の順に平均値(秒)を示す.189.8±24.7/ 100.8±14.3/ 92±11.3 / 97±7.2.QUEST2.0,PIADSの経過合計点(平均点)を開始時/ 2週後/ 4週後の順に示す.QUEST2.0:34(2.8)/ 49(4.1)/ 54(4.5).PIADS:15(0.6)/ 23(0.9)/ 38(1.5).86病日に装着自立,四点杖歩行が自立となった.

    【考察】巻き戻し法は,足が組めない症例でも装着自立を目指せる,約1週間で習得可能な方法である.非麻痺側上肢機能,座位バランス,認知機能良好,足尖へのリーチング可能等が適応要件となる.

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