抄録
【目的】
糖尿病(以下DM)を有する患者では人工膝関節全置換術(以下
TKA)の術前において膝関節伸展,屈曲可動域,膝関節伸展筋力の
低下が報告されているが屈曲筋力は未報告である.今回,DM を
有する変形性膝関節症(以下KOA)の膝関節屈曲筋力を含めて検討
した.
【方法】
2022年6月から2023年3月の間に当院にて内側型KOAの診断で
TKAまたは人工膝関節単顆置換術の施行例を対象とした.現病歴に
DMを認める30膝をDM群,DMを認めない90膝を対照群とした.
平均年齢はDM群74.1歳±6.5歳,対照群72.4歳±6.9歳だった.
検討項目は膝関節伸展,屈曲可動域と膝関節伸展,屈曲筋力とした.
関節可動域は日本整形外科学会の測定方法に準じ,東大式ゴニオ
メーター(オージー技研株式会社)で他動的に測定した.筋力測定は
μTAS F-1(アニマ株式会社)を使用し,下腿下垂した端坐位,体幹
垂直位で5秒間の最大等尺性収縮筋力を2回測定し大きい値(kgf)
を採用した.統計学的手法はStudent t-testを使用し,有意水準
は5% とした.
【結果】
伸展可動域はDM 群-7.5±6.1°,対照群-4.4±4.0°,屈曲可動域
はDM 群129±12.5°,対照群136±11.5°と有意にDM 群で伸
展と屈曲可動域低下を認めた(p <0.05).伸展筋力はDM 群18.1
±5.3kgf, 対照群22.4±7.1kgf, 屈曲筋力はDM 群8.2±
2.7kgf,対照群9.7±2.7kgf と有意にDM 群で伸展と屈曲筋力
低下を認めた(p <0.05).
【考察】
TKA術前の筋力低下が術後6週間のWOMAC合計値を有意に低下
させるという報告があり,DM 例では術後臨床成績の低下が予想
され,膝筋力低下が成績の低下と関係する可能性がある.
【結論】
DM 群では膝関節伸展,屈曲可動域,膝関節伸展筋力の低下だけ
でなく,屈曲筋力の低下も示した.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は医療法人社団JSIの研究倫理審査委員会の承認を得て実施
した.(承認番号 2021-01)対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,
説明し書面にて同意を得た.