抄録
【目的】
筋骨格系疼痛患者では運動イメージ(MI)能力が障害されていること
が報告されている.しかし,MI能力と関連する要因は十分に明らか
となっておらず,筋骨格系疼痛患者においてMI能力が重要であるかは
定かでない.本研究は,末期変形性膝関節症における運動イメージ
能力に関連する因子を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は,初回TKAを施行予定の女性53名(年齢:73.1±6.6)とした.
術前日に疼痛強度,中枢性感作関連症状(CSI),破局的思考(PCS),
身体知覚異常(FreKAQ),膝伸展筋力,Timed Up & Go test
(TUG)を評価した.MI 能力は,TUG とTUG をイメージで行う
imagined TUG(iTUG)の時間的誤差(Δtime=|[(TUG−iTUG)
/(TUG+iTUG)]| ×100)を指標とした.統計解析は,Δtimeと各
評価項目の相関分析を行い,さらにΔ timeを従属変数,疼痛強度,
CSI,PCS,FreKAQ,膝伸展筋力,年齢を独立変数として,強制
投入法での重回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%とした.
【結果】
Δ time と相関を認めた項目はCSI(r=0.327),膝伸展筋力(r=-
0.288)であった(p<0.05).有意な独立変数としてCS(I β=0.450)
と膝伸展筋力(β =-0.267)が抽出された(p<0.05).
【考察】
CSIおよび膝伸展筋力はMI 能力と相関し,さらに独立して関連する
因子として抽出された.MI課題中は,前頭葉や頭頂葉が活性化される
と報告されている.また,中枢性感作のメカニズムとして大脳皮
質の機能低下や下降性疼痛調節系の機能低下が考えられている.
よってCSIが高値の者はMI能力が低下している可能性がある.また,
MIトレーニングによる筋力改善効果が報告されており,MI 能力は
身体機能と関連する可能性がある.
【結論】
本研究より,末期変形性膝関節症患者のMI能力はCSIと膝伸展筋力
と関連した.今後はMI 能力の改善を目的とした介入の効果を検証
していく必要がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施した.対象者には本研究
の内容,目的,参加の自由等について説明し,文書による同意を
得た.また,本研究は当院の倫理委員会による承認を得た上で実施
した.