抄録
【目的】
今回,リハ介入を拒否し積極的な介入に難渋した脳卒中患者を経験
した.脳卒中後の高次脳機能障害や精神症状がADLに影響する
ことや個人因子が予後や転帰に影響すると考えられていることが
知られている.患者の個人因子が脳卒中後の心理面や活動,介入
に与えた影響について考察することにした.
【症例紹介】
左橋梗塞,右片麻痺,80歳台,女性.5病日にPT・OTを開始.
右Brunnstrom Recovery Stage 2.基本動作は全介助.麻痺に
対する悲観的発言があった.高次脳機能障はなく,生活面では
食事やベッド上でのセルフケアなど独力で可能な活動には参加し,
要望の依頼も行えていた.社会保障制度は支払いが煩わしいと
考え未納状態であり利用が不可能であった.HOPEは麻痺の改善
と動けるようになることであった.
【経過】
1期(介入開始後1~5週):麻痺や介入効果がないことを理由に身体
機能や動作能力の向上を目的としたPTを拒否した.またOTはセル
フケアのみに参加した.2期(6~7週):現状に「飽きた」と訴えて
不定期で離床目的のPTに参加した.労力を費やす課題を拒否し,
できる課題のみに参加した.3期(8~15週):「トイレが使えれば
ね」との希望があり,トイレ使用を目標に起立や移乗,歩行,トイレ
動作などの課題を実施した.4期(16~39週):「右脚に力が入る
ようになった,立ちやすくなった」などの成果を実感して拒否は消失
した.機能的自立度評価表:運動項目の自立度は1・2期に約2割
で停滞し,3期に約3割,4期に約4割に達し天井となった.
【考察】
将来を予測した行動に煩わしさを感じる個人因子は1期や2期の
結果を生じ,障害に対する苦悩の低減に時間を要したと推察さ
れた.しかし,1期のセルフケア参加や2期のできる課題のみへの
参加は苦悩を低減し,3期に具体的な希望を挙げることに繋がった
可能性があった.反省として,拒否の原因を探るためには精神機能
評価と個人特性の評価を行い介入の検討を行うことが挙げられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会の承認を得て患者に趣旨を説明し同意を得た.